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18/4「バハムート」

18/4「バハムート」

 エディンバラとの通信を終えたルビエールは即座に次の行動に移った。思った以上の成果は得られたのだがそれが実を結ぶのは先の話になる。そもそもエディンバラとのやり取りで満足のいく情報が得られることをルビエールは期待していない。ルビエールにとってエディンバラのとのやり取りは次の一手のための布石であり、最低限の状況さえ掴めればそれでよかったのである。

 聞くべき相手、本命は解っている。それはエディンバラも示唆した通りの相手である。このような状況で連絡しなければならないのは不本意だったが相手ならば「何を迷うか」と嘲笑うだろう。大きく深呼吸をしてからルビエールは通信を送った。

 その相手の応答はルビエールの予測を外していなかった。

「遅い」

 開口一番の言葉にルビエールは口元を痙攣させる。ローマ師団第八大隊指揮官トロギール・カリートリーはいつも通りの暑苦しい尊顔で通信画面を占拠する。

「貴様の隊の主戦力に関わる話だろう。何をのんびりしていた」

 久々の邂逅を噛み締める間もなくルビエールは本題を切り出すことを強いられる。さっそく布石が役に立つ。

「面目次第もありません。先にクサカの方に状況確認を行っていました」

 ルビエールの弁明にカリートリーはほうと息を漏らした。

「クサカをパトロンにしたことは聞いているが、情報取引もできるようになっているとはな。で、どこまで聞き出せた?」

 ルビエールが説明する内容にカリートリーは驚く様子はなかった。聞き終えると品評するようにしゃあしゃあと言ってのける。

「特に嘘は含まれてないな。クサカから見たらそれであっているだろう」

 その口ぶりではマウラから見ればまた違うわけだ。素直に教えてもらえるならいいが。

「で、何を聞きたい?」

 またこちらを試すようなことを。聞きたいことは山ほどあるがルビエールはまずは責任を果たすことにした。

「ALIOSは搭載したままで問題はないのでしょうか」

「それに関しては我々が答えるべき問題ではない。と言いたいところだが貴様にそういう建前論を語る意味はないな。結論から言えば機能的な問題は全くない。その点は奴が保証している。もちろんお前が奴を信用するかは別問題だが」

 それに関しては何とも言えない。信用したいというのがルビエールの本音だがそこには何の根拠もないのである。それにいくらALIOSが安全であったとしても他所に流出して問題にならないはずはないだろう。そこから何らかの脆弱性が発見されれば。それくらいのことを想定していないわけはない。承知の上でクリスティアーノはその保証に乗ったらしい。

「トロイの木馬はもちろん、脆弱性が生じる可能性は今後残り続けると思いますが」

 もちろんだとカリートリーは頷く。誰でもそう思うはずだ。

「そうだな。その点に関してクリスティアーノがどういう納得をしたのか俺は知らん。ともあれクリスティアーノは乗ったのだから、俺の立場ではそれで納得するしかないわけだ。ま、俺自身乗りたくないわけではなかったしな」

 茶化しながらカリートリーは自らもマサト・リューベックに乗ることに不服がないことを表明する。多くの部分でいまだ謎だらけだったがルビエールにとってそれは大きな状況証拠になった。

 どちらにせよALIOSに関してはこっちではどうにもならないのだ。ならばこの件はいい。カリートリーらを信用しよう。義務を果たしたルビエールは個人的な関心に移った。

「クサカでは今回の件をマサト・リューベックによるイスルギ社の強奪と認識しているようですが、これは事実なのか、それとも欺瞞なんでしょうか」

 この推測をカリートリーは鼻で笑った。

「強奪とは穏やかではないな」

 強奪ではない?ではやはり。

「実際には取引だったということですか?」

「本来はそうなるはずだった」

 おかしな言い回しにルビエールが困惑するとカリートリーは言い聞かすようにゆっくりと喋り始めた。

「想定にズレがある。まずマサト・リューベックが先にありきだ。まず奴がイスルギ社に入り込み、それを内部から掌握した。これがだいぶ前の話だ。そこから奴は我々に接触してきた。クリスティアーノを仲介役にクサカとの交渉が始まる。その結果、奴が持っていた手札、つまりALIOSをクサカが手に入れ、それと引き換えに奴はイスルギをクサカの了承の上で手に入れる。本来のシナリオは大まかにそんなところだった。ところが奴は予定された時期よりもはるかに早く行動を起こした。奴がイスルギを手に入れること自体は確定していた。しかしその手段と時期が本来のシナリオからズレていたわけだ」

