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優しいおこりんぼう  作者: 蔵間 遊美
3/14

遭遇


「はぁ…頼まれたもんの…気が重いわぁ…」

 星の中枢機関というわりには質素な建物の『会議堂』に着いた後も、ソラはさらに念入りな身体検査を受けた。身体スキャンを受けた時は密かに心配はしたが、特に問題とされなかったようで安心する。だが、検査官ののんびりとした態度とは裏腹の厳重で、念入りな身体検査だったために首を傾げてしまう。その後、議長室へとシイラに案内されている最中なのだが。

「……どうしてそんなに気が重いんですか?」

 そんなシイラの様子を不思議に思い、ソラはシイラに尋ねる。シイラは小型カメラを片手にブラブラとさせながら指折りを始める。

「……先ず一つ。あんたがうちの議長を見て失望しそうやから」

「はぁ…」

「次に。あんなホラ吹きが議長やなんてめっさ恥ずかしいから」

「はぁ…」

「また次に。あんな腹黒そうなのが議長だなんて申し訳ないから」

「……えっと」

「またまた次に。あんなTPOをわきまえられないのが議長だなんて悲しいから」

「……」

「それから…」

「なんとなくわかったのでもういいです」

 まだまだ続く議長とやらの文句をソラは遮った。

 

 シイラは「議長室」と書かれたドアの前に立つと、大きく深呼吸をする。そして両手でウシッ!と握りこぶしを作り気合いを入れている。

「よっし。なんでもこい!」

「……あの…なんでそんな深呼吸をしなければならないんですか?」

 その気合いの入れ方にソラは若干不安に陥る。だが、シイラはキッとソラを睨み付けるとビシッと指を突き付けてきた。

「言うとくけどな。何があっても驚かんといてや? こんなんがこの星の最高責任者やなんて正気とか疑ったりせんといてや?!」

「いえ…あの…」

「ええね?!」

「あ…はい」

 ソラは、なんでこんなに念を押されなければいけないのだろうと思考しつつ頷く。

「よし」

 シイラはそう言うとゴンゴンと議長室の扉をノックした。

「ぎちょ〜。連れてきましたよ〜」

『おう。入れ』

「ほな」

 シラがバッとドアを開けると、正面に男性と思われる人間が座っている。

 だが、ソラは一瞬それが人間であると認識できなかった。目の前にいるシイラも固まっている。

「よっ。シイラおつかれさ〜ん。そっちが…別嬪…さん? あれ?」

 それが口を開いて初めて人間であるとソラは認識ができた。よく見ると、髪をオールバックに撫で付けた標準的な体格の男性だとは認識できる。

 できたがしかし。

「あいつら〜! 騙しやがったな! 女やないやん!!」

 その声にハッ!とシイラが我に返えり、握ったままだったドアノブを思いっきり引いてバタン!!とすごい勢いでドアを閉じた。

 妙な空気が流れる。

「……あの…今のは…」

 ソラの呆然とした声にシラはガツン!と目の前のドアに額をぶつけている。

「……あんのアホラ吹き議長め…」

 しばらくそのままでワナワナと震えていたと思ったら、今度はバターン!!と勢い良くドアを開け放った。ソラはドアが壊れそうな勢いだったなと思考する。

「こんのアホラ吹き議長〜!!」

 その怒鳴り声の大きさに、ソラは反射的に耳を押さえてしまった。

「な、なんでそんなに怒ってるねんな〜!」

「怒るでしょ?! 怒らなアホでしょっ?! あんた何考えてんのっ?!」

「え? え? 何って…そらぁ別嬪さんのお客をお迎えしようと思ってやな…」

 怒鳴られて議長はビクビクと身を竦ませている。だけど、その奇妙な姿の為にコントにしか思えない。

 なぜなら、議長と思わしき人物は。

「だから金? そんな安っぽい金色なん?!」

 頭の先から、恐らくコンタクトであるだろうがご丁寧に瞳も、おそらく机で見えていないつま先まで。

 

 正真証明の『金色』だったのだ。

 

