第25話 動き始めた感情?【Ep.春山怒留湯編】
鍵っ子です。
こう見えてじゃがいもが大好きで、フライドポテトやポテトチップスはモグモグ食べます。
ただ、タピオカミルクティーって奴がどうも苦手で、飲んだ後に気持ち悪くなりました。後、コーラも最初の辺りは「お? 飲めるやんけ!」って、なりましたが半分辺りで「なんか、気持ち悪い」となります。
相性って大事ですね。いや、本当に!
その後は、特に本当に! 何もなく平穏な物だった。お昼休みはいつも通りに、皆で昼ご飯を食べたし鳴瀬川も来なかったし。
春山は、ゼリーだけを食ってる? 飲んでる僕を見越してか、おむすびを多めに作ってくれたらしく、おむすびを頂いたり……そんな感じ。
中学時代は母親のお弁当があったから別に困ることはなかった。うーむ、たまには自炊も悪くないよな〜とは思いながらも、結局作るよりも眠気に負ける怠惰な僕はきっと、料理なんてあんまりしないんだろうなぁ〜とは思うわけだ。
そして、来たるは誰もが開放感に胸を踊らせるであろう、放課後だ!
「ふわあああ! 生き返る」
などと言いながら、僕は背伸びする。そんな様子の僕とは異なり、いそいそと荷物をまとめている春山に目が止まる。
「あっ! そうそう」
そんな僕の視線に気づいたのか、春山が僕に声をかける。
「ん? なんでしょう」
「多分、2日間くらいかな? すこ〜しだけ遅れてから、あーしは部室に行くから~!」
「なんか、用事?」
「ん〜? まぁ、そんなとこかな! じゃ、また後でね!」
そう言って、春山は淡いピンク髪を右手で耳に掛けながら、嬉しそうに駆けていった。
「なんか、ご機嫌だったねー?」
「ですなー」
ゆる~い会話を冬梅と交わしながら、既に部室の鍵を取りに行った桐内に取り残された夏川を回収し、三人で部室へ向かうのだった。
部室の前に辿り着くよりも、先に見知った姿がドアの前にいた。
「あれ? 木下先生じゃないですかー」
「お? あぁ、来たのか。おまえたち」
「今日は珍しく、閉じこもってないんですね」
「はっ、ぬかせ! 私はこれでも凄腕教師なのだよ」
「すごうで……教師、ですかぁ…」
歯切れの悪い感じで冬梅がそう呟く視線の先には……
なんかいた。
「えっ、タヌキ?」
「いや、やまっち? あれは犬よ!」
「多分、犬です」
「いや、たぬきだろ! どう見ても」
いや、なんか良く知らんが……見た目は犬みたい? だが、犬らしからぬ物がある!
「それより、なんで頭に葉っぱをのせてるん」
「あー、それね。なーんか気になるよね~」
「器用に頭に乗せてますよね。落とさないんですよ、あれ」
「どうやら、コイツ自身が上手くバランスを取ってるみたいでな」
へー、バランスを取ってるのかー。
なるほどな〜……って、なるかっ! いやいや、なんで頭に葉っぱ乗せるのさ! おかしいなぁってなるじゃん? いや、おかしいなぁでしょ!
乗せないじゃん! 犬もタヌキもさ、タヌキはなにかに化ける時に葉っぱ使うし乗せるけどもさ!
実際に見たのは、初めてだよ? なんだコイツ……まさか! 化けたりできるやつなんか?
「ま、さか……化けたりできる?」
「んなわけあるか! ただ乗せてるだけ」
「だから、犬だってば!」
「でも、正体は気になりますね。本当に犬なら……」
うーむ、確かに犬らしいとは思うが……雰囲気は間違いなくタヌキだしなー。そんなことを考えていると、一つの可能性を見出す。
「鳴き声を聞けば一発じゃないか?」
「天才!」
目をキラキラと輝かせる夏川は凄く、ワクワクしている。と、言った様子だ。
「名前はないの?」
「せんせー? 名前はつけました?」
「いや、拾い主は私じゃないんだが……」
「あたしが付けてもいいかなー?」
「いや、流石に名前は桐内が付けるべきだよ。それよりも、鳴き声だ」
僕がそう言うと、何故か全員が目配せを始める。
そう、ここにいる全員が鳴き声を聞きたいのだ。
「とりあえず、話しかけてみる」
じみーに、緊張感が漂う中でみなが静かに首だけを縦にコクリと、頷かせた。
「おーい、キミはタヌキかそれとも犬かー?」
ほんの少しだけタイムラグがあったが、すぐにピクッと、反応した。
その後に、小首を傾げる様な素振りを見せるタヌキみたいで犬っぽいなにか。
その動作に釣られる様に全員が同じく、首を傾げる。
「チ◯ポーーーーーーーーー!」
「は?」
「へ?」
「え?」
「えーっと?」
えーっと? い、今コイツ……なんて言いやがった?
