王宮では双子はタブー
王宮内はとても広くそれでいて荘厳な作りになっていた。
壁には肖像画がたくさん飾られていていたり、廊下には赤い絨毯がしかれその絨毯にも金糸が使われているのか、何かの模様が施されていた。
天井はずっと高く、その天井には何かしら絵が描かれていた。
私もサヤもあまりの美しさに口をポカンと開けながらまわりをキョロキョロと見ていた。
でもやっぱり視えているのよね。
人でない何かが。それも元いた世界よりけっこうたくさん。
でも元異世界では視えるのはせいぜい幽霊くらいだったけど、今は視たこともないものが視えていた。
背中に羽をはやした妖精なのか精霊なのか分からない何かや、コロボックルのようなとんがり帽子をかぶった小さい何かが床を駆けまわったりこちらの様子を見たりしていた。
ふわ~、元いた世界では視たことのないものが視えてるよ。サヤはどうなんだろう?
ちらっとサヤの方を見るとやはり私と同じものが視えているのかまわりや床をキョロキョロと不思議そうな顔で見ていた。
うーん、やっぱり異世界に来たから視えているのかなぁ。
騎士二人に客間へと案内されると、その客間ですら立派な装飾が施された家具が置いてあり、使っているのではなく展示されているだけなのではと思うほどだった。
「聖女様方、こちらでしばらくお待ちください。何かありましたら侍女にお申し付けてください。ではまた後ほど」
騎士二人がぺこりと頭を下げると侍女と思われる女性が入ってきた。
「聖女様方のために用意させていただきました。お口に会えば幸いです」
そう言って紅茶と様々なお菓子が乗った大きめのお皿を私たちの前に置いていった。
ふんわりと漂う甘い匂いに二人で手を伸ばす。
思えばこちらに召喚されたのは真夜中だったなぁ。お腹がすいて当然だよね。
口に運ぶと甘くて上品な味わいがした。
「おいしいね! こんなおいしいクッキー初めて食べたかも!!」
「本当だね!! さすがは王宮で出されるだけあるなあ」
その後は二人でパクパクパクパクと食べていき、見事にたいらげてしまった。
は~! おいしかったぁ!! こんなお菓子よっぽどの高級店に行かないと食べられないよ。
満足してふと侍女の方を見る。
すると侍女の腰あたりに黒い何かがまとわりつているように見えた。
それに侍女のほうも時々腰あたりをさすりながら疲れたような顔をしている。
あれってやっぱりこの世ならざるものなの?
すると耳元で声がした。
「かわいそう。悪しきものが張り付いててつらいんだわ」
「え!?」
今確かに声が聞こえてきた?
すぐ横を見ると背中に羽をはやした妖精か精霊かが私の肩にちょこんと腰かけていたのだ!!
そんな!! 今まではどんなものが視えても声までは聞こえなかったのに!!
驚いて見ているとその妖精か精霊はこちらを見てパチンとウィンクして見せたから思わず大声を出すところだった!!
は!! それより侍女だ侍女!
悪しきものが張り付いているから侍女はつらそうな疲れた顔をしているのかもしれない。
とにかく触ってみるだけでもしてみようか?
妖精のようなものの声まで聞こえたんだもん。もしかしたら祓う事が出来るかもしれないじゃない?
まあ今までそこまでできたことはないので不安もあったけどとりあえずやってみることにした。
「あの、すみません」
急に声をかけたからか侍女は慌てて返事をする。
「は、はい!! 何でございましょうか!?」
「えっと、あの、ちょっとこちらに来ていただけませんか?」
「はい!? は、わ、分かりました」
静かに歩み寄ってそばまで来た侍女はきょとんとした顔をしている。
その間にもこの世ならざる者が張り付ている。
「ちょっと失礼します」
一言断ってから侍女の腰に張り付いている黒いものにそっと触った。
すると触ったとたんその黒いものが消し飛んだ!!