 全身金箔が貼ってあるような『金色』だったので、ソラは最初人間であると認識できなかった。今も顔の判別がつきにくい。

「だ、だってめでたいやん?!」

「そんなわけあるかぁ!!」

「そ、そんなに怒るなよ〜」

「怒るわぁ! ちくしょ〜!」

 シイラはそう叫ぶと手に持った小型カメラで素早く議長を撮ると、さっさと何やら操作をする。

「シ、シイラ? 何したん?」

 突然のことで、撮られるままだった議長が恐る恐る尋ねると、シイラは鼻息荒くフン!と横を向き、腕を組み議長を睨み付けた。

「…星の全部の村長宅に今の写真を送ってやったわ」

「え?」

 議長の顔が引き攣った…ように見える。

「しかも『お客さん』を『女』やって間違えてってな!」

「うわぁぁぁ!! シイラのアホ!! 明日っから俺笑いモンやん!!」

 議長はそう言うと頭を抱えた。

「笑われるがえぇわっ! 早うお客さんとの面談始めて下さい!」

 シイラが腰に手を当てて怒ると、議長はシイラの鬼、悪魔と言いながらシクシクと泣きまねをしつつ、ソラへと向き合う。

「え…と」

 ソラは目の前のこの珍妙なやり取りに、どう対処すればいいのか判断が付かなかった。思考が止まっていると、シイラが椅子を勧めてくれたので座る。

「で? お兄さん…」

「ソラさんとおっしゃるそうですけど」

 議長が何かを聞こうとした途端、シイラがツンケンとした声で名前を告げる。

「あー、ソラさんや。目的地は?」

「何処へでも」

 ソラはにっこり笑ってそう答えた。議長は片眉を上げて、チラリとシイラを見やる。シイラは肩を竦めた。

「ちなみに、船は見た事のない型でした」

「あー…送られてきたデータは俺も見た。確かに見た事なかったわ」

「最新型ですので」

 そつなく返答するソラの対応に、議長は手を組んでじっとソラを見つめる。

「ふ〜ん…擬態してそうって?」

 議長は顔はソラに向けたまま、目線だけをシイラに寄越す。

「その可能性はないそうです」

「擬態…ですか?」

 シイラの答えにソラが首を傾げると、議長が苦笑しながら答えてくれた。

「たまにとんでもない習性持った種族も、見境なしに墜落してくるさかいにな」

 シイラもうんうんと頷いている。

「ホンマ…あの水にずっと浸かってな死んでまうっていう種族の人には困ったわぁ」

 シイラははぁとため息を吐く。

「水に?」

 ソラは目を丸くして聞き返した。

「そ。全身水に浸かってな死んでまうのに、墜落したショックで船の中の水が溢れ出してしもとかでな…」

 議長がそう話すと、あの時はホンマもう大騒ぎやったわとシイラがぼやいている。議長はまぁまぁと言いながら続ける。

「だけど、あのヴァラレナ人は水の中に一生居れば三百年の寿命を持つ種族やねんで?」

「そら、あの人らにそうお聞きしましたけど…未だに信じられへんですもん。そら、うちの星の水は他の星とは比べ物にならないぐらい綺麗だって大喜びやったんは嬉しかったですけど」

「おかげで取引先が一つ増えたやんんけ」

「取引先っていうか…寄港して水を補給だけですやん。しかも水ぐらいでお金とりたくないって皆が言うから物々交換ですし。儲けはなしですよ」

 墜落せんように気をつけなあかん分、手間が増えただけですやんとため息をつくシイラに議長は笑う。

「物々交換だけやったら悪いからって、代わりに色々な星の情報も持ってきてくれるからえぇやないか」

「でも、なんかこう…納得できません。大体あの人ら、自分たちみたいなのは変わった種族には入らへんとか言わはるし。どう見ても変わってますやん」

「まぁ、お前はまだ若いからなぁ。中には八百年の寿命を持つ種族も居るねん。しかも銃で打たれても耐えられる表皮を持っているらしい」

「へぇ〜」

「そうなんですか?」

 シイラとソラの吃驚したような声音に満足したのか、議長は楽しそうにその話をする。

「そうや。グラバルダ星人がそうや」

 ところがソラはその名前を記憶していた。学習した中に入っていたのだ。

「グラバルダ星人は滅亡したはずでは」

「え?」

 ソラのその言葉にシイラは驚いて議長を振り返る。議長は少し口元を歪めて頷いた。

「そうや。その残忍性のせいでな」

「残忍性?」

 シイラは眉を顰める。

「グラバルダ星人は、その頑丈さと残忍性、そして寿命が長いせいもあったのか享楽的な性質でな『退屈だから』と種族内で殺し合いを始めてしまってほぼ滅亡したんや」

 議長は軽く肩を竦めたが、その話を聞いてシイラはゲ〜っという顔を隠さない。

「アホちゃうやろか。そんなに頑丈で長生なんやったら、畑仕事たくさんしたほうが生産的で健全やん」

「は?」

 ソラはシイラに聞き返す。なぜ、頑丈で長生ならば、畑仕事なのだろうと思考したからだ。

「せやって、そんなに退屈なんやったら働けばいいやん。働かざるもの食うべからずや」

 その当然といったシイラの態度にソラは対応できずに無表情になる。議長はそんな様子のソラに、吹き出しそうになりつつも説明をする。

「まぁ、グラバルダ星人は完全に滅亡したわけやない。その前に星を脱出したのも居るさかいにな。ほとんどが傭兵として生きてるんとちゃうかな…つーか、それ以外絶対に無理やろな」

