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第2話 君の笑顔と、空き教室と、釣り部

鍵っ子です。


記憶力はバチクソな身体能力を手に入れた代わりに悲しい程、小さい脳みそを持っていると言われているダチョウと競ります。


バナナ~

 何だろう、別になにか特別な物を感じる部分はなかったはずだ。ただ、後ろの席にいる彼女と僅かな時間だけ目が合った。

 なんの変哲もないこと、見ためだって長い黒髪で顔を隠しているもんだから、雰囲気とか分からない。

 分かる情報とすれば、肌がすんごい綺麗だと言うこと。白魚みたいな透き通った肌と、言えば良いんだろうか? 

 正直、見惚れるレベルだ。恋は苦い経験のお陰でコロッと落ちなくなった。と、言うか恋とはなんぞ? そんな領域にいる。


 しかし、春山さんと比べれば……天と地程の差があるくらいには地味。


 いや、比べるのも如何なものかとも思うし、ブーメランも甚だしいが、地味な人だ。

 

 いや、失礼だな……ぼく。


「あの……っ」

 ん? 何だろう? と、言うか始めて声を聞いたきがする。

 あれ、もしかして自分に声をかけてる?

「きれいだなって、思ってさ」

 ん?? ん?? んん!? まてまて! いや、まてまて! 大山よ、お前はいきなり何を言っている?

 正気か? お相手とは、これまで喋ることはおろか、挨拶すらまともにしたことない方だぞ!


 とにかくマズい! 誤魔化してなんとか乗り切るしかない。


「いやー、そのさーなんていうのかな……ほらぁ、あれだよ」

「あっ! お、大山君……ま、まぇ」

 その刹那――。


 スパァン! と、冴え渡る様な炸裂音が僕の頭を駆け抜ける。

「いつまで、口説いてんだ! 前を向けぇ!」

「わー、びっくりしたなー」


 あ~、最悪だ……まさに地獄と言って良い。


 外には上手く感情を表現できない分、内側の自分は割りとリアクションするし、お喋りだし!

 ちょっと痛いしめちゃくちゃ恥ずかしいし、桐内君みたいにこれでは口説いていると思われても仕方ない。


とりあえず全部は桐内君のせいだろう、口説いてる姿とか見たことないけど。

 いや、僕が口説かれてる? いやん! アホか。


「あっ、すいません」

「……ぷ! クスッ!」


 この時、クラス全体が笑いに包まれた。僕は先生にハリセンでシバかれたけど、つか! なんであんなもんあるの!? そんな表にはでない恥しさを胸に抱きつつも再び、彼女の姿が目に止まる。


 片方の前髪を自然な動作で耳に掛けて、白くてきれいな指先を口元に当てて彼女は笑っていた。


 その笑顔は桐内君なんかを遥かに超えて、眩しかった。十分な破壊力、多分これで積極的にくるタイプなら間違いなく男子を幾人も手玉にとれる。


 ほぅ……隠れ美少女とは、ポイントが高い!

 にしても、本当に……


「あぁ、笑顔はやっぱり素敵だな」

 ニヤリともできない僕は小さく呟き、前を向く。

「ばっかじゃないの!」

 そんな風に口パクで注意する春山さんも眩しかった。

 え? もしかしなくても、今の聞かれてた!?

