第38話 人それぞれに考えはある【Ep.春山怒留湯編】
始まる……ついに始まってしまう。
一見すればそれはそれはもう、不思議なグループでの昼食風景に感じるだろう。
でも、まぁ人間の順応力と言う物は素晴らしいもんで、初期の段階では驚きやらなんやらかんやらとあったもんだが、お陰様でクラス全体としての雰囲気は物静かな奴でも、誰であってもそれなりに楽しんでそうな雰囲気のあるクラスに仕上がっている。
これも偏に春山の影響力による物だろう。そんな風にしていつの間にか馴染み切ったこのグループではあるが、今回は大きく状況が異なる。
なにせ、その中心人物が一段と真剣で神妙な表情をしているのだから。
「ねね? なーんか、ぬるちゃんってばフンイキがさ、ちがくなぁーい? 急に髪色を変えたってのもあるけどさ」
「どうしたんだい? 元気にしてたかい?」
流石におちゃらけ組の二人ですら、察知ができるレベルで何かを感じ取れているらしい。つまり、これはかなりの非常事態とも取れる。
「そうね、これに関してはスパッ! と、言っちゃう方が良いと思うから単刀直入に言うわ!」
「どぞ」
そう言って、春山は静かに一呼吸おいて……。
「ゲリラ豪雨の後、急いで姉をお風呂場に連れて行ったんだけどね。お……姉がお風呂場で倒れちゃったんだよね。わたしのせいで」
なるほど、そう言うことか。わたしのせいと、来たか……。
「ごめんね、ぬるちゃん話せる範囲でいいから詳しく聞いてもいい?」
「元々姉は体がすごく弱くてね全身性エリテマトーデスって厄介な難病を抱えてるの」
「うお、いきなり聞いたことない単語だ」
「あたしもしらなーい!」
「全身性エリテマトーデス、発熱だったり全身の倦怠感が出たりする病気だよね」
「それだけじゃないよ、確か一度に多数の症状が押し寄せたりもするって言う奴だったよね」
「りあちゃん、大山は流石に知ってたか……そう、大体合ってる」
原因不明の指定難病の一つ、更に厄介なのはちょっとしたことで症状の悪化を引き起こす。
「つまり、倒れた原因はその難病が誘因している、と?」
そう、質問を投げかけると春山は首を横に振った。
「え? 違うのぉ! 今の伏線的にさぁ? そう言う流れだったじゃーん」
「なっつー、うるさいよ。お口チャック」
「なんなのさ~! なんで、あたしなわけ~」
おぉ、冬梅の新たな一面が出たな。しかし、その難病が影響していない? どういうことだ。
「実は大分、元気になっていからね。それで部活に参加させたの……でもそれが良くなかった。本当に最悪な選択をしていたのよ、私はね」
普段の一人称すら消し去る程の後悔と絶望――。
僕は彼女が宿す瞳の在り方に見覚えがある。かつての自分が持っていたソレと同じかあるいは……。
「だ、大丈夫? りあちゃん」
「そ、そうだぜ? 無理に自分の良くない部分を語る必要なんてないんだぞ?」
再度、春山は首を横に振る。
「倒れた原因はヒートショックを起こしちゃって姉は頭部を強打して倒れたの」
「ヒートショックかぁ~、なんとなーくそれなら知ってるわ」
「あれだよね? 寒暖差でふら~っときちゃう的なやつ」
あの日の雨で体を冷やし、それを重く受け止めた春山は急いでお姉さんを風呂場に行かせた。その結果、意識を失い病院へ……。そういう流れか。
「それで、全ての責任は自分にある、と」
「そうでしょ? 元を辿ればこんなことをしなければ姉はそのまま元気に過ごせた筈なんだよ?」
「ん~? 別に全部って訳じゃないきもするが~?」
「あたしもあたしも~うっちーにさんせーい!」
「なんで、そうなるのよ!」
「いやいや、落ち着いて考えてみろって。雨が降った結果がソレを引き起こしたんだろ? なら、問題は別に春山が責任を負うもんじゃないと思うんだが?」
「そーだ!そーだ! ぬるちゃんはわるくなーい!」
分かる。二人の発言は春山を元気付ける為に“悪くない”と、君は原因ではない! と、主張することにより優しさで包み込もうとする。
確かに、春山自身は自身の考えうる中で一番の選択をした。
これは事実だ。
しかし、切り取り方が……寧ろ切り取ってしまったのが一番、良くないのだ。彼女の訴えたい部分が汲み取れていない、何もヒートショックで倒れたことを悔やんでいるんじゃない。
そんな所で立ち止まったんじゃない。春山は……。
「違う、そうじゃない。 春山の想いはそこじゃないんだよ。三日間、いやそれだけじゃない姉と入れ替わりなんてことを実行した根本から間違いだった。と、主張してるんだ」
確かに、僕は春山の想いを理解するとこまでは辿り着いた。あぁ、辿り着いたさ! だから何だと言うんだ? それを知って、分かった上で?
そんな理解だけをした所でなんの意味がある?
今更、この結果に導かれてしまった現状に、惨状に取り残された春山に役立たずな自分が何をすると言うんだ?
「ううん、みんな違うよ。ぬるちゃんも違う」
そこに、意外な言葉を放つ異彩が全てを支配する。
「え? なんで、何が違う――」
「起きてしまった現状、結果を知ってそこから答えを知った上で今更、ああすればこうすればなんて立ち止まるのはお門違い」
「知ったように言わないでよッ! 何も知らないくせにッ!」
声を張り上げると同時に、振り上げれら右手は迷うことなく冬梅を捉えようとしている――。
その光景を冬梅は動じることなく、ただ真っ直ぐに春山と対峙している。
「ダメだ!」
それを寸前で桐内が阻止する。
「どういうつもりさ! りあちゃん!」
「嫌な役回りだね。こんなことを大山は繰り返して……ううん、なんでもない。これで私の言い方がすごく良くなかった。と、言う結果が完成したよね」
なんだ……冬梅、君は何をしようと――。
「今、そんな話は必要ないんだけど」
「まって、春山ここは一度飲み込んでくれないかい」
「……わかったわよ」
すっかり雰囲気の変わった教室内、それを見逃す訳がない。
~人それぞれに考えはある【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~




