日曜日に部活動で呼び出されたら、無意味な討論が始まった話
昔書いたやつが出てきたのでKYU(供養)する
「よく来てくれたわね、和泉」
部長の声が聞こえる。日曜日の学校……グラウンドから野球部の声が響き渡ってくる。腕につけている時計を見ると午前9時25分を示している。
こんな朝早くから練習をするなんて凄いなぁと、感慨深く考えてしまう。
そもそも、休みの日は昼過ぎに起き、少し遅めの朝食兼昼食をとり、ダラダラとテレビでも見ながら過ごすものだ。
「それでなんですか、重要な話って……折角の日曜日に学校に呼び出すなんて。日曜日なんて運動部ぐらいしか学校に来ませんよ?」
俺は部長の言葉に困惑しつつ、疑問を言ってみる。
「そんなこと言ったって、これはこの部にとって重要なことなのよ……シオリちゃんまだ来てないから、もう少しだけ待っててよ」
勿体ぶって、すぐに言わないということは恐らくどうでも良い内容だ。やはり彼女は横暴だ。
そもそも、この部活の中で一番の上級生の彼女だったから部長になれたのであって、もっと人員がいたら他の人を部長にする。彼女はそんな感じの人物だ。
涅色の髪に整った顔立ち。そして高い背。外見だけなら結構カッコいい人なんだけどなあ。
少しゴネたら家に帰られて貰えるかな?そう思い俺は部長に話しかけた。
「部長」
「なに?」
「先週買ったベッドの弾力を確かめたいので帰っていいですか?」
「ダメよっ!ベッドの弾力なんか別にどうでもいいでしょ」
「どうでもよくはありませんよ!それによって毎日の健康状態が左右されるのですから」
「和泉いつも健康体じゃん!変な言い訳はやめて大人しくしててよ」
「あれっ?ケータイが……えっ、兄が交通事故に⁈今すぐ向かうよ!」
「まえに一人っ子って言ってたじゃない!よく、平気で噓つけるね?!」
「いやぁ、それが俺の取り柄ってゆーか、ちょっと照れる」
「褒めては無いけどねっ!!」
半眼でこちらを見てくる部長。理由が適当すぎたか。全然騙されてくれなかった。しかし、部長叫びすぎて顔が少し赤いな。いや、照れているから赤い顔をしているのかも知れない。これは惚れているのでは無いだろうか?
「今、禄でも無いこと考えてるでしょ?」
「失敬な!脳内で部長に告白されるシミュレーションをしているだけです」
「ちょっとケータイ貸して…」
「えっ、良いですけど。どうするんですか?」
「……」
「……」
「……あっ、はいセクハラ相談窓口ですか?はい、そうです」
「!」
「えっと、名前ですか?えーと、なま……えっ、ちょっ、やめてケータイ取り上げないで」
部長の携帯を見てみると、時報番号に繫がっていた。冗談か。まじでビビった。たしかにさっきのはセクハラ臭かった気がする。
そんなこんなを考えていると、部室のドアのノック音が聞こえる。
「失礼しまーす……すみません、遅れました」
扉を開ける入ってきた少女は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。もう一人の部員山奈が入ってきた。
彼女の名前は山奈栞。幼ない顔立ちに、うなじが隠れる感じのセミショート、儚げな雰囲気を漂わせている。身長は部長程ではないが平均より少し低めぐらいで、胸は薄い。部長がそれを指摘してブチギレられていたのは記憶に新しい。バカだ。
「さて、揃ったわね…、黒板にちゅうもーく!」
そう言って、部長はホワイトボードを回転させる。そこには、何も書かれていない真っ白な面が見られた。
…………??
