第30話 そして、悪魔は牙を剥く【Ep.春山怒留湯編】
鍵っ子です。
遂に、ゴールデンウィークが始まりましたね。略してGWってやつですね。
そして、暑いみたいですよ~? 気をつけて行きましょう!
この二日間? いや、今にして思えば各所で違和感を感じていた。
あの時から春山の様子は違う様に感じた。
鳴瀬川との勝負前に“用事”と言っていなくなる様になった頃からだ。
「この二日間、いや……鳴瀬川との勝負をした辺りから違和感を持ってた」
『回りくどい! はっきり、言いなよ!』
「いや、でもそう言うのってさ……こう、精神的なやつだろうし」
一応、可能性としては限りなくナシ寄りの方にはなるが、間接的にそこから何かを得られることも考慮して質問をしていこう。
『わ、わけわかんないこと言わないでよー! あーしが変な人みたいじゃん!』
「いや、多分だけどさ? もう一人? 正確に分からないけど自分の中にいるんじゃない?」
『なっ!? 凄いこと言ってるの分かっとる? ヤバいこと言ってるの分かる!?』
「二重人格、だったりするんじゃないかって……」
実際に二重人格と言えど、様々なケースがあるらしい……詳しいことは分からないが、春山は入れ替わりが来る周期を何となく感知できていて、それを知られたくなくて……。
まぁ、これは大分薄い線の可能性だ。
『ばかあほしねーーーーーー! なんじゃい! そのキャラ属性盛り合わせ! 盛ればえぇっちゅうわけじゃないからなーーー!』
「うわああ、キャラ崩壊してる」
やはり、これは違うか? この反応は、間違えた時に出るやつだろう。
しかし、鳴瀬川との勝負辺りから春山はおそらくだが……。様子が違ったのは間違いないはず。
『真面目に聞いて損した』
「でもさ、いつもの春山と雰囲気が違ったから」
『だからって、二重人格はないでしょ! んなわけあるか!』
「そっかー、違ったかー」
『んで、因みにどこが一番違和感を感じたわけ?』
「そうだなー……春山は怒りっぽい、けれど凄く色恋沙汰には弱くて、照れたりする。その度に照れ隠しもしてたんだけど、一番はタヌキのチン――」
『はぁ!? 最後の言いかけた奴は何よ! さいってー!』
ほら見ろ、あの時にタヌキが発言した例のアレ、まず間違いなく言いかけただけでもこの反応だぞ?
これが正直、一番分かりやすいだろ。
まぁ、判断方法としては最悪だが。
それでいつもならこんな風に即座に怒るはずだが……あの時はそれもなかった。
「まぁ、違うならもう詮索はしないよ」
『ま! 大山には乙女事情を簡単には教えてあげない! ちょっと、期待したんだけどね……』
ん? 最後らへんは聞き取れなかったが……なにか言っていた様な?
どうせ追求した所で、怒られるしやめとこ。
「いつまで、続くもんなんだ?」
『だーかーらー! 違うわーー!』
「わ、分かった! とりあえず、明日で釣行もラストだし! 勿論、このことは言わないよ!」
『当たり前じゃボケぇーーーーーーー! つか、変な属性つけんなぁああああー!』
暫しの沈黙――。
「わかった」
『よし! じゃあ、明日もよろしくね! おやすみなさい』
「おやすみー」
こうして、春山との通話が終了する。
「んー、どうやら外れみたいだな」
いや、一瞬だけだよ? マジでそうなんじゃないかと疑ったよ?
