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11/3「エノー支隊」

11/3「エノー支隊」

 エッフェルステーションに新兵ベテラン問わぬ様々な人材が集った。彼らは第11旅団付き独立中隊通称エノー支隊として大戦の流れを変える存在となる。

 この全員の命を預かるわけか。ルビエールは揃えるだけは揃えた支隊の面々を見渡して途方に暮れた。

 ローマから、正規軍、果ては士官候補生たちまで、ないならないなりの伝手で集めた兵士・将官たちはルビエールの麾下に置かれる。質は思ったよりは悪くないと言えるのだが、何せ方々からかき集めたため部隊としてまとまるかどうかが問題だった。

 それよりなにより問題はルビエール・エノーその人の資質である。

 などと自虐的になるルビエールだったがそれを周囲に共感してもらうわけにはいかない。エノー支隊の各艦、各部署に向けてルビエールは最初の挨拶を行った。

「各員そのままで聞くように。第11旅団付き、独立中隊司令ルビエール・エノー中佐である。若輩ながら諸君らの命を預かることになり、身の引き締まる思いである。諸君らの中には私の能力、資質に対して懐疑的なものもいると思う。それは正当な感情だ。諸君らだけではない。第11旅団でも同じことを考えているものが大勢を占めるだろう。しかし、これは私だけでなく、諸君ら、そして旅団そのものにも言えることである。私、我が支隊、我が旅団。全て有象無象の寄せ集めに過ぎない。懐疑的な目で見られ、試されているのは皆一緒だ。私と言う存在はこの旅団の象徴に過ぎない。つまり私は旅団というケーキ、支隊というスポンジ、その上に飾られたイチゴに過ぎないというわけだ」

 旅団参謀兼支隊司令補佐のフレッド・ソープはニヤニヤしながらルビエールの演説を聞いていた。

 我々は試されている。

 この表現をソープは気に入っていた。確かにルビエールという目立つ異物にばかり目が行ってしまうが新長官の肝いりである旅団そのものも周りから見れば十分に異物なのである。その存在に対して懐疑心を持たれていることも同じだ。ルビエールが抱えている問題は旅団が抱えている問題と共通するのだ。さて、この考え方を旅団はどう受け止めるか。ルビエールはどこまで変えていくことができるだろうか。


 ルビエールの演説を他の者達とは違う心持ちで聞いていたのは旧イージス隊からのメンバーである。

「偉くなったもんだねぇ。誇らし誇らし」

 一級ガンナー、メリッサ・アトキンスは相変わらず独特の調子と目線で喝采する。この若くも成熟したパイロットは所属や階級が変わろうが何の変化もない。

「相変わらずだなお前さんは」

 傍らに立ったロックウッドをマジマジと見るとアトキンスは急に機敏になって立ち上がって拍手をした。

「失礼しました。そちらもお偉くなりまして、誇らし誇らし」

 真っ当な軍人なら激怒して営巣にぶち込むところであるがロックウッドは苦笑するだけで済ませた。

 実はHV総隊長であるロックウッドがもっとも引き抜くのに苦労したのがこのアトキンスだった。このアトキンス、見かけと言動の特殊さはあるにしてもいずれの現場でも極めて評価が高い。イージス隊が解隊となったことでアトキンスには複数の部隊で争奪戦が起こった。もちろん正道では原隊復帰が正しい。ところが原隊指揮官はアトキンスの能力(もしくは人格)を持て余しており、本人の意向を尊重すると宣言。この結果争奪戦は過激化することになった。ロックウッドも是が非でも手に入れたいパイロットとしてあの手この手を駆使したのであるが不利な感は否めなかった。アトキンスはガンナーとして一流の存在でありそれを自負している。一方でイージス隊はそれがあまり活かされる環境ではない。アトキンスがガンナーとして活躍することを重視するならやはりそれ専門の部隊が適当であろう。

 しかし最終的に決め手となったのはアトキンスの意外な志向だった。

「あのお嬢ちゃんのいる方がおもろそうだ」

 それがアトキンスがエノー支隊を選んだ理由である。ロックウッドは意外な理由に面食らってしまったのであるが原隊指揮官は驚かなかった。

 メリッサ・アトキンスが本当にそのような理由で支隊に乗ってきたのかは解らない。ともかく、アトキンスにそういう側面があったということだけはロックウッドの備考欄に記入された。

