第29話 ぶち壊す一手【Ep.春山怒留湯編】
鍵っ子です。
言ってるそばから今日はもう、暑いです。
なんなんですか? 呪いですか、温暖化ですか? それとも令和のせいですか?
ちなみに私は雨を良く降らせませす。遠出したら良く、雨が振ります。
潤いをもたらします。
はは、知らんけど。
聞かれていたのか……。まぁ、距離自体はそこまで遠くないし致し方ないとは思っていた。
しかし、問題は冬梅が僕を『追い詰める』と、言ったことだ。
「分かりました、お受け致します」
「え? え? 二人とも一体どうしたの!? なんか、雰囲気がさ……」
僕と冬梅の彩る空気感が一気に変わってしまい、春山はかなり動揺しているのだろう。
だが、僕もそんな宣言をされてしまった以上、身構える。
一体、彼女は――。
「大山はさ、友人をなくした時に感情を失った。コレは間違いないよね?」
「うん、前に話した通りだよ」
「じゃあさ、例えばなんだけどこんな別れが辛いなら……って考えたりもした?」
まさに的確な一撃……。
どうしてだ……こうも彼女はあっさりと僕の問題に何故、辿り着くのだ?
「したよ、考えてるよ」
「その口ぶりからして今も尚、継続してるよね?」
「そ、その通りだよ。こんなに別れが辛いなら一定の距離を置こうって思った」
「なっ!? それって……もごぉ!」
ナチュラルに驚き過ぎた春山がセルフで口を抑え込む。
そうかぁ〜春山も気づいたのか、僕の……大山虚秋と言う一個人のどうしようもない部分に。
と、同時に……ついに核心に迫る存在が現れてしまった。
「凄く良くないよ」
「はい」
「なら、どこがおかしいのか理由は言わなくてもいいよね」
「はい」
「告白ではないにしろ大山はさ、ぬるちゃんの気持ちを知ったよね?」
「はい」
「その時、キミはなんて言ったか覚えてる?」
覚えてる? なんて、ズルい言い方だろう。
僕があの時に言った言葉は良くない選択肢だったことも理解している。
分かってたよ……。
「言われた時の対応を知らないって言いました」
「尚且つ、別れが辛いと言っている君は何をしてきましたか?」
何をって……みんなの助けになる為に……あぁ。
「夏川、春山のちょっと内側の部分に足を踏み入れました」
「すごい矛盾だよね? ううん、それだけじゃない」
「あっ……いや、それは」
やめろ、やめてくれ! その先は――。
「誤魔化して、逃げてるよね?」
そう言った、冬梅の眼差しは冷酷でも憎悪の物でもなかった。
とても優しい眼差し、けれども僕は石化したかの様に動けない。
見事なまでの鮮やかな王手、僕の思惑を丸裸にしておまけに逃げていることもお見通し。
「もうやめにしよう? 何かにつけて目を逸らすのはさ」
「で、でも僕は――っ」
「良くない過去の経験を繰り返す前提でいるんでしょ?」
「間違いじゃないでしょう。僕の人生で歩んで来た紛れもない事実なんだから」
「でも、本能……ううん、内側にいる本当の自分は前に進むことを選んでいるでしょ?」
あぁ、この人には敵わない――。
確かにそうだ。
変わろうとして、前に進むことを選んでいながらも僕はその反面で過去の恐怖に縫い止められていた。
「そ、そうだね」
「でも、中途半端な歩み寄りはダメ!」
「その通りだね。中途半端はよくない」
「今後、大山が誰を深く知ってどんな接し方をしていくのか、それは分からないよ?」
「そこに関しては、僕が決める道だもんね。分かってる」
「でも、誰彼構わず懐に入り込むだけ入り込んで、自分から近づいておきながら、相手が本気になり始めた途端にはぐらかして、逃げる様になったらダメ!」
「案の定、僕は春山の気持ちの変化に怖気づいたんだ。逃げていた」
知っていた、理解っていた。
その通りなんだ! 何かにつけて後悔した経験を理由にして継ぎ接ぎの醜い何かを組み立てていた。
それが今――。
ぶち破られてしまった。
「そうなるって、私も予想してたよ。でも、踏み込んできたのは紛れもなくキミだよね? そして、キミ個人の問題を仲間全員に切り出し、あの時に取り戻したいって言ったのも君だよ」
「りあちゃん……もう」
「一度、手放した物を再び取り戻すってことはね。凄まじいこと、それを知った上で……覚悟した筈なんだから、私は容赦しない」
春山が途中で、割って入ろうと試みるも冬梅はそれすらも許さない。
「ありがとう、冬梅……そこまで僕の為に、ごめんなさい」
「いいんだよ別に、大事な人だから……いや、違うね。お友達だから、私も少しお節介をしたくなったんだよ」
「まぁ、ほら? 大山も十分に痛みを知ったんじゃない? やめ――」
「そんな簡単に痛みは理解できるもんじゃないっ! ただ、痛いから痛みだなんてっ――!」
瞬く間にして、冬梅の目つきが豹変する。
「わっ! り、りあちゃん!?」
「ふ、冬梅!? 様子がおかしいぞ!」
僕の過ちがまたしても、他の人を傷付けてしまうのか?
