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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
鳥の詩
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 陽子は翔の近くに寄ると、少しだけにこっと微笑んだ。翔も同じように微笑みを返した。

 もうすぐ陽子に会うというときの緊張感と会った後の緊張感は同じだけれど、実際にはその緊張感は動から静へと移行する。


 「ご飯、食べた?」


 陽子が聞くので、翔はうなずいた。


 「割と早くに食べた。それに、これからハンバーガー食べるんだから、少なめにしておいた」


 「私も」


 そう言ってから、陽子は翔を招いて小田急線の一階広場の、やはり乗り換え改札とは反対側の独自の改札の方へ向かってい歩いた。それが南口だ。


 「ここねえ、互いの改札内の別の改札行く場合は、さっきの乗り換え改札を入って反対側の改札に出らるの。便利でしょ」


 「たしかに」


 相鉄に乗ってきた人が乗り換え改札で小田急線の構内に入って、小田急線内の改札から外に出られる。逆もまた可能で、便利といえば便利だ。

 横浜駅など、例えば京急に乗ってきた人がJRとの連絡改札を入ってJRの出口から出ることはできない。JRの乗車券を持っていないと連絡改札は通れないからだ。Suicaなどの交通系ICがあれば可能だけれど、JR横浜駅の入場券料金が差し引かれてしまう。

 ここではそのようなことはないという。


 「切符の人は乗り換え改札を通るときはそのための専用改札機じゃないとだめみたいだけど、今どき切符で乗る人なんているのかな?」


 「あ、俺の友だちがね」


 歩きながら翔は話した。


 「何人かで遊びに行っで電車乗るときに、一人だけ切符買いに行くんだよ」


 「ええ?」


 「で、みんなで"原始人かよ"ってばかにしたんだけどさ」


 「うん」


 「そいつっていつもどこに行くときも車でしか行動しないやつだから、Suica持ってなかったんだ」


 陽子はあまり笑わなかった。


 「私の親戚のお姉ちゃんも、どこ行くにも車でしか行かないからバスの乗り方を知らなかった」


 そんなことを話しているうちに、やはり少し小さめの小田急線の改札を出た。出たところは小田急線の高架の下をくぐる道だ。

 駅前はそれほど広くはないロータリーになっていた。駅の上はビルで、商業施設も入っているから人通りは多かった。

 そのロータリーの一角から斜めに延びる道があった。黄色い壁の昭和チックな純喫茶店の前の歩道の上に、大きく「南店街」の看板がやたら派手に出ている。

 そのみずき通りは往復二車線の車道だが、その両脇には大規模なカラオケ店のほかは小さな古い店舗が並んでいた。

 翔はその道の方へ向かう間に、そっと陽子の手を取った。いつもだったら会ったらすぐ陽子の方から手をつないでくるのに、今日は今翔がその手をとるまで二人は別々に歩いていた。

 しかも、どうも遠慮がちに陽子は手をつないでいる。


 「そういえば今日、たまちゃんがシフトに入るのは二時半からだって」


 そのみずき通りを歩きながら、陽子が言った。翔は腕時計を見た。


 「じゃあ、まだいないのか」


 「もうすぐ来るよ。今はとみこがいる」


 「とみこさんは」


 陽子は少しだけ笑った。


 「とみこさんって、本名は冨﨑茉緒なんだから“さん”つけるのおかしいよ」


 「じゃあ、とみこは、俺たちが来るの、知らないんだったよな」


 「うん」


 「突然行って驚かそうか」


 「それは無理」


 「なんで?」


 「あそこね、大きな駐車場があってその奥に店があるから、駐車場を横切るときにたぶんお店の中から見える」


「そっか」


 そんな話をしながらみずき通りをまっすぐ五、六分ほど行くと、歩道橋が見えてきた。その右側に目指すハンバーガーショップの見慣れて黄色い山二つのデザインの看板が見えた。歩道橋のある交差点でクロスするのは藤沢町田街道とも呼ばれる国道467号だ。国道といっても、これまでのみずき通りと同じ往復二車線だった。

 陽子が言った通り駐車場があって、その奥に二階建ての店舗がある。駐車場の向こう側はドライブスルーになっているようで、誘導矢印の看板もあった。


 「建物、きれいだね。この店、新しいの?」


 建物は直方体で壁は濃いグレー、隅は茶色の柱、二階の窓全体を白い枠で覆い、入り口の隣には平べったい赤い柱が建物よりも高く延びている。その上には、このチェーン店の黄色いマークが入っていた。


 「お店自体はずっと前からあるけど、最近全部壊して新しく建て直したばかりだから、建物自体は新しいね」


 そう言いながら二人はまずガラスのドアを手動で引いて入り、その右側の自動ドアの前に立った。ガラス張りの自動ドアが開いた。

 店はかなり大きい感じで、今は客もそう多くはない。

 入って正面の注文レジに、マスクをつけた冨崎茉緒はいた。陽子が笑顔で茉央に小さく手を振ると、茉緒もほかのスタッフやお客さんに見られないように、小さく手を振り返していた。

 

 「しばらく」


 翔が声をかけた。


 「いらっしゃいませ」


 勤務中の茉緒はどんなに親しい友人が来ても、客として接しなければならないようだ。そこが大手チェーン店で、かつて翔がバイトしていたソルティ・キャットとはわけが違うらしい。

 茉緒は一応笑顔ではあったけれど、あくまで営業スマイルだ。

 

 「ご注文はお決まりでしょうか?」


 「じゃあロッテシェーキとモスチーズバーガーと骨なしケンタッキーと、それから牛丼の並。あと、スマイル、お持ち帰りで」


 茉緒は笑いそうになるのを必死でこらえているようだ。


 「ちょっと、とみこはゲラ発動したっら止まらなくなるよ」


 隣で陽子が小声で翔に言った。

 茉緒はなんとか体勢を立て直し、作った真顔で済まして言った。


 「こちらの中からお選びください。スマイルのお持ち帰りはやっておりません」


 そして、カウンターの上のメニューカードを示した。

 仕方なく翔は陽子の分と合わせて、炙り醤油風 ダブル肉厚ビーフのセットとてりやきバーガーのセットを注文した。

 支払いを済ませてそれらをトレイに乗せ二人は席を選んだ。

 

 「あのすました顔、見ものだったね」


 翔は笑いながら言う。


 「だめよ、まじめに働ているところを茶化しちゃ」


 陽子は少しきつめに言っていたけれど、その中にも笑みがあった。二人が頼んだバーガーを楽しんでいたが、茉緒は接客に忙しく全く話をすることもできそうになかった。

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