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第21話 育成ゲーム!?

鍵っ子です。


気づけばなんだかんだで、お話も二十話を過ぎました。


楽しく書けているのは、読んで頂けているからこそです。カリカリ梅(酸っぱい感が強い方)を食べながら、今後も活動して行きます!


また、ブームが変わりましたらお知らせ致します。

 木下先生と僕が同時にスライドドアに目を向ける頃、ガラガラと、音を立ててゆっくりとドアが開いていく。


「やっほーい! って、先生もいましたかー!」

「いるわ! これでも私は顧問だぞ」


 そんな軽口を叩く先生は気にもせず、まっすぐに夏川は僕の傍まで小走りで寄ってくる。


「本当に解決したの?」

「任務は完了したよ」


 ちょっと不安そうだった表情から一変し、満面の笑みとなる。なんとも、分かりやすい……。


「やるではないか〜! 良くできました! よしよし〜」

 つま先立ちになりながらも、夏川がワシャワシャと僕の頭を撫でる。

「なんか、扱いが動物じゃない?」

「なんかいたじゃん、こんな感じのおじいちゃん? テレビで見た」

「いや、凄い人だからね」

「そうだっけ? よくしーらない!」


 じゃあ、言うなよ! 後、その発言は知ってる人からしたら凄いめちゃくちゃ失礼だからヤメてね!


「なら、安易に真似るなよ」

「ちぇー、ケチ」

「いや、ケチじゃない」

「はいはい、そこのふたり! いつまでもじゃれてんじゃねーぞ」

「ほら、バカにされたぁ!」

「えぇ……」


 納得がいかん! しかしまぁ、とりあえずは席に着く。

 

「よぉーし! んじゃあ、明日は快晴と言うことは?」

「と、言うことはぁ〜?」

「もちろん! 釣りにいっくぞぉー! いえぇええああああああああ!」

「いぇーーーい!」

「い、いぇー……い」

「……」

「うっ……」


 本来ならば、その通りだが……その提案に乗れない乗客は僕と春山だった。

 と、言うよりは迷っている? そんな感じの印象だ。


「ありぃ? 大山と春山がめちゃくちゃテンション低いな? いや、大山は良くわからんわ」

「ぬるちゃんがノッて来ないのは珍しいよ?」

「実はですね、明日は少々込み入った用事がー……」

「あーしは問題ないんだけどさ、大山が……ね」

 春山自身も、鳴瀬川と僕のやり取りを知っている手前、なんとも複雑な心境なのだろう。

「大山、お前の口からしっかりと説明をしろ」

 確かに、先生も顧問であると言う立場上、部活に参加できない生徒を手放しで喜びはしないだろう。

「わかりました。ざっくり言ってしまえば、鳴瀬川と的当て勝負をします」

「的当て勝負だってぇー!? なんでまた、そんな勝負を大山が引き受けたんだよ」

 最初に、リアクションをしたのは桐内だった。そこでふと、木下先生とのやり取りを思い出す。

 内情をバラしたのは、桐内か夏川の二択だ。


 それならば――


「実は鳴瀬川に僕自身の内情を伝えた人物がいるらしく、奴に勝てばその人物を吐いて貰うつもりなんだ」

 割とざっくりした宣言、しかしながら当人に後ろめたさがあれば、何かしらの反応はあるはず。

「うへぇー! 鳴瀬川ってそんな情報戦もやるんだ〜」

「まぁ、アイツ……マジで顔だけは良いからな〜、そう言うのだけでも人は集まるんだろうな」


 夏川、桐内共に食いつくが……ふーむ、反応としてはどっこいどっこいだ。

 この感じは、恐らく問題としてそもそも認識をしていない、無意識の状態か?

