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第27話 前提が覆る【EP.春山怒留湯編】

鍵っ子です。


気が付けば、四月がもう下旬ですか……


そっかぁ……つまり、どんどん暑くなるってことですよね~。


嫌だぁ! 夏の雰囲気とか風物詩は素敵だけど! 暑いのだけは勘弁だああぁ!


とけるぅううー!


ま、私はこんなこと言ってますが夏に生まれました。

 結局、さほどキスは釣れず中途半端な数を持って帰った所で意味があまりないと判断し、タヌキことつぶあんのお食事として、提供することにした。


 少し離れた位置で釣りをしていた桐内、夏川、冬梅の三名はハゼ、ベラ、キスとお馴染み外道と本命の組み合わせで釣果は十二匹だったが、内の半分をつぶあんがお召し上がりになったことにより、残りもつぶあんに提供することが決まったらしい。


「よーし! つぶあん、この魚をお前さんの仲間にも分け与えてやれよー?」

「ヴー! ヴー!」

「後な? これからは校門で待ち合わせだ! でも、毎日は約束できないからな? 来ないと思ったら帰るんだぞ? つぶあんの参加は自由だからな」

「キューン!」

「あ~あ、遂にうっちーがつぶあん相手に会話を始めちゃったよ……」

「流石のつぶあんでも、そんな普通に会話して理解するのは無理があるんじゃない?」


 動物に向かって、マジトーンで話す桐内を見て夏川と春山がちょっと残念そうな人を眺めていた。


「ペェッ!」

「あっ、魚の骨を吐いた」

 ご丁寧に、夏川と春山の前に魚の骨を吐き捨てる辺り、こやつ……もしや話の内容を理解しているじゃないだろうか……。


 んで、まだ魚を食うんかい! もしかしなくても……全部一人で、平らげるつもりじゃないか?


「あっはは〜、オイ! タヌキめ! ずいぶんなぁ態度じゃない?」

「いや、アンタがキレてどうすんのよ」

「見事にタヌキさんにすら小馬鹿にされてる? なっつ〜」

「いや! 待ってよ、りあちゃん? それだとあーしも巻き添えで小馬鹿にされてるじゃん!」

「えーん! えーん! りあちゃんとぬるちゃんがあたしをいじめるぅ〜!」

「ポン! ポン!」

 と、つぶあんが鳴きながら、魚の骨を前足でちょんちょんしては夏川を見上げる。

 ん? なんだか、一連の動作に繋がりがある様に感じる。

「なんだろう? ポンと鳴いて骨をちょんちょんする、夏川を見る……なにかを夏川に訴えてるっぽい?」

「えー! うそぉ!? そうだとしたら、めちゃくちゃかわいいー!」

「だとしたら、なにか言葉になるのかもしれねーな! さっきの動作を並べると〜」

「鳴いて、骨を触る……だよね? うーん?」

 冬梅が再度、つぶあんの動きを整理するがイマイチ言葉の繋がりを見つけ出せていない模様。


 どれどれ……ポンと骨だろ? 


「あっ……」

「お? その感じは大山、さては閃いたな?」

 いや、多分間違いないな……ポンコツって言いたいんだろ! つぶあん……お主と言うやつは……。

「た、多分だけどポンコツって言ってるかと思われ……」

「ぶはぁ! 確かに……ぶふぅっ! ポンで骨ってことはポンコツだな!」

「は? マジコイツ許せん! こらあぁ!」

 わー! と、夏川が威嚇するとつぶあんはピューンと、足早に逃走した。

 勿論、魚もきっちりお持ち帰りした。


 







 さて、そんな晴れ間の釣行一日目が終了し……。

 

 日々はいつもの様に流れて行く。

 

 普通に過ごしていれば日々なんてもんは、パッパパッパと進むし……似たような日常の切り取りは非常に重要な項目だ。

 何より僕自身が退屈なんだから、楽しみが控えている手前まではポーンと丸ごと飛ばしたくもなるものだ!








 放課後――。


「ふぁ~!」

 今日も昨日と変わらず、天気は晴天! 二日目も数々の慣れに慣れた日々をこなし、やっとこさ勝ち取る放課後と言う名のご褒美!

「じゃ、後でね!」

「了解」

 本日も足早に春山は用事とやらで先に教室を出て行く。

「うーん、気になりますよねー?」

「ん~~、まぁ……少しだけ」

「あっ、そうなんだ」

 ちょっと意外! みたいな、声のトーンで驚く必要はないと思いますわよ〜? 冬梅さん?