 あぁ……もうヤダ、誰か僕を消し炭にしてくれ。 





 その後は何事もなく、昼休みを迎える。

 と、同時に彼がこれほどまでにオイシイ場面を無視してくれる程、甘くないことも理解している。


「ニマ、ニマァ!」

「わっ、気持ちわるい」

 人が初めてニマニマと声に出して笑っている姿を見た。

「ちょっと、ちょっとぉ! 大山君も中々のやり手だねぇ?」

「や、そんなんじゃないよ」

「確か名前は冬梅さんだったかな」

「ふゆうめ?」

「珍しい名字だよね〜」

「かもね。もしかしてさ、クラスの名前って全員知ってるの?」

「とうぜん!」

 は~、なんて律儀というかなんと言うか……。

 いや、こう言う中心的な立ち位置に入る人間はそれくらいの基礎スキルを所有しているのかも知れない。

「ま! ともあれ、オイシイ場面見れたしご飯、一緒に食べようぜ!」

「まぁ」

 僕の素っ気ない返事とは裏腹に、桐内君は春山さんの机を強奪し……ピタリと停止する。

「ん〜……アリだな」

「へ?」

 人差し指を顎に置いて、思案顔……。


 あ、この人――。


 「ねぇ、ねぇ! 冬梅さん、良かったらご飯一緒にたべない?」


 爽やかな風が吹き抜ける程の爽快感を出して、イケメン(怖いもの知らず)はさも、普通に異性を誘う。

「えっ!? あっ、いや……」

「じゃあ、決まりっ!」

 いやいやいやいや! この人! 本当に大丈夫か? 今の流れは断る感じだったじゃん!

 やべぇ〜よこの人、平気で子供誘拐するよ? この感じは……。

「ちょ、流石にさ……」

「いいの、いいの! 別に取って食いやしないんだし〜、しんぼく親睦!」

「そ……そぅですぅね〜」


 こえ、声が! 震えてます。


 桐内君! 流石にさぁ、見て! 見てあげて? 彼女、生まれたての子鹿みたいだから!

「いいから、いいから! 大山君は一回立っててー」

「な、おーい」

 テキパキと机を彼女側に移動して、まさかの謎メンバーでお昼ご飯……。


 と、言うかめちゃくちゃ気まずいんだが。


「じゃあ、みんなでー! 頂き――」

「させるかー! ド変態!」

 水平、真一文字に白き閃光がほとばしる。

 ものの見事にハリセンが桐内君の後頭部をはたく。

「やぁ! 春山さん、君も一緒にご飯は――」

「ご一緒しませんっ! ばかー!」

「ありゃ、残念」

「冬梅さん、嫌がってるでしょ! そーいうの、やめてくれない? あーし、そういう奴嫌いだから!」

 思いの外、仲間意識と言うかそう言う類の奴だろうか。真面目さからは少し外れていると感じていたが、そうでもないのか?

 じゃなくて! 奴のメンタルはなんなん!? 鋼か? いや、ダイヤモンドか? 

 バケモン過ぎるやろ! 後、ハリセンはどっから来たねん!


