第20話 こうして僕らは分かち合う
鍵っ子です。
なんだかんだで、ぼちぼち投稿ができてますね。
後、アプデで仕様がいきなり変わっているのでびっくりしてます!
しばらくの間はお互いがなんだが、話に花を咲かせる様な雰囲気を作り出せず、校舎内の賑やかな音や声と足音だけが響いていた。
…………
………………
そして、気づけば部室の前にいた。
「じゃ、先にどうぞ」
「うん、失礼……します」
ガラリッ! と、建付けの悪くなったスライドドアが音を立てて開く。
その先には、誰もいないが奥の部屋にはいるだろう。
なにも取り決めずに、自然と向かい合わせになる様にして座る。
そして、不意に目が合う――。
「は、話したいことって! なに?」
「あ、あぁ、春山がお弁当を作ってくれたあの日、僕の選択は間違いだらけだったと反省してさ……しっかりと謝ろうって」
「うん」
再び、沈黙。
「春山から来てたサインのメッセージを見て気づいたんだ、あの時のメッセージはただただ、春山が僕を気にかけてくれていただけだったんだなって」
「別に! そんなんじゃ……ないこともない、ケド」
語尾は小さくなって、最後らへんは上手く聞き取れなかった。
「なのに、僕は勝手に解釈して海に落ちただの食べれなかっただのってあれこれ理由をつけて余計な物を押し付けた。答えは凄く簡単だったのに」
「その通りね。あーしは別に落としたとか食べれなかったからとかの理由でお弁当を作ったんじゃない。まぁ、でもそう言う気持ちもひっくるめてさ、あんたのお昼ご飯が気にはなってた」
「春山の優しさを台無しにした、本当にごめんなさい」
謝っても、僕の表情は変わらない。
だけど、土下座にも有効回数はある。何回も何回も使える代物じゃない。
だから、せめてもの誠意として深く、深く頭を下げる。
「ふふっ……あんたも中々に面倒くさい性格してるよね。それだけ理解してくれたならあーしも、もう怒らない。頭を上げてよ」
そう促されるがままに、ゆっくりと僕は顔を上げると、『全くどうしたものか』と、言わんばかりの困り顔で僕のことを春山は見ていた。
「わたしもさ、配慮とか! すぐに、わー! って、怒っちゃったりしてごめんなさい」
彼女もまた、ペコリと深く、深く頭を下げるのだった。
「いえいえ、春山も頭を上げて下さい。今回の件はお互いに理解を深めるきっかけになりましたし、良かったです」
「あはっ! 何それー! ほんっとうに、アンタって変な奴やね」
「うるさいなー、変なやつは余計だ」
ケラケラと笑う春山はもう、いつも通りだった。
「それでさー、もう一つね。僕の話があるんだ」
「ん? もう一つの話?」
「そう……僕自身の話だ」
僕がそう、告げると春山は再び背筋を伸ばす。
「どぞ!」
仲直りをするまで部活を禁止されたこと、中学時代に友人をなくしたこと――。
そして、感情や表情を取り戻す協力をして欲しいと言うことも全部、伝えた。
「なるほど……ね。色々と繋がったわ! 話してくれてありがとう」
「ありがとうって、なんで」
「ん? 何か一人で抱え込んでそうだな~とかは気づいてたんよ」
「なんか、言い出し辛くてさ」
「あーしってさ、見た目が凄く派手じゃない?」
「え、どうしたの急に」
「ただの質問なんやけど?」
意図が読めず、面食らうが春山は何かを言おうとしているんだと感じた。
「まぁ、目立つよね」
「えへへ……そうでしょ? だからさ、良く勘違いされるんだよね。経験豊富そうだーとか、恋愛マスター! みたいな?」
「ふむ」
「あーしにはね、姉がいるんだ。おしとやかで気品があって文句一つ言わない姉が」
「いいじゃん」
「でもね、いつしかその姉が、凄く嫌いになった。両親の言われるがままに従い続ける姉の姿が心底嫌いになった」
そう言って、春山は俯いていた。