「は? なんで?」

 シイラの疑問に議長は肩を竦めた。

「享楽的なのは性質だけやなくて残忍性にも現れていてな。戦士としては優秀やけど、その性質故に、他者との共存が難しいねん」

 その話を聞いて、シイラは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「うへぇ…なんや見かけがちゃいますのん? そんな来たらたまらへんわ」

「あぁ。肌の質感や外見は俺らと同じ地球系だが、肌の色が玉虫色で、髪も同じような細さやけどステンレスのようにカッチカチ。瞳孔が蛇のように縦」

「……覚えときますわ」

 シイラは真剣な顔をして頷く。

「他にも落ちてくるお客さんの中には、アメーバ状で、その場に居合わせた生き物の擬態をしたりした種族もおってな。確かあの人らも六百年は生きるはずや」

 その種族のこともソラは学習して記憶していた。

「…それは…オレニアス星人ですね…その特殊な擬態の為に迫害されていた上に…繁殖期が25年に一度の為に一時期滅亡しかけた…」

 ソラのその答えに議長は軽く頷く。ソラは、そのような状況であるからあの厳重な身体検査が行われたのだと理解できた。

「そう。今は銀河連邦と地球連邦どちらからも保護指定を受けとる」

 シイラは感心したようにソラを見つめる。

「ソラさん、あんたよぅ知ってはるなぁ」

「ホンマや…あんた中々の博識やな」

 議長は笑顔のままソラを見つめる。よくみると議長の顔立ちは切れ長二重のなかなかの美形のようだ。

「あなたこそ」

 暫く2人は見つめ合う。シイラは居心地悪そうに2人を交互に見つめた。

「……ま、えぇわ。シイラ。ファリナ村に連れてきな」

「えぇんですか?」

「かまわん。そのうちに目的を教えてくれるやろうからな」

 議長のその言葉にシイラは肩を竦めた。

「ところで、私からも質問よろしいでしょうか?」

 議長はソラの問いかけに、エヘッと笑うと口元に手を持っていって恥ずかしそうに言った。

「スリーサイズ以外なら♪」

 すかさずシイラの鉄拳が議長に飛んだが、ソラはかまわず疑問に思ったことを聞いた。

「……その…議長さんは何故そんな、その…」

 ソラがなんと言えばいいのか思考していると、シイラがそのままズバリと言ってきた。

「なんで全身こんなけったいな色してるんかやろ?」

「シイラちゃん…」

 議長が恨めしそうな顔をしてシイラを見つめている。シイラはギロリと議長を一睨みするとソラに理由を話した。

「このアホラ吹き議長の趣味がな『肌の色替え』やねん…」

「というとあの、肌の色を人工的に変える事が出来ると言う…」

 確か化粧品メーカーのコスモスビューティー社が、そんな製品を出していたなとソラは記憶を呼び出した。金色まで出ているとは知らなかったけれど、この色は売れているのだろうかと思考した。

