第78話
「できた! ねぇ、ルイーナさん、どう?」
「いいと思うわ。とても上手にできたわね、レクシー」
自身で作り上げたミサンガを手にキラキラとした笑顔を見せるレクシーを、ルイーナが称賛する。
すっかり仲良くなった2人を微笑ましく思いながら、私は自分の手元にある刺繍糸に視線を戻した。
なぜこんな状況になっているのかというと、レクシーに何か恩返しを、と考えた時に、ふと前世の世界にあったミサンガの存在を思い出し、レクシーにヨハンとお揃いで身に着けたらどうかと私が提案したためだ。
この世界にも当然編み物はあるし、お揃いの何かを身に着けるということもなくはないので、レクシーも目を輝かせて「いいね!」と賛同してくれた。
しかしながら元の世界にいたころに少しやっていただけで、作り方などすっかり忘れてしまった私は、編み物が得意だったルイーナに教えてもらうことにしたのだ。
レクシーはヨハンとお揃いのものを、私はセスとお揃いのものを、ルイーナは家族でお揃いのものを、それぞれ作っている。
ヨハンとセスがミサンガをつけてくれるか正直不安ではあるが……気持ちのこもったものを無下にするようなことはしないだろうし、何も見える場所につけなければいけないわけでもないので大丈夫だろう。
このミサンガが、レクシーとヨハンの絆を繋ぐ、橋渡しになれればいいな。
◇ ◇ ◇
「父さん、バレッタありがとうございました。大切にします」
「ああ。元気でな」
リンクスに頼んだバレッタは出来上がりまでに思いのほか時間を要したが、その分見事な出来栄えだった。
「母さんもミサンガありがとうございました」
「どういたしまして。私も楽しかったわ。セスさん、シエルのことよろしくね」
「はい」
1ヶ月。何だかんだ私たちがエスタから去る間際までいた両親は、今晴れやかな笑顔で私たちの前に立っている。
「2人ともお元気で。寂しく、なりますが……」
「俺たちはこれで繋がっているんだ。だからきっと、いつかまた会えるさ」
ルイーナが作ってくれた緑色のミサンガを掲げながらリンクスが言う。
「はい。その日を楽しみにしています」
「じゃあな」
"また会える"
終焉の旅をしているはずのリンクスからその言葉が出てきたのは素直に嬉しくて、去っていく2人を笑顔で見送った。
セスがヨハンを旅に誘ってレクシーのショックを少なくしたいと考えたのは、きっとこういうことなんだろうな。
ちなみに、先日セスに私が作った青いミサンガを渡したら、照れながらも受け取って左手首に巻いてくれた。
別に見えるところにつけなくてもいいんだよ、と言ったら、「なんで? せっかく作ってくれたのに」と返され、意外にもお揃いを身に着けることに抵抗はないようだった。
3日後、いよいよ私たちもエスタから旅立つ。レクシーもヨハンにミサンガを渡しただろうか。2人はどんな別れをするのだろう。
この1ヶ月、ヨハンとはほとんど顔を合わせていないが、セスから聞いた話では診療所は全て綺麗になって、旅の準備も終わっているとか。残りの時間でゆっくり別れを済ませられるといいな。
◇ ◇ ◇
「レクシー、元気でな。今までお前には世話になった」
「……こちらこそ。今まで本当にありがとう」
いざ出立の時。お互い気持ちの整理はついているのだろう。言葉は少なく、共に見送りにきてくれたジスランに「後は頼むと」告げてその場から離れ、ヨハンは私たちに目配せをした。次は私たちが別れを告げる番、というように。
「レクシー、しばらくのお別れだね。また会いに来るからそれまで元気でね」
「シエル……これ……」
言いながらレクシーに赤いミサンガを手渡すと、彼女は驚いた顔で受け取ってくれた。これは、私がレクシーに内緒で編んだものだ。
「親友の証に」
「ありがとう、シエル」
受け取ったミサンガをぎゅっと握りしめて、レクシーが抱きついてくる。ふわりと漂う香りは、私が纏っているのと同じ香り。2人で1人みたいな不思議な感覚に陥ってしまい、彼女の存在を確かなものにするため強く抱き返した。
「絶対また会いに来てね」
「うん。約束するよ」
離れてから改めて見たレクシーは、少し泣いていた。その表情に胸が締め付けられ、私の視界も滲む。
「レクシー、元気で。また会いにくるよ」
「うん、待ってるね」
しかしレクシーは続けられたセスの言葉に明るく頷いて、そっと離れていった。
燦燦と降り注ぐ太陽の光が、彼女の決意を後押ししたように。