聞き間違いじゃあなければ、とんでもねぇ単語をブチ込んできたんじゃないか?
「今、もしかしなくても……」
「おい! 奴は今なんて言いやがった?」
「僕の聞き間違いじゃなければ……」
「間違いなくチン……」
むごご! あえなく乙女が軽々しく言ってはいけない単語を言いそうになったのを素早く木下先生が手で覆ってキャンセルさせる。
「馬鹿なのかお前さんは!? 言わせるわけないだろうが!」
「◯ンポーーーーーーーー!」
「うわああああああああ! ダメだぁ! 誰かコイツを黙らせろー!」
「いや、でも先生この子は一応、野生ですしちょっと危ないかも」
「そ、それよりも鳴き声が……あぅ〜」
なんでよりにもよって、その言葉をチョイスしてめちゃくちゃ元気良く鳴き声? 叫ぶのか……。
てか、言葉喋ってる!? いや、言葉として認識したら最低過ぎだろ! 駄目だろ、こんなアホみたいなド下ネタをブチ込んでくる動物は嫌過ぎるだろ!
「おーい! 待たせたなー!」
「みんなー! おまたせー!」
と、そこに被害を受けていない桐内と春山が同時にやってくる。
そして、主を見た厄災は僕たちをヒラリヒラリと縫うようにしてすり抜けて行き、桐内へと猛ダッシュをかます。
「うわ、マズい! ぬるちゃんに聞かれでも――」
「奴を止め――」
「あっ……」
「春山、耳をふさ――」
そんな僕らの空虚な言葉は意味を成さない。
「なっ! なんか、こっちに来てる!?」
「おっ、先生がちゃんと匿ってくれてたかー!」
タヌキみたいで犬っぽいなにかは感動の再会を喜ぶ様に迫って行く!
「チン◯ーーーーーーーーー!」
「ばっ! おまっ! タヌキ、テメェはなんて鳴き声を出しやがる!」
そんなことは気にも止めず、やっぱりタヌキっぽい動物は桐内の足元をグルグル回っていた。
「キューン、キューン……」
「か、可愛い……けど、桐内! アンタの教育には許せないことがあるんだけどぉ?」
「ちょっ! 待って! 違うぞ、俺はそんなことを教えてないからな?」
「あ、そう? なら、教育してね?」
「んな、無茶な! 相手は野生動物だ……」
「できるわよね? やりなさい」
あぁ……すっごい笑顔だけどマジなやつだ。まぁ、懐かれたんなら仕方ないだろう。
「わ、わかったよ! だが、いつの間にか居なくなるとは思うけどな」
「おい、桐内! 言っておくが部室にはずっと置いておけないからな!」
「勿論ですよ。先生ってばやだなー、コイツだって適当に過ごして居なくなりますよ〜な?」
そう言って、半ば冗談混じりにタヌキへと、問いを投げかける様な素振りをした桐内だったが……。
徐ろにタヌキは二本足で立ち上がり、片足を顔に近付けて敬礼みたいなポーズをする。
「け、敬礼!? 今その子、敬礼みたいなポーズしたよね? ね! もしかしなくても理解した?」
「バカ言え、賢いとは言えどた、タヌキ? だろ? 流石に紛れだろう」
「なら、試してみたらいいんじゃない?」
そう言って春山がふわりと横髪を後ろに流しながら、そんなことを言った。
「試すって、何をさ?」
「今から釣りに行くんだし、校門で待って貰えば?」
「流石に分からんだろ?」
「でも、物は試しで言ってみてもいいんじゃないかなー?」
そんな春山の無理難題にも近い問いかけに対して、意外にも冬梅が賛同する。
「わかったよ。あーっと、タヌキ? 俺たちは今から釣りに行くから、先に校門で待っててくれるか?」
「キューン!」
とても、とても可愛らしい声でタヌキさんは何処かへと走り去って行った……。
「「「「「「えっ!?」」」」」」
自然と全員が同じ言葉を発していた……そりゃあ、そうだ。まさかすぐに居なくなるとは考えもしなかったのだから。
「言葉が分かるのかな?」
「と、とりあえずは! 準備しましょ!」
「あぁ、釣りの準備しないと!」
「待ってる可能性もあるだろうし」
「悪いが今日は徒歩で向かってくれ、私はこれでも忙しいのでなー!」
「分かりました」
先生は手をヒラヒラと振りながら、職員室の方へと向かって行った。
各自で釣行の準備を済ませ、全員が釣り竿を携える。