「そう。あれや」

 一方、シイラの方は重々しく、且つ、苦々しげに頷いている。

「せやってなぁ、刺激のない毎日に気分転換が欲しいやん。なぁ?」

 議長にそうふられてもソラはどう返せばいいのか判断が付かなかった。

「刺激を求めるんやったら、星出て働いてこい!」

 シイラがそう言って怒ると、議長は口元に手を当てる。

「んまっ! シイラちゃんてばいけず!」

「せやけど毎朝毎朝、へんてこりんな色の組み合わせを見せられるウチらの精神的苦痛はどないやねんな!」

「え〜? そんなに変かな〜?」

「変! 美的感覚おかしい!」

 シイラのその一言に、議長はわざとらしく大げさに後ろへ仰け反る。

「ひ、ひどい!」

「ひどないわ! 色彩感覚おかしい! せやから皆、議長にはデザインとか都市計画の仕事の最終決定権を渡さんと、執務補佐官長のカーロスさんに委ねとんやんか!」

「あう!」

 シイラにそう言い放たれて、議長はばったりと机に倒れ込んだ。シイラはその様子を横目で見ながらはぁと疲れたようなため息を吐いている。

「まぁともかくこんな調子で、毎日肌と髪と瞳の色が変わるねん…」

 せやけどまさか金色で来るやなんて思うてもおらんかったわと、シイラはぶつぶつと怒っていた。


 そのままソラはシイラの執務室へと連れてこられた。

「あの…」

「何?」

 シイラはごそごそとファリナ村へと行く支度をしていた。

「あなたはお若いようなのに、執務補佐官なのですか?」

 ソラのその質問に、シイラは振り返る。

「……あんたはどこまでこの星の事を知ってるん?」

「あの…地球タイプの星で、国家がない事、農業が盛んで、星の住民は呑気で楽天家ということぐらいしか」

 ソラのその答えに、シイラはふぅっと一つため息を吐く。

「ま、な。うちの星はめったに外からのお客さんが『普通に』来られへんし、バミューダ宙域の謎の解明に一生懸命な物好きな学者さんぐらいしか、こんな宙域ハズレの田舎星には来たがらんもんな」

 まぁ、さっきの話に出てたヴァラレナの人みたいなのはかなり特殊な部類に入るんやろうけどとシイラは笑った。

「事故が起きる原因はまだ突き止められていないそうですが…」

「そうらしいけど。別にどうでもえぇわ」

「え? でも…」

 ソラが何かを言いかけたが、シイラは肩を竦めてそれを遮る。

「せやって、ウチら別に支障なく暮らせてるもん。特に問題ないやん」

「はぁ…そうですか…」

「ま、とにかくうちの星の簡単な事を説明したるわ」

 シイラはそう言うと自分の執務机に地図を広げ、ソラに見るよう勧める。

 

 シイラの説明によると。

 カルヴァナリアス星は6つの大陸に別れており、それぞれの大陸に中枢機関の会議堂から議長代理が2人ずつ、その他諸々の雑事をこなす人間が30人程派遣されている。議長代理の選抜は『怒りんぼ』達の中から性格が正反対で、尚且つウマが合うとされる2人が選出されて派遣されてる。

 

「『怒りんぼ』?」

 ソラの疑問にシイラが答える。

「さっきも言うたやろ? 『怒りんぼ』いうんは、この星の基本的な人間の気質とは異なっている人間を指すんや。基本的に呑気な人間が生まれるけど、たま〜にイラちな人間や妙に冷静な奴とかね」

「また何故?」

「さぁ? せやけど『怒りんぼ』以外のこの星の人間が、議会を運営したらうまくいかへんかってん」

「え?」

 シイラは肩を竦める。

「よぅ考えてみぃな。のんびりと呑気に会議してて物事が決まると思う?」

「……決まらないでしょうね」

「せやろ? せやけど『怒りんぼ』達は結構ちゃっちゃと物事を進めて行くのに適していたから、そういう役割を振られてんやて。元々『怒りんぼ』だけで集団を形成していたからね」

「え?」

 シイラは地図を見つめたままなんでもないことのように答える。

「この星の人間と気質が違い過ぎる為に『怒りんぼ』達は『怒りんぼ』達だけで元々集団を築いてたんや」

「そんな…」

「あ?」

 シイラは地図から顔を上げる。

「そんな、自分達と異質だからって…」

 ソラの言いたい事を察してシイラはあぁと笑って、手を横に振った。

「ちゃうちゃう。『怒りんぼ』達が生活リズムが合わへん! って集まったんが最初らしいから。『怒りんぼ』達以外はなんで出て行くの〜ん? って不思議がってたそうやしな。そんで元々会議堂のあるココらへんが『怒りんぼ』達の集落やったから、そのまま国の中枢機関として使てるねん。それからは『怒りんぼ』だと判断されたらここ、会議堂に連れて来て運営に携わる為の適正を見て、それにあった教育をするねん」

「はぁ…」

「ま、でもウチも最初ココに連れてこられた時は『ウチが変な子やったから、おかんやおとんに捨てられたんや』て思うてたで?」

 シイラはおかしそうに笑う。ソラはどう答えればいいのか判断が付かなかった。

「しっかもウチのおとんとおかんは連絡さえくれへんでな」

「そうだったんですか…」

「んで、ある日爆発して電話でぶちまけたってん。『おとんもおかんも連絡一つ寄越さへん! ウチのことが嫌いなんや!』って」

「…どうなったんですか?」

 するとシイラはうんざりした顔になる。

「それから毎日毎日毎日毎日、電話がかかってくるねん。しかも2時間ぐらい自分達の近況を喋った後、ウチの日常を詳しく聞きたがるねん」

「またそれは…」

「極端や思うやろ? せやからある日聞いたってん。なんでまたそんなに極端やねんて」

「そうしたら?」

 シイラは少し遠くを見つめる。

「そうしたら『やって便りがないのは元気な証拠や思うてたけど、それがシイラを寂しがらしたんやったらウチらの責任や。せやからウチらの話も聞いてもらわないかんし、シイラの話を聞かないかん思うて』やって」

