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ねぇお願いだから そんなに黙らないで
夏の陽ざしの中 笑ってくれよ
そんなに沈んでいると いつもの君らしくないよ
何か悩みごとがあるのなら 僕に打ち明けてほしい
夏の光は二人のために
君のひとみ とても輝いているよ
いつもの君のように笑っておくれよ
陽気にはしゃぎまわる君が好きなんだよ
陽気にはしゃぎまわる君は陽ざしの中で
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赤レンガの倉庫は二つあって、こちら側からだと向かって左が1号館、右が2号館となる。
外観は大正年間に造られた当時そのままの姿だけれど、中に入るとまさしく現代のショッピングエリアで、ひんやりとした冷房の空気に迎えられる。
一つひとつは小規模であるテナントが、倉庫の中にはぎっしりと詰まっている。そんな広くはないスペースに、かなりの数のテナントが入っていた。
入口のすぐに香水の店、左にはチョコレートショップと次は洋菓子店、右は帽子屋、テーブルウェアや雑貨の店、アクセサリーショップなどが並ぶ。
しばらく歩いて見ても雑貨の店が多く、ほかにカフェやスイートの店もある。
そんなテナントの数にもまして館内はものすごい人の群れが埋め尽くされていて、なかなか前に進めない。
「見て見て、あのペンダント、可愛い」
はしゃぎながら人をかき分けてあちこちの店を飛び回る陽子は、やっといつもの元気を取り戻したようだ。
「エプロンも素敵。ICHIGOって書いてある」
多数掛けられているエプロンを、陽子は一つ一つ引っ張り出して眺めたりしていた。
「私、イチゴ、好きなんです」
「たしか二階に、イチゴのデザインの服の専門店もあったかな」
「あ、行きましょう」
二階は一本の通路の両脇に店があり、ほとんどがステーショナリーや雑貨店だ。ヨーロッパの雑貨屋やアパレル店もあってカフェやスイーツの店はない。
陽子は目ざとくイチゴのデザインの服の専門店を見つけた。
そこで時間をかけていろいろな服を見たりした後、オルゴールの専門店でさらに陽子は目を輝かせた。
「これって素敵。翔さんもそう思うでしょ」
翔は苦笑とともに翔はうなずいていた。
ふと気づくと、陽子が翔のことを「寺島さん」ではなく「翔さん」と呼んだのはこの時が初めてだった気がするけど、翔はあえて何も言わなかった。
三階はレストランのようで、まだ昼食には早いので一階に戻った。
そして一度外に出ようとして、2号館に向かう出口の脇にワッフルの店を見つけた。
「あ、イチゴのワッフル! 食べよう食べよう」
陽子がそう言うので翔も笑いながら付き合った。
会計の時、陽子は自分の財布を出していたけれど、翔はそれを手で制した。そしてスマホをより出し、電子マネーで支払った。
ワッフルを手に外に出ると、ムッとする酷暑が二人の全身にぶつかった。だが、だいぶ雲も多くなってきている。
広場を横切って、二人は向かい側の2号館の手前の影になっているところに座って笑ってあれこれ話しながらワッフルを食べた。
それから入った2号館はワンフロアだけがショップで、二階、三階は展示スペースやイベントホールのようだ。
こちらも雑貨店やお土産物屋もあり、すぐに見終わって外に出た。
「山下公園でも行くか。ベタだけど」
翔が提案すると、陽子はうなずいた。
「そうだ。シーバスで行こう」
「シーバスって船?」
「そう。あ、でも山下公園のところの乗り場はたしか工事中で、ここからは横浜駅の方にしか行かれなかったかも」
「とりあえず行ってみよう。船、乗りたい」
「わかった」
シーバスの乗り場は2号館からすぐだ。そこが岸壁で、その先は海になっている。
翔が乗り場の案内版などを見たり、客を誘導して並ばせていた初老の係員に聞いたりした。
そして戻ってきて、頭の上で両腕で大きな輪を作って陽子に○と示した。
「工事は終わって運行再開したって」
「じゃあ、行けるんだ、山下公園」
「うん」
「山下公園に船で行けるなんて、めっちゃうれしい」
陽子はにっこりと笑った。
シーバスは全体的に平たい感じの、ゾウリムシのような外観だ。
全体的に低く、少し待ってから行列に並んで乗り込むと数段のステップを下ることになる。客室のフロアはほとんど海面と同じ高さだろう。
長椅子が前向きに並ぶ客室は側面がすべてガラス張りで、景色の見通しはいい。その上は平らな天井だ。
後部にはデッキがあって、屋根はあるけれど側面は壁もガラスもなく、ほとんど外にいるのと同じだ。
大方の乗客は船室の方へ行ったけれど、翔と陽子は後部デッキの方に席を取った。ほかの席も瞬く間に埋まった。
「開通しててよかった」
景色を見ながら、翔が言った。
「二、三年前から山下公園の発着所は工事で閉鎖中だったけど、工事が終わって再開したのはついこの間だって」
「ラッキーじゃん」
陽子もうれしそうに体をひねって景色を見た。
ベンチはデッキの側面についているので普通に座ると船の内部を向く形になり、外の風景を見ようと思ったら体をひねる必要がある。
すぐに船は動きだした。
目の下すぐのところが海面で、船が進むにつれて白い水しぶきをあげる。
速度はそんなに早くはない。すぐに大桟橋に泊まっている巨大客船のそばを旋回した。まるで十階建てのビルが海上に浮いているようなそんな圧を感じる客船だ。
「いったいどんな人たちが、こんな客船でクルージングできるんだろう」
豪華客船を見ながら、翔はつぶやいた。
大桟橋を周ると、山下公園が見えてくる。その向こうに停泊している氷川丸の方へシーバスは進んだ。実際は停泊ではなく、すでに氷川丸の船体は海底に固定されているらしい。
その氷川丸の隣が、このシーバスの終点だった。航行時間わすか十分だ。
「あれ?」
山下公園に上陸した翔は、空を見上げた。
「なんかやばくね?」
シーバスに乗るときは日がさしていたのに、今はかなり雲が多くなっている。しかも普通の白い雲ではなくたしかに嫌な予感のする雲だ。
「本当はベンチにでも座って海を見ようと思ってたんだけど、空がやばそうだ」
「ほんとうだ。だから予報でも急な天気の変化に注意って言ってたって」
「ちょうどお昼だし、とりあえずどっか入ろう」
空の雲は、どんどん黒さを増してきていた。




