04:決闘試験
騎士団入団試験の仕組みは、勝ち抜き方式でございました。
まず、見習い同士で剣を交えます。そしてその中で勝ち残った者が、試験官である騎士と戦い、勝利するのでございます。
最初に行われた試合は、わたしと知らない少年との戦いでございました。
騎士見習いなのでございましょう。
わたしはすぐさま剣を構えると、急所を狙いに行きました。わたしの一撃にその少年は屈し、敗したのでございます。
……が。
「まだまだ」
第二試合、第三試合。
それぞれ、やはり年端のいかぬ少年たちです。女の中でも背が異常に高く、簡単に男すら越してしまうようなわたしですから、少年たちが勝てるはずがございませんでした。
わたしはどこか申し訳なく思いましたが、騎士は実力でございますからね。
そして第四試合、対戦することになったのは――。
アルデート・ビューマン様でございました。
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わたしはアルデート様に勝ったのです。
もちろん躊躇いがなかったわけではございません。しかし、どうしても手を抜くわけには行きませんでした。
そんなことをすればアルデート様への無礼だと思ったからでございます。
ただの町娘を救おうと思い、助けてくださったそのお心。
わたしはアルデート様のその清らかなお心に惹かれ、真にお慕いしているのでございます。だからこそ、手を抜いてわざと負けるなどという汚い手は使いたくありませんでした。
当然ながらわたしは、アルデート様を一撃で倒してしまったのでございます。
アルデート様が第四試合まで残れたのは、他の方々が手抜きをしたからでしょう。
アルデート様は伯爵家のご令息でございます。下級の貴族令息たちが気を使い、わざと負けることも考えうること。
しかしわたしはそれを致しませんでした。
負けたはずのアルデート様の笑顔を、わたしは一生忘れることがないでしょう。
「ありがとう」と言って、彼は立ち去っていったのでございました。
そしてわたしは第五試合も終え、最終試験へ臨みます。
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試験官の騎士との戦いは過酷なものでございました。
厳しいのでございます。とにかく苛烈で容赦がなく、一瞬の隙も許してはくれません。
そんな中でわたしは防御の一方。長引く戦いに、徐々に疲れが出てきます。
……騎士たる者、強くあれ。それはわかっていますがこんな娘の体では限界があるのでございます。
それでもわたしが膝を屈しなかったのは、アルデート様の存在があったからでございます。
わたしが打ち負かした時のあの微笑み。あれを思い出しながら、胸の恋情を燃やして剣を振る。
あの方を負かしてまでここまで来たのですもの、わたしはあの方に恥じないような女でありたい。
アルデート様はわたしが騎士になるという夢を、応援してくださいました。
他の多くの方が笑ったというのにです。女であるわたしに、きっとなれると笑いかけてくださった日々をわたしはむげにはできるはずがございません。
試験官の剣がわたしに達しようとした時、奇跡は起こったのでございます。
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湧き上がる光は、眩しすぎて目を覆いたくなるほどのものでございました。
その光が溢れると共にわたしの体の奥底から力が湧いてくるのです。今までの疲労と痛みと苦痛が全て消え去り、そしてわたしは光る剣を携えて、試験官の剣を打ち払っておりました。
この不思議な力は一体何なのでございましょう? わたしはわけがわからぬまま、しかし勝利したのでございます。
後でこれは光魔法というものだと教えられました。
光魔法は、治癒魔法と似て体を癒す力があるのだそうです。それをわたしは己に使い、そして同時に光魔法を剣にこめ、攻撃を放ったのでございました。
光魔法は時に鋭い刃ともなるのだと、試験管様は言っておられました。
つまりわたしには光魔法の素質があったのでございます。
どうして今まで気づかなかったのでございましょうか。一度これを使ってしまえば、今までの数十倍も強くなることができました。
最終試験に勝ち残ったわたし。しかしわたしは、眠れる光魔法の力があるのでございます。
それを引き出してこそ騎士。わたしはさらに、自主鍛錬を続けることになるのでございます。
アルデート様に誇れるような、最強の騎士を目指して。