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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
Gmの雨
63/80

 かけるはちらっとガラス窓の外の風景を見てから、目を戻した。


 「俺も曲書くけど、やっぱゼンコーの曲がないとなあ」


 「これからもあいつが承諾してくれれば、ゼンコーの曲でもライブとかで歌えることは歌えるだろうけど」 


 駿が真剣な表情であとの二人を見た。


 「解散だけは嫌だぜ」


 「だなー」


 健太がうなずく。


 「これがプロだと運営との話し合いとかレーベルとの契約とかいろいろ面倒だけど、その点俺たちはアマチュアだし。でも解散はしたくねえ」


 「とりあえずこのメンバーでやっていくか」


 翔が言うと、健太はまた唸った。


 「あるいは解散ではなくしばらく活動休止にして、その間に新メンバーを探したりして、態勢を立て直したら再スタートするってのもありだな。それでいこう」


 駿はうなずいたが、翔は思わず放心状態になった。そしてうわごとのように呟いた。


 「活動休止……再スタート……」


 「翔、大丈夫か?」


 健太が心配そうに翔の顔を覗き込む。


 「あ、ごめん、ちょっとほかのことを考えちまった」


 「ほかのこと? そういえば、おまえの彼女、どうした? 俺んとこの郁代の高校の後輩とか言ってたあの」


 「それが話がこじれて、今空白期間を置いている」


 「空白期間?」


 翔はこれまでの陽子とのいきさつをかいつまんで話した。二人は真剣に聞いていた。


 「そっか」


 健太がため息をついた。


 「空白期間ってバンドの活動休止と同じか」


 「こっちもなんとか再スタートできればいいけど、でもできたとしてももう友達として再スタートってことになる。それもできるかどうか……」


 「そっか、俺んとこは今のところ安泰だけど。で、駿は?」


 「はいはい、おかげさまで今もおひとり様」


 「そっか」


 「でも気楽でいいよ。焦ったって翔の今の話やゼンコーのこと考えるとなあ」


 「なるようにしかならないさ」


 翔が少し笑って、軽く駿の肩を叩いた。駿も少し笑った。健太も笑った。

 今日会ってから初めて出たこの三人に笑いだった。


 家に帰って夕食も住んで、自室でくつろいでいた時である。

 翔のスマホに着信通知があった。

 愛美めみからだった。


 ――[ごめん 今からメール送る]


 翔が返信しないうちに、スマホはメール着信を知らせた。当然、愛美からだ。メールはネットで買い物したときの事務的連絡やメールマガジン、そしてSPANメールの着信があるだけで、プライベートな関係の人からの私信など普通は来ない。

 翔はすぐに開いた。確かに長文だ。おそらく入力が終わって送信する間際に、一応LINEをくれたのだろう。


――「長くなりそうなのでメールにします。本当はLINEだと応答されるし、とりあえず最後まで読んでもらいたいのでメールにしました。電話だと胸がつまって何も言えなくなってしまうと思ったので……


昨日は本当にごめんなさい。きっと怒っていることは十二分にわかりきっています。ここであやまったところで元に戻るわけでもないけど、あやまらずにはいられません。


実はゼンコーさんとも昨日お別れしました。知ってる通りに八月の半ばころから倦怠期になって、会っても会話は少なくなり、会う機会も減りました。たまに会ってもけんかばかり。昨日はゼンコーさんの車で鎌倉まで向かって、適当な駐車場に車を停めて、二人で待ち合わせの北鎌倉駅に向かうはずでした。駐車場を探す必要があるため、かなり早くに出発したのです。


でもその車の中で、決定的な大げんかをしてしまいました。ゼンコーさんは車を道端に停めて、そして怒鳴り合い、罵り合いの大げんかです。そしてもう別れるということになりました。


私はそのまま車を降りました。ゼンコーさんはまるで粗大ごみを捨てたかのように、私を降ろすと元来た横浜の方へUターンして引換していきました。そのあと泣きながらとぼとぼ歩いていたのでよく覚えていません。幸い、車を降りたところが地下鉄の弘明寺駅の近くだったので、私は地下鉄で帰りました。


ゼンコーさんには「さようなら」とひとことLINEメッセージを入れて、既読を確認してから返事が来る前にトークルームを削除しました。それからクロベーさんに象の鼻の脱退を申し出ました。


本当に勝手でごめんなさい。これで七月のゼンコーさんのお兄さんのお店の時以来、二度も約束を破ってしまいました。自分で楽しみにしてるなんて言ったくせに。

こんな私の事、憎んでも怨んでも……もう友達だと思えなくなってもしょうがありません。


私がみんな悪いんだもんね。自分がよくわかっています。せっかくの休日、それも天気があんなによかったのに、気分を悪くさせて本当にごめんなさい。


私、決めました。本当に虫のいい話に聞こえるかもしれないけど、これ以上翔さんにも象の鼻のみんなにも迷惑はかけられません。もう私は象の鼻のメンバーではありません。だからもうこんな私に声などかけないでください。LINEもしないでください。電話もしないでください。私もしません。このメールへの返事もいりません。友を失う事はすごーくつらい事だけど、私がいけないんだもん。あまえてちゃいけないんだと思い、絶交だと言われる前に、自分の方から身を引こうと決めました。


七月といい、今回といい自分に自信がなくなりました。泣いたところで友が返ってくるわけでもないのに……。泣き虫メミ、これでまた友を失くしました。翔さんだけでなくクロベーさんも駿さんも……。


私の事は忘れてください。許してもらおうなんて思っていません。これからも音楽だけは愛してください。私ももちろん音楽は愛し続けます。翔さんやみんなと出会った事、よかったです。七月の時、翔さんのウエイター姿、かっこよかったです。本当にたくさんの思い出、ありがとう。


ではこんなメールでしかおわびの言葉、言えなくてごめんなさい。


ではお元気で。さようなら。


小野田愛美」――


 翔はスマホを置いた。

 しばらくベッドに座ってぼんやりと壁を見つめてから、健太にLINEして愛美からのメールの件を報告した。

 健太のところにも似たようなメールは来たという。おそらく駿にも送っているだろう。


     ――[愛美はいろいろ自虐的に言っていたけど]


     ――[結局は愛美にとっては]


     ――[俺たちはゼンコー側の存在なんだな]


     ――[だからきっぱり縁を切りたかったんだな]


     ――[その結果のメールだろう]


 健太も同意のようだった。

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