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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
スマホケースの向こう側
59/80

9

 到着したときに見た猫たちは、食事の間も空いているテーブルの椅子の上に寝そべっていた。

 決してテーブルの上には乗らないし、客の料理に手を出すようなことはしない。それだけは十分にしつけられているようだ。

 とにかく十分な量の食事に満腹となり、皆それぞれの部屋へと戻った。女性二人だけはすぐに戻らず、猫と戯れていた。

 安達はまだ飲み足りないと言って、オーナーの奥さんに部屋に持ち込むビールを注文していた。


 「食堂にあるガラスドアの冷蔵庫から持って行ってください。あとで持って行った本数だけ教えてくださいね」


 親切にそして気さくに奥さんは言った。

 500mlのビール缶を抱えて部屋に戻った安達は、テレビの脇に缶ビールを並べて言った。


 「それって、客を信用していないとできないシステムだよな」


 「そうだな。オーナーも奥さんも、いい人だな」


 そう言いながらも早速比企はベッドに座り、ビール缶のステイオンタブを引き上げた。ほかの二人も同じようにベッドに座り、缶に入ったままのビールで、食事の時に引き続き再度乾杯した。


 「さあ、さっそく寺島の彼女の話、聞かせてもらおうか」


 安達がもう興味津々だ。だが翔は手を横に振った。


 「待ってくれよ、いきなり。もうちょっと飲んでから」


 たしかに食事の時に飲んだ量はそれほどでもなく、料理の量の多さにあまり酔っていない。そのおかげで今もビール缶を開けているだけで、特につまみなどいらないという感じだ。

 ただあまり何もないのも寂しいので、比企が持ってきた枝豆スナックを袋から直接三人でつまんでいた。揚げた枝豆に塩をまぶしただけのスナックだ。

 だいたいひと缶を三人が同じペースで空けた頃、安達が翔を見た。


 「さあ。そろそろいいかな?」


 翔も腹を決めたような顔を模した。

 そしてかいつまんで陽子と出会ったいきさつから、夏休みを通して恋人同士として付き合ったことなど話し、そして今の状況を告げた。


 「サークルの合宿へ行ってきてから急に態度が硬化して、変だなと思っていた矢先に、二人の関係は恋人から友だちということにしようと急に向こうから、それも一方的に言ってきたんだ」


 「何か思い当たる節は?」


 安達に聞かれて翔は首をかしげた。


 「それがないんだよな。だから、むしろ不思議で。本当に突然なんだよ」


 安達も比企も考え込むような感じになって、沈黙が流れた。

 先に安達が、口を開いた。


 「ひとの彼女を悪く言うのもなんだけど、ずいぶんいい加減な女だな」


 そう言ってから、安達はビールを口に流し込んだ。


 「寺島、おまえなんだか振り回されてないか?」


 安達の言葉に、翔は少しうなだれた。


 「一方的な言い渡しだから俺は承諾してないんだけど、どうせならもうきっぱり別れた方がいいのかな」


 「それ、話が飛び過ぎだろ」


 「だって、今ってめっちゃ中途半端な状態なんだぜ」


 翔もビールを一口飲んだ。


 「どうすりゃいいんだろうな」


 「それはおまえが決めることだよ」


 安達は枝豆スナックをつまむ。


 「でもな、女に振り回されるようになったら、男は終わりだぜ」


 「恋人としては別れても友達でいられるって、ある意味理想かもしれないけど、でもやっぱ中途半端だぜ」


 「向こうはなんで別れるじゃなくってそんなこと言いだしたんだ?」


 「もう恋人ではいられないけれど、やっぱ別れたくはないからって」


 安達は少し呆れた顔をした。


 「とにかくどっちつかずの状態でいるより、はっきりさせた方がいいんじゃないか?」


 「それな。俺、実は今回のツーリングでも、朝高速を走っているころは後ろにタンデムであいつが乗っているような気がして、高速降りた後もしばらくは、いつかあいつも連れてここにきたいって思ってた」


 「うん」


 「でもな、ずっとスカイラインを走って、山登って、あの頃には俺の頭の中には全くあいつはいなかったんだよ。なんでだろ。吹っ切れたっていうか」


 気が付くと、先ほどから翔と安達だけが話をしている。比企は安達と同じベッドだけどちょっと離れたところに座って、時々はスマホを見ながらノートにしきりに何か書いている。全く話を聞いていないというふうではないけれど、ひと言もしゃべっていない。

 そのうち、そのノートをぱっと翔に見せた。

 そこには詩が書かれていた。


 「あれ? 比企って詩なんか書いたっけ?」


 翔がそう言ってノートを受け取ると、比企の自作ではなくよく知っている歌の歌詞だった。最近人気が出始めた男性シンガーソングライターの、吉野(ろう)の「別れのスケッチ」という曲だ。


  丘の上のカフェテラス 赤い夕陽が差している

  いつものジョークも出ないほどに 二人の心も冷めているのなら

  今流れてるこの曲が途切れたら

  僕らも終わりにしよう

  君がコーヒーを飲み終わる前にこの席を立たせてくれ


  いつも振り向けば君がいる そう思う癖が直らない

  昨日までの自分を忘れてしまわないつもり

  いつか時間というやつが

  美しい思い出に変えてくれるさ

  僕らの愛もあの石畳の坂道に消えようとしている


   Eternal love will end now.

   いつかはこんな日が来ることは知っていたし

   それが間近だということもわかってた

   Goodbye, so goodbye.

   Wow wow wow wow Goodbye Our love


 この詞を見ただけで、翔は比企が言おうとしていることはすべて分かった。

 翔はノートを比企に返した。比企がうなずいたので、翔もうなずき返した。

 そしてビールをグイと口の中に流し込んだ。


 翌朝の朝食は八時半に頼んでいたので、その時間に三人は下に降りた。ほかの二つのグループは、ちょうど食べ終わったころだった。

 

 「おはようございます」


 互いに口々に挨拶した。

 

 「今日は、どちらへ?」


 男性グループの一人が、翔に声をかけてきた。


 「この辺をちょっと回って、あとはひたすら帰るだけです」


 「僕らは会津若松の方へ行く予定だったけれど」


 そう言ってちらりと女性二人組のグループを見た。その片方が言った。


 「私たちちょうど同じ予定だったので、車に乗せてもらうことにしたんです」


 「うん、それがいい」


 比企が言った。


 「バスと電車じゃ、このへんはめっちゃ不便だし」


 四人は笑顔で翔たちにもう一度挨拶をして、支度のためにそれぞれの部屋へ帰っていった。

 朝食はスクランブルエッグとソーセージ、パンにコーヒーという洋食だった。

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