明らかに冬梅の様子がおかしい。
怒り? 憎悪? 悲しみ? いや、急になんだ?
これはマズい――。
「ちょちょ!? ストップすとーっぷ! 落ち着いて!」
「だから言っただろ!? 大山は誰かに怒られるって! ダメだ、ダメ! 一旦今日の釣行は仕切り直しだぁ!」
「あっ……そ、その! ごめんなさいっ。さっきのは気にしないで、誰も悪くないから」
「え? でも、りあちゃんが怒るくらいだし〜」
「わ、わすれて! みんな、お願い……します」
「ほらみろ、僕のせいじゃないだろ」
「おまえなぁ〜……」
確かに桐内と二人で話したあの、最高の景色の元で……
そんなことを言っていたのを思い出す。
『いつか、そう言うお前さんのさ……過ぎたお節介に誰かが怒る!』
これが、その答えと言うことか? いや、おそらく冬梅の変化は僕の案件とはズレていた様に思う。
が、しかしだ! 間違いなく僕の過ちを指摘されたのは事実だ。
本気で愛想を尽かされる前に、僕も改める必要がある。
「取り乱したことは謝罪します、ごめんなさい」
「いいんだよ、冬梅がコイツに言ったことは間違いないんだし」
「うぅ……何も言い返せない」
「ありがとう! でも、大山なら大丈夫だよ。きっとできるから!」
そう言って、彼女はいつも通りに戻る。
ただ――。
その時にくれた笑顔はどこか、寂しそうだった。
その後、桐内が提案した釣行終了の合図に乗った形でそのままお片づけを開始する。
当然、今日の釣行気分は吹き飛んでしまった。
しばらくして、夏川が木下先生に連絡をして、しばらくした後に車が到着する。
車内は微妙な空気に包まれていたが……。
「なぁ? おまえら、明日でいったん晴れ間の最終日だ」
「あぁ~、確かに? それに明日が金曜日ですしね。それがどうしたんですか?」
「ばっか! お前、桐内は本当に察しが悪いな! この二日間でキス釣りも板についた頃合いだろう?」
「と、言うことは先生、仲間内で勝負でもさせようとしてます?」
「そうそう! 大山の言う通りだ!」
「え!? そんなん、あーしとりあちゃんが不利やん!」
「いやいや~、合間合間でチロチロあたしも見てたけど釣ってたじゃん! いけるいける!」
「なら、私はやってみたいです」
「だそうだぞ? 桐内?」
「ふっふっふ~! ならば良かろう! 明日は仲間同士で潰しあいじゃあああ!」
先生のナイスアシストによって、無事に釣行後の雰囲気は解消されたのだった。
帰宅後の自宅――
僕のせいで楽しさから一変し、冬梅から厳しいご指導を僕は賜った。
甘く見ていたのだ。
僕が思い描いている程、人と関わりを持つのは単純じゃないのだ。
ましてや相手が同性でもなく異性となれば、ことの重大さにはもっと早く気付くべきだったのかも知れない。
そして、僕個人が持ち出した内側の問題についても同じことが言えるだろう。
最初から頼りっぱなしでは駄目だろ!
まずは、自分から逃げずに進まないといけない。勿論、その先で相手の想いが変化することもある。
その変化がもし、僕に向けられたら? ちょっと前の僕は『そんなことはあり得ない』と、相手の気持ちを考慮せずに決めつけていた。
でも、僕には恋心が分からない。
この事実をどう、受け止めるべきだ? 恋とは? 人を好きになるとは? いや、そもそも春山が言った様に重く受けとめ過ぎている?