すっごい意味深なことを聞いてきたしさ。
「とりあえず、これ以上は聞けないな」
やはり、話したがらないけど彼女的には察して欲しいみたいな雰囲気はあるが……。
しつこく聞きまくるのもおかしな話だし、そもそも本人が望んでいない可能性も高い。
となれば……
そのうち、心配せんでも判明していくんじゃなかろうか? そんな気はする。
なんにせよ、明日でラスト釣行ならば僕は最後まで釣りを満喫させることに集中するとしよう。
どうせ、そっからしばらく雨でまともに釣りできないし。
こうして二日目が終了する――
最終日の放課後――
本日は天気予報で言っていた梅雨時期の晴れ間、最終日だ。
今日は最終日だと言うのに……木下先生の送り迎えはナシ。
つまり、徒歩で向かうハメになった。
「うぉあああーい! 到着じゃあーい!」
「キュンキュンポーン!」
桐内と一緒につぶあんも何かを言っているが、内容は不明だ。
「ふふっ、桐内とつぶあんはすっかり仲良しさんですねー」
「はぁ、ハァ……え? な、何か言いましたぁ? ぜぇー、はぁ……」
「ちょいちょい、ぬるちゃんや? 一気に体力老けすぎでは?」
「大丈夫!? ぬるちゃん!」
うーん……なんと言うか、やっぱり変だよなぁ。
なんだ? 体調が悪いのか? だとしたら、釣りをしようなどと言う無謀なチャレンジは……しそうだよなぁ〜。
「聞いてる? 大山」
「あ? えっ、なんだろうか? 冬梅」
見れば、前髪をピン留めした冬梅が少しだけご機嫌ナナメなご様子で僕をジトーっと見てた。
「二人ともー? 何見つめあってんのさー? 最後くらいは全員で並んで噛み締めよー?」
「なっ!? 見つめあって!? ムムッ!」
「ん? どったのさ、ぬるちゃん」
「なんでもないわよ!」
あー……もう、なんだろうか本当に。
「と、言うことで! 今日は一緒に釣りしよっ?」
はい、かわいいー! あー、もう凄い破壊力よ?
本当に冬梅は何故、顔出しをしないのか不思議なくらいだよ。
いや、まてよ……この可愛さを知られるのは危険か?
「おおやまー! ぼさっとすんなよー!」
「あっ! うん、行きますよー」
そして……
「最後くらいは全員で勝負と行きますかぁー!」
「ふっ、遂に始まるわね! あたしの真の実力……いや、隠された真の実力を見せる時が!」
「いや、なっつーそれはもう隠しきれてないから……」
「ともあれ、勝負と言うならば僕も負けない」
「わ、私も頑張ります!」
「いいわ! あーしもやってやるわよ!」
「ポンポコポンポンポン!」
全員やる気なら、僕も負けない!
各々が装備品を整え、釣行準備を始める。
僕の装備と言えば、リールはレブロース3500にロッドはリベルティクラブT20-360だ。
更に今回は疑似エサでの勝負、となれば! 最近のお気に入りはポケベイトだ。
見た目は棒状の練りエサ、まぁ……虫ではないにしろ魚が食べる物を練り合わせているのだからワームとは違う似て非なる物だ。
「用意はいいかぁ? 釣り部の諸君、本日は自分の中で一番のパフォーマンスをみせつけろぉ!」
「「「おーーーー!」」」
「いや、パフォーマンスって……」
「おりゃー!」
「ていやー!」
「えいっ!」
「とぉ!」
「あ、ズルい!」
僕がツッコミを入れると共に他のメンバーは既にキャストをする。見事に出鼻を挫かれたが、僕も即座にキャストする。
ふっふふ~、今回はなんと前回はナイロンラインを使用していたが、ラインを巻き替えてちょいマジ仕様だ。
なんせ、PEライン一号を200m巻いてある。無論、前回から使用していたナイロンを下巻き用として利用し、スプールのエッジギリギリまでピッタリ調整済みさ!