「なにさ、なにさ! 二人でまた内緒話?」

「いや、内緒話なぞしとらん」

「ちょっと、最近のぬるちゃんがすぐに居なくなるが気になるって話をしてたの」

「あー、確かに! まだ、間に合うだろうからさ! 尾行してみない?」

「尾行? やめた方がいいよ、後が怖いし」

「私もそう思う。わざわざ寄せ付けない様にしてるみたいだし」

「えー? 別に良いと思うけどなー」


 ほー? なるほど、な……少しこの会話を掘り下げるか。


「別に良いと思った理由は?」

「ついて行ったらダメ、なんて言われてないじゃん? 先に行けって、だけでしょ?」

 確かに、夏川の意見も一理ある。

 が、しかし! この手の問題に対して裏を付くなら逆も十分にあり得るのだ。

「逆に言えば、ついて行っても良いとは一言も言っていないことになるな」

「うん、今回のぬるちゃんを見る限りでは余り人目につきたくない案件なんじゃないかな?」

「あたし的にはソレ、めちゃくちゃ気になるんたけど!」

「よせ、好奇心で自分を殺すことはないだろう」

「いやいや、何をおっしゃいますか! 情報こそ力ですよ?」

「と、言いますと?」

「みんなが知らない情報を持てば注目の的は間違いなしッ!」

「別に、危険を犯してまで入手する必要はないんじゃないかな」

「駄目だよ! りあちゃん、そんなんじゃ誰もあたしを見ないんだから!」


 この感じ、違和感……夏川自身がなにかに固執している証拠だ。


「はいはい、もう……そこまでにしよう。 部室に行くぞ〜」

「う、うん。部室に行こっか」

「ちぇー、わかったよぅ」




 夏川と言う、一人の人物がなにかに囚われていることは理解した。とりあえずはこの辺りで、探りを切り上げるとする。

 もう一つ、彼女は小さな問題ですら問題として認識するのが苦手、或いは……。


 深刻に考えず、楽観視をしすぎているフシがある。





 そんな考えを巡らせながら、本日もキス釣りを行うこととなった。


 そして、釣行二日目がスタートする。


「よーっし、お前ら〜! 我が愛車に乗り込め!」


 本日の釣行は木下先生の送り迎え付き、となれば当然、歩いての移動では無い為……


「あー! つぶあんのことわすれてたああああああー!」

「なっ! なんだ急に!? あんこの話か!?」

「この前のタヌキさんがつぶあんって名前になりました」

「ややこしいわ! つか、忘れてたってなんだよ!」

「そう、丁度! 校門て待ち合わせをしてるんですよ!」

「んな、アホな! いるわけ……」


 などと抜かそうとした矢先で、先生は何かを察したご様子。


「おい、桐内よ。あのタヌキ相当賢いんじゃないか?」

「す、凄くない!? ちゃんと待ってるじゃん! 忠犬よ、忠犬!」

「いや、あれはタヌキだし! 犬じゃないわよ!」

「窓開けますよー!」

 あれやこれやと賑やかな車内をスルーして、桐内は窓を全開にする。

「つぶあん、わりぃ! 目的地はモンチッチ海岸だ! おらぁ、はしれー!」

「キューン!」

「はっや! んで、マジで理解してる!? つか、タヌキ使いが荒すぎない?」

「な、なんだよタヌキ使いって……そんなことよりも流石、俺の相棒だ!」

 僕も丁度、助手席から眺めていたが……瞬く間にいなくなっていた。




 車を走らせること、約五分ほど……。 

 歩くと案外時間がかかる癖に車だと一瞬だ。

「ん〜! やっぱ、海の景色はさいっこう!」

 伸びをしながら、夏川がそんなことを言う。

 確かに、海の蒼さと潮風の香り、波音もなぜか心地良いのだから不思議な物だ。

「じゃあな〜! タイムリミットは十八時三十分だぞー」

 そう言い放つと、木下先生はエンジン音を響かせながら、海岸を後にした。

 

「よーしっ! んじゃあ、昨日と同じ場所で釣るぞ〜!」

「「「「おー!」」」」

「じゃ、お二人さんもごゆっくり〜!」

「釣ってきますね!」

「なっ!? なっつー! 別にそんなんじゃないけんね!」

 と、いつもの様に軽口を叩きながらも、こうして釣行が今日も始まる。


「お! つぶあん!」

「メシィー! メシィー!」

「ちょ!? つぶあんさん! まだ、まだ釣ってないからー! つか、今喋って……おわああああ!」

 

 よし、近づかないゾ! そんな決意を胸に春山と共にセッティングを始める。



「あれ? なんか久々な気がする。どうやっけ?」

「おい、まじか」

 いや、昨日ぶりなんですが? まぁ、貴方は昨日釣りしてませんよね!

