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第86話

「ネリスって隣のエルゴニアと紛争状態にあるんだよね? とてもそうは見えないな」


「ネリスの街自体は安全だよ。エルゴニアとの国境にある要塞が紛争の拠点だからね。それに最近は沈静化しているとも聞く。そろそろ平和条約を結ぶかもしれないな」


 美しい街並みに違和感を覚えて聞いてみると、セスはそう答えてくれた。


「結局エルゴニアはネリスに攻め込むことができなかったってことか」


「ネリスはべリシアの後ろ盾を得ているからね。ネリスを本気で落としにかかったら、べリシアも敵に回すことになる。そうなったらさすがにエルゴニアでは適わないだろう」


「なるほど……」


 そういう話は正直よく分からない。人の命が道具のように扱われる戦争など、悪以外の何物でもないと思うだけだ。

 だって戦争をすると決めた偉い王様は、厳重に身を守られながら豪華な椅子に座って、血を流す彼らを見下ろすだけなのだろうから。


「あれ、べリシアの騎士団……?」


 そんなことを考えながら歩いていると、見覚えのある様相をした集団を見つけた。

 白を基調とした鎧やローブを纏った人たち。べリシア騎士団だ。広場のような場所で集まって何かを話している。


「ネリスの各都市にもべリシアの騎士団は常駐しているからね。支援活動という名目らしいけど、実際はネリス兵と一緒になって自警活動をしているようだ」


「へぇ……」


 それではまるでべリシアがネリスを統治しているかのようだ。という感想を言葉には出さずに呑みこむ。余計なことを言うのはやめよう。国同士の情勢を深く知ったところで、意味もない。


「ユイ、今日は宿をとって休もう。さすがに長期の船旅は疲れただろう」


「あ、うん」


 セスの方もそれ以上話を膨らませることなく話題を変えてきたので、白の集団を横目に見ながらその場所を後にした。


 べリシアの騎士になることを夢見ていた3班のみんなは、今どうしているのだろう。




 ◇ ◇ ◇




 ネリス港近くの宿を取り、部屋の中から外を眺める。


 目の前にある水路では小舟が行きかい、そこで生活をしている人たちの声も行きかい、幻想的な風景がどこかリアルに感じられる気がした。


「水路がそんなに珍しい? なら窓際のベッドを使うといいよ」


 不意に、私の背に声がかかる。


「あー……ありがとう」


 振り返ると、穏やかな表情でコートを脱いでいるセスの姿が目に入った。


 むしろリアルに感じられないのは、今置かれている状況だ。


 たまたま最初に入った宿には、シングル二部屋の空きがなかった。ダブルなら空いているよ、と言われ、それならば別の場所へ行くのかと思いきや、セスは「君が嫌じゃなければここにしよう」と言ったのだ。


 そんな言い方をされれば嫌と言えるはずもなく、今に至る。


 エスタにいた時だって別々の部屋を取っていたというのに、なぜ急にこんなことに。

 いや、船の中であんなことがあったからこんなことになっているのか。

 しかしあれ以降夜にお互いの部屋を行き来することもなく、何も事は起こらなかった。急に様子がおかしくなったことについても、最後まで語られなかった。


 いつも通り。ただいつも通りの彼がそこにいただけで。


 でも今回は違う。完全なる同室だ。これで何もないわけが。


 いや、とりあえず落ち着け。


「俺を意識してるの? ユイ」


 そんな私の思考がバレたのか、セスが妖艶ようえんに笑いながら私の方へ歩いてくる。


「あ、いや、えっと……」


 ジリジリと壁を伝うように逃げながら、私は視線を泳がせた。


「あんまり(あお)らないでほしいな」


「ひっ」


 退路を塞ぐように、セスの手が私の顔の横に置かれる。


 いわゆる"壁ドン"ってやつだ。


「そんなにあからさまな反応されると俺も自制がきかなくなるよ?」


「…………」


 吸い込まれそうなほど深い青の双眸そうぼうに見つめられ、言葉を失う。

 至近距離にいる彼の顔はとても美しく、ふわりと漂ったエリーの香りも相まって、夢を見ているかのような錯覚を起こした。

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