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自称晴れ女な君  作者: 小林志苑
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忘れ物

生きているこの瞬間、人間は考えることを許されたのだから常に考え続けなければならない。

それは無意識に自分の心の中で行われている。

時は金なりという言葉がある、アメリカの政治家の言葉らしいが、その人が言うには時間はお金と同様に貴重なものだから、決して無駄にしてはいけないと言う事らしい。

時間はあっという間で、波に流され過ごしているとすぐに過ぎ去ってしまう。

ぼーっと生きて、そのまま死ぬなんて悲しい事は僕はしたくない。

だから僕は考え続けたい、思考を止めないで、笑って過ごすそんな未来のことを考える。

「あ。傘忘れちゃった」

6月13日、曇り時々大雨。

僕のの生まれ育ったこの日様市ひさましは完全なる梅雨入りを果たしていた。

みな毎日毎日降る雨にうんざりしているのだが。

そんな日に傘を忘れただなんて聞き間違いだろうかと横目で彼女をみてみた。

「あ、……」

目が合ってしまった…。こちとら相手の名前もクラスも存じていないのだが、なんとなく一言かけないわけにはいかないわけで。

「傘、使う?」

僕は社交辞令にもとれるような当たり障りのない言葉をかけた。

「あ、いや、大丈夫です!」

あちら側もまた社交辞令の様に、丁寧なお断りを告げられた。

よし、これで彼女との対話は終了した。

この気まづい空気もなんだし、僕ははさっさと家に帰って寝よう。

偏頭痛持ちの僕は雨の日になると普段よりずっと頭が痛くなる事が多い。

この日もそうだ、早く帰って寝たかった。

にしても土砂降りだな。

こんなにも大雨になるのだから、遅刻してでも取りに帰った甲斐があったというものだ。

この子も僕と一緒で、出かけに降っていなかったから家に置き忘れてしまったのかな。

少し可哀想だがこれ以上この子に構っていても仕方がない。

ちらりと彼女を一瞥して僕は帰路歩きだそうとした。

なぜ歩き出さなかったのかって?

それは彼女の姿、形、髪に跳ね返った雨までもに目が離せなくなってしまったからだ。

彼女の全部に僕が吸い込まれていく感じがした。

目が合った時には気づかなかった、焦りもあってちゃんと見えてなかったのかもしれない。

もしくは既にその時には彼女の眼に僕の全部は飲み込まれていたのかも。

他が目に入らなくなる、それほどまでに彼女は綺麗だった。この日ばかりは神様に感謝しなければならない、頭を撫でてやりたい気分だ。

勘違いしないで欲しいから、これだけは言わせてくれ。

一目惚れなんてそんなくだらない物とは一緒にしないで欲しい、大体一目惚れだなんだとほざいている奴らは性欲と自尊心。

相手のことなど何も考えていないし、一目見られただけで恋に落ちられる相手の気持ちを考えられていない馬鹿な奴らなのだから。

今の僕と何が違うって、そんなの決まってる。

別に僕はこの子の事を好きだって感情もキスしたいとも抱きしめたいだとも思わない。

その濡れたピンク色の唇に触れてみたいだとか、名前はなんて言うのかな、なんて一ミリも思っていない。本当にだ!

断じえ一目惚れなんかじゃ無い!

女子高生の恋バナなんかでよく聞く話だと思うのだが、彼氏ができたから世界変わったって話。

漫画の主人公が今までモノクロだった世界がヒロインに出会って急に色づきだすって事もよくある話だ。

でも僕の見てきた世界はモノクロっていうよりかは、誰も居なかった。

家族以外は誰もいない。

正確には僕の世界に存在するほど、深く興味をそそられないし関わってもこなかったから自然と視界から消していたんだと思う。

みんなに分かりやすく言うと頭の中、夢の中にいる様な感覚を想像してくれたらいい。

僕一人は一つとして存在していて他は自分とは別のなにか。

だからこの場面で僕が主人公になって言うなら、

世界が色づき出したでも、動き出したでもない。

そう野生のヒロインが現れただ。

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