表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しいおこりんぼう  作者: 蔵間 遊美
5/14

起動


「何? カルヴァナリアス星だと?」

 年配の男性が声を上げる。目の前の部下らしい壮年の男性は空調の効いた部屋であるにも関わらず汗をしきりに拭っている。

「は、はい…おそらく墜落したものと…」

 よく見ると年配の男性も、もう一人の部下らしい壮年の男性も地球連邦の軍服を着ている。さらに年配の男性の胸にはジャラジャラと勲章がこれでもかとぶら下がっていた。

「バカモン!」

 よく通る声で年配の男性は、部下の男性を怒鳴りつける。その迫力に壮年の男性はひっと肩を竦めた。

「で、ですが…! トライア将軍…!」

「言い訳は聞きたくないわっ!」

 トライア将軍と呼ばれた年配の男性は目の前の机を殴りつける。

「はっ…! 申し訳…!」

「もういい! 下がれ!」

「はっ…!」

 男性は慌てて退出していった。


 トライア将軍。地球連邦軍の作戦司令を司るアテナ所属の将軍の一人。眼光鋭く、その眼差しに比例して野心家としても、地球連邦内でもっとも警戒すべき男として有名である。だが、今までの彼の華々しい戦歴が銀河連合と微妙な状況下にある昨今、彼を切る事は出来ないと言うのも実情であった。


 地球連邦は、連邦加盟の各星の代表が集まる最高峰機関である議会ガイア、独立司法裁判所のクロノス、独立資料機関のノア、独立監査機関ハデスで政治を執り行っている。

 一方、地球連邦軍は軍統括機関ゼウスを筆頭に、実動部隊統括のポセイドンと後方支援を統括を司るヘラがある。

 実動部隊統括のポセイドンは、作戦司令を司るアテナ、艦隊指揮を司るアルテミス、白兵部隊を司るアレス、偵察、諜報を司るヘルメスで成り立っている。

 そして後方支援を統括を司るヘラの構成としては、医療支援を司るアポロン、メンタル面での環境整備を司るアフロディテ、食料支援を司るデメテル、燃料調達を司るヘスティア、工作支援を司るヘパイトスの12の機関で基本的に成り立っている。


「……アレさえあれば…アレさえあればわしの栄光は永遠の物となるのに…っ!」

 トライア将軍はまた机を両手でガン!と殴りつけた。

「だが…アレの開発は秘密裏に進めて来たからな…どうしたものか…」

 そこへシュッと音がして、誰かが入ってくる気配がする。トライア将軍が緩慢に顔を上げると黒髪の青年が近付いてきた。

「キムか…」

 キムと呼ばれた青年はトライア将軍に一礼をする。年の頃は20代中頃、細く一重の切れ長の瞳も黒く、すっと通った鼻筋に酷薄な笑みを浮かべているその唇は薄い。

「トライア将軍。ハノイ大佐が真っ青な顔をされてましたよ」

「ふん! 大事な船を持ち出された挙げ句、取り逃がしたのだから当然だ!」

「ですが、カルヴァナリアス星となるとやっかいですね…」

 キムは軽く顎に手を当て考えている。

「バカなことを。あんな辺境の星なんぞ…!」

「ですが、わが連邦の上層部だけでなく、連合側もまったくあの星には手を出す気配がない。違いますか? 確かに、あの星に行き着くのに事故無しで行き着く事は難しい。ですが、調査目的の学者が何度か行き着いている事から考えてみても、そうそう事故が起こっているわけでもないのに、どうしてなんでしょう?」

 キムのその言葉に、トライア将軍ははっ!と鼻で笑う。

「あんな星一つぐらい何時でもどうとでもなるわ! それよりもアレだ! アレを取り戻さねばいかん!」

「では、俺が行きましょう」

「行ってくれるか? ハノイよりもお前の方がこんな場合は頼りになるからな」

 キムはうっそりと笑う。

「えぇ…あなたに全てを教えられた…その全てにかけて」

 そして深々と一礼をし部屋を出て行った。


 キムは自室へと戻ると、自分の部下達へと出発の為の準備を始める。

「あぁ。そうだ。カルヴァナリアス星へ調査に行った事のある学者を捕まえて、どんなタイプの船で行ったのか、どんな星なのか聞き出しておいてくれ…あぁ。使った分は経費で落とせるようにしておく。頼んだぞ」

 次々にキムはカルヴァナリアス星へ行く為の準備を整えていく。そして一区切りついた後、自室の窓から外を眺める。

「…カルヴァナリアス星ね…また面白そうな星に落ちたもんだよ、まったく…」

 そしてふっと薄く笑うと、机の中から旧式の銃を取り出して、その黒光りする表面をすっと撫でる。見るとその銃はまだ、人類が宇宙へと飛び出す前の、今では手に入るのさえ困難だと言われている古い時代のもので、今では何億と出しても手に入らない骨董的価値があるものだった。

「今回は何人ぐらいが命を落とすかな…」

 そんな銃を撫でながら、何でもない事のように呟いている。

「…強くなければ…生きて行く資格なんかない…だから、もっと…もっと…ふ、ふふ…」

 狂気を孕んだ笑い声が、密やかに部屋へと充満していった。


 ガン!ガン!