今回も狙う魚種はキスなのだが、春山の要望により、人工餌を使用しての釣りとなった。
「よーっし! んじゃ、ま! たぬ公も気にしながらいっちょ、歩きで行きますか〜」
「「「「お〜!」」」」
そんな話をしながら、校門を目指していると……少し遠くからでも分かるレベルでタヌキを視認する。
「本当にいるわ……」
「あの子、凄いたぬきなんじゃない?」
「確実に言語を理解して、待ってますね」
「桐内、あのたぬきは何処で見つけたの?」
「モンチッチ海岸に行く途中の道で倒れてたのさ、アイツどうやら何も食べてなかったみたいでさ」
確かに、見てみればタヌキは痩せている様に感じた。大方、餓死寸前を桐内の与えた魚によって食いつないだ、と言うことだろう。
「キューン!」
僕らに気づいたのか、タヌキは可愛らしい鳴き声で桐内を目指して歩み寄る。
「なんだぁ? お前さんも来るのか?」
「キューン!」
そんな桐内の問いかけに、素早く鳴き声で反応する。間違いない、このタヌキは言語を理解しているみたいだ。
「な〜んか、不思議なタヌキよね」
「てか、やまっちさぁ? 名前は付けないの?」
「な、名前なんているかぁ?」
「ん〜、あった方が色々便利じゃないかな〜?」
「確かに、冬梅の言っていることは一理あるな」
「ん〜、別に飼うわけじゃないしなぁ……たまに会えればそれでいいし〜」
と、桐内が言った後、タヌキに目を向けるとあからさまにしょんぼりしていた。
雰囲気で大体の感情? みたいなのは分かるが、流石に相手は動物だ。
「野生動物だしね、群れで過ごしている可能性もあるし、それには僕も賛成かな」
「なら、友人として名前はつけた方がいいんじゃない?」
「ぬるちゃんの考えマジナイスー! さっすが!」
「そこまで言われたらなぁ……うーむ。名前か、名前なぁ〜」
「あれ? そう言えば、たぬきまんじゅうってあるよね」
唐突に冬梅がたぬきまんじゅうを思い描いたらしく、ポツリと呟く。
「粒あんで一口サイズの食べやすい、焼生菓子だったよね」
「おー! それだ! つぶあんって名前にしよう!」
「キューン!」
タヌキ……つぶあんも気に入ったのか、嬉しそうに桐内の足元をグルグル回っていたのだった。
名付けも終了し、全員が徒歩で馴染となりつつある砂浜と防波堤を兼ね備えたモンチッチ海岸へ到着を果たす。
「つ、ついたぁ〜〜〜!」
謎の達成感に満ちた桐内よりも目に付く人物がいた。
「ふぅ、ひぃー! はぁ……はぁ……」
明らかにバテている……と、言うか疲労困憊となり、両手を膝につけて俯いている春山の姿があった。
「だ、大丈夫かい?」
「あっ……はは〜、ふぃ〜! な! なんとか、だい、じょうぶ!」
ふむ、なんと言うか……春山はこんなに体力がない人物だっただろうか? それとも、体調が悪いのか? だとすれば、無理に参加させる訳にはいかないし、うーむ……どうしたものか。
「おーい! ぬるちゃんとやまっちー? 先に釣りしてるからねー!」
気を遣ってか、夏川がブンブンと手を振りながら僕たちにそんなことを告げる。
「だってさ、春山は体調悪い? 無理しないでね」
「あっ、いや〜……ちょっと息切れ起こしてさ! 歩きはなれないよねー!」
「ん? ま、まぁ~、近いようで意外と距離はあるよね」
確かに近いと言えど歩けばざっくり、三十分くらいはかかる道のりだし荷物を抱えてなら、尚更キツくはなるけども……。
「ねぇ? 大山が釣りしてる所を見るだけでもいいかなー?」
そう言って、春山は上目遣いで僕にお願いをしてくる。
な、なんだこの人!? 可愛いを演出するプロか? 僕が歪んでなかったら間違いなく、堕ちたね! 断言する。
「えー……春山が自分で虫エサを拒んだのに、見るだけなの?」
「あはっ! ごめ〜ん! 明日はまじめにやりまーすっ!」
釣り場に来てるだけでも、問題はないか……。
何より、傍で見てれば釣り魂にも火が点くかも? なんて、考えもあるし。
「いいよ、ならばしっかりと目に焼き付けよ」
「はーい!」
桐内達は防波堤の先端、僕達のいる場所は防波堤の中間辺り、先端との距離は5mくらいか?
