第17話 踏み外した一歩
鍵っ子です。
最近は昔から好きなKey作品のゲームを堪能しています!
はぁ、最高……。
まさに、目まぐるしい程の昼休みが過ぎ去り、無常にも時は進み続けて歩みを止めることはない。
授業も六時限目が終了するまで後、一分もない。
さて、放課後になっても僕には、大仕事が待ち受けていることを想像するだけで妙に緊張感が出てしまう。
【キーンコーンカーンコーン】
「よぉ〜し、今日の授業はここまでだ! 号令」
「きりーつ」
授業中の空気から開放された生徒は、各々が自由にそれぞれの持ち場へ向けて準備を始める。
僕だってそうだ、部室に向かう準備を始める。
「春山、この後なんだけどさ」
「ごめん、あーし今日は忙しいからまた別日にして、じゃ! そういう訳だからお先」
有無を言わせぬ、先制パンチ……しかし! ここで食い下がる訳には行かない!
「いや、部室に来て欲しいと……」
「はぁ? できればって、書いたのアンタじゃん! あーしは今日、そのできればには当てはまらないだけだから」
「でも、春山だって帰るとはまだ口にしていないじゃないか」
止める! 春山をここで逃がしてはならない! 足早に教室から出て行こうとする春山を見て、すぐに追いかけろ! と、言う判断を脳が下す。
「まだ、話は終わってない」
自然と小走りになる、やがて教室の出口付近でそれは走る動作に変化する。
追いかけられていると察したのか春山は既に走り出していた。めちゃくちゃ早い! あの人、運動神経まで良いみたいだ。
更に追いかけようとした矢先――。
「はい、すとーっぷ!」
「おっと」
勢いをつけようとした身体が無理矢理ブレーキを踏まされる。
「やまっち、悪いけどぬるちゃんのとこには行かせない」
「えっ?」
振り返ると、両手で僕の腕を掴んで待ったを掛けた人物がそんなことを言う。
「このままじゃ、解決にならない」
「生き急ぐんじゃない! 若者よ、全ての問題が早急に解決すれば良いってもんじゃない!」
「でも、弁当食べてない」
「そんなもん、とっくにあたしとりあちゃんで食ってやったわ!」
敢え無く撃沈、誠に情けない。
反論の余地すらなしであった。後に残るは手の届かない場所まで行ってしまったような、言いようない焦りと不安だけだった。
「大丈夫、次はあるよ」
「へ?」
そう言って、冬梅さんが僕の前に立っていた。
「まぁ、部室に行くんだろ? なら、いこーぜ」
「そそ! とりあえずは今日も部活動! やっるぞ〜!」
気が付けば、部活メンバーが僕を囲んでくれていた。
「ありがとう、みんな……そうだね。部室に行こう」
多くは語ることなく部室に到着し、ドアを開ける。
「では、皆さんお掛け下さい」
「なっ、なんか面接みたいな雰囲気だしてる!?」
「う〜ん、私は普通に感じるけど?」
「いいじゃん! 早く座ろーぜ!」
一斉に、ガタガタと椅子をズラして着席する。メンバーは一人足りないが、集めた以上は話をする。
「今日、集まって貰ったのは僕の話をする為です」
「やまっちのお話? それも大事だけど……ううん、まずはそっちでもいっか」
「ですね、すぐに解決するものでもないですし」
「ほう」
「部活動が始まるよりも前から絡みがあったから、薄々勘づいていた様な部分もあると思います。反応の弱さについて……」
春山の件について話す必要もあるが、この前提を踏まえた上での策が必要となる。相談に乗ってくれるかは、その後からだ。
「「「……」」」
この瞬間に全員の柔らかな雰囲気は一気に空気ごと変化をもたらした。
「遂に、話すんだな?」
「あっ、うん」
「確かに、ちょくちょく冷静? 無表情? みたいなことはあったよねー」
「落ち着いた雰囲気はありましたよね」
「実は、言い出すタイミングを見計らってはいたんだ」
「申してみよ、大山」
「僕は上手く感情や表情なんかを表に出せないんだ」
「なる、ほどぉ〜ね?」
イマイチ、想像ができていない様子の夏川は少し戸惑いながらも何かを頭の中で描こうとしている様に感じた。
「少しだけ、私は知ってます。失感情症という、ものじゃないですか?」
「アレ……き? なんだって?」
「アレキシサイミア?」
「そう、僕自身の感情表現が表しにくくなる症状、表情にも出にくいなんてことも相まって皆も誤解していたと思う」
「実際には、何かを感じているって訳か?」
「まぁ、頭の中とかで」
「確かに、そう言われれば色々と繋がる部分が……」
「だねぇ~、土下座したり顔色変えずに殴られたり……」
「いや、なんで土下座の話を夏川は知ってるんだ」
「あっ! いっけなーい! ついつい口が滑っちゃった」
「ぬるちゃんが、その……話しちゃって、私じゃないよ?」
「まぁ、事実だし別に話をしても、問題はないだろ」
「男子諸君は教えてくれなかったけどね〜」
べー! っと、舌を出して少々ご不満を漏らす夏川ではあるが、幸いにもややこしいことになっていないだけましだ。
「事情は理解しましたが、大山がそうなってしまった理由を聞いても大丈夫かな?」
まさか、冬梅から切り込まれるとは予想もしなかった。
僕の些細な、ちっぽけな人生感の欠片であり、諸悪の根源。