「部長、どう言うことですか?」
「フッフッフ、当然だよ今から書くからね」
「何ですか、今の不毛な時間?!わたし、なんかもう帰りたくなったのですが?」
部長は教室の黒板にデカデカと今日のテーマが書かれていく。
《第1回、新入生勧誘大作戦!。》
どうやら俺達はこんなことの為に日曜日の早朝から呼ばれたらしい。……これ、帰っちゃダメかな?えっ、ダメですか、ハイ。
「別に勧誘なんてしなくても良いんじゃないですか?部員はちょうど三人で足りてますし……」
家に帰る算段を立てていると、山奈が至極当然な質問をする。俺は彼女が言葉を終えるのを見計らって言葉を繋げる。
「そうですよ、それに部長は二年だから、あと一年はこの部活を維持できますし」
ウチの高校では、部員三人顧問教師一人で部活動として認められる。逆に部員が三人以下になると、その部は休止扱いとなる。
「そうね、私達の部はギリギリだけど、なんとか存続できている。……しかし、それではダメなのよ!より部を発展させてこそ部長なのよ!」
部長はドヤ顔を決めて得意げに語っている。これを見た俺達はヤバイとアイコンタクトを取り始める。
(山奈、これどうする?なんか面倒臭い感じになってきたけど……)
(知りませんよっ!こうなったら部長、意地でも意見を通しますし…)
(まあ実際、来年新入部員が入らなかったらヤバイのは事実だしなあ)
ここは、腹を括るしか無いか。
「……判りました、部長。誠に遺憾ですが協力させて頂きます」
山奈も同じ結論に至ったのか、「わたしも協力させて頂きます。誠に遺憾ですが」と、返していた。
「なにが遺憾なのかは分かんないけど、賛成多数なのでこのまま進めるよー」
『イラッ』
「何⁈…イラッって、せめて心の中だけにして欲しかったなあ」
『俺 (わたし)達、噓つけないんで。』
「ホントに何?!和泉もシオリちゃんも何なのさ。さっきからその息の合った台詞…台本とかあるの?」
『話が脱線してますよ、部長。早くなんとか作戦をしましょうよ!』
「ねえ、やっぱり台本あるよね!何で台詞が重なってるの。絶対何か台本あるよ!」
部長が可笑しなことを言う。前から可笑しな人だと思っていたけどここまでとは……。
「ちょっ……なんで私に憐憫の目を向けて来るの⁈エッ……シオリちゃん、なんで私の肩に手を置くの?やれやれ……みたいな顔で顔を振らないで!」
「誰か私の味方はいないのーー!!」
部長の叫びが校内に木霊した
◆
「ヨイショっと、うん。準備よし。……それじゃあ、作戦会議始めるわよ!」
立ち直った部長が歎息吐きながら話す。俺達は、机を繋げてコの字型にテーブルを配置にして、それぞれ議長席に部長、扉から見て右側に俺、左側に山奈が座っている状態だ。
「では、新入生が入りたいなあ……と思うような案は無い?」
俺は手を挙げた。
「はい、和泉。いきなり挙手とはやる気があるね。何でもいいから、忌憚なき意見をお願いね」
「はい。実は前々から思っていたことがあるんです」
「へぇー、なになに?ちょっと聞かしてよ?」
俺は少し前からの疑問を言う。
「この部活のことなんですけど……、一体何部なんですか?」
「エッ、そこから?!」
「あっ、それわたしも思ってました」
「シオリちゃんまでっ!!」
なにやら部長が驚愕している。
「ちゃんと活動して無い私が悪いんだけど、二人は何でこの部に入ったの」
『なんとゆーか、ねー?』
「だから、なんでそう息が合うの!それと普通、入部届を提出する時に部活名書くから判る筈なんだけど?」
「俺の場合は、緩い部活ないかなあ?って探してたところに友達にここオススメされて……。考えたらそいつに全て任せっきりだったなあ」
「少しは自分でしようよ……で、シオリちゃんは?」
部長は俺に冷めた目を向けたあと、山奈の方へと向く。何というから冷たくあしらわないで欲しい。そう言う趣味に目覚めそうになるから。馬鹿なことを考えていると山奈は言葉を続けた。
「わたしは成り行きで入った感じで……」
「成り行き?それはどういう意味で……」
「学校で一番人気の無い部活に入れば貴女の運気は上がるでしょう……と朝の占いで」
「何、そのピンポイントな占いは!」
「えーっと、確か、かんさ…」
「名前は出さないで!権利的に不味いから。それに、私も毎日その番組見てるけどそんな占い見たことないよ!」
「ええ、これが陰謀ってヤツですか?!」
「じゃかましいわ!もうなんか削がれたから理由は良いわ……」
どうやら部長は諦めたらしい。因みに、俺もその占いは見ている。占いのときに出てくるキャラクターが可愛くてファンアート何度も描いた。
ここで勢いづけようとしたのか部長は椅子から立ち上がり、拳を握り締めながらゆっくりとした口調で話し始めた。
「ウチの部活はね……、その名もディベート部……謂わば皆で討論をする部活…見たいなやつだよ」