 騙し打ち。だが結果そのものは本来予定されていたものの前倒しだった。やはりクサカは被害者である一方で協力者でもあったわけか。表に出せないわけだ。

 絡まっていた線が解けてそれぞれの線がどこに繋がっているのかが露わになった。しかしいまだ謎は残されたままだ。

「一体何のために?」

「実際のところこの件に関しては俺もお前とそう立場は変わらんのだがな」

 両肘をデスクにつけて両手に顎を乗せる。いつものスタイルでカリートリーは語り始めた。

「まずこっちがやったことを言っておくか。報道と軍部への介入。そのくらいは貴様も想像がついたろう。それとイスルギの社員に関してだが大多数は奴が拉致したわけだが一部は地球に残ることを希望していた。それをこちらで保護している。彼らは今後名を変えてマウラの庇護下で生活していくことになる。この2点に関しては奴と取り決めされていたことだ。時期がズレたから焦りはしたが滞りなく済ませることができた。興味深いのはそこだ」

 そこでカリートリーは試すようにルビエールを見やった。慣れたものでルビエールもすぐにカリートリーの言いたいことが解った。

「御膳立てはされていたということですね」

 ルビエールの返しにカリートリーは満足した。

「うむ。こちらのための配慮は行き届いていたわけだ。クサカを騙し打ちした。しかし、マウラに害をなす気はなかった。そういうことだろう」

 だからマウラとしてはマサトのやることを受け入れた。

「それで。マウラもこの件を黙認したと」

 ルビエールはわざと言い切った。そうであっても少しもおかしくない。カリートリーは少しも動じず、悪びれなかった。

「何の話かな。知らぬ、存ぜぬ、解りかねる」

 ルビエールが呆れた顔をするとカリートリーは破顔した。

「半分は本当だぞ。確かにこちらは奴が何をするつもりかクサカよりは知っていた。そこから何が起こるかも推測はできた。だが、それで全てではなかった。奴は事件に乗じてクサカにとって探られたくないものまで持ち出した。クサカがそれに気づいた時には後の祭り。諸々の事情もあってそれを表に出せず、本来のシナリオへ回帰して体裁を維持するしかなかった。クサカで起こったことはそんなところだろうな。だがそれはこの事件の一側面にすぎん。貴様も知っての通り同日に同様の事件が同時多発的に発生している。当然、奴の仕業だろう。こっちに関しては俺たちも預かり知らん。ただこちらに関係のある施設はクサカを除いて存在しないことを見るにこっちも俺たちを敵に回すつもりのある所業ではないだろう」

 クリスティアーノもマサト・リューベックのやろうとしていたことの一部しか認識していなかった。クサカどころかマウラにすら知らせない不意打ち。ルビエールの推理は当たらずも遠からずだったらしい。しかしカリートリーの反応はそれを問題視しているようには見えない。クリスティアーノ側に被害はない。それはつまりルビエールにもない、ということになるだろうか。

 姿勢を解いて椅子に深く沈み込むとカリートリーは懐かしむように記憶を振り返りながら呟いた。

「今にして思えばイスルギを手に入れる云々からして半ば方便だったんだろうな。わざわざ了承を取らずとも奴はイスルギをいかようにもできたわけで」

 それは実際に強奪という体裁にされたことにも表れていた。内実的にはイスルギはほぼ完全に掌握されていてクサカがそれを認めるかどうかはマサトには大した問題ではなかっただろう。つまりイスルギを手に入れることもまた目的ではなかった。では何を目的にしてそんな行動を?

