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第32話 大きな代償【Ep.春山怒留湯編】

鍵っ子です。


実はカリカリ梅以外にも割れせんべいにハマッてます。


甘党ではないです。

コーラは500 ml程度を飲むと気分悪く成ります。

 収束する、全ての違和感の正体が明るみになる。

 明らかなスタミナ減少に言動や反応の変化など、なにもかもが完璧に埋まっていく。


「なるほど、そう言うことか。この三日間は楽しめましたか? 春山のお姉さん」



「さ、流石ですね……仰る通りですよ。実はわたくしが学校に足を踏み入れたのは入学式以来でしたが」

「え? お姉さんだって? いや、だがまてよ? 入学式の挨拶をしていた奴が確か〜春山だった……まさか! お姉さんの方だったか!」


 あー……そう言えば、確かに春山なんとかと、名前を言っていた様な気もしたが正直な所、僕も覚えていない。


「えぇ、その通りですよ」

「し、信じられない! じゃあ、あたし達まんまと騙された訳だ!」

「なっつー、言い方が悪いよ〜」

「いや、それより……なんでわざわざ部活なんかに?」

「ごめんなさい、お答えする時間はありません。なにせ、予想外のアクシデントに遭遇してしまいました」

「予想外? なんのことを言っているんですか? 春山のお姉さん!」


 やけに、夏川が食い気味なのが気になるが……。


「わたくしにとって、体温を急激に奪われたのは大きなダメージです。つまり、雨が予想外でした」


 ゴンゴン!


 運転席側の窓を春山が叩き、先生が窓を開ける。


「時間がありません! 先生、姉を回収します!」

「いや、でも……雨だぞ? それにお前さんもわざわざ傘をたたむなんて……」

「先生ッ!」

「……っ、わかったよ。お迎えなんだろ? いきたまえ」

「はい、短い間でしたがお世話になりました。」

「ま、待って!」


 何となく、反射的にそんな言葉を言ってしまった。勿論、理由なんてないのかも知れない。


 でも、僕は凄く重要だと思ったのだ――。


「はい?」

「僕の名前は大山虚秋(おおやまうろあき)だ。お姉さんの名前は?」

「なまえ、ですか?」


 一瞬の間――。

 本当に僅かな一時の沈黙だが、それは無限の様な錯覚を与える。


湯柑芽(とがめ)です」

「絶対に、僕の名前を忘れたら駄目だ! 後は釣り方も!」

「ふふっ……変わった人ですね? 前にも言いましたよ、忘れません」


 柔らかな笑みを振りまいて、静かに姉は車内から降りて行った。


「おそいよ、湯柑芽! はやくして! あんたに猶予なんてないの! 急いで!」

「わ、わかってる」










 視点変更、春山怒留湯――


 半ば強引にあーしは先生の車から姉を引きずり降ろす様な形で回収した。

 仕方ないのだ、この人は寒暖差に弱いのだから! 一刻も早く、自宅の風呂に入れなければならない。


「ごめんねぇ〜、ゆーちゃん」

「は? 何がよ、別にとがねぇは悪いことしてないでしょ!」


 姉にはあーしが最初に差していた傘を渡して、自分は折りたたみ傘で対応した。


 雨音はボタボタと容赦なく傘に降りそそぎ、まるであーしと姉の入れ替わりを許さない為にだけ、降ってきた気さえする。


「あのねぇ〜、ゆーちゃん?」

「体力やばいでしょ! 一々喋るな!」

「車で座ってたから〜、十分くらいの道のりなら大丈夫よ?」

「うっさいなぁ〜、無駄に体力使わないでいーから」

「あぅ~、わかった。ごめんねぇ」

「くっ……! だからぁ――」


 いや、もう……よそう。

 これで、終わりだ。冷静になれ!


「お、怒ってなぁい〜?」

「怒ってない!」

「そっかぁ〜、ふふふ〜」

「変な奴ね! 大山と一緒よ、アンタもね」

「うろあきくん、良い人だったなぁ〜」

「下の名前で呼ぶなぁー!」


 そう、姉はようやく()()を取り戻している。取り戻そうとしているんだ。

 元気になってきて、自分の意見を言える様になって! 思ったことを誰かに言える様になった!


 なのに……。


 体調も良くなって、やっとのおもいで外に出る勇気を手にしたのにっ!

 自分からちゃんと、あーしにお願いしてくれたのにっ!


 それをなんで――。

 

 雨ごときに、台無しにされないといけないんだ!

 信じられないくらいに不愉快、ついでに両親の見る目の無さにも不愉快だ。


 つーか、姉妹の入れ替わりすら見抜けない癖に良くもまぁ、偉そうに姉を縛っていた物だと思う。


「結局、あーしらの入れ替わりを見抜いた奴はいなかったね……」

「うふふ〜」

「な、何よ? 変な笑い方して」

「いたよ〜? 見抜いた人」

「はぁ!? 誰がよ!」


 いや、確実にいない筈だ。明後日の方向に履き違えたアホウはいたけど、それくらいだ。


「うろあきくん、最後の最後でわたくしにお姉さんって言ったよ〜」

「そんなのまぐれでしょう、大体さ……」

「え? だって、はっきり言われたよ? この、三日間は楽しめましたか? て、言われたよ〜?」


 ばか、ばか、ばか! なによソレ!