「しかしまぁどういう気の変わりようなんです?」

 アトキンスがふらふらとどこかへ行ってしまったのと入れ替わりにロックウッドに話かけてきたのはマックス・ホーエンザルツだった。同じく旧イージス隊のメンバーである男だがこの男も引く手数多の売れっ子である。ただしスナイパーは希少である一方で需要も多くはない。間の良いことに同じ時期に複数のスナイパー候補が浮いた状況であり、競合した結果上手いこと指名権がイージス隊に転がり込んできていた。本人はイージス隊に来たことよりもそれをロックウッドが率いることに意外さを感じているようである。

 マックスから見ればロックウッドは自分の手の届く範囲にまでなら動けるだけ動くのだがそこからはみ出るようなことをするタイプではなかった。そういうことは上司を動かしてやっていたのだ。アトキンスの引き抜き然り、自分への引き抜きなどもそのイメージからは大きく外れたものだった。

「環境は変わる。人間も変わらなきゃならんってことだ」

 飄々たる仕事人はロックウッドの返答に納得した風ではない。しかしそれを黙って受け入れるのもその仕事人の性質だった。


 新イージス隊のHVパイロットには総隊長兼第一小隊隊長としてギリアム・ロックウッド少尉がつくのであるが続く第二小隊隊長にはエドガー・オーキッドがつく。この不良軍人は原隊に戻るなり宛がわれた機体(もちろんVFH11)に文句をつけて指揮官と悶着を起こしていた。困り果てた部隊司令にルビエールが助け舟を出す形でイージス隊に引き取られたのである。これがどこまで本当でどこからが茶番なのかは本人たちのみ知るところである。

 旧イージス隊からは他にもエリック・アルマスも招集されている。見知った顔の存在に安堵する一方でエリックには不安もある。

「なんでまた僕まで招集されるんでしょうか」

「どういう意味だ?」

 パイロットの人選を担当したロックウッドは心外と眉を上げる。

「もともと僕はルーキーって枠でイージス隊に選ばれたんでしょう?」

「そうだな。そう聞いている」

 エリックが旧イージス隊のテストパイロットとして抜擢されたのは新人であるからであって能力的なものではない。それはそれでいい。旧イージス隊の目的はあくまでXVF15及びALIOSのテストで幅広いデータを得るためだから理解もできる。しかし現イージス隊は実戦部隊である。ルーキー枠のエリックを選ぶ必要はないはずだった。

「なるほどな。言い分はごもっともだがお前は一つ間違ってる」

 パイロットの人選をほぼ完全に自分の裁量でまとめた。ギリアムは自信たっぷりに言い切る。

「俺が貴様を選んだ理由。それは何をかいわんや、お前さんがVFR15の操縦に関しては世界で9本の指に入るパイロットだからだ」

 それで全部じゃないか。と言いたくはなったがロックウッドのことだから冗談めかしながらも本気なのだろう。

「少しは図々しくなるべきだな。お前にとっても悪い話じゃない。今さらVFH11やら16に乗るよりはまともに戦えるだろう」

「それはそうでしょうが」

 まだ納得にはほど遠いエリックにロックウッドは腹を割ることにした。

「ならもう少し踏み込んだことを言ってやろう。俺たちリーダークラスの人間にとって預かる部下ってのは仲間であると同時に仕事上の道具でもある」

 道具という表現には眉を顰めるところだろう。しかしロックウッドとの多少なりの付き合いからエリックはそれに然して不快感を抱かなかった。それこそがロックウッドにとっては重要だった。

「いま、お前さんは俺の言葉に顔を顰めなかった。それは俺とお前さんに信頼関係、と言えるかどうかはともかく俺がこういう人間なんだって知己があるからだ。仕事上の道具には何より信頼性が重要だ。こいつは何もHVや武器だけの話に限らん。つまり、人間関係においても同じってことだ」

 ロックウッドはかつて試験機のXVF16に乗れる機会があったのだが信頼性を訝しんで辞退したことがある。今回の場合はこの慎重さが部下に対しても向けられているわけである。今さらどこの誰とも知らない人間と信頼関係を構築するよりは勝手を知る相手の方がいい、ということだ。

 相も変わらず身も蓋もない。やはりギリアムとエドガーはベクトルが違うだけで似たような人種なのだとエリックは認識する。

「この部隊。そしてこの戦争は何やら怪しい方に向かっていると俺は見ている。そんな状況で今から部隊の信頼関係を0から築くなんて作業はやりたくない。実際問題、そいつが成功して今の陣容より強力になる可能性より、お前さんが経験を積んでより強くなる可能性の方がよっぽど高いだろう」