「一体何のために」

 相変わらず目的が見えない。むしろより解らなくなった。ルビエールの様子にカリートリーは陰気な笑みを見せた。

「巨魚の鱗を見たとて巨魚を見たとは言えず」

「は?」

 ヒントは十分与えたと言うのかカリートリーは黙った。止む無くルビエールは意地の悪い問題に取り組む。

 巨魚の鱗。聞き覚えのない表現だが言いたいことは何となく解る。鱗はその魚の一部位に過ぎず、本質ではない。この事件が鱗に過ぎないとするならば一つ一つの鱗に目的を見出そうとしても際限がなく、本質にはいつまでも近づけないだろう。

 物事の本質を見るには適切な距離がある。近すぎても、遠すぎてもダメだ。真実を見通すならば時には遠ざかることも必要なのだ。今自分はどこからこの巨魚を見ている?どこから見れば本質を捉えられる?そもそも、この魚は一体どれだけの大きさの魚なのだ?

 マサトのやろうとしていること。クリスティアーノのやろうとしていること。これを知らないのだからルビエールにそれを推し量ることはできない。それでも一定の範囲を越えることだけは確かだった。2人はこの世界そのものに大がかりな何かを仕掛けようとしている。それは地球連合という国家の枠を越えるだろう。

 世界。地球、火星、コロニー、月、ジェンス社、WOZ。その全てを巻き込む何か。それは今まさに起こっている星間大戦そのものとも無関係ではないだろう。そしてロウカス。

 国という枠を越える巨魚。この事件にその影を見出すとするならば。世界レベルの影響を及ぼす何か、あるいはその兆候。

 一つ。ルビエールに思い当たるものがあった。

「ALIOS」

 ルビエールのたどり着いた真実にカリートリーは頷いた。

「彼の本当の目的はクサカを介してALIOSを拡散させることだった」

「そういうことだろうな。その目的を果たしたから段階を次に移した。イスルギ云々はそのついでに過ぎなかった。俺はそう捉えている」

 カリートリー自身もまだ推測の域を出ないのだろう。しかし彼もまたそれを真実と見做しているようだった。

 ALIOSを拡散させること。

 手段こそが目的だったわけだ。もちろんそこにはALIOSを拡散させる目的という謎が残る。罠でないとするなら何だというのか。

「案外とただのおせっかいかもしれんぞ」

 そんなバカな。もちろん言ったカリートリー本人もそう考えているわけではないだろう。この点に関してはカリートリーの立場ではどうしようもない。これ以上考えてもしょうがないと投げているのだろう。確かにルビエールも先ほどALIOSに関してはどうしようもないと受け入れたのだ。この件はここまでだ。今のところは。

 しかし、これで説明できるのはクサカの件だけだった。事件は地球各地、クサカとは無関係の場所でも起こっているのである。取引に乗じてクサカを騙したというだけに納まるはずがない。それらの場所でも同じようなことが起こったということか?

「クサカの件と他の襲撃事件とはどう繋がるんでしょうか」

「そこで各勢力頭を悩ませているだろうな」

 各勢力。まるで自分たちはそこに含まれていないとでも言うようにカリートリーは気楽だった。

「クサカを始め多くは軍事研究、それに関連するような場所だ。真っ当な見方をすれば技術情報、ならび研究結果の奪取ということになるだろう」

「真っ当ではない見方をすれば?」

 ルビエールの合いの手にカリートリーは小癪なと苦笑いしてから自身の推理を披露した。

「それすら目くらましではないかと俺は考えている。奴の持っている手札を思えば技術情報の奪取など大した優先度ではないはずだ。むしろやり口の多彩さの方が興味深い。つまりこちらも手段の方にこそ目的があった。俺はそう見ている」

 手段。確かに技術情報の奪取だけが目的ならあんな派手な行動を起こす意味がない。密やかに、それこそ夜逃げのように行うだろう。派手に行うことに意味があったのだ。なんのために?

