第12話 シロギスには虫エサを使いますよ?
鍵っ子です。
最近の個人的ニュースは、水筒に入れていたコーヒーが漏れていたことです。
その後、しばらくは五人でとりとめのない会話を交えながら、正門で春山が離脱し電車で帰宅メンバーとそのまま駅に到着を果たす。
「はぁ~、雨やまないねぇ~」
「そうですねぇ~」
「ほんとよねぇ~? やんなっちゃう!」
「いや、一人異物が混じりこんでるぞ」
「うっちーに対してはツッコミ入れたりするんだね。なんか、やまっちのそう言う一面って新鮮」
さいですか、言っておきますがあなたに対しても割とつっこんでます。心の中でが多いけど。
「そーいやさぁ、別のクラスで読モやってる超絶イケメンがいてさぁ~仲良くなったんだけど女子がスゲーいんだよねぇ」
「うわぁ! 顔に釣られて女の子をとっかえひっかえみたいなやつぅ?」
「そこまでは分かんないんだけどね。なんか、好きな人? みたいなのいるとかいないとか」
「女の子隣に付けといてそれ言う!? 図太い奴だなー」
「でも、好きな人ってことは近くにはいないのかな?」
「あー、たしかにわざわざ桐内に言わないか近くにいるなら」
「あっ! そーいえばぬるちゃんが言ってた奴かな? 名前は――」
「鳴瀬川唯斗だよ」
「あーそだそだ! なんかそんな感じの名前だった」
「それで? その、鳴瀬川君の名前を出したってことは、そう言うことだよね。桐内」
「流石に鋭いな、長髪ピンクにお熱なんだって言ってたんだよ」
「なるほどねぇ~、一回くらいしか見てないしそれってさ……」
そんな会話をしている最中でちょうど、電車が到着する。
「一目惚れ、じゃないでしょうか?」
電車に乗り込む直前に、冬梅がそう告げた。
ボックス席を確保し、四人が目配せをする。
「つまりはそう言うことだろうな」
「恋! いきなり始まっちゃうんじゃない!?」
「あのさぁ~、確定してもないし下手に詮索するのはやめときなよ」
「慎重さが求められますね」
確かにその線もあるが、現段階では不確定要素が多い。最初に桐内が語った好意に対する本気度も曖昧な域を出ない。
「鳴瀬川君の好意はどれ程なんだろうね」
「お? なんだなんだぁ~、もしかして嫉妬かぁ?」
「だとしたらそもそも、僕はずっと否定的な態度を取るさ。多分だけど」
「ちぇ~! つまんない~!」
「そういや近いうちにまた、クラスに来るって言ってたな」
「そ、そうなんですね。どんな感じ人なんでしょうか?」
「ん~、爽やか系? 別に鼻につくような感じはないと思うぞ」
「あたしも軽く挨拶と自己紹介しかしてないけど、言動は普通だったかな? 女子はいたけど」
ふむ、ともすればそこのファーストコンタクトで鳴瀬川君が春山に目をつけた可能性が高いと思われる。しかし、問題視すべき部分は女子を連れていたと言う箇所だ。
どこまでの気まぐれか、偶然か? あるいはわざとなのか……。引っかかる要素ではある、イケメンだから他の女子を引き連れて他の女子に会うのも問題ない。
と、言わんばかりの堂々とした振る舞い? あるいは――。
「でも、仮に恋に発展すれば良いことではありそうだよね」
「たしかに、な」
「んだねぇ~」
「ですねぇ~」
各々がポケーっとした表情で窓の景色を眺める。
「皆はさ、夢ってある?」
「急に真面目だな! 夢かぁ~、ないこともないけど」
「僕もあるよ」
「あります」
「……そっか! すごいね、あたしはそういうのないんだよねぇ~」
「そんな気はするよ」
「やまっち!? ひどくなぁい?」
「そうかな? 夢って絶対ないといけない物じゃないでしょ」
「おぉ、またなんか深いこと言ってんなぁ」
「夢は追わなければなれない物で叶えるなんて容易じゃない。夢がないならないで、自由に自分を見つめることができる。もちろん、それも楽じゃないけど」
「詩人みたいだね、あ! ごめんね、つい!」
「おい! 大山聞いたか!? 冬梅がツッコミを入れたぞ!」
「なんかさ、やまっちは大人びた? 思考なのかな」
「おい、君たちは本当に話題をとっ散らかすな」
もう何が何やら……。
「でも、さっきの言葉はちょっと刺さったかも」
「おう」
【え~、次は~次は~堀江】
「じゃね! あたしはここでおりまぁす! ほな、またね~」
「じゃな~」
「またね!」
「また明日」
こうして、一人が離脱した。
「ほいじゃあ、俺もちょっとりだつ~」
「いや、同じ駅……」
って、もういねぇ! 何考えてんだあの人はマジで!
