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第34話

「シエル! セス!!」


 ヨハンが駆け寄ってきて、私の上にぐったりともたれかかっていたセスの体を引き離した。


「あ、ああぁ……セス……セス……っ」


 声も体も震えている。


 取り返しのつかないことをしてしまった。


 許されないことを、してしまった。


 ここにいるのは、私が愛してやまないその人だというのに。あの頃と、何1つ変わっていなかったというのに。


「どういう、こと、だ……? 君、は……」


「喋んじゃねぇ!!」


 私の方を見て弱弱しく言葉を紡いだセスを、ヨハンが叱りつけた。


「シエルお前どうすんだ!? こいつを殺してぇのか!? それとも助けたいのか!!」


「……っ!」


 怒鳴るようにヨハンに問われて体がびくりと跳ねた。


 私がセスを刺す瞬間を見ていたからだろう。その行動の意図を図りかねているようだった。


「あ……ごめ、ごめんなさい。ヨハンさん、助けて……セスを助けてください! 私……私、ルーチェを連れてきます……っ!」


 震える声でそう絞り出してからヨロヨロと立ち上がり、2人に背を向けて駆け出した。


「ま、って……」


 私を引き留めるセスの苦しげな声を振り切るように。




 ◇ ◇ ◇




「は……はぁ……はぁ……っ」


 街を一目散に駆け抜ける。


 黒い服を着ていたからか一見してすぐに血まみれというのは分からないようで、街を駆けていても通行人は私を気に留める様子はない。これ幸いとばかりに大通りを堂々と走っていく。宿はそう遠くはないが、早くしないと手遅れになってしまう。

 まだシアと別れてさほど時間は経っていない。おそらく宿にシアがいるということはないだろうから、今のうちに何としてでもルーチェを連れ出さなければ。


 宿に入って勢いを緩めずに2階の一番奥の部屋に入る。


 大きな音を立てて開いた扉に驚いたのか、不安そうな顔をしたルーチェと目が合った。

 予想通り、部屋にはルーチェ1人しかいない。


「ルーチェ様……お願いします。私と一緒に来てください! 助けてほしい人がいるんです……っ!」


 ベッドに座っていたルーチェの前に跪いて手を握る。


「シ、シエル……!?」


「お願いします、ルーチェ様! お願い!!」


 突然のことで困惑しているルーチェに私は縋りついた。

 それはそうだろう。この1ヶ月一緒に生活しているとは言え、話をしたことなどほとんどない。そんな私がいきなり1人で現れてそんなことを言い出せば、困惑するのは当然だ。

 だとしても、できれば無理やりに連れ出すのではなく、自分の意思でついて来てほしい。ここでルーチェを傷つけるのは得策ではない。


「わ、分かった……。いいよ」


 ただならぬ私の勢いに押されたのか、おずおずとそう答えてルーチェが立ち上がった。


「ありがとうございます!」




 ◇ ◇ ◇




 ルーチェの手を引いて来た道を走り戻る。


 シアに出会いませんように。間に合いますように。そんなことを祈りながら。


「はぁ、はぁっ……ま、待って、シエル……っ」


 私に手を引かれて無理やり走らされているルーチェが息も絶え絶えに言った。

 普段部屋から出ることがないルーチェをいきなり走らせるのはさすがにきつかったか。私は一度止まってルーチェを振り返った。


「ごめん……っ……はぁ、はっ……走ることに、慣れてなくて……っ」


「いえ、私の方こそすみません。もう少し速度を落とします」


 エルフの時だったら抱えて走れたかもしれないが、さすがに今のこの体では無理だ。おんぶして走るより、まだルーチェに自分の足で走ってもらった方がいいだろう。


「ごめんね……急いでるのに……っ」


 膝に両手をついて息を整えながらルーチェがそう言った。

 訳も分からず連れて来られているはずなのに、ずいぶんと協力的だ。シアがいるわけでもないし、私が騙している可能性は考えないのだろうか。


「ゆっくりと行かせてあげたいところですが、こちらも一刻を争うのですみません。無理のない範囲でなるべく急いで行きましょう。手を」


 そう言って手を差し出すと、ルーチェは小さく「大丈夫だよ」と返して私の手を握った。

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