 罪の意識すらなく、息を吸って吐く様に……その人の中ではそれくらいの認識と言うことか。


 取り敢えず、情報としては十分だ。


「でも、実際に的当てって? 鳴瀬川君は確かテニス部だよね? 大山もテニスラケットで勝負するの?」

「いや、流石に相手の得意分野で殴り合いをしても僕には勝ち目がないよ。だから、僕も僕自身の得意分野で勝負するんだよ」

「ってことは、何かしらの得意球技があんのか! 大山、すげーなぁ」

「いや、球技なんてできないけど?」

「「「「…………」」」」



 先生も含め、全員が沈黙した。


 春山に至ってはコイツは何を言ってんだ? みたいな顔をしている。


「おい、まさかとは思うが大山……」

「そうですね。では、僕が勝負に挑む武器をお見せしましょうか」


 理解が追いついていないメンバーを尻目に、僕は席を立ち上がり、ロッドスタンドに並んでいる自分の武器を手に持ち、空のペットボトルを一本並べて距離を取る。


「ベイトロッドだと!? 大山、お前――」

 下向きに装着されているスピニングリールとは異なる存在、上向きに装着されたベイトリールを握り、ラインの先にはオモリとなるシンカーだけを素早く取り付ける。


「そう、コイツが僕の――」

 言葉を吐き切る前にシンカーをベイトリールのある手元位まで垂らし込み、左手で持つ。

 手に持ったシンカーを離すことなく、そのまま右手を使ってロッドをしならせる。


 そうすれば自然と、ロッドの穂先はググッと、曲がったままをキープする。


 後は――


「的当てをする時の武器だよ」


 曲がったままの穂先の反発を利用し、ベイトリールを握った右手の手首をしなやかにスナップさせる。

 放たれたシンカーは、軸をぶらすことなく軽快な音を立ててペットボトルをいともたやすく、吹き飛ばす。


「うっま!」

「やまっち、ベイトリールも使いこなせる口かー!」

「なんか良く分かんないけど! 凄いじゃん!」

「凄く上手だと思います」

「お前の得意分野は釣りで、釣り部の人間なんだからロッドを使って的当てゲームに勝負を挑む……か」

「これなら、五分かと」

「確かにな、勝算はある。良いだろう、部員の代表として! テニス部の鳴瀬川と勝負をしてみなさい!」

「すいません、ありがとうございます」

「ちなみにさー? やまっちが負けたら何をすんのー?」

「ばっか! おまっ! 大山が負けるわけないだろ!」

「でも、勝負と言うならば相手も要求をしてますよね?」

「もちろん」

 そして、春山を除く全員が次に発する僕の言葉に注目していた。

「負けたら、僕のことを教える」

「は?」

「へ?」

「なんだってー!?」

「ほー」


 なんともまぁ、肩透かしを食らった様な間抜けな返事が全員からかえってきた。


「なんっでぇ! そうなるんじゃーい! 絶対にぬるちゃんを賭けて血なまぐさい戦いになるとこじゃん!」

「うひゃああ!? 私に言われても……こま! こまるぅうう〜!」

 うがー! と、叫びながら何故か夏川は冬梅の肩を揺さぶっていた。

 あぁ……夏川が予想とは裏腹過ぎる展開に大暴れしている。


「いや、そんなこと言ってきたらそもそも勝負しなかったよ」

「おやおやぁ? 大山、それは一体どういうことかなぁ〜?」

「うわぁ、ニマニマしながら寄ってこないでよ桐内」

「いいから、いいからぁ! 夏川ねーチャンにも勝負しなかった理由を教えなさい! つか、いえーーー!」

「そもそも、春山は物じゃないんだよ?」

「その通りよ! あーしは自分が正しいと思わないと動かないし、やらんけんね!」

「確かに、そんな賭けはそもそもが賭けとして成り立たないもんね」

「あっ! それもそっか」

「言われてみりゃ、そうだな」

「にしても、それを理解してかどうかは別として、大山自身を知りたい、ときたか……」


 そこで、僕にはある一つの疑問が生じた。

 鳴瀬川はどうして、情報を流した人物を教える。と、言った条件を飲んだのか……。


 結局の所、深く考えた所で意味はない。とりあえずは、鳴瀬川と決着を付けなければ後も先もない。


「んで? 今日はキャスト練習でもすんのか?」

「いや、今更そんなことをやる意味はないかな」

「ほっほー? 随分な余裕をやまっちはお持ちだね〜」

「先生も同じ考えだぞー? 意味はないだろうな」

「ですが、全くないってこともないようなぁ?」

「んーー、今まで積み重ねた物の結果が、本番でのパフォーマンスと、言う形で答えになるだけだし」

「ふっふーん! ならば、今日は解散だな! だっはっはっはー!」

 そう高らかに声を張り上げて、大股で歩きながら木下先生はその場からいなくなった……いや、奥の部屋へと戻って行った。


「確かに〜! 予定立てるのもまた、今度でいっかー」

「だね〜、こうも天気悪いとやる気上がらんしー」

「それ以前に僕は問題を抱えたし」

「なー! もう、バラバラ過ぎない!? もっとこう、あるじゃん!」

「うぇ~! あたしは皆で適当に釣りができればなんでもよ~し! なんなら、雑談でも可!」

「いいじゃん! 俺も気楽にやりてー!」

「皆で再始動した部活でしょうがー!」

「あっはは……なんか、もう色々わちゃわちゃしてる」

 再始動したものの時期が時期と言うこともあり、少しずつではあるが歯車の噛み合わせにズレが産まれようとしている。


 あぁ〜、めんどくさ! 気づけばあっちでもこっちでも問題の種が埋まっているような感じがする。


