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第6話

「……異世界からの転生者ならともかく、そうじゃない人間が前世の記憶を持って輪廻したなんて話は聞いたことがない。でも、嘘を言っているとも思えない」


 長い沈黙の果てに、彼女は私から視線を外してそう言った。

 そう言わざるを得ないだろうな。およそ3歳の子供が口にするようなことではないわけだし。


「元は、異世界からの転生者でした。異世界からこの世界に転生してセスに出会い、一度死んで……生まれ変わった」


「……なるほど。異世界からの転生者は記憶を保持したまま何度でも輪廻できるってことね。そんな話は聞いたことがなかったけど、実際その記憶を持ってるお前が言うのだからそういうことなのよね」


 私の言葉にやはり視線を外したまま、彼女は自嘲的な笑みを見せてそう返した。


 そんな笑い方もよく似ている。


 セスのお姉さんですよね、という問いに答えは返ってこなかったが、ここまでくれば肯定と捉えていいだろう。


「私も、そうだとは思いませんでした。何度でも記憶を持ったまま転生できるのかは定かではないですが……」


「セスとはどこで会ったの? アルディナ? ミトス?」


「ミトスです」


「私を探すためにセスはミトスにいるってこと?」


「……そう、ですね」


 捲し立てるように質問される。

 まぁ、そりゃそうだろうな。彼女にも自分が一族から狙われているという自覚はあるのだろうし。


「なるほどね。で、セスとはどういう関係だったの?」


「……恋仲です」


「恋仲……ははっ、恋仲ねぇ……」


 恋仲、という言葉を聞いて、彼女が馬鹿にしたような笑みを見せた。


「あの男に誰か1人を特別に想う心があったなんて。甚だ可笑しいわ」


「…………」


 彼女が知っているセスと私が知っているセスには相違があるのだろう。

 しかしながら侮辱するかのような言い方に怒りが湧き上がってくる。まるで、リベリオにセスを侮辱された時のようだ。あの時みたいに掴みかかるような真似はしないが、このままでは態度に出してしまいそうだ。

 この人との出会いは、確実に私の運命を変えた。その人に対して暴挙に出るのは得策ではない。冷静に状況を見極めて、味方につけなければ。


「すみません、お名前を聞かせてもらってもいいですか。セスから聞いたことなかったと思うんで……」


「……シア」


 怒りを鎮めるためにも話題を変えて聞いてみると、彼女は躊躇ためらいがちにそう答えてくれた。


「私はB125-381番。前世での名前はシエルです」


「シエル……ね。じゃあお前はここでもそう名乗るといいわ。人間を番号で呼んでいることに疑問を持たない子供ではないでしょうから」


「……分かりました」


 シエルという名前はこの世界において中性的な部類に入る。男性に付けられる方が多いが、女性にもいない訳ではない。今の私がシエルと名乗っても誰もおかしいとは思わないだろう。


「それで、シエル。私と取引をしない?」


 シアがニヤリと笑って私に言った。

 そういう顔をする時は、大抵持ちかけられた側が不利な条件なことが多い。どっちにしろシアに主導権が握られている今の状況では為す術もない訳だが、あまりいい気はしなかった。


「……取引?」


「そう。これから15年、私の傍で、私の下僕として生きてくれるなら、お前をここから出してあげる」


「…………」


 それは、予想外の取引だった。


 シアの下僕として生きていけば、15年後にここから出られる。

 その言葉は果たして天の助けと言っていいのだろうか。今の私には全く分からなかった。

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