 否定の言葉がでかかるのをエリックは何とか我慢した。実際がどうであれ、それで自分とロックウッドに都合がいいならそれでいいではないか。確かに、少しは図々しくなるべきなのだろう。

 エリックの態度に満足したのかロックウッドは不敵に笑うとさらなるオーダーを押し付ける。

「悪いが今の話を聞いた以上はお前さんにも俺の隊の中核を担ってもらうぞ」

「ええ」

「成長しろ。そいつが隊のためであり、何よりお前のためになる」

 この人どんどん図々しくなってないか?どうやらギリアムはパイロット全体のリーダーとなったことでより動きを大きくしているようである。上だけでなく、下に対しても働きかけるようになった。そのやり口に例の不良軍人の影響があるのは間違いなさそうである。


 イージス隊のHV部隊の陣容は以下の通りである。

 第一小隊オライオン/ギリアム・ロックウッド中尉リーダー、ウィルフレッド・ハイゼンベルグ少尉、メリッサ・アトキンス准尉、エリック・アルマス曹長。

 第二小隊デルフィナス/エドガー・オーキッド中尉リーダー、アドニス・ファロン准尉、マックス・ホーエンザルツ准尉、トビー・マクナガン曹長。

 オライオン・デルフィナスの2隊は旧イージス隊のXVF15パイロットたちとオライオンの4人をそれぞれ折衷する形で配置された。多くがエース部隊のパイロットとして階級もそん色ないように整えられる厚遇である。使用機体は現時点で連合軍最強のVFR15。旧機体のログをそのまま引き継いでいる分だけエドガーらの機体の方が慣熟度合いは上である。さらにVFH16を使用する第三小隊ハーキュリーを合わせれば現時点でHV戦力としては最強の布陣となる。

 中隊の戦力も少数のVFR15を大多数のVFH16で囲む布陣でありエノー支隊のHV戦力は連合軍の平均とは一線を課す内容となった。無論、これは旅団の中でも突き抜けた戦力であり、やっかみを受けるものだったがやれるだけのことをやった上での結果である。ルビエールの方はもはやそんなことを気にするつもりはなかった。

 強力なのはHVだけではない。エノー支隊は旗艦となるイージス級戦艦を中心に速力に優れた新鋭艦で構成されている。支隊の役割上、速力がモノを言う展開が多いことを予測しての編成である。旅団全体では余りものの艦船が多く宛がわれているのに比してエノー支隊の艦艇は全て運用年数2年に満たない艦艇でこの点でも異質だった。

 これだけの戦力を集められたのはやはりルビエールとマウラ閥のネームバリューに負うところが大きい。しかし名前だけあれば周りが勝手に献上してくれるわけではない。名前あってこそであってもその結果はルビエール自身が首席事務官マオ・ウイシャンと共に方々を駆け巡って交渉を繰り返した賜物であった。

 クサカ社との駆け引き相手になったのはあのロドニー・エディンバラだった。ルビエールは勝って知ったる企業人を相手にエノー支隊の喧伝効果と実戦での運用実績、何より実戦に投入される可能性の高さを説いた。

 VFR15及びVFH16の採用数を確保したいクサカ社にとっても悪い話ではないし、リターナーの英雄、マウラ閥の新鋭であるルビエールを活用したい思惑もあってクサカ社はエノー支隊の強力なスポンサーとなった。

 ルビエールの変貌ぶりにエディンバラは苦笑する一方でその奮闘に感服する。ただ単に与えられる道具に満足することなく、取れるものは何でも取っていく。ジョン・アリー・カーター、シュガート隊のハンス・ヘリクセン、さらにはトロギール・カリートリーから学んだことをフル活用してルビエールは奮戦する。

 こうして集めた資材に支隊、旅団からは呆れの声が上がる。その中でルビエールが駆けずり回ったことを知る者がルビエールに与える評価には少なくない感嘆も含まれていた。特にもっとも高い評価を与えたのは共に奮戦することになったマオ・ウイシャン少尉である。当初はローマから得体の知れない旅団に転属することに不満を持っていたウイシャンだったが「事務官の実戦」をルビエールと戦い抜くことでウイシャンはルビエールの色に染まることになる。指揮官にとって信頼できる事務官が代えがたいものであるのと同じように事務官にとっても理解のある指揮官との巡り合わせは僥倖である。また、ウイシャンからすればいまやローマ、つまりマウラ閥の重要人物であるルビエールに近しいことは自身の野心に叶うところでもある。つまるところウイシャンはルビエールに「乗った」というわけである。