「あははー……いっちゃいましたね」
「まったくもって自由なやつ」
「でも、仲良しさんですよね」
そう言って、冬梅さんは小さく笑った。そのあと、何かを思いついたのか自身のスクールバッグをごそごそと漁り始めた。
「どうしたの?」
「やっ、その~……あった!」
そう言って、手に持っていたのはヘアピンだった。
「ちょっとだけ、素顔を出す練習をしてもいいですか?」
「ど、どぞ! お構いなく」
どっひゃああああ! この子は一体なんしよん!? ここにきて素顔出していくのはどういうことだ……。
いいいいい、意図が読めない。落ち着け、深い意味はないだろう? 顔を出すだけじゃないか。
「こう、かな? 変じゃないですか?」
「はい、ありがとうございます」
ちっがーーーーーーーう! 変じゃないか聞いてるんでしょ!? お礼言ってどうすんだよ!
「ん? どういたし? まして」
「冬梅は良く絡んでる人はいないの?」
「大山達の周り以外ではほとんど絡みはないかな、私って人に話しかけるのも苦手で大体は本を読んでるんだ」
「半ば強引だったけど、迷惑じゃなかった?」
「最初は戸惑ったんだ。でも……」
キュッと、唇をかみしめる冬梅はおそらく今このとき――。
「お友達が欲しい! って、心から思えたから、すごく感謝してる!」
冬梅史上最大の声量で面と向かって僕に言ってくれた。こちらもヘアゴムを再び取り出し、前髪をまとめる。
「大山く……大山?」
「こちらこそ、感謝しても足りないくらい。そう言って貰えただけでもすごく嬉しいよ」
おそらく、こんなことを言っても無表情な僕では無意味だろう。
「大丈夫だよ。十分、大山の気持ちは私に伝わってるよ」
優しい笑顔、なんだこの人は?
どうして君は僕の感情、想いが……。
なぜ伝わっているんだ。
本物だ……ネタを抜きにしてしっかりと冬梅は僕の感謝が伝わっている。
「冬梅、君は一体……」
「ど、どうしたの? 驚いた顔してるよ?」
嘘だろ……。
声のトーンや表情に変化なんて一切ない筈だ。
それを簡単に乗り越えて来る。
勿論、内心では驚いているがそれは表には出ないはずだ。
だって、今の一度だって桐内すら読み取れていないんだぞ?
「た、確かに驚いてるよ」
「ん? へんな大山……でも、おかげで一人ぼっちに拘る必要はあんまりないのかもって思える様になってきたよ」
ダメだ! 落ち着け、大山よ。
せっかく変わろうとしている者のことをもっと知りたいなどと言う己の我が儘で相手に再び蓋をさせるんじゃない! 理性を保て、探求心や好奇心を捨てろ!
線引きだ、線引きしろ!