「あっ、ありがとうね。春山さん、私は大丈夫だよ」

 これまた、意外! なんと言うか、良いんだ……。

「無理しちゃダメだよ? きっと、冬梅さんは一人のが良いって! 絶対にそーいうタイプ」

 ん? 何だろう。確かに春山さんは気を遣っている様に見える、それは良いことだ。


 しかし、問題は別にある。


「まだ、春山さん自身もあんまり面識ないでしょ? いきなり決めつけるのは良くないだろ」

「あ? うっさ! それはお互い様なんですけど〜? 大体、見ず知らずの男子にご飯を誘われたら嫌に決まってんじゃん!」

「だとしてもだよ? こうやって一緒に食べてくれるって冬梅さんはいってくれたしさぁ〜」

「それも、無理矢理じゃん! 冬梅さんは怖がってる!」

 まずい! この状況は非常にまずい。

 まさか、ここまで噛みついてくるとは……。


 こうなってしまうと――。


「わっ! 私! 用事を思い出しました! 一人で、食べますね!」

 ガタンッ! と、勢い良く席から立ち上がり、冬梅さんは走り去って行く。

「あっ……ちょ!」

「まずいな」

「アンタらが無茶をさせるからじゃん! 後で謝っておきなさいよ! 後、席も貸さないから、どいて!」

「まっ、まじぃ?」

「マジもマジ、おおまじよ!」

 冷めた一瞥を最後に残して自分の席を強奪し、仲間グループの元へ笑顔で対応する春山さんの姿がそこにはあった。

 残されたのは、嵐の様なやり取りを受けて途方に暮れる男が二人……。

「あっはは、とりあえず一緒に食べようか」

「あー、うん」


 その後は特にいつも通り、ほぼ一方的に桐内君が会話をして何事もないかのように昼休みが終了した。







 流石に昼休みが終了する頃には冬梅さんは戻ってきてくれていたが、これではマトモに会話すらできない状態だ。とは言え、別に話をしなければならない程でもない。






 そんなことを考えながら、気がつけば授業自体も終了してあっ、という間に放課後を迎える。


 と、同時に春山から「ねぇ!」なんて声を掛けられた日には、大体良からぬことであるくらいには理解度が増している。


「明日中には、絶対に謝ること! じゃなかったら! あーし、許さないから」


 そんな捨て台詞を残して、春山さんはその場から去って行く。

「まじで言ってんのか、あの人」


 怒りに対する本気度が凄すぎる。

 それは、あまりにも一方的で強制的過ぎる。


 所謂、典型的な話を聞かないタイプ。


 一度、敵とみなせば徹底的にすべてが悪い人認定になっている。

 ただ、一概に春山さんの考えが全て間違っているとも限らない。今後のことも視野に入れるのであれば、長いスパンで見れば彼女との接触自体も大いにある訳であって……。

「はぁ~、無視をする訳にもいかん」

 まだ、半年すら経過していない時点でいきなりのトラブル、かと言ってクラス全体にいきなりお尋ね者扱いの烙印を押されかねない。

 春山さん自身、それでなくとも目立つし中心的な立ち位置に君臨する可能性は高い。

 気乗りはしないが、彼にも相談するしかない! 


 原因だしね。



「あ~! 来た来た! こっちこっちぃ!」

「おぉ」

 少々、というか……かな~り重い足取りで桐内君と合流を果たす。

「顧問の先生が開かずの……いや、部室にいるってさ」

「開かずの? なに?」

「まぁまぁ! 既に他の先生から部室は教えて貰ったから行ってみよう!」

 今、明らかにやばいワード出てたよね? いや、はみ出してたよね。


「はーやーーくーーー!」

「わ、わかった!」



 

 曰く憑きスポットは二階へ上がり、渡り廊下を進み、グラウンド側に位置する端っこの所にある空き教室だ。

 なんてことはない空き教室、桐内君はなんの躊躇いもなくスライド式のドアを勢いよく開ける。


「失礼します! 一年の桐内……です?」

「あれ?」

 いくつかの机と椅子が置いてはいるが、教室には誰一人として存在していない。

「留守かな?」

「自宅じゃないよ? ここ」

 不意に、ガタンッ! と、大きな物音が教室内に広がった。

「ん? あ! あそこにもう一つ扉がある!」

 好奇心のイケメンは迷うことなく扉をノックする。

「せんせーい! いらっしゃいますよね? 居るのは分かっています!」

 ナニコレ? 脅し? こわひ!


「イ、イナイヨ! せんせぇ! サボってないし!」

 これまた酷いサボタージュ現場に鉢合わせた物だ。

「木下先生! 全部分かってます! 校内は禁煙にも関わらず、ヤニ吸ってるのも!」

「い、いや……なにやってるんですか? この先生は」

「吸ってないヨ!」

「何なら僕たちはタバコ吸ってないんで、ここを開けてくれたら一瞬で判断できますが?」

「……」

 あら、だんまり。


「な! 大体ここは開かずの間! 一体こんな所に何の用だ!」

「何を隠そう、釣り部の顧問である木下胡桃きのしたくるみ先生へ! 入部希望者です!」

「え? 顧問ってこんな人が……」

「うあぁああ! もう、分かったわーったよ! 出るから! 扉開けるから待って!」

 こんなにも入部希望者を嫌がる顧問の先生ってアリなのだろうか……。


「ったく、大体釣り部なんてないぞ?」

 そう言いながら、素早くドアを閉める癖にこの人、堂々と煙草吸ってるんですけど……。


 咥え煙草に先生らしからなぬ喋り口調、髪色は暗めのこげ茶で髪型はポニーテール。

 黙っていればそれなりに大人っぽい雰囲気はあるが、言動や態度が全てを台無しにしている。


「いいえ? 先生、部活はちゃんとあります! 確認済みです!」

「なっ!? バカな! まさか君、学校サイトをチェックしたというのか!?」

「バッチリ記載されてましたよね? 部活動紹介のいっちばん下も下! 米粒みたいな文字で釣り部がありました! 確認してますし、逃がしません!」

 なにそれぇ! それは最早存在してないレベルの幽霊部員ならぬ、幽霊部活では!?


