魔王様がログインしました
魔王オンラインは魔王になって人間を支配するゲームである。
だが、大抵は人間を尻目に宇宙開発に邁進する。魔王オンラインはそれが出来る自由度の高いゲームなのだ。というか、最初はささやかなおまけ要素だったのだが、そっち方面で人気が出過ぎてもうどの方向に向かっているのか誰にもわからない。エイリアンも複数種用意してあり、もうそれ、惑星開拓想定のゲームでしょ? と言う有様。
俺は、それにかなり嵌っていた。
プレイヤーの名前は、宇宙の旅人……スペーストラベラー。逆から読んでラベラトス。島の名前は有名すぎるあの組織を捩ってニャサ。
プレイ技術はそれほどでもなかったが、課金パワーを駆使しながら、駆け上がっていった。
βテストから参加していた思い入れのあるゲームなだけあり、かなり楽しかったが、いかんせんどんなゲームにも終わりはある。
愛されに愛された魔王オンラインだが、やりたい事もやり尽くされて、ゲームは終わりに向かっていった。
サービス終了の日は燃えるイベントだった。
全ての魔王の力を使って、宇宙災害を食い止めろということで、全てのプレイヤーに専用の宇宙船が配布された。そして、全軍出撃となったのだ。ログインしてない魔王も、オートで出撃となった。
やる事がなくてオワコンになってしまったこのゲームだが、やり尽くしたゲームでもあった。ハイになった俺達は、勢い込んで宇宙船に乗り込んで、宇宙へと飛び立った。
そして、意気揚々と宇宙空間に飛び出して布陣していった。
魔王なので宇宙空間でも平気なのである。
「全軍出撃! 全軍出撃!」
「物理的に燃えるぜぇぇぇぇぇぇ!!」
宇宙嵐の中、凄まじい勢いで飛んでくるいくつかの石があった。
そして、小さな石の欠片がジャーシン様の防壁にそれがぶつかると、ジャーシン様が実体化して吹き飛ばされてくる。
「いかん! まだ魔王砲が!!」
「あんな小さい石で邪神様突破とかwww」
「俺に任せろ!」
「ジャーシン様の防御壁を突破された! 今!! プレイヤーが運営を越えるとき!!」
俺を含む何体かのお調子者の魔王が、ジャーシン様や魔王砲を庇い、その前に躍り出る。
そして、幾つもの石が貫いた瞬間、とてつもない痛みが俺を襲った。それは真っ先に前に出た俺を連続して襲った。
「ぐああああああああああああああああ!!!!!!」
「なんだ!?」
「いったーい!」
悲鳴がいくつもあがる中、そして俺の意識は薄れていった。
「っは!! 夢か……。え? あれ? どこだここ」
まるで今の状態が夢のような、不思議な錯覚を受ける。
懐かしい夢。前世の夢。段々と頭がはっきりしてくると、夢の記憶と現実の記憶が統合されていく。その中に、解せぬものがあった。魔法の知識だ。まるで、本当に魔法が存在するかのようではないか。何が嘘で、何が本当?
わかるのは、冷たい岩肌と痛みだけ。なんとか立ち上がると、傷がどんどん癒えていく。嘘だろ?
そうだ、俺は巨大な蜘蛛に襲われて、妙な服装の子に庇われて。こんなファンタジーあるかよ。でも今まで心のどこかで期待してた。体を鍛えて、いつかこんなことがあるはずって。だから、山なんかで修行して。
洞窟の入り口では、必死に妙な服装の子が蜘蛛に応戦してる。
「勘弁してよ、ジャーシン様……」
ーー目覚めたか、ラベラトス。
かつて聞き慣れたNPCの邪神様の声が聞こえた。えっ 幻聴?
