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第20話

 ミゲール。

 エルナーンの最南端に位置し、エスタとの相互船が出ている街で、私が18年を過ごした街でもある。


 初めて目にするミゲールの街並みは、アドルドをさらに無機質にしたような冷たさを感じられた。

 道行く人々の目には光がなく、子供の笑い声もなければ喧騒もない。かと言って軍の規律ある様相かと言えばそうでもなく、模型の街に機械人形を歩かせているかのような印象だ。


 それなりの地位を与えられていたシアの下僕であった私も、一応それなりの地位を与えられていたために、すれ違う住人は私に頭を下げてくる。どうやら身に纏っている軍服で判断しているようなので、服を買ったらすぐに着替えるつもりでいたが、もうしばらくこのまま過ごすことにした。


 今は夕方の16時。必要な物を買い揃えて宿を取ることにしよう。




 ◇ ◇ ◇




 最初にそれなりの大きさの鞄を買い、次に服と靴を買い揃えた。ここからエスタまで何日かかるのかと適当な人間に聞けば6日だと言うので、余裕を見て10日分の保存食も買った。


 そして日用品を買い、最後に短剣を買うために武器屋を訪れた。


 前世でセスに見繕ってもらったものより少し高価な双剣を選び、あの時と同じように腰に装着する。

 腰に下げている剣は使い慣れたものなので新調はしない。軍の紋章が入っているが問題ないだろう。


 道を聞きながら一度港を下見して、食堂が併設されている近くの宿へ赴いた。

 そこで適当に食事をして、お風呂へと入る。


 服を脱ぎ、巻かれていた包帯を解くと未だ癒えきっていない生々しい傷跡があった。

 こんなのはいつものことだ。お風呂上りに自分で包帯を巻くことにも慣れた。今までそうしてきた、数多くの傷痕がこの身には残っている。およそ年頃の女子とは思えない体だ。多分もう、今から治癒術をかけたとしてもこの傷痕は消えないだろう。


 もしまたセスに会えたとして、もしまたセスが再び私を必要としてくれたとしても見せたくない。というか、そもそもセスとそんな関係に至ることが、想像すらできない。


 確かに愛を誓い合ったはずなのに、とどこか自虐的な笑みが浮かんだ。


 バスタブにお湯を張る。

 エルフであった時と同じように使える神術は、今の私には幾分過ぎた力だ。

 神力総量は一般的なヒューマの術師と同程度しかない。前世なら難なく使えた何気ない術も、この体だと思いの外体力を削られる。今の私には剣術の方が合っているのだろう。


 何とも不思議なものだ。




 ◇ ◇ ◇




 朝10時。

 カミューの言った通り、名前を告げただけでエスタ行きの船に乗れた。


 この世界で船に乗るのは初めてのことだ。

 漫画に出てくるような海賊船を大きくした船だった。しかし意外にも1人1人に個室が与えられていて、不自由はない。

 船内には食堂もある。保存食いらなかったな、と思いつつ私はそこで昼食を摂った。


 カミューが私に与えたお金は実に白金貨100枚あった。日本円に換算すると1000万円である。驚きだ。

 いや、まぁ、それでもこの18年無給だったことを思えば少ないのかもしれないが、中身を見た時は正直、手が震えた。

 しかしいくらお金に困らなくなったと言ってもそれでギルドランクが買えるわけじゃないので、やはりエスタについたら何かしらギルド依頼は受けないといけない。ヨハンに雇ってもらえるのが一番いいのだが、雑用しかできないし、レクシーもいるしな……。


 そう、レクシーもいる。レクシーがヨハンから科せられた15年という期間は過ぎたはずだが、まだ変わらずヨハンの元にいる。

 ヨハンの夢を見た時にたびたび目にしたのだ。だんだんと年を重ねて美しい女性へと変貌を遂げたレクシーを。


 まぁ、追々考えていこう。


 今私が考えなければならないのは、私より3日早くエスタに入ることになる、シアとルーチェのことなのだから。

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