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【続編】クルスの調べ - 久遠へと続くノクターン -  作者: 緋霧
泡沫の世界(ヨハン視点)
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Side-3

「シエルを、助けて」


 予想外に登場したルーチェは入って来るなり、これまた予想外の言葉を口にした。


 ルーチェという人物について俺はよく分かっていない。50年前もロクに話はできなかったし、シアがここに来るようになってからも、ルーチェが一緒に来ることはなかった。

 だが、シアの支配下に置かれているというわけではないだろうし、自分が連れ出されたことがバレたらシアの逆鱗に触れることは分かっていたようなので、そんなルーチェがなぜシエルの助けを俺たちに求めに来たのか、その意図はいまいち読み切れない。


 しかしそんなことを考えながら立ち尽くす俺とは違って、セスの動きは速かった。


「じゃあ悪いけど……そのために君を利用させてもらう」


 ベッドから降り、すぐさまルーチェの元に行ってその手を掴んだのだ。




 ◇ ◇ ◇




 シアがルーチェに固執する理由はシエルから聞いた。


 セスとシアが一族の命令で10年間護衛し続けたシャルロットという名の少女は、ある日突然切り替わった暗殺依頼によってセスの手で殺された。


 そんな背景を聞いた後なら、家族同然のシャルロットを失ったシアがセスを恨むのも、シャルロットに酷似しているらしいルーチェに執着するのも理屈としては理解できる。

 が、カミューと交わした契約の保険としてシエルを非人道的に利用し続けていたことや、セスの目の前でシエルを殺して復讐を果たそうとしていることについては、あまりに残虐性が過ぎて理解が及ばない。


 理解が及ばなくともこの世界では力あるものが全てなわけで、そんな理不尽な仕打ちを受けているシエルを助けてやれない自分にも腹が立つ。


 レクシーとシエルを天秤にかけられた時、俺にシエルを選ぶことはできなかった。シエルの目の前でシエルを見捨てたのだ。

 そんな俺に、シエルは笑みすら見せた。




 それは今世の彼女が見せた、初めての笑みだった。




 前世のシエルは他愛のない話に笑ったり、冗談に乗ってみたりと、過ごした時間は短いながらも、それなりに上向きの感情を見せていた。


 だが、今世の彼女は違う。


 まず、必要最低限の会話しかしない。

 笑みも見せない。

 武器を置いてくることもしない。

 レクシーに対してはどうだったのか知らないが、少なくとも俺に対してはそうだった。


 だからそんなシエルが見せた笑みは、鋭いナイフとなって俺の心を抉った。


 俺もセスのように、ルーチェを迷いなく人質に取れるような人間だったなら、そんな笑みをさせる前に助けられたのだろうか。




 ◇ ◇ ◇




 セスによって捕えられたルーチェは元々そういうつもりであったのか、嫌がる素振りも見せず、素直に従った。

 一方のセスも、かつて自分が殺した少女に酷似しているはずのルーチェを前にしても動揺を見せることはなく、淡々とルーチェから話を聞いていた。


 と言っても、ルーチェが語った内容はそう多くはない。


 ルーチェを送り届けてこちらに戻ろうとしたところでシアに見つかり、そのままどこかへと連れ去られたことと、シエルの場所を特定する方法についてのみだ。


 そしてこのシエルの居場所を特定する方法は、またもや理解の及ばないものだった。


 リンフィーの結晶。

 それは猫に似たリンフィーという名のモンスターが体に宿しているもので、結晶が体から離れても宿主は必ず結晶の元に戻るという性質を持っている。

 その結晶が、シエルの体内に埋め込まれている、というのだ。


 おかしな話だ。


 シアはカミューとの交渉の切り札としてシエルを支配下に置き、実際にそのシエルを捨て駒にしてルーチェと共にエルナーンから出国した。それはすなわち、シエルがエルナーンから出てくる可能性は低いと踏んでいたことを意味する。

 なのになぜシエルの体内に結晶を埋め込んでいたのか。そしてなぜリンフィーをずっと飼い慣らしていたのか。万が一出てきた場合に再びシエルを利用するため、というのなら、狂っているとしか思えない。


 セスはそれを聞いてどう感じたのだろうか。表情に変化がないのでその心境を窺い知ることはできなかった。

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