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第37話  月曜日は容赦ない【Ep.春山怒留湯編】

 でも……



 悪いことばかりではないみたいだ。


 ビリリリリリリリ!

 

 突如としてスマホが場違いな程の音量で爆音を響かせる。


「おっ! び、びっくりしたぁ~」


  見れば時刻は丁度九時、それをお知らせする為に自分でわざわざ仕込んでおいたアラームすらすっかり忘れしまう程に僕は気を取られていたらしい。


「ふぁあ~! そんじゃあ、まぁ……日曜日を噛みしめますかね」










 えぇ……えぇ、知っていましたとも! 休日なんてものは瞬く間に消化され、体感すればあっという間に過ぎ去るのだ。


 それは、なんでなのか? そんな答えは凄く簡単だ。


 一般人かつ、特別交友関係も広くなくゲームやらアニメで休暇を溶かすような人種は潤沢で眩しくて華やかで煌びやかで絢爛で似たような言葉を並べ立てる僕みたいな存在では、何一つとして誰かに共有したい程の個人的ニュースなどアニメの声優さんの演技がすごい! とか、このアニメのワンシーンの作画だったりカメラワークだったり演出だったりで勝手に盛り上がる様な人種だ。


 そんなことを考えながら今日も一人、自分の机に座り込んだまま教室の入り口でもあり、出口でもある真正面右側上部の壁に設置されている壁掛け時計を虚ろに眺めなら僕の学校生活がスタートする。


「相変わらずお面みたいな表情してるわね」

「あー……うん」

 あれ? おかしいぞ、おかしいぞ? 僕の記憶領域にエラーメッセージが表示される。僕の交友関係では二人目の黒髪美少女は登録されていないのだ。

 つまり、この人はまさか――。


「え、なにこわい誰」

「は? マジで言ってんの? なに、バカなのいっぺん目玉ごと交換しとく?」

 この切れ味と僕の前の席に鎮座する辺り……。

「は、はる……やまですか」

「なっ!? なによー! どっからどう見てもあーしなんですけどぉ!」

「わーお」

「そっ、それでなんだけど……似合って、る?」

 ん? なんか後半は聞き取れなかったけど、春山は前髪をチョンチョンと指先で遊んでいる。


「うん、僕に何か用があるかんじ?」

「バカ……そう言うことじゃないって」

「えっ! ぬるちゃん!? その髪色、どうしちゃったの? すっごく似合ってるけど!」

「ヒッ」


 いつの間にか後ろの席にいる主も姿を現したご様子で冬梅がらしからぬテンションで唐突に話しかけていた。その声量はさながら、夏川並みのテンションで乗り込んでくるもんだからびっくりもする。


「大山、マイナスひゃくてん、ね」

「え」

 なんてことを冬梅から僕にしか伝わらない距離感の耳元で評価を喰らった。

「あっ! 今なんか言ったでしょー! りあちゃん!?」

「え、えー? なんにもいってないよ~」


 でも、僕なんかが仮に「すげー似合ってるよ。かわいい」なんて、それこそ機動隊が速攻で突入して取り押さえにかかるぐらいにキモキモポイント乗算も良いとこだ。


 そんま話を面みたいな表情の自分がまくしたてている? 僕を想像してみて欲しい、ふふ……。


 きんもいデショ? 聞かされてる側はエサを求める鯉の口ぐらいパッカーン! と、大口を開いていること間違いナシ! えぇ、そうでしょうとも!


 そんな地獄空間を自ら産み出すくらいなら、僕は地産地消? いや、自給自足で事を済ませる方が正解であると理解している。この先もこう言った話が誰ともできないとしても、それはそれでそんなもんだと割り切ることにする。


「おぉ!? 春山、その髪色どったのさぁ~?」

「うっち~? それ一発目から女の子にする質問じゃないんだけど~?」


 いつもの面子が集まりだす。なんとも賑やかな連中……いや、僕もそのグループにいるのか。


 はは……その癖、一人だと一人で気楽と思いつつもどこか物足りない……みたいな人肌の恋しさなんて物を欲しがってしまう一面もあるのだから、面倒臭いったらありゃしない。


 特にこう言うタイプの奴は呟くこともなく、無自覚にモリッターなんかを開いては閉じ! すぐさま開いてはまた閉じる。なんてことを繰り返しては時間だけを食い潰すんだ。


 自分で自分の評価をしている筈なのに、容赦ない。ある意味で僕は僕自身に期待などしていない。     

 その点においては我ながら適切な評価ができているのではないかと思う。

 いかんいかん! 人間なんて生き物は時にどうしようもない物で、考えても仕方ないゴールの見えないアレやコレを悩んでは勝手に病んだりもする……本当に面倒な自分――いや、人間だ。


 こうして、つつがなく月曜日が始まる――。








 ほら見ろ、結局こんなに語っておきながら何一つとして生産性とか効果のある答えすらないのだ。

 ある意味で答えを出すべき必要がある選択が迫っている時でさえ、余計なことを考えて後回しにしようと、逃避をする時にもこの無意味な思考は発生したりする。


 ははは! そうさ! 何故こんなことを唐突に語っているんだ? 不思議に思うだろう、そうだろう。

 それは、気が付けばもう月曜日のお昼休み直前まで時間が経過しているからだ。



 驚いたでしょ? 僕だって驚きさ! 気が付けば訳の分からんことばかりを考えて無駄に脳みそのエネルギーを浪費していたらみるみる内に時間が溶ける溶けるぅ~!

 

 【キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン♪】


 馴染みの音をベースにしつつも地味にアレンジが加わっているチャイムを合図としてすんなりと授業が終了する。




「あー、終わってしまった」

「終わってないんですけど? 寧ろこっからが重要なんでケド!」


 先生が退出して、僅か数秒で僕の独り言さえも逃さずに汲み取る派手髪……?


「あれ? 髪色変えた?」

「は、はぁああああああああ! マジで言ってんの!?」


 ん? あぁ……やっぱり今更、言うのはダメだったか。


「あ……あっはは~、流石に冗談だよね? 大山」

 すかさず乾いた笑い声で冬梅も驚愕しているご様子。

 い、いかん! これはまずいぞ想像以上に良くないか? ほら見ろ、この手の話題を持ち出すだけでこの惨状だぞ。

「え、え~っと……そうそうボケだよボケ」

「キモッ! くたばれ!」


 うん! 良くないよ~良くないなぁ~はるやまさんやそんな酷い言葉を使っちゃいけません!

 

「まぁ、いいわよ別に! それよりもアノ件はここで済ませるからね」

「まじ」

「当たり前でしょ? 皆に共有するんだから!」


 あーーーーね? そうだよね、べべべべべつにぃ~? 勘違いなんてしてませんでしたしぃ~?


「ん? なんだろ? ぬるちゃんからお話があるの?」

 そう言って、少しだけ不思議そうな表情の冬梅は少しだけど、僕に何かを言いたげな雰囲気を出していた。


 けど、僕はそれを敢えてスルーした。


「うん、あるよ。大事なお話が、ね」


 あぁ、今朝の明るい表情は何処へやら……。こんな表情を誰かさんが見逃す程、緩い存在ではないだろう。

「ねぇ、大山。今日の放課後さ、電車で話があるからね」


 昼食形態に変更をしようと机を動かしているタイミングで、鋭い冬梅からの呼び出しを喰らう。

 まぁ、何かしらの反応はあると思っていたけど予想よりも遥かに行動力があるな。


「はい、準備はできてるよ」


 そう言って、まずは冬梅に視線を合わせる。すぐさまその視線を春山へと向ける。


〜月曜日は容赦ない【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~ 

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