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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
ソルティ・キャット
10/80

10

 かけるは極度に緊張していた。


     ――[連絡、遅くなってごめん]


 ほんの少したってから、既読が付いた。

 そして時間をおいて、でも思ったよりは早く返事が来た。


 ――[やっときました。待ちくたびれました]


     ――[ごめん]


     ――[毎日がくたくたで]


 ――[そうじゃないかと思ってました]


 ――[だから私の方からは控えてました]


 ――[LINEくれるの待ってたんですよぉ]


     ――[悪い悪い]


     ――[その後、元気?]


 ――[元気ですよ。チラッと疲れてますけど]


     ――[今でも海に行ってるの?]


     ――[なんだっけ、サップは?]


 ――[SUPですね]


 ――[最初に会った日に体験スクール行って]


 ――[半日で終わるんですよ]


 ――[二回目に会った日が二度目の体験]


     ――[ずっと毎日通ってたんじゃ?]


 ――[そんな体験スクールないです笑]


 翔が次のメッセージを入力している間に、先に陽子からのメッセージが来た。


 ――[突然ですけど自己紹介しますね]


 たしかに突然だ。


 ――[名前 ミノリカワ ヨウコ(よっぴー)]


 ――[十八才 誕生日は二月十四日]


     ――[バレンタインデー?]

 

 ――[そうなんです]


 ――[覚えやすいでしょ]


     ――[たしかに」


 それから今通っている大学の名前や学部とかも告げてきた。横浜市内の、翔も名前くらいは知っている女子大だ。横浜市といってもほとんど大和市や東京都の町田市に近い西のはずれにある。

 

     ――[じゃあ俺ね]


     ――[名前はテラシマ カケル 20歳]


     ――[誕生日は十月十日]


 そして翔もまた、自分の大学名を告げた。


      ――[そんなところかな]


      ――[で二回目のときはなんで七里ガ浜に?」


 ――[わからない]


 ――[なんとなくです]


 ――[それであの後みんなからひやかされて]


     ――[あの後って?]


 ――[江ノ電の中で]


     ――[なんで冷やかされたの?]


 ――[さあ笑」


     ――[最近どうしてる?]


 ――[みっちゃんといっしょに]


 ――[みっちゃんっていちばん髪の長い子]


 ――[久保下美咲ちゃん」


 ――[みっちゃんとバイトしてる」


     ――[そうなんだ]


 ――[藤沢のアパレルショップなんだけど]


 ――[それでみっちゃん、同じバイ先のニヘイさんに夢中]


     ――[ほう͡°ʖ ͡° )]


 ――[なにその顔文字笑]


 ――[あの子2:1なら話せるけど1:1じゃまるでだめ]


 ――[だからなんとかしてあげたい]


 ――[恩返しのためにも」


     ――[恩返し?]


 ――[あ なんでもないです]


 ――[私の友だち、みんなおかしいです」


 ――[私がいちばんひどいけど]


 読んでいて、翔は思わず笑っていた。


 ――[寺島さんの趣味は?]


      ――[バイク、それとバンド」


 ――[すごい]


 ――[自分で曲作ったりするんですか?]


     ――[そういうときもあるけど]


 ――[今度会うとき聞かせてください」


  「今度会うとき?」


  思わず翔はつぶやいた。彼女はもう会う気満々のようだ。


 ――「私も歌が好きなんで」


 気が付くと、一時間以上もメッセージのやり取りをしていた。



 「ソルティ・キャット」でのバイトも、最後の一日となった。

 ガラス窓の外は焼けつくような陽ざしが降り注ぎ、いよいよ夏本番を迎えつつあった。

 常連のサーファーたちとも、ようやく打ち解けてきた。

 

 「なんだかあっという間だったね」


 あがり時間も近づく頃に、ふとマスターが言った。


 「はい。でもとても濃い二週間でした」


 「これからも、弟のことよろしく頼むね」


 「わかりました」


 店内を見渡し、翔は少しため息をついた。


 「いざとなったら寂しいです。常連のお客さんたちともやっと仲良くなれたのに」


 「いつでも遊びに来てくれ」


 そんな言葉に見送られて、翔は午後五時に店を出てスズキGSRにまたがって、エンジンをふかした。


=====================


 海の歌を歌いたいそんな夜は

 聞こえる波も鎌倉あたり


 まぶた閉じれば江の島が見えて

 あの子の家ももう近く


  湘南 会いたい恋人に

  いつでも感じていたい

  互いの身を寄せ合いながら

  湘南ビーチガール

  Oh,Lovely lovely you


 潮の香りの中で眠りたい夜は

 水平線の夢を見て


 君と二人 何も語らなくていい

 波の数を数えていたい


  湘南 渚で口づけを

  かわして瞳からませ

  いつでも夢を見ながら

  湘南ビーチガール

  Oh,Lovely lovely you


=====================


 最後の勤務から帰宅した夜、食事と入浴を済ませた翔はさっそくスマホを開いた。


     ――[バイト、終わった」


 ――「わあお疲れさま」


     ――[今なにしてた?]


 ――[ドラちゃんと遊んでました]


 ――[ドラちゃんってうちで飼ってるインコです」


 ――[まだ子供で頭と羽のとこにしか毛がないんです]


 翔は不思議そうな顔で少し首をかしげた。


     ――[とにかくバイト終わったし]


     ――[いよいよ本格的な夏休みだ]


 ――[試験も終わったんですか?]


     ――[バイトしてた期間が実は試験期間]


 ――[大丈夫なんですか?]


     ――[ほとんどが授業内試験だったし]


     ――[レポートの授業も多かったから」


     ――[そっちは?]


 ――[これから]


     ――[それこそ大変じゃん]


 ――[笑っていればなんとかなる」


 それを読んで思わず声をあげて翔は笑った。


     ――[たしかに]


     ――[夏休みが終わるのは?]


 ――[九月の中旬くらいかな]


     ――[おれんとこと一緒か]


     ――[正味一ヶ月ちょっとしかないじゃん]


 ――[ですよね]


 ――[高校と変わんないです]


     ――[九月いっぱい休みってとこもある]


 ――[いいなあ]


 陽子の返事のスピードは、驚くほど速い。


 ――[寺島さんはこれからどう過ごすんですか?]


     ――[お盆のころにライブやるからその練習]


 ――[バンドやってるんでしたね]


 ――[見に行っていいですか?]


     ――[もちろん]


     ――[ってかぜひ」


 ――[じゃあ会えるのその時ですかね]


 やはり陽子は翔ると、また会う前提であることは確定だった。


     ――[いやその前でもいいよ]


     ――[練習は毎日ってわけじゃないし」


 ――[じゃあ私の試験が終わったらすぐに]


 ――[それまではLINEで]


 「なんかもう恋人同士みたいじゃんか」


 相手には聞こえないことをいいことに、翔は声に出して呟いた。

 LINEのやり取りが終わった後も、翔はベッドの縁に腰掛けてしばらく放心していた。

 そしてほかに誰もいない部屋の中で、独りでにやけていたりした。

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