 じわりじわりと、嫌な予感が僕を足元から掴んで沈めようとしている、そんな感覚が襲う。

 そんな居心地の悪さを振り払う為に、教室の窓へ向けて足を運び、景色を眺めるが外の世界でさえ、厚い雲が空を支配し絶え間なく雨が降り続いている。


「どうしたんだよ? 外になんかあったか?」

「いや、雨が降ってるだけ」

「そう言えば、桐内は鳴瀬川と仲は良いの?」

「鳴瀬川? 普通じゃないかなー、特に意識したことはねぇなぁ」

「何々! 二人でなんの話をしてんのさー?」

「あんたらがまだ、雑談すんならあーしらも付き合うわよ〜?」

「だってさ、どうするよ」

 どうやら、部活メンバーはまだ話足りないらしい……ならば、情報を掴むついでに話をするか。


「わかった」

「そうこなくっちゃ!」


 再び、五人は席に座って行く。

 誰かに何かを言われずとも、全員がバラバラの席を選ぶ。


「あっ、てかさ! 聞いてよ、みんな! 大山ったらさ? 鳴瀬川にキレたんだよ」

「まじぃ?」

「大山が怒るってことは、感情が少し戻ったの?」

「そーそー、私たちはやまっちの感情を取り戻す役割を全員が引き受けたんだよ。これでね!」

「あっ、そうだったのか。お陰様で怒ることができました? なんか、やっぱりおかしいなぁ……この言い方は」

「でも、良かったじゃないか! なんだかんだで前進できてるんだよ」

「にしても、不思議だよね~。感情とか表情を上手く出せないってさ」

「つか、そんな大きな問題に協力すんなら作戦とかいるんじゃない?」

「ぬるちゃんは、作戦があるの?」

 冬梅の素朴な疑問によって、全員の視線が春山へと集まって行く。


「い、いや……ないわよ! そんな作戦」

「で、デスヨネ〜」

「だけど、イメージ沸かないよなぁ〜」

「あたしもそれには同感かな〜、感情なんて自然にこぼれ出るし」

「ただ、今回の件でコツは掴めたんだよ!」

 確かなる手応え、それは無意識の内に高まる感覚と溢れ出そうとするイメージだ。

「それって、どんな感じなのかな?」

「こう、グワーッ! と、溢れ出そうな? やつ」


 途端に全員が虚ろな瞳を僕に向けた。

 仕方ないだろ! こっちは感情や表情を出す初心者なんだからな!


「まぁ、なにもイメージすら掴めていなかったんなら、大きな進歩ではあるわね〜」

「あっ! でもさ? 怒りのイメージが溢れた象徴みたいなのはなかったのか?」

 不意に桐内から出された問いに、思い当たる節があった。

「いや、流石にそれはないかもよ? うっちー」

「いや、桐内の言う通りでイメージはあったよ」

「あったんだ!」

「春山の怒った姿が印象にあった」

「あ、あーし!? つか、そんな怒らんし!」

「いやいや! 部活入る前からキレてたじゃねぇかよ!」

「あんたらがそもそも原因でしょうがー!」

「だー! 真剣に考えてるからイチャコラすなー!」

 と、言って夏川は冬梅の両肩を掴んで揺さぶっていた。

「わわわわ! 私に何もかんけーなぁぁい!」

「あはは! でも、それがイメージに繋がったことを考えるとさ? 上手くリンクすれば取り戻すことができると俺はみた!」

「リンクさせるって? どうやってよ」

「手順は割とシンプルなんじゃないかな〜」

 そう言って紙とペンを取り出す桐内は何かを書き始める。

 感情豊かな奴と大山が一緒に過ごす→相手の感情に影響を大山が受ける→進化した大山が誕生!



「な? 簡単だろ?」

「んで? その感情が豊かな誰かさんは、誰のことを言ってんのかしら?」

「わぁーお、大胆なじこしょーかいだね! ぬるちゃん」

「今のところ、ぬるちゃんが一番影響を与えているのは間違いないですね〜」

「となると、僕は春山にお願いする立場だ。宜しくお願いします」

 ペコリと、頭を下げてお願いをした。先ほどの条件を満たす人物として、春山が一番影響力を与えてくれている。


「うぅ~、わかったけん! 頭をそんなに下げんといて!」

「ありがとう! たすかるよ」

「でも、勘違いせんとってよ! あーしばっかりじゃなくて他もちゃんと頼るんよ?」

「何を今更言ってんだよ! あったりめーだ!」

「元々全員で成し遂げる、大山育成ゲームなんだし〜!」

「ですね、あくまでも今の段階でのお話です」

「え? なんか、育成されてるのか……ぼく」


 しかし、悪い気は一切しない。寧ろ、感謝しかないレベルだ。


「うっし! じゃあ、今日はこの辺で解散だな!」

「おっつ〜!」

「はぁ~! なんだかんだで今日も雑談したわね〜」

「おつかれさまでしたー」

「おつかれ」



 みんなのお陰で僕の方針が決まり、着実に僕自身に大きな変化をもたらしてくれている部活メンバーに感謝をしながら、今日の部活動はお開きとなる。


 勿論! 僕だって、みんなの力になれる様に活躍をしないと! より一層、その念は強まった。


〜育成ゲーム!? END To be continued~

物語に関しましては、じわじわと個別エピソード編に向かう感じです。


楽しみにして頂いてると思いながら! 私は書いて参りますので、刺さる方がいればと願っております!


良ければブックマークだけでも宜しくお願い致します!


では、次回の更新でもお会い致しましょう!

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