釣り場の先端ではないにしろ、問題なく釣りはできる。
少し縦長の波止場になっている為、桐内達とは距離が若干できるが、問題ないだろう。
そそくさと準備を整えて、二本針仕掛けに人工餌を針の形に合わせてセッティングし、キャストする状態まで持ち込む。
「春山、そこから動かないでね。キャストするから」
僕の一声に返事をする代わりとして、人差し指と親指で輪っかを作りOKサインで、春山は待機している。
果ての見えない鮮やかな群青に向けて、思いっきりキャストする!
気持ちが良いくらいにラインはスプールからスルスルと抜けていく。
「で? お姉さんとは上手くやれてる?」
「えっ? あ! う、う〜ん……どうかな」
なんとも煮えきらない返答、この様子を見る限り……上手くは行っていないのだろう。
「てかさ、大山って不思議だよね~。普通さ、友達の為にそこまでする?」
「ん? それを言うなら皆そうじゃない? 僕の為にそこまで協力する?」
「まぁ、似てるけど……その話とは別の意味って言うかさ〜、うーん! えーっと……」
「なんでしょうか」
モジモジと俯いて、らしくない態度で手遊びを始める春山の姿は新鮮だ。
ふむ、この様子からして僕自身の在り方で春山自身が気になっている何かがあると推測できる。
「僕のことでなにかお悩みが?」
「ぇ゙っ! あ、いや! そんなこともあるような? ないような? みたい、な?」
あはは〜と、言った乾いた笑い声が春山自身、どこかバツが悪そうな雰囲気を醸し出す。
「気になるから、話してみてよ」
僕の存在が不思議であると、春山は言っていた。
彼女が告げたその意味は一体なんなのか? なんとなくだが、今後の僕の指針を決める重要な項目なんじゃないかと感じたのだ。
「あーしはあなたのことを、少しだけ識っているつもりだけど……」
「だね、実際に僕の内側の部分を知っている人物だよ」
「だよね。だからこそ、あーしが聞くとことができる唯一の人になるんだけどさ……」
その表情はとても、真剣で……何かを決意する様な、そんな感じの眼差しで……。
「自覚なき優しさほど、残酷な物はないからね」
「それって、どういう……」
「少なくとも、春山怒留湯と言う一人の女子は……揺らぎ始めているってこと!」
この『揺らぎ』と言う表現、少なくともこれで指し示す意味はまだ不確定な存在だが、間違いなく言えることがある。
「その揺らぎには、僕も関与しているんだね」
「……」
沈黙、それ即ち肯定の意味として捉えるにふさわしい回答だ。
「ふむ、理解した」
「で、でも! 勘違いはしないことよ! あくまであーし……ううん、春山怒留湯はあなたのことが気になるだけに過ぎないからね!」
これは良くない……
僕が考えている予想よりも早い段階で春山が変化している。
そして、この発言は僕に対する宣言だ。
なら、僕は? 僕が取るべき行動は――。
〜動き始めた感情?【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued〜
今回のエピソードから、春山奴留湯にフォーカスして行った物語が始まります。
私個人的にもついに始まるなぁ~と、言った感じです! 是非ともこれからしばらく続きますが、春山奴留湯編をお楽しみ頂ければ幸いです。
では、次回の更新でもお会い致しましょう!