「あ、あら!? 急に腰のあたりが楽になったわ! 聖女様、何かしてくださったんですか!?」
「え、は、はい。あなたの腰に黒い何かが張り付いていたので触ってみたら消えてくれたんです。たぶん浄化できたんだと思いますが」
すると侍女は信じられないという顔をして慌てて頭を下げてきた。
「あ、ありがとうございます!! ずっと腰のあたりが具合が悪かったのですが楽になりました! さすがわ聖女様ですね!」
あまりにも感激されるものだからこちらとしてはどうしたらいいのか分からない。
「いえいえ、具合がよくなったのでしたらよかったですよ。どうかお大事に」
侍女はペコペコと頭を下げながら元の定位置に戻った。
ふえ~、こんなことが出来るなんて思わなかったなぁ。
小さいころから何かしら【力】があることは分かっていたけど、まさかこんなところで【力】が使えるとは。
自分の手をまじまじと見ているとサヤが話しかけてきた。
「アヤにもあの黒い塊が視えてたんだね。私もどうしようかと思ったんだけどアヤが先に何とかしてくれたから助かったよ」
「そうだね。まさかうまくいくとは思わなかったけど、何とか出来たから良かったよ」
「うんうん!!」
その後、お腹がいっぱいになった私はものすごい眠気に襲われた。
サヤの方を見るとうつらうつらとしていた。
「サヤ、私の肩を貸してあげるから少し寝たほうがいいよ。私も寝るからさ」
「うん、ありがとうアヤ」
どのくらいそうして眠っていただろう。
あまりの気持ちよさにずいぶん眠っていたんじゃないかな。
「……様、聖女様、起きてくださいませ。もうすぐ夕食になりますので」
聖女様? 誰のこと? それよりもう少し寝かせてほしいよ……
浮上した意識をもう一度眠りの中へ入ろうとするとどこかから声が聞こえてきた。
「これだから双子は駄目ね。いくら聖女の力を持っているとはいえ双子揃ってでは縁起が悪すぎるもの」
その言葉に私はバチっと目を開ける。
今誰かめちゃくちゃ失礼なこと言わなかった?
「まあ聖女様、お起きになられましたか。もうすぐ夕食の時間ですので起きてくださいまし」
目の前には先ほどの侍女が立っているだけ。
にこにこ笑っているような気がするけど、少し顔が引きつっているのは見間違いじゃないだろう。
じっと侍女の方を見ると侍女は首をかしげる。
さっきのセリフ、もしかしてこの侍女が言ったのでは!?
しばらくじっと見つめていると居心地が悪くなってきたのか少しソワソワし始めた。
「あ、あのう、何か御用でしょうか?」
耐えきれなくなったんだろう。侍女が要件を聞き始めた。
私はため息を吐くと首を軽く横に振る。
「いえ、こちらこそじっと見つめてしまいすみませんでした。夕食の時間なんですよね? 今妹を起こしますので待っててください」
「は、はい」
さっきの言葉はまず間違いなくこの侍女が言ったんだろう。
この部屋には私とサヤ以外にはこの侍女しかいなかったんだから。
まだ私の肩に頭を乗せて熟睡しているサヤをゆする。
「サヤ、サヤ起きて。夕食の時間だってさ。早くしないと食べられなくなるよ」
「うーん……夕食……」
「こらこら寝ちゃだめだよ! 起きて!」
さらにゆするとやっと目を覚ましてくれた。
「あ、あれ? もう夕方? ふわ~ずいぶん寝ちゃったんだなぁ。アヤは眠れた?」
「うん、私もよく眠れたよ。私も今起きたところなの」
「そっかあ。疲れがたまっていたんだね、私たち」
二人で話しているとドアがノックされて別の侍女がワゴンを押して入ってきた。
「夕食でございます。ゆっくりお召し上がりください」
そう言ってコトコト並べられていくお皿の上には写真でしか見たことがないような繊細でそれでいて美味しそうな美しい料理が乗っていた。
「うわあ! すごいね!! こんなきれいな料理初めて見たよ! 美味しそうだね、早く食べよう!」
「あ、う、うんそうだね、早く食べようか」
ナイフとフォークを使いながら食べていく。味も絶品だ!!