「少しでも力になれているなら良かったよ」
「よ! お二人さん? ほうほう……」
「何をしていたんだ君は」
「いやなに、ちょっとした化学反応をと思ったけど、効果はかなりあったみたいだな!」
「お互いに打ち解け始めてる所悪いけど、次で降りるぞ~」
と、言った矢先にアナウンスが流れる。
【え~、次は~次は~三津浜】
ともかく、冬梅にはもしかすると僕の感情や表情を繊細に感じ取る何かがあるのかも知れない。油断は禁物ということが分かっただけでも収穫だろう。
「じゃあね~、また明日! 冬梅」
「また明日」
「ですね! 楽しみにしてます」
不思議だ、本当に不思議だ。
なぜだ? 顔の動きを読み取ったりできるのか?
「ずいぶんと、慣れたみたいだな冬梅」
「どうだろうね。僕には良く分からないよ」
「ほんと、頭の回転はいい癖に変に鈍いな。素顔見せてたのはお前だけなんだっての、俺が来たら俯いてたんだよ」
「なんだよー? 頭の回転はいい癖に鈍いって、後半はなんて言ったか聞き取れんかったし」
「ばーか! それでいいんだよ」
彼も彼で不思議な奴に変わりはない、か。
「ほなら! かえってこーわい!」
「あぁ、また明日」
お互いに自転車に跨って、帰路をそのまま目指したのだった。
しばらくして、自宅に到着する。特に変わりはないし、いつも通り二十一時頃には女性を連れて父親と共に酒を飲んでそのまま眠るだけだろう。
実は言うと、その女性がつけているのかよく分からないが、香水の香りが僕は――。
大っ嫌いだ。
話し方も、歩いている姿も顔も全てと言って良いだろう――。
気に入らない、感覚で言えば土足で勝手に入り込んでくる空気の読めないヤツ。
気に入らない。
「はぁ、ダメだな。先入観だけで決めつけている」
少し反省だ。
そして、その後はいつも通りに一日が経過し、そろそろ寝ようかと考えていた矢先にサインの通知がくる。
「ん? なんだ」
メッセージを送ってきたのは、春山だった。
【顔も自分も大事にすること! いいわね? 返信要らないから、おやすみ】
何ともまぁ、お節介な人だ。
翌朝、朝の七時四十九分の電車に乗り込む準備を完了させ、スコーロンを着込み偏光サングラスは帽子の上に搭載。
投げ釣り用のロッドも準備し、ロッドケースに収納済み。勿論、リールや仕掛けはタックルバッグに格納済みで、死角なし!
三津浜駅に予定通り到着し、すぐさまに見知った顔と遭遇する。
「おーっす! おはようさん、いよいよ初釣行だな」
「おはよう、中々の装備ですな。桐内よ」
「お主もよ」
お互いにニコニコと笑う。
そして、電車に乗り込むがぱっと見では冬梅を発見できず、断念した。
「多分、乗ってるだろうけど荷物が多いから下手に動き回れんしな」
「そこまでして、一々見つけに行くのもなんかキモイだろ」
「まぁ、そんなもんかね」
「思ったけど、夏川は大丈夫かもしれないけど。ゴカイ触れるんかね?」
「賭けるか? 大山はどう考える?」
「ふむ、景品はなんだ」
「ジュースおごりで!」
「のった」
「きまり! 大山から言ってくれ」
ふむ、さてさてどうしたものか。
安直に考えるならば、春山は触れそうで冬梅は触れないと言うのが妥当だろう。
しかし、彼女たちがそんなに単純であろうか? そんな訳はない! 逆パターンも十分にありうるし、二人とも触れない可能性もある。
「おーい? 大丈夫か」
「まって! 今考えてるから」
いや、思い出せ! あの時のキス釣り計画の日を! 確か、キスの写真を調べ上げたのは冬梅だ、つまりあの時に写真だけを調べたとは考えにくい。
ならば、おそらく仕掛けなども追加で調べ上げていることが予想される。となれば、当然ゴカイの存在にたどり着くはずだ。そして、それが虫であることもとっくに理解している。
「見えてきたぞー」
「ながいな!」
そこで、反応がなかったことを察するにこれは逆パターンが証明できるのではないか? 一方でオシャレに気を遣っている春山が平然と虫を触れるだろうか? 汚れることが想定される虫、わざわざ触るようなことはしない筈だ。
クックっクック! 見えた、これが勝利への答えだ!
