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第54話

「ねぇ、シエル。シエルはさ、セスに責任感で向き合ってほしくないんだよね」


 夜、一緒に寝ようと言って私のベッドに潜りこんできたレクシーが不意に口を開いた。


 あの後は結局その話はせずに、ヨハンとレクシーがいつものような言い争いをしたまま食事が終わった。どうするのかもヨハンと話せていない。

 こうして私の元にレクシーが来たということは、レクシーと話して気持ちを固めろということなのだろう。


「責任感?」


 しかし開口一番告げられた言葉の意味がいまいち分からなくて、私は思わず聞き返した。


「女として綺麗な自分を見せたかった、って負い目に感じてる部分もあるのにさ、さらに"シエルの体を傷つけてしまったのは俺の責任だ。だから償う"みたいな責任感でセスに向き合われたらもっと辛いよね。もし傷がなかったらセスは純粋な気持ちで向き合ってくれるはずなのに。そう思っちゃうよね」


「…………」


 レクシーの言葉に、じわりと涙が滲んだ。


 あぁ、そうかもしれない。

 だから私はセスに知られたくなかったんだ。セスはそれを見たら絶対に自分を責めてしまうだろうから。


「でもそれはしょうがないというかさ、セスが自分を許せなくなるのは当然のことで、責任を感じてしまうのも当然のことなんじゃないのかなぁ。だって好きな人なんだもん。その思いが強ければ強いほど、それだけ大切だってことなんだよ。それはシエルにも分かるでしょ?」


「……うん」


 レクシーの胸に顔を埋めて頷く。

 そんな私をレクシーはそっと抱きしめてくれた。


「セスがシエルと一緒にいたいと思う理由は責任だけじゃないよ。もちろん、傷を見てマイナスの感情を持つことだってない。それはあたしが保証する。でも男って不器用だからさ、気持ちを表現するのが苦手なんだよね。女心を察するのも下手くそだし。だからそんなところもひっくるめてこっちが受け入れてあげるしかないんだよね~」


「……それは、ジスランさんの話?」


「ジスランもそうだし、ヨハンもセスも、みーんなそう。あいつらみんなむっつりだから!」


「……ふふ」


「いや、笑いごとじゃないよ? もーほんと、苦労が絶えないんだから」


「そうだね」


 ぶーぶー文句を言っているレクシーに笑って同意しつつ強く抱き付く。

 温かくて、柔らかくて、気持ちがいい。


「……シエルが結晶を取り出してる間、あたしがセスに話をしておくよ。だから安心して眠って」


 そんな私を強く抱き返してレクシーが言った。


 その言葉でまた、涙が滲んだ。


 レクシーは、初めて私の体を見た時泣いてくれた。そして辛かったねと言って、抱きしめてくれた。いつだって優しく寄り添ってくれる。


 ――――私の大切な友達。


「……ありがとう、レクシー」




 ◇ ◇ ◇




「結晶取り出すの、お願いします」


 朝食が終わってすぐに診察室に向かったヨハンを追いかけ、私は告げた。


「治癒術はどうすんだ?」


「……かけてもらいます」


「分かった」


 その言葉に、ヨハンは何を返すでもなくただ頷いた。

 私とレクシーが話をしていたのはヨハンにも分かっているので、私なりの答えを見つけたと思っているのだろう。


「んじゃ、セスが来たら早速やるか。早ぇ方がいいだろ」


「……はい」


「午前中は診療所開けないでおくか。ここが開いてなきゃセスは倉庫側から入ってくるだろ」


 そう言いながらヨハンが歩き出した瞬間、診察室の扉が開いて誰かが入ってきた。


 セスだ。

 以前と同じ長さまで切り揃えられている髪が目に入り、あまりの懐かしさに胸がキュッとなった。


「……おはよう」


 私たちが揃ってここにいることが意外だったのか、一瞬驚いたような顔を見せてセスが言う。


「おう。ずいぶんマシになったじゃねぇか」


「マシって……いや、まぁ、否定はできないな……」


 ヨハンの言葉にセスは苦笑いを見せた。


 私からも何か言わなきゃと思うのに――――言葉が出ない。

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