 そんなの、そんなの……反則じゃん。


「そ、それは……バレたわね! 別に? なんとも思わんしぃ〜?」

「多分だよ~? うろあきくんの中で何かしらの答えとか、可能性が存在してたんじゃないかな〜?」

「それが、最終的に繋がった結果。たどり着いたって訳か……」


 分かる、分かってしまう。


 頭の回転が良い彼なら、その答えにたどり着くことができると思えてしまう。


「ねぇ~? ゆーちゃん?」

「何よ! あと少しでお家なんだけど!」

「うろあきくんのこと〜、すきぃ?」


 ホンっト! ポンコツ姉だ!


「うるさいなぁ! 好きじゃなくもない……違うわ! 気になるだけ!」

「わぁ〜、素直だぁ!」

「とがねぇは、嫌いっ!」

「えーん、えーん!」


 調子狂うなぁ……本当に、さ。

 これも、ぜんぶ全部! あの人のせいなんだから! 地味なくせに!


 そんな、あーしが恥ずかしくなるような会話をしている頃には、自宅に到着を果たすことができた。


 後は両親が帰宅する前に、とがねぇがお風呂に入って自室に戻りさえすれば、完全犯罪が完了する。


「今開けるからね!」

「お願いしま〜す」


 呑気なとがねぇの返答を聞きながら、あーしは家の鍵をカチャリと、解錠する。


「ただいま〜」

「いや、うちら二人しかおらんから!」


 あーしのツッコミに満足したのか「えへへ〜」と、とがねぇは笑っていた。


「ほら、ぼさっとすんな! 風呂にいけー」

「あぅ~、押さないでぇ? お姉ちゃんは弱いんだからー」

「びちゃびちゃで歩き回るなって言ってんの!」

「ゆーちゃんも同じでしょう? 一緒にオフロ〜」

「入るか、ぼけ! あーしは着替えるだけで十分なの!」


 グイグイ背中を押して、強制的に風呂場に押し込んでようやく、あーしの任務が完了する。


 今回の件、めちゃくちゃに姉妹揃って大胆な行動をしたと思っている。


 更に、一番マズイのは木下先生が両親にこのことを言ってしまう危険性がある。

 それだけは、避けないといけないので追々、事情を説明するつもりだ。


 幸い、木下先生なら早々に告げ口もしないだろうし、なんとかなる。


「後の問題は、とがねぇが寝込まないことを祈るしかないってとこかな」


 病弱な姉が少しだけ、元気になったとは言え……。


 身体を冷やしてしまったのは、相当な痛手だ。

 しかし、こればっかりはなるようにしかならない。

 そして、着替えを済ませたあーしは一階のリビングにあるテレビをつけて、テーブルの上に飲み物を置き、姉がお風呂から上がって来るのを待つことにした。


 時刻は夕方の六時四十六分頃、両親の帰宅時間はおおよそ七時三十分くらいだろうから、問題なし。

 最悪、お風呂に入っていてもおかしいことはないだろうし。


「雨ばっかだなぁ……いや、そりゃそうなんだけどさぁ〜」

 流れている天気予報をお伝えしているお天気お姉さんがニコニコしながらここ1週間くらいの内容を話している。


 雨、雨、雷を伴うなど強風だ、大荒れだと笑顔で話している。何がそんなに嬉しいと言うのだろうか。


 「なんか、疲れたな……」

 三人なら余裕で座れる大きさのソファに一人、ポツンと真ん中に座っている。

「ねよ」


 足をソファの腕置き部分へ投げ出して、ボフンッ! と、身体を沈めて仰向けになる。


 よほど疲れていたのか、あーしはそのまま眠気に誘われて行った。




 ガッシャーン……


 ふと、目が覚める。

 特に目覚ましなど付けていなかったが、それに匹敵する何かが聞こえた様な気がした。


「ん? なんだろ、凄い音がした様な……」

 

 音? テレビか? いや、そんなアクション映画みたいな音が出るような雰囲気はない。


 それに現在、家にいるのはあーしと姉……

 次の瞬間、私は飛び起きる様にして猛ダッシュで風呂場を目指す。


 サァー……! と、絶え間なく流れ続けているシャワーの音が気になった。

 どのくらい寝ていたのか、現状では不明だが姉はまだ、シャワーを浴びているのか?