感度も良く当たりが取りやすい、ナイロンラインに比べ更に細い線径でも倍の強度が出せる僕のお気に入り。難点は擦れに弱く強風には流されやすい点とノットを組まないといけない。
いかん! これ以上の解説はまた今度にでも……。
「そーいやさぁ! 優勝したらなにがあるの~? うっちー!」
「え? あぁ~、なんがあるん? 大山?」
「へ? 僕にパスするの? いや、知らんよ? 冬梅は?」
「え? え? 私!? う~、ごめん! ぬるちゃんにパス!」
「はいぃ~!? いや、あーしもしらんのやけど!」
見事な連携パスが完成した。つまり、なんもナシ!
と、言っている傍から僕はヨブを発見する。風も強くなく、まさしくPEラインが本領を発揮できる絶好の状況だ。
奴らが好むであろう環境を脳内でイメージする。
そこに、食べやすそうなエサがユラユラと漂う。
そう、釣りとはイメージの勝負でもある! ここまで明確なビジョンがあるならば、奴らは間違いなく食ってくるのだ!
言ってる傍から特有のシャープなアタリ!
「ほい、きたー」
「ずるしたぁ! やまっちがずるしたぁ!」
「はっや! マジかよ!?」
「なんだかんだで、大山は釣りが上手いよね」
「早すぎ……って! あーしもきたぁああ!」
続けざまに春山がヒットし、上手くヨブを活用しているのだろう。昨日の釣行が本領を発揮している。
となれば、次のヒットは……。
「お! 私もきました!」
そう、勿論こうなる訳だ。
いかに釣りとはイメージし魚へアプローチすることができるか、だ。
偉そうなこと言ってるけど、僕は大して釣りに詳しい訳ではないだろう……。
今でも僕の言ってることは正しいのか、めちゃくちゃビビりながらさも、自信ありげに披露している。
が、そんな僕でも釣り初心者の二人が釣り好きの二人を見事に出し抜くのだ! 戦いなのであろう?
ならば、僕が初心者二人にとっておきを教えるのは当然だ! 寧ろ隙を見せた夏川と桐内が悪い!
「どーした、夏川と桐内? 釣れてないじゃないか」
「ぐぬぬ……この様子からして、やまっちが何かを仕込んだとしか思えませんぞ! うっちー!」
「そうだ、そうだぁ! 俺らがヒットを出せないなんておかしいぞ!」
「あまい! 甘いな、二人とも……もう、彼女たちは立派なアングラーさ! そうだろう?」
「ん? あんぐらーってなんよ?」
「さぁ? 私も分かりませんねぇ~」
「え~」
「ははっ! ようは釣り人ってこった! ほらぁ! ひっとじゃあ!」
「いつの間にか立派になってるって訳ね! あたしもひっとぉ!」
さぁさぁ、全員が並んだ状況だが回収から針外しまでのスピードでは、最初にヒットさせた僕が全てにおいて勝る!
エサの状況をチェックし、すぐさまに次弾装填も完了だ。
「じゃ、おさき~」
回転速度は秒数にして約一秒一回転のペースをキープし、変化のある場所まではこの状態を維持する。
あくまで魚に対して早過ぎず、けれど追いかけるのをやめない程度の速度を保ち飽きさせない。状況や気温、全てにおいて同じ状況で全く似たことをやれば次の日も釣れる!
そんな訳がない! 魚の活性や水中の透明度など、どれをとっても一日でも経過すれば、いや……下手すれば瞬く間に魚たちの気分は変化していく!
その為、二回目の通しは敢えてストップさせない本来の引き釣りで挑む。
「お次は、本来のやり方で……ヒット」
この変化を与えることこそが、釣果に大きく影響をもたらす!
