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第24話

『でもヨハンさん、私はもう、セスの優しい表情を忘れてしまったんです。夢に出てくるセスはいつだってシアみたいに冷たい表情をしていて、思い出そうとしてもシアと過ごした15年の恐怖が邪魔をする。もし実際に会ってあの冷たい目を向けられたら、私はもう生きていけない。セスに会うためだけに生きて来たはずなのに、セスに会うのが怖い……っ!』


 ポロポロと涙が溢れ出た。

 ここに来てもう何回泣いているのだろう。


『シエル……』


 涙で滲んで、切ない声で私の名を呼ぶヨハンの表情が見えない。

 ヨハンの目の前で愛してるだなんだと言っていたのに、今になってこんなことを言う私に失望してしまっただろうか。


『……お前の気持ちも考えずに、こんな早急にあいつの話をするべきじゃなかったな。悪い』


 しかし予想と反して、ヨハンは苦しげに声を絞り出してそう言った。


『……ひとまず食うか。料理屋のギルド依頼受けてた時期もあったからな、味は悪くないと思うぜ』


『……はい。いただきます』


 気を遣って話題を変えてくれたヨハンに甘えて、私はそれ以上を考えずに涙をぬぐった。




 ◇ ◇ ◇




『私はミゲールの軍事施設のトップである、カミューという男の一存によってエルナーンから脱出を果たしました。カミューは私が転生者だと知るとエスタで貴方を探すよう告げ、もし会えたら"同胞はらからをお前にやる。これで借りは返した"と伝えるように言われています』


『…………』


 私がミゲールの軍事施設にいたという話をした時からカミューの存在は頭にあったのだろう。食事に手を付けながらヨハンは何も言わずに渋い顔を見せた。

 シアとルーチェの話をした際、ヨハンがそれについて口を挟んでくることはなかった。ルーチェが以前自分が買い付けてカミューに奪われた奴隷であることは話を聞いていて薄々気づいてはいたと思うのだが。


『カミューはクビト族の奴隷を買い付けた貴方から強引に奪い取ったと言っていました。どうしてヨハンさんはクビト族の奴隷を買ったんですか?』


『……うちで雇うつもりでいた。奴隷を買うような輩はどうせロクな扱いをしねぇ。だったら俺が買って、ここで面倒見た方がいいと思ってな。クビト族の持つ治癒能力は他に類を見ない。今まで救えなかった命も救えるようになる』


 やはりヨハンは奴隷目的としてルーチェを手に入れようとしたのではなかったか。その答えを聞いて少し安堵した。


『……餌はどうするつもりでいたんですか? クビト族は、人肉を食す種族ですよね』


『俺がまわになればいいと思ってた。魔属性だが、餌にならないわけじゃねぇしな。麻酔ならいくらでもできるわけだし』


『なるほど……』


 だとしてもすごい考えだ。およそ現代で生きてきたヨハンの言葉とは思えない。


『俺がクビト族の奴隷を買い付けた後、ミゲールにある軍事施設の指導者だという男が奴隷を譲ってほしいと言い寄ってきた。リビ大陸はどちらの国も人権を無視した非道な独裁政治を行っている。譲ったら先行きが明るくないのは明白だ。そもそも先に買ったのは俺なわけだし、当然断った。そうしたら、力づくで奪われたというわけだ』


『それが、カミュー……』


『ああ。まさかその後にシアがクビト族の奴隷に目を付けたとは驚きだぜ。あの時はまだセスを拾う前だったから、会っても何も思わなかっただろうが……』


 とヨハンが言い終わると同時に、診察室の方で誰かが入ってきたような音がした。


『……急患か?』


 ヨハンが眉をひそめた。

 今は診療時間外だ。この時間にわざわざ訪ねてくるということは、よほどの事情がある場合が多い。


『お手伝いします』


 よほどの事情があるということはそれなりに人手も必要だろうと思って声をかけると、ヨハンは助かる、と言って食堂から出て行った。


 後を追うと、しかしヨハンは診察室の入り口で立ち尽くしていた。


「…………?」


 その背中越しから覗き見るように診察室に目をやり、


「……っ!?」


 そこにあった信じられない光景に私は凍りついた。

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