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第64話

「あれは、誰の秘石?」


 それを聞いていいかどうかを考える前に、自然と口から出てしまった。


 しかし、シアがカミューに秘石を渡したことはヨハンにも話してあることだ。おそらくセスもそのことをヨハンから聞いているはずなので、私からこの疑問が出ても別に不思議ではないだろう。


「あれは……母のものだ。本来なら死んだ人間の秘石は砕いて処分するんだけど、シアがどうしても嫌だと拒否したらしくて。それまで命令には従順だったこともあって、上の人間も落ち着くまで持たせておこうと考えたようだ」


「お母さんの……」


 母のもの、という言葉が衝撃的で、それ以降の言葉はあまり頭に入ってこなかった。

 シアにとってそれは形見だったはずだ。その形見を、ルーチェのためにカミューに渡したというのか。


「リュシュナ族ってね、元々は自死を禁じられた天族に死を与えるために稼業を始めたんだ。天族は一様に長寿だからね。寿命が尽きるのを待っていたのではいつまで経っても死ねないから」


 そんな私の思考をよそに、セスが語り始めた。

 今の話とどう関係するのかよく分からず、私は静かに次の言葉を待つ。


「もちろんそれはリュシュナ族だって例外じゃない。死を望む一族の人間に死を与えることだって当然、仕事の1つだ。母も……そんな風に死を望んだ人間の1人だった」


「…………」


「父がある日の任務中に死んでしまってね。それからというもの、ずいぶんと落ち込んでいたようで。表向きは気丈に振る舞っていたらしいけど……何年か経ってから、一族に殺してほしいと依頼を出した」


 どうして死を望んだのか、という疑問を私が持ったと思ったのか、こちらから聞くよりも先にセスが理由を語った。

 確かにその理由は気になった。が、それを聞いたことによって生まれてしまった新たな疑問が気になってしょうがない。

 セスの言い方では、まるで自分は見ていなかったかのようだ。いや、実際、見ていなかったんだろう。


 "お前が父や母に愛されてのうのうと生きている間、俺は1人で人を殺し続けてきたんだ"


 あの日に叫んだ悲痛な言葉がそれを証明している。


 どうしてセスは1人だったのだろう。どうしてセスの傍には家族がいてくれなかったのだろう。


「その時の秘石をシアがずっと持っていたんだ。母が死を望んだことが納得できなかったんだろうね」


「なるほど……」


 お母さんは2人を残して死を選んでしまったのか。残念だけど、その意思の強さはヘルムートを彷彿とさせる。


「秘石を2つ所持している人間を簡単には見逃せないから、一族はシアの捜索を打ち切れない。逆を言えば、秘石を回収してしまえば俺がミトスにいる理由はなくなる。だからよく考えないと。命令を達成した俺が戻ったら、どうなるのか」


「でもお母さんの秘石はエルナーンにあるよ。それはどうするの?」


 一族としてはシアを殺すか捕えるかすれば2つとも回収できると踏んでいたようだが、実際には今セスが持っているのはシアの胸に埋まっていた秘石が1つだけ。それで命令を達成したことになるのだろうか。


「それは君が見ていたからたまたま知り得ただけで、そこまでは俺の範疇はんちゅうじゃない。シアは母の秘石を持っていなかった。ただそう伝えればいいだけのことだ」


「そっか……」


 確かに、私からの情報がなければ秘石がどこにあるのかなんて分からなかったわけだし、それを探せというのも無茶な話だ。なければないでしょうがない、ということになるのだろうか。


「でもまぁ、今のところは素直に報告しに戻るつもりはないかな。一族は、他種族との婚姻を認めてないからね」


「ごふっ……」


 突如セスから紡がれた"婚姻"という言葉に、口に含んだジシ茶が変なところに流れ込んでむせてしまった。

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