「襲撃地点の数は把握しているか?」

 ルビエールはニュースの情報を引っ張りだしたがすぐにそれが当てにならないだろうことを悟った。クサカがそうであるように痛い腹を探られた勢力がそれを馬鹿正直に公にするとは思えない。表に出てきていないものがあってもおかしくないだろう。

「残念ながら俺たちも把握していない。誰も把握していないだろう。たった一人を除いて、な」

 マサト・リューベックただ一人。彼だけが事件の全容を把握している。つまり

「何かを燻り出そうとしている?」

 敢えて派手に立ち回ることで腹に一物を抱えている者達は疑心暗鬼に陥り、行動を起こす。もしくはそれを誘発している。

 ルビエールの推理にカリートリーは頷くと共に微妙にニュアンスを修整した別見解も提示する。

「もしくは、曝け出そうとしているといったところか」

 ルビエールは溜息をついた。つまりこの事件はまだ終わっていないというわけか。

「ま、それに関しても俺たちが気にしてもしょうがないだろう。奴が勝手にやっていることだ」

「その勝手が問題を起こさないという保証は?」

 ごもっとも。カリートリーはルビエールの懸念を認めはしたがやはり問題にはしていなかった。それだけの信頼があるのか。それとも、気にしたところでどうにもならないと匙を投げているのか。

「マサト・リューベックとマウラは協調していると思っていましたが」

「してはいるさ。単純な話、それとこれとは別件というだけだ。こちらもそうだがあちらも一つの目的だけで動いているわけではないし、腹の中の全てを晒し合っているわけじゃない。珍しいことでもないだろう」

 それもそうか。ルビエールは納得してそこで蓋をしようとした。しかしいくつかのピースが埋まったことでそれまで意図的に無視していた重要な穴をいよいよ無視することが難しくなってもいた。

 核心。つまるところマサト・リューベックは、あの少年は何者なのか?クサカでもイスルギでも、ましてマウラ閥でもないのなら。

 駄目で元々だ。ルビエールはそれを口にした。

「率直に聞きますが。彼はどこの何者なんですか?」

「うむ。貴様もいい加減知っておいた方がいいだろう」

 ルビエールは回答を期待していなかったのだがカリートリーはさもありなんと理解を示した。意表を突かれて硬直したルビエールの心の準備が整うより先に、カリートリーは内秘だぞと念を押してから驚くべき、というよりは納得の事実をあっさりと提示した。

「奴はWOZの人間だ。本名、と言うべきか解らんが名はシミズ・マサト。WOZを代表する軍需企業であるスターク・エヴォルテックを事実上支配している男だ」

 半ば予測してはいたがそれでもその事実を受け止めるのには時間がかかった。それだけではない。シミズ。その名前にはどこかで聞き覚えがある。どこで聞いた名前だったか。WOZ、WOZ?ルビエールの脳内情報が電撃的に回路を繋げた。

 確かWOZに入った時に金髪の外務官が話していたWOZの代表的な貴族。その中にシミズという名があった。ルビエールが確認するとカリートリーは苦笑しながら肯定した。

「本当に妙な縁をひっかけてくるな貴様は。それであっている。新興ではあるが今現在のWOZを動かしている勢力の一人であり、その中でもかなりの力を持っている。ああ見えてWOZの中でも相当な重要人物だぞ」

 それほどの大物であるならクリスティアーノに協力しているのも頷けるか。驚きよりも納得が勝る。しかしまたしても疑問が湧きあがる。

 WOZはクリスティアーノと交流がなかったはずである。それを作ったのはルビエール。つまりマサトはWOZの代表としてクリスティアーノと動いていたのではない。WOZの意思とはまた異なる考えで動いていたということになる。それを確認するとカリートリーはせせら笑う。

「お前はクリスティアーノが地球連合の意思を代行して動いていると思っているのか?」

 ならばマサトが独自に動いていることも違和感のあることではなかろう。

 それはそうだが。ルビエールは渋い顔をした。マサトの正体を知ったルビエールだが、その本質は益々遠ざかったような気分になった。ルビエールの中にはマサトを信用したいという気持ちがある。しかしそのための材料が今のところ心証にしかない。ルビエールが求めているのは結局のところそれだった。

「なぜクリスティアーノはマサト・リューベックを信用できるのか。それが私には解りません」

 ルビエールの疑念にカリートリーは眉を動かした。ルビエールの言葉が気に喰わないようだった。

「立場は信頼を決定づける要素ではないだろう。信頼できん味方もいれば、できる敵もいる。時には敵の方がよほど信頼できるということはあるものだ」

 信頼のできる敵。ルビエールには思いもしない概念だった。考えてみれば信頼のできない味方はいくらでもいる。クリスティアーノもその一人だ。であれば、その逆。信頼のできる敵もいて然るべきだろう。