「はぁ〜……マジで難しすぎる」
ならば! 僕が無理に鳴瀬川と春山を引き合わせる必要もないのではないか?
どちらに向けて春山が矢を射抜くかの操作をする必要もないはずだ。
選ぶのは僕じゃない。
それは、春山であってその時にもしも、僕を選んでくれるとするならば……。
春山に好意を向けられたとき、僕には嫌悪感が一切なかった。
つまり、そう言うことなんじゃないだろうか?
もしくは、僕の方が先に好きになる可能性もあるんじゃないか?
だがどちらにせよまだ、決着は先だろう。
振られるにせよ、振るにせよ……付き合うにせよ。
付き合わないにせよ。
傷つかない選択肢などないのだ。
もしも、答えを出さないといけない時が来るのならば、はっきりと決める!
「悪い、鳴瀬川……僕も春山に気になるって言われたらさ、流石に無視できないや」
そんなことを、一人ボソボソと呟く。
だからと言って今は取り合う気持ちはない。あくまで、自然な形で春山とは接して行く。
だが、自分の気持ちが春山に傾くのならば、その時は僕だってきっと、容赦はしないと思う。
何より、恋とは? 人を好きになるとは? それを知る可能性に満ちている。
ただ、中途半端な決着だけはなしにする――。
「うああ〜、やめだ! やめ、何を妄想してんだか……」
中学時代にも似たようなことであれこれと意中の相手について考えていたのを思い出した。
まぁ、結局……全部空回りで実際に話しかけてみたらめちゃくちゃ冷たい言葉でオーバーキルされたんだけど……。
【え、えっと……〇〇さんはきっと黄色が似合うと思うよ! 大丈夫だよ、絶対に似合う!】
【はぁ? アンタに意見なんて求めてないけど?】
【あっ……あはは〜、そうだよね!】
【あー、そうだ! 命令したげる! 邪魔だから視界から消えて〜】
「色んなことを断らずに対応した結果、変な立場になってたな……ほんと」
なんて、過去を思い出す癖もやめにしないとか?
冬梅が言ってたみたいに、良くない過去の経験を繰り返す、そればかりに僕は目を向けていた。
「ん? なんだ」
ふと、スマホが絶え間なく振動しているのに気付く、この感じは……通知音の類ではない。
恐る恐るスマホの画面を確認する――。
「なっ!?」
着信相手の名前は『ぬる』と書かれた二文字のみ。
「や、やばい! とりあえずでなきゃ!」
慌てて、画面をタップする。
「も、もしし! あっ……ちが、もしもし!」
おわわ……わわっわ! オワオワリ! なんか、変な感じで応答してしまったぞ!
『ぷっ! あははっ、なに? 緊張してんの?』
「違う、断じてそんなことはない」
『素直じゃないな〜!』
「うるへ〜、要件はなんだよ」
『あー、うん。そのことなんだけどさ? この二日間でさ、あーしは変なことしてないかな?』
ん? なんだろうか、この春山が言っている言葉に違和感……違和感?
そう言えばここ最近の春山には多少なりとも気になる点が――。
まさかとは思うが、一応試すだけやってみようか。
「んー? どうだろ、いつも通りと言えばそうだと思うが?」
『あっそ』
あまりにも淡白だ。なら、仕掛けてみよう。
「春山が昨日言ってたさ、僕が気になってるって話なんだけどさ――」
ドンドンガラガラガッシャーン!
突如として物凄い音が春山側から流れ出す。
『しょ! しょんな恥ずかしいことをい、いきにゃりいうなー!』
ふむ、これが正解の反応――。
ピースが埋まる、全ての辻褄が合う。
が、しかしだな……なるほど、どうしたものか。
「なぁ、春山よ。更に一つ聞いていいか?」
『もう! いったいなんだって言うのよ! そんないじわるするなら、もうでんわきる!』
「いやいや、ごめんなさい! いじわるしない! しないから!」
しばし、沈黙――。
『分かったわよ。じゃあ、ほら質問して!』
「じゃあ、聞くけどいい?」
『もったいぶんなー! はやくしろー!』
どうしても、知りたくなった一つの可能性を直接、春山怒留湯から聞きたいと思ったのだ。
〜ぶち壊す一手【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~
あ~、痛いな……非常に痛いとこをついてきましたね。
大山が抱えている問題の一つと言えます。そこをバッサリと斬り込む冬梅も意外だったのではないでしょうか?
では、次回の更新でもお会い致しましょう!