 ルビエールのかき集めた部材を見て他とは異なる反応を見せたのはジョン・アリー・カーター大佐が紹介したダニエル・ウェイバー大尉とピーター・ジェニングス大尉だった。2人はルビエールよりは年上ながら全体として見れば若く、支隊の8つある小隊指揮官の末席に座る。実のところこの2名もカーターの麾下から得体の知れないルビエールの麾下になったことを納得しているようではなかった。しかも支隊は寄せ集めの混成部隊である。不満がない方がおかしい。そんな2人もルビエールの戦いを見せられると認めざるを得ない。苦笑しながら二人は言い合う。自分たちより若い指揮官が彼らの師であるジョン・カーターと同じ穴の貉であると。

 結果的にルビエールの戦いぶりは支隊のいくつかの潜在的な不安要素を排除することにもつながったのである。しかし不安要素はそれで全てではない。

 支隊を構成する小隊指揮官たちは先のウェイバー、ジェニングスの二人を除くとどれも齢40を越えるベテランたちが揃っていた。これはルビエールのベテランを欲しがる意図に沿ったものではなかった。ソープが選出したのはどれも出世し損ねたくたびれた中年たちだったのである。経歴に傷がない意外に取り柄がない。とは集めてきたソープの言葉である。大半はやる気がなく、また自分たちが選ばれた理由を図りかねていた。もちろん馬鹿正直にそれが説明されるはずがない。

 これにより支隊の将校は若手と脂の乗り過ぎという本来なら働き盛りの中間層がごっそり抜けた歪な年齢帯で構成されることになった。ソープはルビエールのベテランを欲しがる理由をたよりないベテランとルーキーしかいない状況にすることで土台から引っ繰り返したわけである。ルビエールしか頼れない環境。この構成は支隊がルビエール至上主義でかまわないという旅団の思惑にも合致する。

 つまるところエノー支隊は完全なルビエールのワンマン部隊になってしまったわけである。ルビエールは絶句する。元々そのような性質の部隊であるにしても内実的にはルビエールが頼れる先達が一人二人はいて欲しかったのであるがこの願いは「先達ならコール少佐やディヴリィ大尉がいるでしょう」とバッサリと切り捨てられた。

 このアンバランス、かつ極端にルビエールに負担のかかる構成にはさすがのコールも不安を覚える。しかし短い付き合いながらフレッド・ソープなる人物がルビエールにはそれができると評価していることも解っていた。いや、それくらいはやってもらわなければならない、とソープは考えているのか。ソープは支隊の構成を強くすることに関しては迷いなく協力的である。ルビエールと支隊を「旅団の武器」として積極的に活用する道を模索している節もある。そのためにルビエールを焚き付け、煽っているのだ。

 フレッド・ソープなる男。やはりくせ者である。コールはそう結論付けながらもその男の思惑に自身も同調しているのを自覚していた。

 ともかくエノー支隊は形ばかりは整った。後はこれをルビエール・エノーが如何に動かすかにかかってくるわけである。


「いやはや、何とか間に合いましたねぇ」

 ほとんど自分の思惑通りに編成が進んだソープは上機嫌だった。一方で半ばだまし討ちにあったようなルビエールはあまり納得はいっていない。もっとも、これ以上の編成が望めたかと言えばそれも想像しにくい。不満なのは自分にあてられる過大な課題だ。なんでそこまで自分が追い立てられねばならないのか。ルビエールの「我々は試されている」という言葉は自分への過剰負担に対する抗議から出たところもあった。

「それで?こっから先はどうなるのかしら?」

 まだ旅団は揃っただけでしかない。この先の展望は全く知らされていない。これはソープですら同じようだった。

「それが今のところ何も決まってないんですよねぇ。もちろん、大佐にはそれなりの展望があるんでしょうが」

「その大佐だけど。うちをどう扱うつもりなわけ?」

 これまでソープを通して旅団の意思を確認してきたわけだが、それはハミル大佐自身と完璧に一致するわけではないだろう。何よりこれらのやり取りはあくまでスタンスの話でしかない。実戦的な部分は双方全く手つかずな状態だった。