「や、やばい! 大山が完全にスイッチ入ってる! 皆の者、奴を止めろぉー!」
「って、言ってもしょーじきあーしではどうにもならなそうなんですけどー!」
「構わん! ぬるちゃんも、りあちゃんも今だけは奴を倒す為に結託だぁああ!」
「ええ? 勝負じゃないんですか? でも、私も負けたくないです!」
「おいこら、変な共闘関係を結ぶんじゃない。ズルすな」
「やかましい! ちょっとリードしてっからって……はぁい! ヒットぉ!」
いや、情緒どないなっとんねん! めちゃくちゃ過ぎやろ! びっくりするわ。
「あぁあああ! 抜け駆けぇ!」
「はっはー! 悪いな、俺は君たちとは出来も腕も歴も違うのだヨ!」
「地味に語呂が良いのもむかつくわね……」
しかし、甘い! 既に僕はこの間にも二匹目のキスを針から外し終えている!
そして片っ端からタヌキが全部食ってる! もう、びっくりするくらい早いヤバイ! マジ爽快! とか、言い出すくらいには僕の内側のテンションも高い!
「はい、じゃ! 次に行かせてもらう」
素早くベールアームを起こし、人差し指にラインを掛ける。後方確認を必ず行い、竿先に掛かる重みが一番乗るタイミングを僕は逃さずに、掛けていた人差し指をリリースする!
数秒間、仕掛けと天秤は空中散歩を満喫し、やがて水中へと吸い込まれて行く。任意の場所まで仕掛けを落とし込みカチャリ! と、ベールアーム元に戻す。
次なる作戦はロッドを直角に横へ移動させる引き釣りの変化技だ。
一見すればロッドの高さをキープしたままの引き釣りと同じだが、直角まで横に引いてきた分だけラインがフワリと、緩む。
となれば、それを回収する為にどうしても放置をする時間が自然と生まれる訳だ。
つまり、通常の引き釣りとは異なりタイムラグが一定に強制的に生まれることとなる。通常であればヨブに当たれば放置、しかし! この場合はヨブを意識しながらもランダムに放置をぶち込むことができる。意識などしなくても自然とそうなる。
まさに、変化技だ。
「おい! 大山、お前さんだけキャストのたんびに釣り方に変化を出してるな!」
「そうそう、まさに変化球だよ! 自分だけそんな知識を持っててセコい!」
「はっははー、なんとでもいうがいいさー」
「あー……もう、すっごい棒読み。あーしでも分かる程の棒読みっぷり」
「やはり、釣りは知識も大事ですね!」
「ポンポン! キューン!」
タヌキも会話に入ってきて、ここから更に僕の無双が始まる! まさに敵な――。
「ヴーヴー!」
「ん? つぶあん、どうした」
急に別方向に視線を向けたつぶあんの様子が気なりふと、同じ視線の先を見る。
「……ま、まずいよ。みんな、早いとこ撤収しよう!」
「おいおい、勝ち逃げ――」
つぶあんが見た先には――。
「うっそ、でしょ?」
「う、うっちー! 釣行は中止だよ! あの雲、かなりマズイやつ!」
モクモクと、どす黒い雨雲が快晴をどんどん飲み込んでいく。
そして、次に襲い掛かるは独特な風と――。
まるで、隠していた牙を剥き出しにするかの様な天空からの警告音の始まり。
ゴロゴロ……。
冗談ではない! 今僕たちが持っているのはカーボンロッドだぞ!?
カーボンロッド、つまりこの素材は特性上……電気を良く伝える。
すなわち、コヤツは避雷針と言う訳だ。
「や、やばい、すぐに帰るぞ! とにかく急げぇ!」
「な、なに! どういう?」
「とにかく詳しく説明してる暇がない! ロッドは電気を良く通す! 急げ!」
「わわ! い、急ぎましょう!」
「まずいまずい! しかもこっから歩きでしょ!? やばすぎ!」
と、同時に――
春山の表情が一気に曇り出したのを僕は見逃さなかった。
一体、彼女はなにを隠しているんだろうか……。
〜そして、悪魔は牙を剥く【EP.春山怒留湯編】 END To be continued~
最終日、楽しい楽しい釣行回かと思わせての暗雲……。
文字通り、雲行きが怪しくなってまいります。
では、次回の更新でもお会い致しましょう!




