第77話
「ずっとずっと1人で罪を抱えて、苦しんできたのよね。罰を望んでいたのよね」
セスの傍に跪き、ルイーナは優しく言う。
「これで、貴方の心は楽になったのかしら。自分を赦せるようになったのかしら」
そしてリンクスに殴られて赤くなっている頬に、そっと手を添えた。
「…………」
セスはその手を拒むことはせず、揺れる瞳でルイーナを見つめながら、震える息を吐く。
「ならないわよね。きっと貴方はそれでも赦せず、これからも自分を責め続ける」
「…………」
スッと声のトーンを落として紡がれたルイーナの言葉に、セスが目を見開いた。
「そんな貴方を赦せるのは私たちじゃなくて、シエルでもなくて、貴方自身よ。貴方が自分で自分を赦せなければ、貴方はいつまで経っても救われない」
「…………」
「自分でも分かっているわよね。これは茶番なのだと」
「……手厳しいですね」
ここで初めてセスは口を開き、自嘲するような笑みを見せてルイーナから視線を外した。
「そうね。でもそうしないと、貴方は出られるはずの闇からいつまでも出てこないでしょうから」
「…………」
「これから先、私たちの大事な子を託せるのは貴方しかいないのよ。だからしっかりしてちょうだい、セスさん」
ルイーナはそう言いながらセスの頬を両手で挟み、視線を無理やり自分へと向けさせる。
「……はい、すみません」
そんなルイーナから逃げられるわけもなく、セスはルイーナの目を苦しげに見つめ返して謝罪の言葉を口にした。
「次はないからな。次もまた、シエルが記憶を持って生まれ変われるとは限らないんだ。だからこれからは――――頼むぞ」
「はい、必ず」
そしていつもより低い声で告げられたリンクスの言葉に頷いて、セスはしっかりとした足取りで立ち上がった。
◇ ◇ ◇
「うーーーーん」
「怒ってるの? ユイ」
何か綺麗に纏まったみたいな雰囲気になって、そのまま宿を後にした私たちだが、どうにもすっきりしない。そう思って唸っていると困ったようなセスの声が降ってきた。
その表情を窺い見れば、私とは反してやけに晴れやかだ。何かが吹っ切れた、そんな表情をしている。
「いや、何で"めでたし、めでたし"みたいになってるの? 何かこう、ちょっと……色々納得できないんだけど」
「そっか、ごめん」
「あ、セスのせいじゃなくてね……。父さんのせいだよ。いきなり殴るなんて……。父さんが乱暴なことしてごめんね」
「いいんだよ。それよりもルイーナさんの言葉の方が痛かった」
「…………」
「こんな短時間であんなにも心を見透かされるだなんて思わなかったよ。しかもルイーナさん、前世の君にそっくりだったから余計に肝が冷えた」
そう言って困ったように笑うセスは、どこか嬉しげだ。
まるで"叱ってもらえたことが嬉しい"、そう言っているように。
その心の内がいまいち読み切れなくて、私は何も言えなかった。
◇ ◇ ◇
その後、ヨハンは私たちの旅についてくるという結論を出し、診療所を閉めるために1ヶ月の時間をくれと申し出た。
レクシーはヨハンの突然の旅立ち宣言に取り乱すこともなく、"ヨハンが決めたことだから"と少し悲しげに笑っていたのが印象的だった。
受け入れるまでにいろいろと心の中では葛藤があったのかもしれないし、当のヨハンとどんな話をしたのか分からないが、"シエルとセスが一緒だから当面は安心だよ。ヨハンのことよろしくね"と付け加えられた言葉に、"分かった。任せて"と返すことしかできなかった。どんな言葉なら、レクシーの心を慰められるのだろうか。そもそも、私が踏み込む問題でもないのだろうか。
今までレクシーにはたくさん支えられてきたから、こういう時にこそ力になりたいのだけれど。