 その音でソラは覚醒した。ゆっくりと起き上がり、周りの状況を確認する。昨晩ファリナ村での『牢屋入りの儀式』という建前の『宴会』が真夜中まで続き、ソラは夜中の2時過ぎにやっと『牢屋』へと入り、休息を取ったのだ。そこまでの過程を記憶から再生している間にも、ガンガンと何かを叩く音は続いている。ベッドをガラス側から隠すように立っている衝立てから、ヒョイと顔を出すと、外はまだ薄暗い。だがガラスの外には村人が立っており、にっこりと笑いかけてきた。何事かと思考しつつ近付く。

 すると。

『よっ! おはようさん! 朝食持って来たで〜』

「え?」

 見ると村人の手にはパンと牛乳、野菜スープとベーコンエッグが湯気を立て、さらには果物まで付いてトレイに載っている。反射的に時計を見ると朝の5時だった。

『そこのボタン押して〜』

 村人が指差す先を見るとボタンがあったので、言われた通りに押した。すると下の壁の一部がカタンと内側に開く。

『ココ置いとくな。ごめんなぁ不便させて』

「あ。いえ」

『じゃあ、また後でな〜』

 村人はそう言うと、にこやかに手を振りながら去って行った。

「…え? また後で?」

 ソラは反射的に首を傾げた。


 暫くして、『また後で』という意味が分かった。ご飯を食べていると時間を置かず、男性達がおはよう!と挨拶をして『牢屋』の前を通って行く。そのまま何となく彼等の行方を目で追っていると、畑仕事を始めたのが確認出来た。

 どうやら、村人総出で作業を行っているようである。

『ソラさ〜ん♪ おはよーございまーす♪』

 今度は子供達がブンブンと手を振って目の前を通り過ぎて行く。

「あ、うん…」

 ソラは反射的に手を振り返す。子供達はきゃあきゃあ楽しげに通り過ぎて行く。皆、お揃いの鞄を持っているので学校のようだ。

 そうこうするうちに、今度は女性陣が、手に手にお弁当らしき物と、何故か色とりどりの花が植わった鉢植えを持ってやってくる。

『ソラさん、よう眠れた〜?』

「は…まぁ…」

『そら、よかったわぁ。そうそう。コレ、ウチの庭で今朝咲いた花やで〜』

 一人の女性が花の咲いた鉢植えをソラに見せる。すると他の女性陣もほらほらと、競うように手に持った花々をソラに見せてくる。

「…綺麗ですね」

 ソラは目を細めて素直に感想を述べた。

『そうやろ〜♪ ここ置いてくな♪』

「え?」

『やって『牢屋』の中なんにもないやろ? せめて花ぐらい見れんとつまらんやん?』

『なぁ?』

 女性陣はそう言うと、手に持った鉢植えをこの花の横には、この花の方がいいだのなんだかんだ言いながら並べて行く。どうやら、満足のいく配置になったようで、女性陣は満面の笑みを浮かべてソラを見てきた。

『どうや? 見栄えよう並んだやろ?』

「はい。ありがとうござます」

 ソラはそう言って軽く頭を下げる。

『早う議長さんが外に出てもえぇって言うてくれはるとえぇねぇ』

「え?」

 ソラは何の事だか判断が出来ず、首を傾げる。そこへ。

『…んもぅ、おかん達、早うおとん達に弁当届けたりぃな』

 女性陣の後ろで、シイラが腰に手をあてて立っていた。

『せやかて〜』

『ソラさんは見せ物ちゃうねんからな!』

『ちぇっ。シイラちゃんのケチ〜』

『あ〜はいはい。しゃ〜ないやろ。会議堂からの監視員やねんから』

 シイラがひらひらと手を振ると、女性陣はぶーぶー言いながらも、畑仕事に精を出す男性陣へと弁当を届けに行った。

『ソラさんおはよう』

 シイラは女性陣が去るとソラに向かって挨拶をしてくる。

「シイラさんおはようございます」

 ソラも挨拶を返す。

『よう眠れた? 体痛いとこない?』

「えぇ。ありません」

『そらぁよかったわ』

 シイラはにっこりと笑った。

「あの…お聞きしたい事が」

『なに?』

 シイラは首を傾げる。

「なぜ農作業をオートメーション化してないんですか?」

『は?』

「作業のほとんどを人の手でされているのが見えたものですから…」

 ソラは、農作業を行っている村人達を指差す。その先には、お弁当を持って来た女性陣も農作業に加わっていた。一応、機械はあるがそれは水をくみ上げるものと、肥料を混ぜるためだけのもののようだ。

『あぁ。そういやどっかのメーカーがそんな機械を売りに来たわ。今までの機械よりも空気を90%以上汚しません、なのに効率化アップとかって』

「そんなに高価だったんですか?」

 シイラは笑って頭を振る。

『うんにゃ。問題はお金やなくて、村長会議で『じゃあ今までより空気が10%も汚くなるってことやん。そんなもんいら〜ん』てさ』

「…なるほど」

『それにさ、働いていないとボケるや〜ん、お前らはワシらをボケさせたいんか〜って年寄り連中が大反対』

 さすがの議長も苦笑しとったわ。とシイラは面白そうに言う。

「それであの…さっき出してもらえるみたいな事を言われたんですが…」

『あぁ。議長がなんや色々調べて問題がないと判ったらな』

「そうなんですか…」

『ま、もう少し待っといて』

 シイラにそう言われて、ソラは頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