「なんでだ」
「あれは、自我を持たない人形で命令のままに動くなにかなのよ。だから妹である私にもその縛りは降り注いだ」
「だから反発しているのか」
「違う、わたしは私の正しさを大事にしたいから従わないことがあるだけ」
「しんどいだろ」
「どうかな〜、そうかもね。でも、中学時代のあーしってさ、凄く地味だったの。当時は姉に憧れて、色んな話をしたわ! でも、ある日ね……ある意味で姉を知ったの」
「どういうことだ」
「将来の夢は? 好きな人は? 好きな食べ物は? 他愛もない質問でしょ?」
「良く聞いたりする質問の内容だね」
「そんな質問だよ? 単なる質問なのに、あの人さ……なんて言ったと思う?」
不意に顔を上げて、春山は悔しいとも悲しいとも虚しいとも言える表情で僕に問う。
「無難な受け答えしかなくて、がっかりしたのか」
ふりふりと、首を横に振って否定した。
「両親と同じ物、両親が満足する相手、両親が好きな物……って、答えたのよ」
ゾクリゾクリと、何かが背中を這いずる様な不快感、春山の姉は命令のままに動く、まるでプログラミングされた様な……まさに、人の形をしたなにかだ。
「それ以来、家族とは頻繁に喧嘩をする様になった。あぁしろ、こうしろ! 姉を見習えと言われる日々に積もり続けるのはただただ、苛立ちと怒りの日々」
全て敷かれたレールに沿って従い続ける姉と、そんなのは間違っていると思っている妹。
家族間での歪みが大きく彼女を変化させたのだろう。
「だから、あーしは姉や両親に見せつける様に抵抗する! 意志の強さを示す為に、地味だった自分から脱却する為に、大きく見た目を変化したんよ!」
「だが、先人の知恵は長く生きている分、無下にはできないぞ」
「もちろん、自分の考えと似た答えならばちゃんと聞くし! あーしの正しさが全て正解なんて、考えは持たないつもり、でも……」
「頭から否定の連続で、無理矢理にでも同じレールに繋げようとするのが許せなかった。だから怒る……か?」
「そ、そんな感じ。あーしはあーし自身で悩んで、間違ってもそこから正解を掴みたいの! でも、日々怒ることが増えていって、気が付けば感情コントロールを失うの……些細なことで」
「僕は協力するよ」
「へ?」
キョトンとした表情は、心底驚いているようで目をまるーくしている。
「春山がちゃんと、一歩引いて冷静になれる考え方を掴める様に協力するよ」
「いいの?」
「僕にも春山は協力してくれるんだから、当然かと」
「自分でも分かるくらいに面倒な奴だなーって、思っている程なんよ?」
「まぁ、僕の方も面倒臭さで言えば似たりよったりだよ」
「それって、似た者同士ってこと?」
「有り体に言えばね」
「なんか、複雑な気分なんやけど」
えー……そこは、ちょっと照れたりするポイントじゃないのかよ! 駄目だ、軽くショックだ。話題を……話題を変えないと!
「あっ、そうだ。思い出した」
「い、いきなり!? なによ?」
話が一区切り着いた段階で僕は忘れかけていたことを思い出す。
決してショックによって電流が脳内を駆け巡ったから思い出した訳ではない。
「カチューシャを返し忘れてたからお返しするよ。ちゃんと洗ったし、問題はないはず」
「大山にあげるわ。結局、未使用で一回も付ける機会がなかったデザインだし」
「お、おぉ」
「つか、髪を切れって感じよね。あーしからしたら」
「それは冬梅も同じじゃん」
「アホか! 女の子は髪が命よ? 簡単に切るなんてあり得ないのよ!」
「理不尽な」
「後、あーしの話は大山だけにしかしてないからね! 周りの人には言わないでよね!」
「なんじゃそりゃあ? まぁ、了解です」
そう言って、春山は大きく伸びをする。正直……目のやり場に困るので無防備な姿はあまり見せないで欲しい……いや、良いんですけどね!
