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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
陽ざしの中で
13/80

 横浜駅は東口と西口が巨大なフリー通路で結ばれており、その幅広い通路の左右に改札口があるという形だ。

 その通路の西口側は幅のある短い上り階段と、エスカレータ―だ。

 上ったところはタクシー乗り場やバスターミナルのある駅前ロータリーで、多くのビルに囲まれていた。

 すぐのところの歩道には、向かい合う形で地下に降りる屋根付きの入り口が二基あり、かけるはその左の方の降り口の方に向かった。

 その降り口の下は相鉄ジョイナスの地下部分となっている。駅前のターミナルの全体の下に、地下街は広がっていることになる。

 だが翔は、その地下街へは降りずに直進した。

 その先にある巨大なビルには、大きく「TAKASHIMAYA」と側面に看板が入っている。だが実は相鉄ジョイナスのビルで、それと合体した形で大部分をデパートのタカシマヤが占めているという形だ。

 その相鉄ジョイナスに入る手前に、小ぢんまりとした二階建ての独立した建物の交番があった。

 側面は煉瓦のタイルで飾られていたりして、交番にしては結構おしゃれだ。

 その交番の入り口の脇に、翔は目当ての人影を見つけた。

 昼下がりだった。


 だが、ふと翔は小首をかしげてしまった。

 そこにいたのは二人の少女で、そのうちの一人が翔に気づいたらしく、後ろ向きになるかたちで立ってたもう一人の少女を突っついて「来たよ」と言っているようだ。

 もう一人が振り向き、もうかなり近くまで歩いてきた翔を見てぱっと顔を輝かせた。

 紛れもなくそこには、あの湘南の海辺で陽ざしに輝いていた陽子の笑顔があった。もう一人も、あの時一緒にいた子のうちの一人だ。背が高くて髪が長い、


 「早かったね」


 翔が言った。陽子はにっこりと笑った。デニムのロングパンツと、白い半そでのブラウスだ。今日はツインテールはおろして、髪は肩のあたりで外はねにカールしていた。


 「今来たところ」


 「じゃあ、私、これで」


 髪が長い子は陽子に告げてから、翔には笑顔で会釈しただけでジョイナスの地下の方へと降りて行った。

 翔の顔に、隠しきれずに安心の笑みが漏れた。


 「どこ行きます?」


 陽子が聞くので、翔はあたりを見回した。


 「とりあえずこかへ落ち着いて、それから考えようか」


 「はい。ドーナツがおいしい店、ありますよ」


 陽子に引っ張られる形で、翔はともにジョイナスの地下街へと降りた。

 こうなると、どちらが地元の人かわからない。

 降りたところがいわゆる地下街のメインストリートのようになっていて、そこを少し進んだ右側に小さなコーヒー店があった。

 ところどころにバスのレーンの数字付きの上り階段の出口があるので、やはりここはバスターミナルの地下なんだとわかる。


 入った店は六割方の混みようだった。

 ここもカウンターで注文して自分で席へ運ぶという、セルフサービススタイルだ。翔がバイトしていた店のような、ウエイターが注文を聞きに来る方がコーヒー店ではむしろ珍しい。

 翔はアイスコーヒー、陽子はアイスミルクティーにドーナツをいくつか注文して一つのトレイに乗せ、テーブルを探して座った。


 「わざわざ今日はこっちまで来てくれて」


 少しおどけ気味に翔が言うと、陽子は笑った。


 「私、大学が端っこの方だけど一応横浜市だし、このへんとかもよく来るんです」


 「そうなんだ」


 「だから最初に会った日に横浜案内するって言ってくれたときに、大丈夫ですなんて言っちゃった、ごめんなさい」


 「あれって、そういう意味だったんだ。俺、てっきり断るって意味で“大丈夫です”って言われたんだと思ってた」


 「そいうじゃないんです。よく知っているから特に案内はなくてもって意味で」


 少し慌て気味の陽子の様子に、翔はまた微笑んだ。


 「日本語って難しいね」


 やっと陽子は元のように笑った。


 「ところでさっきの髪の長い子」


 「みっちゃん」


 「そう、みっちゃんだっけ。なんでいたの?」


 「なんか横浜で用事があるっていうから、途中まで一緒に行こうって言って来たんです」


 「一瞬、今日ずっとあの子が付き添いで一緒にいるのかって思って、まいったなって思ったけど」


 「そんなわけないじゃないですか」


 今度は陽子は声をあげて笑った。


 「今日は相鉄線で?」


 「はい。藤沢からだとJR一本で来られて三十分くらいで来られますけど、高いんです。お金払わないといけないし」


 「相鉄線だと定期があるか?」


 「当たり。途中で大学の最寄り駅通るからそこまで定期で、あとの乗り越しもJRで来るのと比べて半分ちょっとくらいなんです」


 陽子は実にはきはきとはっきりしゃべる。


 「それで途中でみっちゃんと合流もできるし」


 「みっちゃんってさっき、この地下街に降りて行ったよねえ。そのへんにいたりして」


 「そうかも」


 また陽子はクスッと笑った。


 「これからどうする? どっか行きたいとことか」


 「んん…どっかお勧めのところ、ありますか?」


 「たとえば?」


 「観光客があまり行かないようなところ。穴場とか」


 「俺んちの近くにいいところある。俺んち、本牧ほんもくだけど」


 「三渓園さんけいえんとか?」


 「その近くなんだけど、もっと穴場だね。地元の人じゃないとまず行かないかも」


 「じゃあ、そこで」


 陽子はますます目を輝かせていた。

 ちょうど飲み物も飲み終わり、陽子のドーナツもなくなったところだった。


 「バスで行くことになる。バスはこの西口ではなく、東口のターミナルからだ」


 店を出た翔と陽子は地下街から横浜駅に入って、巨大な通路に降りて人混みをかき分け東口の方へと歩いた。

 駅の通路の東口側はさらに下へ降りる階段があって ポルタの地下へと続く。

 その突き当りがそごうデパートの地下階への入り口になるが、その手前の右側のエスカレーターを上がればバスターミナルの一つ下のフロアだ。

 翔が陽子を連れて行ったのは、Aレーンの階段だった。そこを上がってやっと地上に出て、バスターミナルのレーンになる。地上といっても上にそごうデパートのビルがあるその下だ。

 人はほとんどいなかった。

 ポールの1~3のどこからでも本牧車庫行きのバスが出るから、ポールに関係なく最初に来たのに乗ればいいと翔は言った。経由はいろいろあるけど、それでもかまわないとのことだ。

 最初に来たのは168系統の、ぴあアリーナMM経由の本牧車庫行きだった。クリーム色に青いラインの入った市営バスだ。

 2番のポールから、二人はバスに乗り込んだ。

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