「ほらぁ、期間あけたから忘れてる」

「別に! 忘れてないし! 見てなさい!」

「ほーい」

 すっごい目で睨まれた気がするが、ここは一回スルーする場面だ。まぁ、多分まだ慣れてないだろうから、慣れるまではしっかりと教えようと思う。

 が、まずは……春山のやりたい様にやらせるのも大事だ。

 ブツブツと独り言を言いながら、春山も辿々しくセッティングして行く。


 うむ、またしてもラインローラーに通すのを忘れたまま――。


 ありゃ、よくある。釣りあるあるにラインナップするミスだと思う。

 ま、たまに僕もやるし。


「ほれ! 問題なくセッティングできた!」

「はは、おめでとう! ラインローラーに糸が通ってないからやり直しだよ」


「ばかあああああああああぁあ! 先にいえーーーーーー!」

 あぁ……確かに、気づいた時に言ってあげれば良かったなー……。


 なんて、考えが今更になってぼんやりと浮かび上がる。


「これからは、ちゃんと確認するようにしましょう」

「うぅ……! 言葉に抑揚がない分、説得力が増す現象……」

「なにか文句、またはクレームがございますか? 忘れていない筈の春山さん?」


 さて、いい感じに煽りを入れたことによる春山のお怒り具合はいかがなものか……。


 今回の件は、春山にとって感情コントロールをすることができる様になる為の、偶然が引き寄せたきっかけの一つに過ぎない。

 この調子なら、もう一度くらいお怒りがきそうだが、果たして……。

「わ、忘れてはなかったんよ! でも、ミスはした! だからね、その……一緒にみてくれん?」

「あっ……えっ?」


 あっれぇぇえええ? あれれ? あんれー?


 え? なにぃ? なんなの〜? 急にしおらしくなるじゃん!? いやー、それはさー人によっては簡単に尊死するからね?


 いかん! 冷静になれ、問題はそこじゃない!

「春山……が、怒らない? マジか」

「えー、驚く所はそこー? あーし、そんな怒ってる?」

「かなりの頻度で怒ってるだろ? 自分でも感情のコントロールが上手くできないって」

「あー……そう! そんなことを言ったよねー! あっはは〜、そうだったそうだった!」

「ん? 自分で言ったことも忘れたのか……」

「いや、思い出したし! 早速、試された訳だー」

「まぁ、ブレーキできたと言う事実は大きな進歩かと思う」

「その、さ? やっぱり、あーしは怒りっぽい?」

「ん~、感情が高ぶり易いのが原因かな? とは思うよ、人間は生存する為に脳の仕組みで感情が一番最初に出るようにプログラミングされているし」

 一度、面倒くさいと感じればその物事が終わるまで面倒に感じる。

 僕もそう、コイツは嫌いだ! と、なればその感情は中々に覆ることはない。

 この、感情という仕組み……例えば怖い→逃げるなどに至る判断を即決できる様に、生体としての生存率を高める為の機能としても働いている。

 つまり、面接で例えるならば第一印象と同じ感じだ。見た目で大体の雰囲気を掴まれるやつ。


 嫌な思いをしたらすぐに感情的になってカッとなるやつ。


 なんて、状況もまさに感情が全てを支配したが故に発生する衝動……つまり、感情に飲まれたが故の敗北だ。

「あ~……また、考え込んでるなぁ〜? おーい、帰ってこーい!」

「感情は一番最初に影響力を与える原動力、すなわちきっかけとなる。だけど、なにもかもが感情に任せれば良いと言うもんじゃない」

 と、言いながらキスを釣る為に引き釣りをしながら春山と話す。

「要は使い分けろってことよね?」

「そうだね、そう言う認識で良いと思うよ」

「そっかぁ……」

 何かを考える様な語尾で、春山もカリカリとスピニングリールを巻きながら引き釣りをしている。



「例えばだよ? なにもかも言いなりの子が我儘を言ったりするのは、悪いことかな?」

 言いなり……このワードを聞いて春山との交流を経て該当する人物が一人のみ、浮上する。


 そう、春山が教えてくれた姉の存在だ。

 

 操り人形の様な人間となってしまった姉……。

「では、質問しよう。我儘と言う意味はなんだね」

「うぇ!? えーっと、言うことを聞かないみたいな?」

 一部あっているが、間違いだ。

「自身の思うままに振る舞うこと、だ」

「はぁ…… つまり、言うこと聞かないってことよね?」

「その認識には誤りがある。我儘と言う言語には他を顧慮しないという、前置きがある」

「む、難しいんだけど……」

「要は、他を犠牲にしても自身の思うことを遂行する。そこには、他に対する配慮を与えない。一方的な強制を強いるもの」

「なる、ほど……」

 「春山のお姉さん像がどんなものか、僕には分からないのだけど、両親の言いなりである。と、言うのは知ってる」

「まぁ、そうだね。それでも、今になって思い返してみればさ? しょうがない部分もあるかな〜って、思ったりもしてる」

「詳しく聞いても?」

 クルクルと回していた春山の握っていたリールのハンドルはやがて回転を止め、静かに竿を三脚に預ける。


「多分、言いそびれていたと思う。姉は身体が丈夫じゃないって話を……」

「なっ……」

 

 それは、僕が知り得ない新たな要素だった――。



〜前提が覆る【EP.春山怒留湯編】 END To be continued~

はぁーい! ここにきて、まさかの春山姉が病弱である。と、言う新事実が判明致しました。


ちょいとベタかな~? いや、でも読者の人には楽しめる要素になるかなー? なんて、色々と思考しながら春山姉は誕生しました!


続きもお楽しみに!


では、次回の更新でもお会い致しましょう!

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