 シイラは呆れたように肩を竦めた。

「…いいご両親ではないですか?」

「そうや。当然やん。ウチのおかんとおとんやもん」

 胸を張ってシイラはそう言ったが、すぐにペロッと舌を出す。

「な〜んてな。実はそう思えるようになったんはつい最近やけどな」

「シイラさん…」

「他の『怒りんぼ』達に聞いても皆、親が好きや、この星が大好きや言うてる。たまに議長からよその星の話を聞くけど、あんまりよその星に行きたいて思わへんねん」

「そうなんですか?」

「うん。あまりに色んな星の価値観が違い過ぎて、自分を見失うてしまいそうや。やからよその星に行く時は『シイラ』という人間に自信を持った時や」

 シイラはそう言ってソラに笑いかける。

「あなたの年齢でそこまでしっかりしていれば十分だと思うのですが」

「いんや。あのアホラ吹き議長をぎゃふんと言わすまではまだまだや」

「アホラ吹き?」

「うん。あのアホラ吹き議長、ウチのじいちゃんが子供の時から議長やったんやって言い張ってるねんもん」

「え?」

 ソラはその話に驚く。そこまで年を取っているように認識できなかった。

「後な、各惑星に女が居たとかな、地球連邦の英雄ダグラス提督と飲み明かしたとかなもう滅茶苦茶!」

「ダグラス提督は確か…三百年ぐらい昔の提督では…」

 ソラは困惑しながらシイラに聞く。ダグラス提督とは三百年程前に銀河連合との平和条約の調印に尽力した英雄の名前だ。

「せやろ? ホラ吹やろ? せやけど謎も多いのんは確かやねん」

「例えば?」

「この間、西の大陸に落ちた船は、村人が救助の為に穴開けようと思うて外壁に衝撃を与えたら、墜落のショックでセンサーが誤作動してもうて、防御システムが起動してしもたんや。幸い、村人たちは無事に逃げられたし、中の人間も無事脱出出来てんけど、半径10キロ以内誰も立ち入れんようになってしもてん」

 ホンマあれには参ったわ、近寄ったら対宇宙艦仕様レーザービームやで?洒落にならへんかったわとシイラはぼやいた。

「それは…大変でしたね」

「ところがあのアホ議長『しゃーない、俺が行ってくるわぁ』て言うて出て行ったら…」

「たら?」

「ほんまに解除して帰ってきよってん」

「えぇ?!」

 ソラは驚きの声が出る。一体どうすれば解除が出来るのか。

「いくらなんでもと思うて、議長を問いつめてん。そしたらなんて言いよったと思う?」

「さ、さぁ…?」

 

「『気合い』と『根性』やって」

 

 ソラは動きが止まってしまう。

「き、きあい?」

 理解できなくて聞き返してしまう。シイラは腕を組んで重々しく頷いている。

「せやろ? ふざけすぎやろ? なんで対宇宙艦仕様レーザービームを気合いと根性でなんとかできるねんっちゅー話や。せやけど実際システム解除してきよったさかい、文句言われへんのや」

「はぁ…」

 なんと答えれば良いのか判断がつかず、ソラは思考をまとめるのに時間がかかってしまう。だが、シイラは何やら闘志を燃やしており、特にソラの返答を期待してはいない様子だった。

「せやからウチはな、あんのアホラ吹き議長をぎゃふん! と言わせたらウチは大人になったんやと、誰にも惑わされず生きていけるわて思うてんねん」

「………」

 ソラには何を言えば適切な言葉なのか、判断ができなかった。

「あっと…それでな、申し訳ないんやけど、『お客さん』は落ちた近くの村の『牢屋』で寝泊まりしてもらう事になっとるねん」

「あ、はい。別に構いませんが…」

「なんせあちこちに落ちてくるやろ? たまには敵対しとる間柄の人間まで、同時に落ちて来たりしよるから落ちた村近く預かりという建前やねん」

「建前?」

 ソラがその言葉を聞き返すと、シイラは視線を窓へと泳がした。

「…まぁ、行ってみたらわかるわ…」

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