第35話 家族会議【Ep.春山怒留湯編】
「わたしは、なんの為に生まれたのかな? お母さん、お父さん」
「急にどうしたのよ?」
「いきなりの質問だねぇ」
「確かに今回のわたしは色々と良くないことがあったと自覚してる。でも……」
「良い? お母さんはね、あなたの為にわざわざ言ってあげてるのよ! あなたにはお母さんが子供の頃に経験した貧しくて辛くて苦い日々を送らせたくないのよ。分かるでしょ!?」
「お父さんもこの意見には賛成しているよ。辛く、生きるのさえ嫌になる日々を送るくらいならしっかりと親の意見を聞き受けておいたほうがゆーの為になるよ」
口を開けば私の為、ちゃんと聞けば嫌な日々を送らずに済むとかなんとか言って丸め込む。
「わ、わたしの意見は?」
「この期に及んでまだ、そんなワガママが通じると思っているの? アナタが犯した過ちがどれほどの物か理解していないの?」
「まずは、今の今まで好き勝手できていたんだし、そろそろ現実を見始めても良い頃合いじゃないかい?」
「何もできないってことくらいは理解したでしょ? 散々周りを引っ掻き回して聞く耳すら持たずに反抗した……いや、反抗し続けた結果がコレよ」
確かに親を騙してまで入れ替わり、とがねぇを勝手に部活へ参加させ部員にすら迷惑を掛けた。
挙げ句、ゲリラ豪雨とは言っても事実としてヒートショックを引き起こす要因を作り、大怪我まで負わせた。
ここに至るまで、全てが私の独断だ。
そして、結果は言うまでもない。
でも――。
だって……。
ううん、分かってる。こんな言葉から始まる様な続きは、小学生やそれ以下のカワイイ言い訳だ。
だから、私はこう答えるしかない。
「は、はい……その通りです」
「まずは、公務員を目指しなさい! お母さんと一緒の職業ならまず、失敗はないわ!」
「まぁ、それが一番じゃないかな? ゆーにとっても損はないだろう」
「そ、そうだねー……あは、あはは~……」
でも、私には夢があるんだよ? お母さん……
この想いを告げるべきなの? どうすれば良いのだろうか?
ううん、こんなの私らしくない! もしかしたら……
「あっ、あのね? お母さんお父さん、わたし実は夢があるんだよ?」
「夢? いいわ、言ってみなさい」
「私ね? 料理を作るのが好きなんだ。だから、将来はそう言う仕事をやってみたい」
ほんのちょっとだけ、静かな空間が生まれる。
「無理ね、諦めなさい。これ以外の選択はないわ」
顔色一つ変えることなく、私の夢はあっさりと切り捨てられた。
あぁ……期待したのがバカだったと、思い知る。
「そんな、はっきりと言わないでよ!」
「料理を仕事に? そんなもの、アナタの顛末なんてわかりきっているわ! なにもかも成し遂げたことがないのよ? ただただ落ちこぼれてフリーターになるのが目に見えてるわ」
「決めつけないでよ! なんでもかんでも!」
「じゃあ、何かしら? とがめのことに関してもアナタは理解を深めようとした? とがめの様に血の滲む様な思いで勉学に励んだ? もっと言ってあげるわよ? アナタは何をしたの?」
深く、深く……
突き刺さる。
そうだ、私は
何を一体
してきたのだろう?
「な……なにもして、いません」
「そうだね、確かに母さんの言葉はゆーにとっては辛い物だと思うよ。でもね、ゆーにはなにもない。コレが大きな事実でもあるよね?」
「必死に足掻き、貪欲に何かを得るつもりもない。かと言って、努力もせずただ愚直に人と違うことをして迷惑だけは一丁前に掛ける。挙げ句、夢がある? どこまでお母さん達を裏切り、馬鹿にすれば気が済むの?」
「ちがっ――」
「もう、結構よ。耳を傾ける価値すらない! これ以上、馬鹿なことをするくらいなら速やかに親の意思を汲み取りなさい。二度は言わないわよ」
冷酷、本当にコレは私の母親なのだろうか。こんなんでは、理解し合うどころの話ですらない。
あまりに一方的で私の話はそもそも聞く価値すらないと……。
完全な否定、無視、強制だ。
私はいつから、ここまで親子関係をこじらせてしまったのだろう。でも、言っていることに間違いがないのもまた、事実だ。
何一つ、私はやっていない。
何一つ、私は理解していない。
何一つ、私は知ろうとしていない。
一切、全体、総べて……
「これだけ、ゆー……いいえ。春山怒留湯とはどんな人物かを教えても尚、反論及び反抗または反撃の余地はある?」
確かに“現状”では、どうにもならないと私でも理解できる。ここは一旦だけど保留しよう、これ以上自分や相手の感情を逆撫でした所で余計にこじれる様な気がする。
「ありません」
「よろしい。なら、この話は終わりよ」
「じゃあ、夕飯にしようか! 遅くなっちゃったけど」
最後にお父さんがそう告げると家族会議は終了した。
〜家族会議【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~