へぇー、初めて知った。いつも部長の思い付きで遊んでいたから、てっきり『遊部』見たいな駄洒落で出来た部なのかと思ってた。討論?見たいな真似は一ミリもしたことが無かったので実感が湧かなかった。
ディベート部ならディベートしろよとしか思えない。
「去年から同じようなノリだから、今更変えるのは負けだと思ってる」
「今のままの方が負けていると思いますが」
「とにかく!部の概要が判ったならさっさとアイデアを出す」
そうは言っても、そうアイデアは出てこない。
周りを見渡す。どうやら皆 (部長と山奈しかいないが)何も思い付いていないようだ。このままでは不味いと思ったのか部長が話す。
「うーん、誰も思い付かないのならターン制でいってみる?」
「ターン制ですか?」
山奈が答える。尤もな疑問だと思う。実際、俺も意味が判らん。
その質問に対し、彼女は 「ふふん」とドヤ顔をして答える。
「一人づつ順番に発表していくのよ」
「それで解決するんですか?」
「細かいことはどーでも良いのよ!」
どうでも良い訳無いんだけどな……、ほら、答えを返した山奈も狼狽えてる。
その発表の内容が思い付かないから悩んでいるのに。
「じゃあ先ずシオリちゃんから発表していって」
その後に和泉、私の順番よ……と部長は話す。山奈が答えている間に考えとこう。
「えっ、わたしからですか!……えーと、ですね…、部活に人を集めたいということですから…」
「うんうん、それで」
「部長のスリップショーをしましょう。」
「何でなの!」
スリップショーか……、うん、見てみたいな。
「コラ、和泉!反応しない。あなたには変態疑惑があるのよ!……それで、シオリちゃん。私に何か怨みでもあるの?」
「いえいえ!ありませんよ。ただ、人が集まるかなと」
「狂った発想!!これで集まるのは変態だよ!私が欲しいのは真っ当な入部者だよ」
「そう言われましても……万策尽きました」
「早いね。万策っていうか一策って言うか!」
「早く次に進んで下さいよー。わたし、もう帰りたいです」
「面と向かって帰りたいとか言われた?!私先輩だよ」
「はい……、すみませんでした先輩 (笑)」
「カッコワライって口に出して言わないでよ!!」
部長がものすごく弄られている。
「まあ、いい。次、和泉お願いね」
油断していると俺の番が来た。正直言って何も思いついていない。
…………。
「ゲームで釣りましょう!」
「多分だめな発想のヤツきた!!」
「部費を使って、最新ゲーム機を買いましょう。ゲームについて討論したいから、で多分通りますよ」
「しかも、めっちゃ舐めた内容だ!」
咄嗟に思いついた案にしては中々上出来ではないだろうか。我ながら良い案だ。
「あのー、そもそもこの部活の部費って何に使ってるんですか?」
山奈が少し遠慮しがちに手を挙げて言う。
「そうね、例えば今使ってる黒板……ホワイトボードだったり、週刊の科学雑誌、他には討論内容を纏めるパソコンだったりに使ってるわ」
内容自体は真面目だが、どれもこの部活動で使った覚えのない品だらけだ。
「でも、そうね。和泉の言ったゲームは無理だけど、物で釣るのは案外良いかも。運動部だって設備でこの学校を選んだって人もいたはずだし」
「そんな人がいるんですか?」
「ええ。この学校のゲートボール部、ヤケに設備が良いのよね」
何て高校としてはマイナーな部活を。少し興味が湧いてきた。と、そんなことを考えていると部長は一拍置いて話し始める。
「まあ、それは置いといて次は私の案よ!」
「よっ、待ってました」
「ひゅー!部長、ひゅー」
俺と山奈で部長をおだてる。当然だ。これが終われば帰れるからだ。わざわざ休日まで学校に来たくないのは二人ともなのだ。そうなったら早いところ部長をその気にさせて帰りたい。
「私の案はねえー、これよ」
そう言うと、部長は何処からか取り出したパソコンを見せてきた。何か難しい用語が使われたプレゼンソフトである。
「実はこれを見せたくて今日ここに呼んだんだよねー。頑張って作ったから折角だし皆んなの前で発表しようかと。だから、さっきまでの発表は謂わば前座というやつよ」
『……』
「……?二人ともどうしたの?」
つまり、部長は採用する内容をあらかじめ決めていた出来レースならぬ、出来討論をわざわざ日曜日の朝に俺たちを呼び出してしたと。携帯で一瞬で伝えられるような資料を見せるために。
ふむ、なるほど。
「お疲れ様でしたー、部長」
「お疲れしたー、部長。……、……あっそうだ、和泉くん。図書館で課題やってから帰らない」
「良いね、さっきまでのより、時間を有意義に使えそうだ」
「じゃあ、行こ。……それでは失礼します」
俺と山奈は揃って部室を出た。無意味な時間だった。
「あ、あ……こんなの、あんまりだよ!!」
部室からは、何ものかの慟哭が響き渡った。
同一性保持のためTwitter@_manadzu