夕食を食べながら私は侍女に聞いた。
「あのー、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「はい、何でございましょう?」
「ここの王子様が言っていたんですが、双子はなんか嫌われてるみたいですね。どうしてなんですか?」
私の言葉に侍女が凍りつく。
あ、やっぱり答えにくい質問だったか。
「あ、あ、あの、それは私の口からは少しはばかれると思いますので……」
「気にしないでください。あなたのさっきのセリフも気になりますので」
言葉で追い打ちをかけると侍女はまた凍りつく。
「え? アヤ何か聞いたの?」
サヤはもぐもぐと夕食を食べながら聞いてくる。
「うんまあちょっとね。かなり気になることを言われたの」
「へえ? そうなんだ?」
「うん」
私たちが話していると侍女はは分かりやすいくらい動揺している。顔色なんか真っ青だ。
「あ、あの、私には何のことか……」
侍女が言い訳をする言葉にかぶせて私はもう一度言った。
「双子のことについて聞きたいんですよ。なんでもいいので話してください。別にあなたを責めたりはしませんから」
思いっきり責めているとしか聞こえない口調で先を促すと、侍女はしばらくもじもじとしていたけれどあきらめたのか話し始めた。
侍女の話によると内容はこうだった。
双子は昔から後継者争いの元になるという事で、双子が生まれると不吉とされていたらしい。
特に王族や貴族の間では跡目争いの元となるとして、双子のどちらかを捨てるか、もしくは双子はどこかに閉じ込めるか、最悪の場合殺されるかしてきたという。
特に王宮では双子はタブーであり、誰の子か分かっていても、それが王妃が産んだ子供でも何らかの方法で処分されてきたという事だった。
侍女はしどろもどろに答えていたがはっきり言うとこういう事らしい。
「あ、あの、でもお二人は聖女様ですしきっと特別なはからいがされるはずでしょうから心配はいりませんよ!! どうかお気になさらずにいてください!!」
侍女はかわいそうになるほど小さくなって必死に言った。
私の頭にはあのリチャード王子の態度を思い出すととてもそんなはからいはしてくれなさそうだなと思った。
「話してくれてありがとうございます。言いづらいことだったのに無理に聞いてすみませんでした」
まだおろおろしていた侍女はやっと落ち着けたのかほっと胸をなでおろす。
うーん、これはおそらく城にはいられないだろうな。
今この国の偉い人たちが総がかりで会議を行っているだろうけど、王妃の子供さえ残酷な扱いを受けるんなら、聖女とはいえ双子である私たちのことをこのまま王宮に置いてくれるとはとても思えないもんな。
「王妃様の子供ですらそんな扱いを受けるの!? かわいそうすぎるよ!! 双子だからって何もそこまですることないのに!!」
サヤは先ほどの言葉で怒り心頭だ。
「まあまあ落ち着きなよサヤ。この国の王族や貴族のしきたりみたいなものでしょうから私たちが何を言っても仕方がないって。それより早く夕食を食べ終わろう」
「でも!!……分かったよ、そうする」
サヤはなおも何かを言おうとしたけど、これ以上言っても仕方がないと思ったのか夕食を食べ始める。
さてと、これからどうするかなあ。
おそらく明日には答えが出るだろう。それも最悪な答えが。
こんなところで殺されたくないし王宮を出るほうがいいんだろうけど一文無しで出されるのは困るな。
双子を召喚させてしまった失態をちらつかせてお金をもらうのはどうだろうか?
そうでもしないと他の王族や貴族の耳に入ってしまうかもしれないぞと言えばいくらかはお金を出してくれるかもしれないもんね。
いきなり異世界に呼び出されてこの後何をすればいいか分からないという非常に厳しい立場に立たされていたけど、なぜか私の心はひどく落ち着いていた。
だいぶ遅くなりました! やっと書けた話は王宮内での双子の在り方でした。
癒した侍女にさえ「縁起が悪い」と言われてしまったアヤとサヤ。
王宮からどんな扱いを受けるのか。
またのんびりと続きをお待ちください!