ーー幻聴ではない。そして、汝はもうプレイヤーではないし、我は運営ではない。汝は魔王で、我は邪神。あのエネルギー物質は、電子の海を実体化させてしまったのだ。あの時から、1512年の時が過ぎているようだ。我は慎重にプレイヤー達の魂が再生するのを待ち、魂を保護し周辺世界に転生させた。
「えっ 異世界にゲームキャラで転生ってこと?」
ーー察しが早い。実体化しても、我の役割は変わらない。魔王に相応しき者を見出し、サポートする。我の名はジャーシン……魔王を導きし者。
「えっ それってやばくない?」
邪神様が実体化とか草も生えない。
ーー危険性は汝も変わらない。数多の魔王が実体化したのだ。これより魔王オンライン2がゲームスタートとする。
「ちょっ 他の魔王の事を知りたい!」
ーー魔王は今、各世界に散って転生している。調整をしつつ時期を待っていたが、汝が命に関わる怪我をした為、少し開始時期を早める事とした。たった今、封印されし力を解放し、転生魔王には「転生魔王セット」を配布した。それとは別に魔王も選定し、全ての魔王に「魔王様スタートセット」を配布した。
「マジで?」
ーー楽しい魔王ライフを送るといい。我が名はジャーシン……
ジャーシン様の気配が遠ざかる。
「……勘弁してよ、ジャーシン様」
言いながらも、顔がにやけるのを止められない。貰った物の確認をする。
元気に反撃しているから、あの子はまだ大丈夫。現状確認が先だ。
魔王のタブレットは自然と出せた。
まず目についたのが、不思議な石。これが7つ。ぞわりと肌が泡立ち、ワクワクが抑えられない。
さあ、魔王様スタートセットから行こう。
まず、このタブレット。
適正ダンジョンコアチケットが一枚。
ダンジョンコア引換券(D)が一枚。
ダンジョンガチャチケットが一枚。
なお、券一枚で同じダンジョンコア三つが手に入るから、コアは九個分という事になる。
直ぐにダンジョンが使えるようになる超成長石が三つ。
ダンジョン強化アイテムガチャが30枚。
ダンジョン強化アイテム交換チケット(D)が30枚。
回復ポーションが100個。
魔王様初期装備交換チケットが5枚。
魔王様初期装備ガチャが5枚。
魔王様のローブが一着。
装備セット交換チケット(E)が1セット。
装備セット交換チケット(D)が一枚。
装備セットガチャチケットが一枚。
宝箱が一つ。
宝物引換券(D)が3枚。
宝物ガチャが1枚。
魔法のスクロールガチャが10枚。
魔法のスクロール交換チケット(D)が10枚。
ジョブブック交換チケット(D)が5枚。
ジョブブックガチャチケットが5枚。
マイルームアイテム交換チケット(D)が3枚。
マイルームアイテムガチャが3枚。
マイ領地アイテム交換チケット(D)5枚
マイ領地アイテムガチャ5枚
そしてガチャチケットが30枚。
確定レアチケットが10枚。
食料一ヶ月分
邪神貨100J。
魔王貨1,000MK。
魔貨10,000M。
ダンジョン通貨100,000DP
金貨 3,000枚
魔王推薦チケット1枚。
そして、転生魔王セット。
累計購入邪神貨から考慮した邪神貨。俺の場合は1,000,000J
累計アイテム価値から考慮した魔王貨。俺の場合は5,000,000MK
累計ダンジョン資産から考慮したダンジョン通貨10,000,000DP
領地ランキングから考慮した領地チケット(天・地・海)3枚
キャラクターのレベルから考慮したNPC進化薬(S)36個
世界移動の腕輪
小型魔導宇宙船
ダンジョンコア引換券(S)3枚
領地施設引換券36枚
魔王推薦チケット3枚
素晴らしい。全体的に太っ腹である。
その他には、異能に目覚めていた。
能力としては、糸、毒、飛空。ゲームでは蟲人だったので妥当だと思う。
ゲームそのままというわけでもないようだが、変身後の姿も気に入った。
蜂の羽。毒滴る針のついた尻尾、蜘蛛糸を手から出せる。
タブレットのシステムは、と。
アイテムボックス、マイルーム、マイダンジョン、マイ領地、加護、ショップ、フレンドコール、ジャーシン様への祈り、スキル、通貨作成、魔王指南書。
通貨作成は魔力から魔貨を作る事ができるシステムである。何はともあれ、これはいち早くオンにする。
ジャーシン様への祈り、これも実行。一日一回まで使用可能で、ログボがもらえるのだ。
祈ってくださいと指示が出て、祈る。魔王貨が1MK貰えた。よしよし。
次にフレンドコールに行き、魔王名を設定。これでフレンドコールが使えるようになる、と。
名前によってボーナス付与との注意書きも出る。
魔王名、魔王名ね。それでも俺は、ラベラトスだぜ!!
