第39話 感情と言う名の魔物【Ep.春山怒留湯編】
「あはっははは~ みなさんごめんなさいねぇ~! どうも昨晩のドラマで揉めちゃっててねぇ~? ささ、大したことではないのでお気になさらずぅ~」
そう言って、桐内が場の空間を巻き戻す。
「すまんねぇ、続けてくれたまえよ」
小さく首を縦に振り、冬梅は再開する。
「そう、今の結果で私は反省して次には似た様な状況が起きない様に改善をする。例えばそもそも分かった様なふりをして話したりしない、とか」
「それに、なんの意味があるのよ」
「ここは私の憶測になるけどね? きっとぬるちゃんはすごく怒られたと思う。でもね、その時にお姉ちゃんに対する対策とか対応を知れたんじゃないかな?」
「ま、まぁ……それはそうだけど」
「うん! それがすごく大事なんだよ? だからね、えっとね……」
冬梅の考え、おそらくPDCAサイクルと言う奴だ。計画、実行、評価、改善のサイクルで行われる概念。
今回行われた春山の行動をそれに置き換えて説明しようとしているのだろう。
計画の段階では姉と入れ替わり部活などを満喫してもらう。
実行では実際に入れ替わり作戦を行い、姉は釣行を満喫。
評価として姉、妹共に楽しめたと推測する。
改善としてアクシデントに見舞われ、姉が病院送りとなってしまった。そうならない為に改善策を入手。
が、しかし問題は改善で経験したトラブルが大きすぎたこと。
通常通りに当てはめてしまえばこのサイクルは間違っていない。のだが、ことが一人の命を奪いかねない結果を生み出した部分が大きな要因だ。
間違いではない、それでもそれをもってしても“感情”と言う魔物が全て貪る。
「それとは別に感情がそれを許さない。だから、お互いに折り合いをつけるしかない……んだけど」
「うん、そこが問題点なんだよね」
「つまり、あれか? 結果はどうであれ春山は自分を責め過ぎだ! と?」
「うーーーん? なんとなく分かったよう……な? えへ」
「え? 何々!? なんで、そうなるのよ。だって今回の件は知識不足もあったんだよ? 完全に悪いじゃん!?」
「いや、違う。当人同士ならそれでも押し通せるけどね」
「他者の目線が入れば、話は変わることもあるよ? 何故、ぬるちゃんにその対策を教えなかったのか? 親目線での責任が発生するんだよ」
「お母さんとお父さんの目線? でも、私はね? お家でははれ物みたいな扱いだったし……」
「それってさ、説明しないことと関係ある?」
「うん、私もその意見には賛成、かな」
「おいおい、夏川よ。俺たちもしかして置いてけぼり?」
「はっはは~! 案ずるな、なんとかなる。そしてあたしを無条件で巻き込むな!」
しかし、これを真っ向からぶつけた場合、高確率で悪化する。
如何にこの冷静な解析をお互いに落ち着いた状況かつ、上手く伝えられるかが大切なのだが……。
「あーしの失敗以外にも良くない所がある。勿論、それを盾に自分の責任を無視する訳じゃないよ」
「いいね、すごく冷静に考えれていると思うよ。だけど、どうしても感情って代物は時に良くない作用も引き起こす」
「はっは~ん? なるほどぉ~、あたし分かっちゃったよ! その髪色ってさ両親に言われたんでしょ?」
「すご! なっつーにしては冴えてるじゃん! その通りだよ」
「何を条件にその、髪色を変更するに至ったの?」
「あ~、それね。私に原因があったのは事実だったし? 親の言うことをちゃんと聞くって条件で――」
「それ、すごく良くないよ。解決してる様で解決してないよ」
「うん、確かに誤った行動があったのは事実、だけどそれを利用して別の条件を引っ張り出しで弱みに付け込んでるようなやり口に過ぎない」
「あーん、もう! 難しいことばっか言うじゃぁん! 二人ともなんなん!?」
「あーっと、つまりあれだよ! アレ、関係のない話で上手く誘導してる的な?」