「チッ! バレたか、なら仕方ないな」

「では、入部の希望を――」

「しかぁーーーし! あまーーい! 私のサボ……ウォッホン! 部活に入部するのは簡単ではないぞ!」

「入部するのが簡単ではない?」

「え~っと、つまりはどう言うことでしょうか?」

「君たちの青臭い輝きが本物かどうかを試させてもらう」


 入部希望者を試すって……大丈夫なの? この部活……。


「詳細をお教え下さい!」

「よかろう! 元来、部活と言うものは人数がそれなりに必要だ。つまるところ、君達二人程度ではお話にはならん!」

 咥え煙草のまま、器用に喋る木下先生はそう告げた。

「そうだなぁ……君達の熱意が本物ならば、期限は一ヶ月としようか」

「それは、もしかして部員集めの期限ですか?」

「左様」

 なるほど、そもそもが部員すらいない、なんちゃって部活である訳だ。

 僕は別にどっちでもいい寄りだけど、そもそも一人で釣りはできるし。

「人数はそうだなぁ~、最低でも君達二人を含めて後、三人だな」

 コミュニケーションお化け(イケメン)は問題ないにしろ、僕ではどうにもならない数字だ。


 よし、僕は無理だし諦めよう。


「あっ、分かりました! じゃあ僕はこれで~……」

「だがな! 先生自身もな! 青臭いお前たちみたいな正反対の色を持つ奴らの青春模様が嫌いってわけじゃあない」

 な! 何なんだこの先生は本当に! どっちなの!? 流石に変わり者すぎやしませんか?

「つまりは、五人の入部希望者を一ヶ月で集めれば問題ない、と」

「それができるのならば、先生は君達の青春に付き合ってやる」


 青春……そうか、確かに僕自身もソノ存在自体には興味がある。

 色取りどりの感情がほとばしり、僕では表現することができない物が沢山見れそうだ。


「分かりました! よしっ! 絶対部員を集めて! 青春してやろうぜ! 大山君!」

「あ? え? まぁ、そう……だね」

 ガシッ! と、掴まれた僕の反対側の肩には彼の手が回っており、その表情は無邪気な笑顔でどこか子供っぽさを感じた。

「まったく、君って人は強引だねぇ~」

「それで結構! やると決めたら止まらないのが俺なのさ!」

「やれやれ、それで話が決まったなら励みたまえよ。お姉さんが見たいのはもっともっと、嫉妬してしまうほどの甘酸っぱさと時折ぶち当たる大きな壁さ」


 そう吐き捨てると、木下先生は静かに扉を開けて……ソッと閉めてしまうのだった。


「じゃあ! 早速作戦会議と行こうか! 大山君!」

「あ、ソウダネ」

「となると、一番いいのは絡みがある冬梅さんと……」

 この時、既に僕は桐内君から誰の名があげられるのかを理解していた。

「春山さん! この二人から攻めてみよっか!」

「だよね、そうだと思った。現状では、その考えに至るのは当然だけど……桐内君が思っている以上に事態は深刻だよ」

 ここでも始まる、価値観の差。

 桐内君自身は、先ほどの事件を“事件としてすら認識していない”この時点で彼女と彼との間に大きな食い違いが生まれている。

「え? それってつまり、どういうこと?」

「まず、春山さんと桐内君との間では大きな認識の差が生まれている。ここを解決しなければ、後々取り返しのつかない所にまで発展しかねない問題ができているんだ」

「おっと、それは全然気が付かなかった。となると、それは解決しないと話にならいな」

「じゃあ、まずは状況を歩きながら説明するよ」

「わかった!」


 そう言って、僕達はお互いに一歩を踏み出し始めた。



~君の笑顔と、空き教室と、釣り部  END To be continued~

今回の内容で、おそらく主人公が思っていることと実際に口に出している言葉に落差が出ていることを感じていただけるかと思います。私が設定した主人公像はとても不便な状況からスタートしております。

さらっとあらすじにもありますが……。

少しずつ、少しずつ色んな変化が感じられる様な作品を目指しております。とは言え、この作品はですね! 女の子も出ますし、もちろんバンバン関わらせていく作品なんです! なのに! なのに!

いきなり雲行きが怪しい……。キャッキャウフフな水着回とかお風呂シーンと定番ですよね! 物語も動き出していく予感を出せる様に今後も頑張りますので、お話が進んでいく過程で何かを感じて頂けるような作品を唸りながらも楽しみながら、進めてまいります! 

それでは、最後まで読んで頂けたことに感謝を述べながら次の投稿もやります!

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