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第六十一話……奇襲、再びの黒騎士。

――月が煌めく夜半。



「ぐっ!」


 暗闇をドラゴの引く幌付きの荷車で御者をしていると、突然に矢が左ひざに刺さる。

 矢を調べると黒塗りの毒矢だった。

 明らかに殺害目的の攻撃といえよう。



「ガウ、どうかしたの?」


「どうしたポコ?」


 マリーとポココに尋ねられるが、



「敵だ! 頭を低くして!」


 と、注意喚起する。

 そして、急いでドラゴの手綱を操り、皆が乗る荷車を、路肩の木々の中へと隠す。



「誰だ!?」


 最初は強盗目的の山賊かと思ったのだが、矢ばかりが飛んでくるだけで、相手が一向に姿を現しては来ない。



「出てこい、臆病者め!」


 そう挑発してみるも、返答は黒塗りの毒矢ばかりであった。



「スコットさん、相手がだれか見て来てくれない?」


「了解です!」


 そもそも幽体で、毒矢に耐性がありそうなスコットさんに偵察を頼む。


 ……が、スコットさんはすぐに戻ってくる。



「旦那様、矢を抜いて下さい。痛い!」


 スコットさんに刺さっていたのは、アンデッドモンスター対策が施されていた銀矢だった。


 ……これはただの山賊じゃないな。

 ひょっとして、此方のパーティーの構造までわかっている確信犯的な襲撃かもしれなかった。



「……痛いですがな!?」


 矢を剣で払わず、ワザとしゃべる盾で矢を受ける。

 盾に刺さった矢の方角向けて、矢を撃ち返した。



「グァ!?」


 何度かそのようなことを続けていると、敵に矢が当たったようだった。



「スコットさん、みんなを頼む!」


「了解です!」


 スコットさんに荷車の守りを頼むと、矢が当たったであろう敵の場所まで疾駆する。



「なんだこれは!?」


 驚くべきことに、矢を受け絶命していた敵は、姿を消せる魔法の衣を被っていた。


 衣を剥ぐと、中から現れたのは、着こんだ甲冑まで黒色に塗られた、魔族の射手であった。

 しかも、弓から剣から鎧まで、一級品の装備をしていた。



「……くそう!」


 これは明らかに、我々に対する暗殺目的だ。

 装備からするに、相手はきっとただものじゃない。


 私は急いで荷車まで戻った。



「……こ、これは、難敵ですな!」


 敵が持っていた身を隠す魔法の品を見せると、スコットさんも唸る。


 敵が身を隠したまま遠距離の物理攻撃に徹するのは、私が近接攻撃である剣技に強いことや、マリーやスコットさんが魔法を得意なのを下調べしているのだろう。


 ……どうしたらいいのだろう?

 皆で顔を合わせて対応を思案していると、



「……でも、私の情報は無いんじゃないです?」


 そう言ったのは、今回の旅のメンバーに入っていた、古代竜の孫娘アイリーンだった。




☆★☆★☆


「出でよ、僕たる火竜! 周囲の敵を焼き尽くせ!」


 アイリーンがそう唱えると、上空に全長10mクラスのレッドドラゴンが現れた。

 ……そう、彼女の特技は、様々なドラゴンを召喚できるとのことだった。


 レッドドラゴンは我々の周囲の木々に向けて、高温の炎のブレスを吐きかける。



「ギャァァア!」


 あちこちの木々の影から、火に包まれた暗殺者の姿が現れる。

 その姿めがけて、私の矢やマリーの必殺の魔法が襲った。


 此方はさらに、スコットさんやポココが炎対策の結界を展開。

 敵にだけ、一方的にレッドドラゴンの炎が浴びせられた。


 しばらくこちらに有利な展開が続くと、突然に暗闇からレッドドラゴンに飛び掛かる黒い影が、月の光の逆光に浮かび上がる。


 敵がしびれを切らし、こちらの攻撃のキーであるレッドドラゴンを狙うであろうことが、今回の作戦の要だった。



「今だ!」


 私はその黒い影めがけて飛び掛かり、そして斬りかかる。


――ザシュ

 眼で確認できたわけではないが、確かな手ごたえがあった。



 『ドサッ』という音とともに、黒い影が血を迸らせながらに、地面に倒れ込む。


 その姿は見たことがある。

 以前にパール伯爵を倒すよう依頼してきた、黒騎士エドワードの姿であった。




☆★☆★☆


「殺せ!」


 脇腹にできた深手の傷口を抑え、倒れたエドワードは観念したように口を開く。

 大量に流れ出た血が、周囲の地面に光る。


 その様子と同時に、周囲から気配が減っていく。

 彼の部下が逃げ去ったようだった。



「何の恨みがあって、襲って来た!?」


「恨みはない! 主の命令こそが全て!」


 敵とは言え、騎士らしい発言だった。

 こういう奴に、主が誰かと聞くのも失礼だろう。


 私は彼の首筋に、静かに剣をあてる。

 剣は月明かりで妖しく光る。



「……」


「……なぜ、止めを刺さぬ?」


「……、刺したくないからかな?」


「……」




☆★☆★☆


 私達は気を取り直し、ドラゴの曳く荷車で、魔王ベリアルの居館へと急いでいた。

 夜間でも、竜族であるドラゴの足並みは速く力強い。



「ガウ、なんで止めを刺さなかったの?」


 再び荷車の客となるマリーが、御者台に座る私に問いかけてきた。



「じゃあ、マリーが刺したければ刺せばよかったじゃない?」


「ガウのいじわる」


「あはは……」


 確かに止めを刺した方がよかったのかもしれない。

 そんな気もする。

 ……でも、そうしない方が良い気が、私たちの中ではあったのだ。



「エンケラドゥスさんもお元気かな?」


「そういや、しばらく連絡がなかったね。お忙しかったのかな?」


 しばらく連絡のない岩石王の話もしながら、朝方には森を抜ける。

 魔王ベリアルの居館がある山々は、もうすぐそこであった。





☆★☆


お読みいただき有難うございます。

誤字脱字報告も大変感謝です。

お気に召しましたら、ご感想やブックマークをいただけると大変嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エドワードッ…!Σ(゜∀゜) 毒矢を使っているものの、命がけの攻撃っぽくはないですし、不本意な襲撃だったんでしょうね>< >「旦那様、矢を抜いて下さい。痛い!」 wwwww スコットさん…
[一言] アイリーン強し! 姿を消すアイテムは、どこぞの魔法使いの世界では、死の秘宝と呼ばれる3大アイテムでっせ〜。それを使って暗殺遂行できないとか……。
[一言] ゲーム「ブラックオニキス」に出てくるhiderが姿を隠すマントを羽織ってて、倒すと手に入りました。
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