「正直なところ、そっちは僕の慮外なんで」

 ああ、そうですか。と白けた視線を向ける。ルビエールもソープに対する遠慮がなくなっている。

「戦術的な部分は戦術指揮官のボスコフって人がメインになります。古風で真っ当な軍人なんで、中佐は嫌われるかもしれませんねぇ」

「謂れのない嫌悪には慣れてます」

 ルビエールは素っ気なく言った言葉だったがソープはマズったという顔をした。この男でもそういう機微はあるのかとルビエールは少し見直したが表情は逆に普段は見せない冷笑となってソープに失点を印象付けさせた。

 いたたまれなくなったか、咳ばらいをするとソープは話を変える。

「さて、では僕は旅団に支隊の準備が完了したことを報告してまいります」

 本来ならそれはルビエールの役割であるが旅団の参謀でもあるソープの方が適任だろうし、ソープとハミルの間でも他に用事があろう。

「いっそ戻ってこなくても結構。向こうの席も寂しがってるでしょ」

「いやぁ、こういっちゃなんですが向こうの席は古くて硬い。おまけに前任の溢したスムージーの跡が残っていましてね。それに比べればこちらの席の何と衛生的なことか!」

 ちゃんと聞こえるようにため息をつくとルビエールはとっとと行けと身振りで示した。

 全く気に入らない。しかし皮肉な話だったがエノー支隊編成においてもっとも重要なピースがフレッド・ソープ中隊司令補佐官なのは認めるしかない。旅団司令から送り込まれたその男は支隊より旅団に重心を置いている人間だが同時に支隊と旅団の連携の象徴とも言える。ソープとの信頼関係が維持される限り、支隊は旅団から信頼されていると見做すことができるのである。そしてソープという男は身も蓋もないことを言ってくれる貴重な参謀役としてもルビエールにとって貴重な存在となるのである。


「エノー中佐はどうだ?」

 その男を送り込んだ旅団司令アントン・ハミルは決してそのような効果を狙ったわけではない。むしろ嫌がらせに近かったかもしれない。フレッド・ソープという男は見た目・言動ともに嫌味な男であり、旅団司令部でもまごうことなき嫌われ者なのだ。ただし、ハミルにはその嫌われ者を効果的に使う手腕があった。果たしてルビエール・エノーはどうだろうか?それを試すという感情もゼロではない。

 ソープは肩を竦めると上官にとって気に入らないだろう評価を下した。

「はっきり言うと大佐とは個人的な折り合いが悪い方でしょうね」

 ふん、と鼻を鳴らしてハミルは不機嫌そうに顔を顰めた。この男がそういうならそうなのだろう。仲良くやっていけるなどとは期待していなかったが。

「ただ旅団にとって活用できない人物ではありません。政治的な立ち回りを嫌うようで、現状も利用されている、と見れます。そしてそれを気に入っていない。こちらから適切にフォローしてやればあちらも応えてくれるでしょう」

 これはハミルにとって朗報だった。ハミルがもっとも嫌うのは支隊の後ろにチラつく勢力によって旅団が振り回されることだ。これをエノー自身も嫌うのであればソープの言う通りにすれば共存は叶うかもしれない。旅団と支隊で折り合いがつきさえすればエノーとハミルの折り合いなどどうでもいい。

「そうか。引き続き支隊を監督しろ」

「えーと、僕の勝手な判断で支隊をエノー応援隊にしちゃってますけど大丈夫ですかね?」

 ソープは自身が必要以上に支隊に食い込んでおり、またエノーを自由にさせ過ぎていることに言質を取ろうとした。今さらに過ぎるソープの事後報告にハミルの答えは素っ気ない。

「貴様の判断でエノーがこっちに有害にならないと見做すうちは好きにすればいい」

 この割り切りこそがハミルの美点だとソープは考える。

 ハミルは士官候補の頃からきっちりと刈り込んだクールカットを維持していて鉄兜の異名通り頑固者の石頭で通っている。しかし実態がその通りなら新設の旅団司令になど抜擢されないし、ソープのような人材を配下になどおかないだろう。ハミルという男は実際には自分が持っているものと持っていないものを判断して足りないものを別のもので補うことを知る指揮官だった。

 ルビエールとハミルは折り合いが悪い。そう報告したソープだがこれは半分本心だったが、半分は欺瞞と言うべき内容だった。この2人は部分的にかなり近い考え方を持っている。ゆえに実戦では噛み合う可能性が高いとソープは見ている。しかし、そのことはハミル、そしてルビエールにとって恐らくは気に入らない事実だろう。そう考えてソープは敢えて触れなかった。実際それが当たっていたことは後日証明されることになる。


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