「別にそこまで珍しい理由じゃないんだよ」
「珍しい理由じゃないってのは?」
「数人だけ仲良くしていた友人がいたんだ。その内、一人が交通事故で亡くなった」
「とても仲が良かったんですね」
「でもさぁ? そこまで追い込まれるもんなの? 悲しいとか、寂しいとは思うよ? でもさ?」
「それは、そうだな。もっと詳しく教えてくれよ、大山が壊れてしまった原因を」
思えば、僕はあそこからずっと道を踏み外し続けている、今でも外し続けていたんだろう。
「中学最後の晴れ舞台である卒業式後の帰り道に、彼よりも先に歩いていた僕はその友人に早く追いついて欲しくて、友人を煽り過ぎた」
「煽り過ぎたって、なんだぁ?」
「車通りの多い、横断歩道だった。丁度、車が右折するタイミングで勢い良く飛び出してしまっていた友人は……」
あっさりと轢かれた。
まるで、日常の景色と大差のないレベルで。
当たり前に友人は宙を舞っていた。
瞬く間に、紅色が辺りを支配して生温い何かが僕の顔にすら飛沫となって襲いかかった。
「車も車で右折を焦っていたみたいで、スピードをあまり落としていなかったんだ。気づくよりも早く、友人が宙を舞っていた」
今でも忘れない、明らかに身体の一部が潰れる様な音と開きっぱなしの瞼の先にある瞳は僕をしっかりと、捉えていたこと。
「あっさり、友人は死んだ。当たり前みたいに友人は即死した……」
ふと、周囲を見回すと全員が下を向いていた。
だけど、今の僕だと何一つ顔色の変化もなしに目の当たりにした事実を話しているだけにしか聞こえない筈だ。
「あっ……ははは〜、もう! 中々に凄いのもってんじゃんか〜! 流石のあたしもちょーっとびっくりした……よ」
「きっついな」
「想像していた以上のものでした」
「まぁ、それから高校入学を果たす前までは受験勉強しながら色んな本をみたり、その他にも沢山勉強した」
「だから、ちょーっと知識があったのか! 納得だ」
「高校では、感情を取り戻す為に色んな人を静かに観察しようと思っていたんだ」
「どうしてですか?」
「僕なんかが上手く友達の輪に入れる訳がないと思っていたから、でも……それを桐内が、皆が変えてくれた」
「ある意味、俺は救世主なわけじゃん! すげー!」
「ちょいちょい! 私達も、だからね! あたしたちも!」
「そう、だから皆に僕の感情を取り戻すお手伝いもさせてしまっていたんだ。これは、僕の勝手な押しつけだ」
そう、これは僕が勝手に思い込んで協力してくれるなんて理想を押しつけていたに過ぎない。ちょっと不幸な目にあったから優しくしてくれるだろうと、甘えた自分の情けない部分だ。
「そ、そんなことありません! 少なくとも私はそうです!」
冬梅がいつにもなく、弱々しい声ではなくはっきりした口調でそう、発言する、
「別に、俺はお手伝いなんかをしているつもりなんて全くないしなぁ? そもそも、ナンパしたの俺だしぃ?」
「実際問題さ、お互い様みたいな関係なんじゃない? あたしらってさ」
「僕はその優しさに甘えたんだ。あまつさえ、頼ろうとした、こんなの一方に迷惑を振りまいているだけにしか過ぎない」
「あ~もう! めんどくさいなぁ〜! 鈍い男だね〜、ほんっと! 何も与えない人間とつるむほどぉ、あたしは優しくなんてないからね? これが答え、分かる?」
「おまっ! なつかわさんよ〜、それは流石にストレート過ぎやしないかい? いや、まぁそれが一番伝わるか」
「少なくとも、私たちの中で大山が一方的な押し付けだけではなく、ちゃんとみんなの為にも頑張っているのは事実だよ」
なんだコレは……! いつの間に僕はここまでの絆を得ていたんだろう。
「ありがとう、こんな僕でも背中を押してくれるなんて……」
「あー! まってまって! 大山自身の身の丈話を聞かなければいけない面子はここにいる人達で全員じゃないでしょ!」
「そうですね、もう一人の協力者さんがここにいない限り、安易に協力なんてしません」
「だな! 悪いが今回の件に関しちゃあ、大山ソロプレイで立ち回ってくれよな!」
「僕ひとりで、かぁ」
「ちょーーっとまったぁああああ!」
思考を巡らせようとした矢先で、大声でストップがかかる。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、お前らは! 全くもって許せん! 顧問たる私を差し置いて何たる無礼か!」
「あぁ、先生も聞いてたんですねぇ~はは」
「木下先生、いつからいたんですか~?」
「んもう! 序盤も序盤から! 席に着く前よりもだなぁ……いや、その辺りからいたんだぞぉ~?」
あ~この人、最初から奥の別室にいやがったな。
「つまり、またサボってたんですね?」
「そんなことはいいんだよ! 大山、お前さんは春山と揉めたんだな?」
「察し良すぎませんか、先生」
「当たり前だろう! 身の丈話も聞いたし、春山はいないし。何より桐内が大山ソロでの解決を促す辺りで当人が誰と揉めたかはある程度わかるさね」
「先生……なんで教師やってるんですか?」
この先生、職業を根本から間違えてませんか?