「え~? でもさ、結局いままでぬるちゃんが言うことを聞かなかったってのは事実でしょ? 今まではそれを許していたけど、今回はゆるさないぞー! って、ことじゃないの?」
そう、そう言う考えも確かに存在する。
こういう問題ってのは正解なんて選択肢が沢山存在する。
いや、個人の考えを提供する時点でそれこそ人の数だけ選ぶ道がある。
例えば、誰かに何かを指示する場合に起こる現象で良くあるのが、「この人は言うことを聞かない」ってヤツ。
立場や年齢差などそれは様々な場面で存在するが、体験してきた経験が違うのだから当然先に長く座している物はその場面に出会った経験を有している場合が多々ある。
故にその経験から自らが体感した事実を元に改善策を提案する。勿論これは経験値の少ない者にとって大きなアドバンテージにはなる。が、なにに付けてもどうしたって相性ってもんがある。
結果だけをかいつまんで教えても、言葉足らず過ぎて共感を得ることができずに終わり、重要な中身が理解されずにズレが生じる。
ズレが始まれば、そのズレが大きくなればなるほどに、信用を勝ち取れなくなる物だ。
そうなれば、後は簡単な話だろう。
「じゃあ、夏川。春山はどうして言うことを聞かないんだ」
「え? そりゃあ、まぁ反抗期的な奴でしょ! ムフー!」
「そ! そんなじゃないしー! バカにしすぎぃー!」
「うーん、その線もなくはないけど……もっと別に理由が、それこそ拗れた部分の真実がご両親共々にあるんだと思うよ」
「そんなの――っ!」
と、何かを言いかけた春山の言葉を今度は冬梅が遮る。
「ストップ! 今の感情は一旦、保留にしてね。ここで評価するのは良くないよ」
これも、重要な対応の一つだと僕は感じた。
突発的な感情による一時的評価の保留だ。
これは例えるならば、イカツイ入れ墨をしている人相の良くない人がいたとする。
その姿を見た人は一定数こうも考えるのではないだろうか? 『ヤバイ人』だとか『怖い人』だったり『近づきたくない』などの考えがすぐに生まれる者もいるだろう。
この評価こそがまさにソレに該当する。先入観から話すよりも前段階で評価が終了してしまっている。
これでは、この時点で終了してしまう。だが、良く考えてみて欲しいのだ。いかつくてもちゃんとカップルはいるし、話してみると実は物腰が柔らかくて笑顔も素敵だったりする。
これは別に必ずしも見た目が良くないから誰も彼もが悪人には繋がらないと言うこと。結局の所、評価と言う奴はすぐに判断するもんじゃないって話だ。
まぁ、そんな時間のかかることをするのは実際には大変だし、ある程度人って者は早々に判断するなんてのがどうしても起きるけど。
「とりあえず、事情はある程度理解したよ。昼休みもあと少しで終了だしこの辺でやめようか」
「うぅ~、わかったわよ」
「んじゃさぁ? 放課後に続き話す? はなす?」
やけに食い気味な夏川に違和感――。
いや、いつも通りと言えばいつも通りなのだが何かが引っ掛かる。
「ん~、僕は今日の部活は遠慮しておくよ」
そう言って、一瞬だけ冬梅に視線を飛ばす。
「じゃ、私もやめとく」
意図を汲み取ってか、冬梅もすかさず返答。
「なーーんだよ! ノリわりぃな! お二人さんよー」
「えーい! もう、うっさいわね! あーしだって参加しないし! つか、気分じゃない!」
「あー……もう! めっちゃくちゃじゃん!」
「いや、それは夏川も大概だかんな?」
「あーーーー! ひどーーーい! もう、こうなったらあたしも参加しませーん」
こうして、最後の最後でいつもの雰囲気に戻りはしたが……。実際問題、解決には至らずだ。
さて、僕は行動するべきか? じっくり考える猶予ができたことだし、活用するとしよう。
〜感情と言う名の魔物【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~




