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第74話

 ルイーナ。シエルの母親。

 私は、この人が少し苦手だった。


 エルフという種族は20代の中頃で体の成長が止まるが、ルイーナは可愛らしい容姿で、少女といってもおかしくないような見た目をしている。何の知識も持たずに生まれてきたのならそれでも疑問に思うことはなかったかもしれないが、前世の記憶がある私には正直、違和感しかなかった。母親と思おうと思っても、なかなかに難しい部分があるのだ。


 ただでさえ本当の子供ではないという負い目があるのに、それはなおさら弊害となった。






「…………」


 視界を滲ませたことは誰にもバレていないと思ったのだが、ルイーナにはしっかりバレていたようで、彼女は何の言葉も発さず私の元に来て、何の言葉も発さないまま私をそっと抱きしめた。


「……貴女の死をヨハンさんから聞いた時はリンクスと2人でそれはもう悲しんだわ。大切な仲間を守って死んだと知って、貴女にも命に代えられるくらい大切な人ができたのだと嬉しく思う気持ちもあったけれど、それでもやっぱり悲しかった」


「…………」


 そうだ。確かヨハンはそう伝えたと言っていた。

 おそらくその伝え方では、転生者であったこと以上のことは話していないだろう。この世界に管理者という存在がいたこと、自分がそれに引き寄せられた結果、神から命を狙われたことは知らないはずだ。ましてや、セスが私を殺したことなんて殊更に。


「それと同時に、貴女が転生者だったと気づいてあげられなかったことを悔やんだわ。私たちはそれを聞いても貴女を大切に思う気持ちは変わらないけれど、貴女にはその確証がなかったのでしょうから、自分からは言えなかったわよね」


「……母、さん」


 再びジワリと視界が滲む。

 それを隠すように私はルイーナの肩に顔を埋めた。


「ごめんなさい、母さん。私はずっと怖かったんです。この世界にとって転生者という存在がどう認識されているか分からなかったから。もし嫌われたら、もし捨てられたら……そんな思いがどうしても消せなくて。私は、貴女たちとの日常を壊したくなかった……」


「そうよね。怖かったわよね。でも大丈夫。私たちはいつだって貴女の味方だから」


 そう言いながらルイーナが抱く腕の力を強めた。

 懐かしくて、温かくて、優しくて、お母さんの匂いがして、嬉しくなって私もルイーナの背に腕を回す。

 シエルが小さいころにもこうしてよく抱きしめてくれていたな。恥ずかしく思う気持ちと、気まずく思う気持ちを隠しながらもそれに甘えていたのを思い出した。


「貴女が異世界の記憶を持っていても関係ない。貴女は貴女。私たちの大切な子供よ。これからもずっとずっと、貴女の幸せを願ってる」


「……母さん。ありがとう」


 嬉しさに言葉が詰まったけれど、私たちの間にそれ以上の言葉は必要なかった。


 お互いの鼓動を確かめ合って、思い出に浸って、感触を懐かしむ。ただそれだけで、埋まらないと思っていた溝が満たされたような気さえする。

 姿形は変わろうとも、一緒に過ごした時間は嘘をつかないのだと言われているようだった。


「…………」


 この場にヨハンとリンクスがいるということを急速に思い出し、ハッと顔を上げてみると、ヨハンは私たちの方をあえて見ないようにどこか別の方を向いていて、リンクスは困ったように笑いながらこちらを見ていた。


「あー、俺もルイーナと同じ気持ちだし、ルイーナみたいにお前を抱きしめてやりたい気持ちもあるんだが、正直ちょっと戸惑ってる。転生者で、実は女だったと知った時にも戸惑ったんだが、実際女性としてそこにいるお前を見ると……さすがに」


 そして目が合うとそんなことを口にして、バツが悪そうに視線を逸らした。


 それを正直に言うところが何ともリンクスらしい。

 しかしながら彼がそう思うのも分かるし、私だってリンクスに遠慮なく抱きつけに行けるかと言ったらそうではないので、ここは代替案を示そうではないか。

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