「コホンッ! とりあえずは、君自身で解決することだ」
「ですね、それはもう本当にその通りな訳ですが」
残念ながら、僕には異性と仲直りをする知識は本でしか理解していない。
「もしもーし? ちゃーんと、仲直りする仕方とかってわかってるぅ?」
「もちろん、そもそも男女では考え方の違いが大いにある。その為、男性は理論的に逆に女性は感情的に捉える傾向がある訳です……」
「はい、もういいです! よーーくわかりました」
「なんと言いますか、これは~……」
「最早、手に負えないのでは? 即座に切り捨てるべきだと先生は思うぞ乙女たちよ」
なぜだ! 実際に男女ではそういう考え方の相違から基づいて接し方や謝り方を練らねばならないだろう!? どうして、女子陣営は頭を抱えるのだ! 僕はまたもや間違っているのか……。
「そんな大山に問題です! 女の子が失恋をしてあなたに相談をしたとします! そうだなぁ~、大山あたし! あたしね……失恋しちゃいました。もう、どうすればいいかな? はい! お答えください!」
いや、妙に芝居がかってるのはなんでなんですか? とにかくこれはシチュエーションとしては代表的な物ではある。意中の相手に玉砕をしてしまった女の子と相談役に回った僕という、この場面において自分は非常に重要な役回りと言えるだろう。
「おっそーーい! もう、ダメダメ! お話になりませーん!」
「今考えてたんだよ、まって様々な背景に基づいて僕の役回りと言いますか……」
「問答無用です! 女の子は待ってくれませんし、何より長考なんてされたら萎えるどころじゃ済みません。即帰ります!」
「全く! 女の子の扱いが上手いんだか、下手なんだか。しょうがないな、ここは俺が魅せるか!」
「嫌な予感しかしませんね……」
「いいじゃん! ならば、桐内よ回答してみせよ」
「俺と付き合っちゃえ……ごふぁぁああ!」
息を吸い切るよりも疾く――。その輝きは正に聖拳(約束された勝利の拳)が如くの正拳が桐内のボディを見事に穿つ!
「あっ、すまん! 昔そう言う男がいてつい、殴ったわ」
「先生……心中お察しいたします」
「あ、あはは~」
「暴力教師まったな……ヴッ!」
それは踏ん張るなどと言う猶予を与えず――。外すことさえ許さない必中の槍が如き、その紅き煌めきは正に呪いの手刀(刺し穿つ死棘の手刀)現実ではしっかりと僕を捉えるみたいだ。後、シンプルに中段突きを決め込むのやめてください……先生でしょあなた!
「いいか? 目撃者は目撃者がいなくなればそもそも何も起こらない」
「先生、それは罪を重ねる人の思考です」
「まぁ、ダメダメですけど丁度、梅雨時期で猶予もありますし~」
ニッコリと笑みを浮かべる夏川……すっごく怖い! やだ、ナニコレぇ!?
「時間を少し置いて、必ずぬるちゃんと仲直りすること!」
「はい、わかりました」
「ただし! 仲直りするまで部活は来ないでね~ん。それが条件です」
え? なにそれぇ~聞いていないんですけど。いや、今聞いたんですけどね。
「わかりました」
「おもしr……んん! 迷える羊に先生からのありがたーいお告げを一つやろう」
「わーい、やったー」
「相手の機微を必ず逃すな! 必ず相手も隙をみせる、それを逃せばチャンスはないと心得よ!」
おそらく、それは小さな変化であることが理解できる。めちゃくちゃ難しいことは承知だが、逃せばチャンスがない、などと脅されてはこちらとしても気が気ではない。多分、見た目にはわかんないだろうけど。
「ありがとうございます」
間違いだらけで、どうしようもない僕は仲間の一押しによって少しだけ、ほんの少しだけマシになれるのではないかと感じるのだった。
~踏み外した一歩 END To be continued~
さて、今回のお話では大山の過去について触れました。
器用なようで不器用で、理解しているようで全く駄目駄目で、歪んでます。面倒くさい奴ですが、彼の始まりはここらへんからですね。
誰とくっつくのかな〜とかは、まだ先の話ですが……。
日々楽しく、文字を打ち込んでおります!
ブックマークや感想&評価も宜しくお願い致します!
では、次回の更新でもお会い致しましょう!