「じゃあ、皆を呼んでくるわ!」
「僕も一緒にいくよ」
「来なくてよろしい」
「えぇ……」
何故か釘を刺された僕は立ち上がることはせず、春山が部室から出ていくのを見守るだけだった。
春山がいなくなってから数秒が経過した頃、奥のドアがガチャリと、開く。
「お? ケリはついたのか?」
「木下先生、やはりいましたか」
「まてまて! 今回はお前達の話を聞いてないからな!」
「随分、タイミング良く出てきましたね?」
「うっすらと、話し声が聞こえはしたが内容は曖昧だ。問題ない」
クチャクチャとガムを噛んでいる木下先生は特に表情を変化させなかった。
「そうですか、なら大丈夫です。ただ――」
「何だ? まだあるのか」
「生徒の内情を別の生徒に共有するのは如何なものかと思いますが?」
直球勝負、半ば決め打ち気味に僕は木下先生へ向けて牙を剥く。
「ほぉ~、面白いな! 真っ先に先生である私に何かしらの疑惑を抱いたか?」
「鳴瀬川と言う名前に聞き覚えは?」
「もちろん、ある。ウチの生徒だ」
「話したんじゃないですか?」
「ハッ! これはこれは、鳴瀬川に告げ口したのはお前だな? と、言いたい訳だな?」
笑みを浮かべながら、豪快に木下先生は自身が疑いの目を向けられていると理解する。
そして、少しの沈黙が支配した後に懐から一本タバコを取り出し、そのまま咥えてライターで火を点ける。
「私を疑いたいのは結構だが……」
「なんですか?」
ふわっと吐き出された煙が宙を舞う。
「疑うべきは別の二人じゃないか?」
「まさか……」
クチャクチャとガムを噛み、タバコをキメる先生に動揺はない。
「そもそも、私はこれでも教師だぞ? 生徒の内情をペラペラと喋る様な性格はしていないし、趣味じゃない」
「あの二人の内、どちらかが鳴瀬川に内情を伝えたのか」
「だろうな」
嫌な間が、先生と僕の空間を支配する。確かに内容そのものは大したことではない。
だからといって、簡単に漏らす必要がない情報だ。
「問題は言ったことではないですがね」
「だろうな、それ以前の部分に本質が眠っている」
そう、大きな問題となるのは容易く内情を広めてしまう。と、言うことにあるのだから。
「さっきの問い詰め方は非常に危険だぞ? 相手に悪気がなければ相当な不信感を抱かせるし、犯人じゃなかった場合は尚更だ」
「すいませんでした、その通りです」
「じっくり、慎重に見極めることだな。行い自体が悪と決まった訳でもないからな」
「ただ、いつかは対面することになるはずです」
「知らないまま、自覚なしなんてのが一番リスキーだからな」
「はい、桐内か夏川の二択ですが……なんとかしてみせます」
「その思考も危険だ」
「どの辺が危険なんですか?」
そう質問を投げかけると、木下先生は目頭をグイグイと指で押さえ込んでいた。
「何故、いつも一人で行動をおこすんだ、お前は」
「そうですか? そんなことはないと思いますが、僕自身のことで協力もして貰えるみたいですし、一人って訳ではないかと」
「なるほどな……そうやってお前は色んな壁を築き上げてきたのか、まぁいいか! とりあえずは見守るかな」
「そですか」
それ以上は僕も、突っ込まないでいた。なんとなくだけど、これ以上踏み込めば更に面倒になると直感的に理解していたからなのかも知れない。
「大山だけじゃないが、この釣り部にいる面子は大きな悩みを抱えた連中が集まっているのかも知れないな」
「占いの話術ですか? 貴方は人間関係で悩んでいますね? 的な」
「そんな物は人間である以上、殆どが抱える悩みだろうが! そうじゃない、もっとこう……いや、いいや! なんでもない」
「先生も悩んでいる一人なんじゃないですか」
「ガキが! この木下を口説こうってか!?」
「そんなんだから男も嫌気が差して逃げるんです」
「生意気を言ってんじゃないよ、クソガキめ」
「すぐ、ムキになる」
「うるへー!」
気が付けば先生が咥えていたタバコはすっかり、短くなっていた。
そんな会話が終了する頃、静かだった廊下側からは賑やかな声が近づいて来ていた。
「だーかーらー! もう、仲直りしたってば!」
「なんで、詳しく教えてくんないのさー! ぬるちゃんのケチィ!」
「ケチじゃないわよ! この前もジュース買ってあげたじゃない!」
そんな会話の主たちはこちらへ向けて歩を進めている、次第にはっきりと声は更に明確になり、その時間経過を部室内にいる僕と木下先生はお互いに少しだけ肩をすくめながら、ドアが開かれるその瞬間を静かに待つのだった。
〜こうして僕らは分かち合う END To be continued~
気が付けば二十までお話が進みましたか……。
ここに来て、ようやくちょっと深くなり始めた感がありますね〜。
ちまちまと更新はしてまいりますので、ブックマークだけでも宜しくお願い致します!
では、次回の更新でもお会い致しましょう!