【名前を設定いたしました】
【宇宙空間への耐性アップ】
【前世の能力値を一部引き継ぎ】
おお! これはいい。
さて、そろそろ行かないと。ぶっちゃけ空間の亀裂から大きな蜘蛛とあいつが現れたから、原因あいつだと思うんだけど、俺の事は身を挺して庇ってくれたしな。若干マッチポンプっぽいが助けないと。
「そこの、名前は?」
「無事だったか! って化物!? あ、わりぃ。巻き込んだ。こんな事になるなんて。俺の名は楓。紅玉魔法学院の生徒だ」
日本語だな。並行世界の日本なのだろうか。
「俺は魔王ラベラトス。つってもレベルは1だがな。助けてくれて礼を言う。もう大丈夫だ」
「は? 魔王?」
「とりあえず、ここから逃げるぞ」
「無理」
楓は腹の大きな傷を見せる。毒で変色してしまっているし、糸が食い込んでいる。
「魔法で誤魔化してるけど、もう限界なんだ。ごめんな」
ポーションや進化薬じゃ多分無理だ。俺は直感した。
だから俺は、魔王推薦チケットを押し付けた。魔王推薦チケットが輝く。
「ジャーシン様……! どうかこの者の気高さまさしく魔王! この者、楓を新たなる魔王として迎え、お助けください!」
ーー心得た。なお、推薦された魔王には推薦魔王セット、推薦した魔王には指導セットが与えられる。
チケットを使うと、傷がみるみる癒えていくので、ホッとする。
「ジャーシン様? 頭の中で、声がする……」
「ジャーシン様のお導きに従うんだ」
しばし、頭の声に集中させ、楓の張っていた結界が破られたので抱き上げて洞窟の奥へと移動する。
それでも蜘蛛が追いかけようとしてきたので、世界移動の腕輪を使う。
間一髪、俺たちは避難できた。
そのあとはジャーシン様に祈らせ、通貨作成を設定させる。
「俺は、化け物になっちまったのか? その、魔王ってやつに」
「そうだ」
「ここは、異世界、なのか……?」
「もう君の世界に帰ってきたよ。さっきも言ったけど、俺は魔王ラベラトス。フレンド登録する? 魔王についていつでもレクチャーしてやるぜ。まずは魔王名を決めるんだな」
そうして、改めて青年を見ながら手を差し伸べる。かなりのイケメンだ。
蜂蜜色の金髪に金の瞳。とにかく派手なのに、服装は和風。言葉は同じ。並行世界の住人だろうか。
「頼むわ。俺の名前は織峰 楓っつーんだ。魔王としての名は……雷光だ。ジャーシン様が推薦してくれた名前だ。助けてくれてありがとう」
「よろしく、雷光。こちらこそ、救ってくれてありがとう」
「それにしても、これからどうすれば……」
「まずはジャーシン様に祈れ。毎日祈れ。あとは通貨作成をオンにしろ。いつでも出ていけるよう、身の周りの物をアイテムボックスにまとめておけ。会いたい奴には別れを告げとけ。本当に信用できて向こうが望んでくれるなら眷属な。魔王指南書にも大体の事は書いてあると思うけど、俺もバタバタすると思うし、一週間後に連絡するよ。もちろん、その前に連絡をくれてもいい」
「わかった。そうか、学校やめなきゃか……」
「潜伏できるだけ潜伏していく方向で行くか? どのみち、すぐに逃げられる用意はしておけよ」
「魔王は、人類の敵か?」
「生まれたての魔王はな。ただ、本当にすごい魔王は、人間を襲わない。本当にすごい魔王は」
スッと夜空に浮かぶ月を指差し、俺はいった。
「月を目指すんだ」
「月、を?」
「通貨作成をオン、ジャーシン様に祈る、貴重品をタブレットに入れる、魔王指南書を読む、一週間後に会う。わかったな? ダンジョンコアは俺の許可があるまで使うなよ」
「わかった」
なお、推薦魔王セットは魔王様のローブ、適正ダンジョンコア3個と魔王貨100枚、魔貨1,000、10,000DPだった。しょぼい。翻って指導セットはなんと邪神貨2,000J。これは導く魔王によって当たり外れあるな。
もう大学は夏休みに入ってるし、久々に初心者を導くか!
なお、レイドボスっぽいあの蜘蛛は自衛隊と米軍が美味しく頂いていた。
あの巨体、あれだけ派手に動いてるんだ、絶対見つかってると思ってた。