「おーい! とがねぇ? シャワーまだ浴びてる?」


 サァーー……! と、流れ出ているシャワー音は止む様子がない。

 聞こえなかった? ならもう、一度……


「おーーいっ! とがねぇってば! きーいーてーるー?」



 しかし、状況は変わらず……。


 次の瞬間……あーしの頭を支配したのは、恐怖だった。


 聞き間違いじゃなければ、あの音はもしかして――。


「ねぇ! とがねぇ!? 聞いてるんでしょ! 返事してよ! ねぇってば!」


 途端に全身が震えだす――。

 早く風呂場のドアを開けなければ! 震えを押し殺して、ノブを回す。


 ガチャリッ! 扉はいとも容易く簡単に開く。

 されども、シャワーの水は流れている。


 ゆっくりと、中の様子を――。

 

「お、お姉ちゃん? なにして……」


 そこには、洗い場で横向きに倒れた状態でいる姉の姿があった――。


「え? へ? なっ……これは、どういうこと? とがねぇ! とがねぇ!?」


 足から順番に上を見ていくただそれだけ……。

 視線は次第に顔に向かい、流れ出ているシャワーの水が排水溝に吸い込まれている。


 紅い彩りを運びながら――。


「あっ……あぁ!」


 姉が頭部から血を流して倒れている。

 良く見れば、金属のタオルバーの角あたりにも血痕が残っている。


 そんな、そんなっ……そんな!

 何がどうなっているんだろう。全く冷静に物事が判断できない。


 即座に姉へ向けて、手を伸ばす! が、辛うじて今までの経験則が自分の行いを踏みとどまらせる。


「ハァ……ハァっ――! ま、まて! おぉ、落ち着け! あーし!」


 頭部によるダメージが明らかな状況だ。下手に動かすことは更に危険だ。

 まずは、シャワーの水を止める!


 流れ出ているシャワーの発生源であるツマミを回して、水を止める。


「あぁ……どうしよう! どうしよう! どうすれば、いいの!」


 纏まらない思考……つ、次の行動をしないといけない筈なのに……あぁ、マズい!

「そ、そうだ! きゅ、救急! 電話しないと!」


 慌てて、風呂場から飛び出し! 無我夢中で駆け抜ける。


 濡れた足裏がフローリングで滑り、足を奪われ盛大に転倒する。


「いったぁ! 口切った!」


 いや、もう! それどころじゃない!

 私はすぐさま立ち上がり、リビングに置いたままのスマホを乱暴に掴む。



「119だ! 早くしろ、私!」


 久々に押すキーパッド操作は簡単なのに……それすらも、上手くいかない。


『はい、119消防指令センターです。火事ですか?救急ですか?』

「きゅ、救急ですっ!」

『落ち着いて下さい、大丈夫ですよ。ますば、名前と場所を教えて下さい』

「春山怒留湯です。じゅ、住所は――」

 私は、言われた通りに対応する。

 名前と住所、順番に答えていく。

『ありがとうございます。それでは、救急隊員が向かっていますので、玄関の鍵をあけておいて下さい』

「分かりました」


 急いで私は玄関に向い、鍵をあけておく。


『では、ご自宅のお風呂場でお姉さんが頭を強く打った状態で倒れているんですね。出血はされてますか? また、意識はありますか? 脈を確認して下さい』

「お、おでこより上側から出血があります。意識は……ありません」

『では、頭部の辺りをタオルなどで止血して下さい。ですが、頚椎(けいつい)を損傷している可能性もありますので、無理に動かしたり揺すったりはしないで下さい』

「は、はい」

『ゆっくりと仰向けの姿勢に、電話はスピーカーに変更して、私の指示に従って救急車が到着するまで、心肺蘇生をします!』


 胸骨圧迫を三十回、人工呼吸を二回。

 両手を一つに手の甲に合わせ、顎の角度を少し上げて息を吹き込む。


「うっ……くっ……! とがねぇ! 戻ってきて!」


 必死に私は心肺蘇生を繰り返す。


「ガハッ! はぁ……はぁ……」

「あ、あああ! お姉ちゃん! い、意識が戻りました!」

『分かりました! そのまま、お姉さんにずっと話しかけて下さい。 頭部を抑えるのも忘れずに!』

「とがねぇ? とがねぇ? 大丈夫だよ、すぐに救急車が来るからね!」

「うん……うん……迷惑ばっかりかけてごめんねぇ〜、なん……にもできなくて、ごめんねぇ〜」

「そんなことないっ! まだまだ、これからでしょ!」


「大丈夫ですかー! 救急隊員です!」


 不意に玄関の辺りからそんな声が響き渡る。

「ちょっと、待っててね! 行ってくる」


 私は急いで声のする方向に向けて走り出す。


「こ、こちらです! お願いします!」




 姉が運び出された頃、凄まじい形相で母親が家に飛び込んできた。


「ゆー! 一体これはなにごとっ! 答えなさい!」

「とがねぇがお風呂場で倒れてたの……」


 母親はすぐさま救急隊員の人に話しかけ、救急車に乗り込もうとしている。


「あなたも来るのよっ! 早くしなさいっ!」

「あっ……うん、わかった」


 なにもかもがめまぐるしく変化して行く、正直言って今の私ではもう……理解が追いつかない。


 漠然と、何かが自分を支配する。


 あぁ、これが……両親の言うことを聞かずに姉妹だけで勝手に判断をしてしまった――。


 代償なのだろうか……。


〜大きな代償【EP.春山怒留湯編】 END To be continued~

え〜……はい。

もう、大変な雰囲気ですね。


ちょいとおもーくなって参りました。うーん、うーん……と、思考した果てに物語が誕生してます。


あー……そりゃあ、そっか!

では、次回の更新でもお会い致しましょう!

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