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第21話

 ミゲールからエスタへの船は、3日に1度出ている。

 シアとルーチェは私が乗っているこの船の1便前の船に乗った。つまりは、私よりも3日早くエスタに着く。


 そして、その3日の内にエスタから離れるということはないだろう。


 シアと顔を合わせるのはまずい。

 ここまで来てこれ以上何かされては堪ったものではない。私はもう、シアの呪縛からは解放されたのだ。

 だからエスタに着いたら即ヨハンのところに行かなくては。

 ヨハンの診療所は入り組んだ路地の中腹にある。そうそうエスタに不慣れな人間が立ち入る場所ではない。


 が、この18年間エスタに足を踏み入れていない私にも、そう簡単にたどり着ける場所ではない。正直に言うと、道を忘れた。

 もしたどり着けなかったら、レクシーがよく買い物に訪れていた商店街でレクシーを捕まえるしかない。前途は多難だ。


「はぁ……」


 甲板に出て、海を眺める。

 ここだけを取ってみれば前世の海と何1つ変わりがない。きっとこの水はしょっぱいのだろうし、きっとものすごく深いのだろう。


 まるで、今までのことがすべて嘘だったかのようにごく普通の光景がそこにある。


 なのにまだ信じられない。自分が自由になったことが。

 本当はまだシアの呪縛に縛られていて、ある日突然あの日々に戻されるのではないか? それとも、今度はカミューが来て私を縛り付けるのか? 私を絶望の底に落とすために、今泳がせているだけなのでは?


 この18年、信じられる人など誰1人としていなかった。

 もう何もかも疑心暗鬼だ。


 セスもこんな気持ちでミトスを旅してきたのだろうか。


 だとしたら、3班のみんなの純粋な気持ちに心が変わったのも頷ける。やはり私も再び、デッドラインの討伐隊に参加するべきかもしれない。




 ◇ ◇ ◇




 そんな悶々とした気持ちを抱えたまま、6日間の旅は無事に終わってエスタへと到着した。


 18年ぶりに足を踏み入れるエスタは、あの時とさほど変わっていないように思える。

 いっそヨハンが歩いていてくれないだろうか……と、淡い期待を持って港から市街地への道を歩くも、当然のように出会うことはない。

 この街のどこかにシアがいると思うとすべてが恐ろしく、しばらく歩いてみたものの動悸が治まらず、逃げるように手近にあった店へと入った。


 香水屋。

 ちょうどいいので、私はここでルピアの香水を買うことにした。


 懐かしい匂いを纏うと幾分気持ちも落ち着いた気がして、再び街へと繰り出す。

 エスタの街は広い。人も多い。これだけの喧騒の中に身を寄せていれば、そう簡単に見つかることはないはずだ。大丈夫。何度もそうやって自分に言い聞かせて自分の記憶の中にあるヨハンの診療所への道を辿る。


 ――――ここだ。


 どこも似たような景色の路地裏の中腹。そこにある見慣れた扉の前に立って私は安堵の息を漏らした。

 ずいぶんと長い時間さ迷ってしまったが、ようやく辿り着くことができた。


 私がここを訪れるのは期間にして20年ぶり。

 だが、もし今までに何度か見てきたヨハンの夢が本当に現実にリンクしているのなら、ヨハンはまだここにいる。

 今は夕方に差し掛かった頃。まだ忙しい時間ではある。ゆっくり話すには夜を待って出直した方がいいのかもしれないが、一刻も早く安堵を得たいという思いからそれはできなかった。


 コンコンと扉を2回ノックをするも、返事はない。

 確か以前セスは何か不思議なリズムをつけてノックしていたが、顔見知りの間だけで通じる合図のようなものがあるのかもしれない。しかしそれを知らずして入ったとしても殺されるということもないだろう。私は躊躇ためらいがちに扉をそっと開けた。


「誰だ、お前」


 鼻を突く消毒液の臭いを感じた瞬間、椅子から立ち上がって待ち構えていたらしいヨハンが険しい顔で私に右手をかざした――――。

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