「春山は触れない、冬梅は触れる。夏川も触れるだ」
「ようやくか、ならば俺は逆を行くぜ! 春山は触れる、冬梅は触れない。夏川は同じく触れる」
フッ! そうだろう、そうだろう……まんまと王道パターンに乗せられたな。桐内め、この勝負は頂いたぞ!
フハハハハ!
「おっはよー! いよいよ今日だね~」
気が付けば堀江駅に停車しており、夏川が登場する……が!
「夏川、君ってもしかしてかなりのガチ勢じゃない?」
「エッヘン! もちのろんだよ」
「偏向サングラスだけで三万くらいは消し飛んでるよね」
「ライトマスターのLBシルバーミラーだろ! なんて良い物を……俺なんていちきゅっぱだぞ」
「僕のもにきゅっぱくらいだし……」
「でも、投げ用のロッドはそこまで力入ってないんだよねぇ」
釣りをするとは聞いていたが、この子は力の入れ具合がすごいな。僕も欲しいくらいだぞ? まぁ、僕の場合はティブコよりもディープスの異次元が欲しいんだけど……三万はするから同じか。
夏川のガチ具合に驚きながらも、伊予北条駅に到着。
と、同時に見つけられていなかった冬梅とも合流を果たし――。
いざ行かん! 学校の正門へ!
正門が見えて来るや否や、すぐさまピンク髪が目に留まる。
「いやぁ~、待ち合わせのシンボルとしては最高にいいな」
「ばか! 本人には絶対言わないよーに!」
「ぬるちゃん、すっごくおこりそう」
「ちがいない」
「こっちこっちぃー! みんな、おっはよう!」
「あぁ~、がえりだぁい……。全員揃ったな、ふぅ~」
「「「「おはようございます」」」」
「とりあえず、初心者二人の装備は用意してある。後は、イソメに関しては赤イソメでいくぞ~? 青を使う程のサイズでもないだろうしな」
「ん? イソメってなん?」
「それはねぇ~……。ゴニョゴニョ」
「ヒッ! まってまってぇ、それって虫なん!? きーとらんのやけどぉ!」
フハハハハ! 予想通りの反応だ、そうだろうそうだろうともさ! 春山よ虫は無理だろう。
「なんだ、昨日確認してなかったのか? ホレ、コイツだ」
うにょうにょ……。
「ぴゃぁああああああああああ! きいとらーーん!」
「わはっはっはー! いつ見てもイソメはきもちわりーや!」
「聞くも何もないだろ? キスには虫エサを使いますよ?」
「もしかして、りあちゃんも知って……た?」
今回は素顔をちゃんと晒している冬梅もニッコリ笑顔で答え合わせは完了。
「ぎゃああああああ! なんで教えてくれんのよぉぉおお!」
「まさに、ご乱心だな」
こうして、初手から真実を知ってしまいブルーな春山を押し込む様にして、先生の車はモンチッチ海岸を目指して発進する。
~シロギスには虫エサを使いますよ? END To be continued~
いやはや……ここに来て冬梅さんが一気に浮上したのではないでしょうか?
ギャップ萌えなどのお約束はどのジャンルでも盛り上がりますよね!
これから先もどんどん魅力的な人物を描いて行ける様に楽しんで頂けるように! 頑張っていきます!
良ければ、ブックマークや評価&評価も宜しくお願い致します!
それでは、次回の更新でもお会い致しましょう! お楽しみに!




