第34話 過ちを語る【Ep.春山怒留湯編】
病院から帰宅したわたしに待ち受けていたのは当然、今回の件に関して何をしでかしたのか?
と、言う事の顛末を語る為の家族会議が始まる。
「さて、ゆー? ヒートショックを起こしたとがめについて、洗いざらい全部を吐きなさい」
「か、かあさん!? もうちょっと優しく、ね?」
必死になだめようとする父親に目を向けて見るが……どうやら、父親も向こう側の住人らしい。
まぁ、わたしに対する価値なんてこんなもんだろう。
「わかった、全部を話します」
両親はリビングのソファに座り、私は地べたに正座する形で話は進んで行く。
いざ語り出してみれば、次から次へと言葉が浮かんでくる。
「放課後限定で部活動のみ、晴れ間が続くことを利用して姉と入れ替わりを〜……」
正直、コレを言うべきか……迷う。
「なに? 部活動のみじゃないの?」
「あっ……ううん! 部活動だけよ! 晴れ間の瞬間だけを利用して、お姉ちゃんと入れ替わってた」
結果、わたしは言わないことを選択する。
「なるほど〜、それで? 入れ替わりをした理由を聞いてもいいかな?」
とがねぇがわたしだけを頼りにお願いごとをしてくれたこと――。
姉妹揃って、楽しんで調子に乗ってしまったこと――。
好きになった、部活動のこと――。
最終日に予想外の雨が降ってきて、お姉ちゃんが雨に打たれたこと――。
わたしがやってしまったことをすべて話していった。
「状況は把握したわ。凄いマヌケな話ね」
「オイオイ、なにもそこまで言う必要はないだろう?」
「甘いわね。今まで、とがめはお母さん達の言うことを絶対に聞くように徹底してきたのよ」
「そ、それはそうだけど……」
「じゃあ、あ……わたしが! 無理やりお姉ちゃんに言うことをきかせたとでも言うの?」
「ありえないわね」
「だったら、なにがマヌケな話だって言うのよ!」
お母さんは「はぁ」と、小さく溜め息を吐く。
「なんの計画性もなく、対策すらしない所がマヌケだと言っているのよ」
「時期をしっかりと理解していれば、あらかじめ傘を持たせるくらいはできたんじゃないかい?」
「な、なら! わたしじゃなければお父さんとお母さんなら準備をしていたって断言できるの!?」
「当たり前でしょ? 理由はどうあれ、結果は理解しているでしょう? お母さんたちはね、そう言ったリスクも考えてとがめに対応させているのよ? 言ってる意味、分かるわよね?」
「うっ! それは……はい……。わかっています」
「ただ、とがめの変化をもたらしたのは紛れもない事実ね、よっぽどゆーが入部した釣り部だったかしら? 素敵な部活みたいね」
「そうだねー、あれだけ約束を守る湯柑芽がリスクを犯してでも体験したかった物があったんだと、お父さんも思うよ」
わたしが入部している部活を褒めて貰えた。
でも、それとは別の感情がお母さんを支配しているのはすぐに分かる。
「でも、これで理解できたでしょう? 貴方の浅はかな考えでは何一つとして成し得ない。と、言うことを」
「わ、わたしは! 自分で考えながら失敗していきながらも掴み取りたいのよ!」
「知識を持たぬ者はまず、生き残らないのよ」
「確かに、ゆーの言っていることは大切だ。でもね、知識ある者から何も得ずに突っ走ることを選んだ結果、今回の湯柑芽はどうなったかな?」
「ひ、ヒートショックで意識を失いました……」
「ヒートショックの可能性すら知らなかったわよね? でも、それはとがめを育てる上では必要な知識の一つよ。もちろん、貴方にも起きること」
「なら、お姉ちゃんなら知ってたんじゃないの?」
「いい質問ね、ソレにはお母さんがこうやって質問を返してあげるわ。今日、貴方は転んで怪我をするわ」
「そ、そんな訳ないでしょ! 変なことを言わないでよ!」
「ほら見なさい、自分にはそんなことは起きないと思い込んでいるでしょう? 自身の視点では、まず防ぎようがないことのが多いのよ?」
全く、意味が分からない! 何を言っているんだ。
「意味わかんないわよ!」
「知識としてはあっても、それに対するリスクを重く受けとめて考える要素に加えるのは難しいってことよ」
「それは、そうかも知れないけど……」
「後、ゆー? 転んだかどうかは知らないけれど唇を怪我してるわよ?」
「……っ」
なにも……
何一つとして、返す言葉がみつからなかった。
「これで懲りたでしょう? いい加減、アナタもお母さん達の言うことだけを聞くようにしなさい」
「これまではお父さんも、本人のやりたい様にやらせるのも大事だと思った時期もあったんだけどね……これ以上問題を抱える訳にはいかないんだよ」
「あっ……うぅ……っ」
完全に詰み……。
だけど、こればっかりは嫌だ嫌だ! と、反抗できるような要素は一つもない。
わたしは、大きな過ちを犯したのだ。
ならば、この結果は受け止めてしっかりとこれからは両親の言うことを聞かないと駄目だろう。
「この期に及んで、まだ! 反抗する気!?」
「ど、どうしても……全部を聞かないとだめ?」
「ふざけているの?」
凄まじい圧力、決してそれは怒鳴り声なんてものじゃないけど……。
間違いなく否定を許さない。
こんなの、選択肢なんて一つしかない。
「わかった」
「なら、まずはその醜い髪色を直しなさい」
「えぇ!? 流石に酷くない?」
「酷いのはあんたの髪色よ! つべこべ言わずに明日、必ず黒髪にしてきなさい!」
「ちょ、ちょっとだけなら髪を遊ばせてもいいよね?」
「はぁ……黒髪で何をどう遊ばせるか知らないけど、馬鹿みたいに派手にしないならかまわないわよ」
「わーい」
「妙に胡散臭いわね」
いけない、誰かさんの抑揚のなさが伝染ったみたいだ。
〜過ちを語る【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~