「つまり、マサト・リューベックがそれにあたるということなのでしょうか」

 珍しくカリートリーは言葉を話しながら整理した。

「そうは思わん。いや。そうであって欲しくない、が正確か。俺が言いたいのは敵であろうが味方であろうが信頼すべきはしなければならないという話だ。疑うだけで話は進まん。信用すること。そこから始まるものもある。奴を信用すること、それがまず前提にあると言うことだな」

 まるで賭けみたいに言うな。ルビエールは納得しきれてはいなかった。しかし、それこそが真理なのだとカリートリーは告げていた。

 全てを見通した上で行動ができるなら誰も間違いはしないし、見通してから行動しなければならないなら誰も行動できないだろう。それでも時に人は決断せねばならない。全てに納得することも確信も抱けないままに暗闇を全力で疾駆するための拠り所。それこそが信頼だとカリートリーは言う。

 それをクリスティアーノとマサトは持っているというのか。

「それだけで突き進められるというなら羨ましい話ですね」

 ルビエールの漏らした言葉は本心だったが除け者の境遇から出た嫌味も兼ねていた。カリートリーはかつての部下の心境を正しく理解しながらも丁重に無視した。

「俺は戦争を終わらせるものとは信頼だと考えている。つまり、敵をこそ信頼すること、敵にこそ信頼してもらうことだ。これがあって人は握った拳を解けるのだ。ま、現実においてはそれは反撃できない、しないと判断した頃になるわけだが」

 ルビエールは呆気に取られた。ルビエールにとってカリートリーとは現実主義な軍人であって戦争の終わらせ方などという半ば思想じみた考えとは無縁だと思っていたのである。そのカリートリーから語られる戦争の終わらせ方が「相手を信頼すること」など、果たして誰が想像できるだろうか。カリートリーを知る者ほどできまい。

「もちろん。無条件で信頼するという話ではない。土台は必要だろう。それに関してこっちは貴様よりも古いからな。奴が何を話し、何を考え、何を願っているのか。結局のところそういうものの積み重ねだ」

 それがクリスティアーノはあって自分にはないものだ。

「それをこそ知りたいんですが」

 半ば脅迫するようにルビエールは詰め寄った。この日いつになく饒舌なカリートリーだったが残念ながらここでいつもの調子に戻ってしまった。

「それは俺の口から語ることとは思えんな。本人に聞け。聞く手段がないなら自分で作れ。もう持っているかもしれんが」

 ルビエールは言葉を詰まらせた。確かに、マサトがWOZの人物であるならマチルダとのコネクションでそこに辿り着くことは可能だろう。

 ルビエールの意識が次に移ったことを確認するとカリートリーは話を終わらせた。

「さて、この件に関して俺から話せることはこんなところだな。クリスティアーノならもう少し真相も知っているだろうが。次はそっちに聞いてみるか?」

 答えてくれるとは到底思えないし、何より喋りたくない。ルビエールは顔を顰めて否定した。カリートリーは笑って頷く。

「賢明だ。俺が言うのも何だが得られるより失うものの方が多いだろうな。聞ける範囲のことは俺に聞けばいい、答えられる範囲で答えてやる」

「助かります」

 本当に助かる。クリスティアーノを信用していないがカリートリーは信用しているルビエールである。カリートリーは珍しく嬉しそうな顔をするとそのまま通信を切った。


 やれやれ。謎を解いたというよりもさらに深みにハマり込んだだけのような。溜息をつくルビエールだが原因はそれまでとは違っていた。

 解らないことだらけだったがその謎を解決する手段だけははっきりした。今やルビエールを悩ませているのは答えが解らないことではなく、出てしまうことにある。果たしてその答えは自分たちに何をもたらすのか。自分たちにとって知るべき答えであるのか。

 自分など巨魚の泳ぐ海に浮かぶ小舟に過ぎないだろう。その巨魚の考えを知ったところで何になるだろうか。

 どちらにしても知らずに放置して於けるわけでもないのだが。


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