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第1話

「ねぇ、ヨハン。あたしに居場所をくれて……育ててくれてありがとう。本当に感謝してる」


 レクシーがヨハンに語りかけている。


「…………」


 それを黙って聞いているヨハンの表情は険しい。そこにどういう感情を持ち合わせているのかを窺い知ることはできなかった。


 でも、レクシー……ちゃんと約束を果たしてくれたんだね。


 ありがとう。




 ◇ ◇ ◇




「…………」


 眩しい。


 眩しくて、何も見えない。


「泣かないな。出来損ないか?」


「…………」


 ミトス語が聞こえた。

 男の人の声だった。


「叩いてみろ」


 別の男の人の声がする。


「あ……っ!」


 お尻を強く叩かれ、思わず呻く。


「声は出るようだ。問題ないだろう」


「よし、ではこの検体はB125-381番だ」


「…………」


 この感覚には覚えがある。


 確実に覚えているのは一度、本来ならばすでに二度、経験している。




 赤子の感覚だ。




 いまいち状況が理解できない。


 私は死んだはずだ。


 セスの手によって、殺された。


 でもこの感覚は前世で死んでシエルとして生まれ変わった直後に似ている。

 母親らしき人の声は聞こえないが、視界が白く光ってよく見えないことや、上手く体が動かせないこの感じがそっくりだ。


 しかも、聞こえてきた言語は確実にミトス語だった。


 つまりは記憶を持ったまま、再び地族に転生した?

 転生者はこの世界に来た時と同じように、この世界で死んでも記憶を保持したまま転生できるとか?


 いや、そんなまさか。


 記憶を保持したまま何度でも転生できるのだとしたら、ヨハンの元を訪れた他の転生者が再び訪れていてもおかしくないはずだ。

 何人か転生者に会ったことがあると言っていたので、ヨハンがそれを知らないはずがない。


 ということはもしかして、これが私が持っていた転生者特有の特殊能力?


 もし本当にそうなのだとしたら……監視者を失ったこの世界で、私は今度こそセスと一緒に生きていけるだろうか。


 会いたい。セスに会いたい。




 ◇ ◇ ◇




 しばらく様子を窺ってみた。


 私は今、意識が覚醒した時とは別の場所にいる。

 何かの物音はするが、話し声は聞こえない。


 聞こえるのは、複数の赤ちゃんの泣き声。


 おそらく自分もその中の1人であることに間違いはなさそうだ。


 ということは、ここは病院だと考えるのが自然だ。

 時折母乳かそれに代わる何かを飲まされているし、屈辱的なオムツの交換もされている。


 しかしながら、それをお世話する人間の話し声が全く聞こえない。

 いくら病院の職員が他人の赤子をお世話しているのだとしても、無言っていうのはいささか不自然ではなかろうか。

 しかしこの世界に機械はなかったし、自分に触れる手の感触も人間であろうことは確実だ。


 シエルの赤ちゃん時代と比べてあまりにも状況が違いすぎている。



 ここは一体どこの国なのだろう。




 ◇ ◇ ◇




 あれから、どれくらい経過したのだろうか。


 いかんせん赤ちゃんの体というものは気だるいので、色々と考えたくとも睡魔に抗い切れずに寝てしまっている時間の方が長い。

 偶然にも自分が起きている時間に再び誰かの話し声を聞くことができたが、それはやはりミトス語だった。


 赤子の様子に異常はないか、という会話をしていたので医術師だろう。

 ついでに私の近くで、この子供は泣かないからおかしいのではないか、とも話していたので、適当に声を上げたら納得したようだ。


 ちなみに母親らしき人間は一度も来ていない。


 というか、生まれ変わってから女性の声は一度も聞いていない。この部屋に来てから一度だって抱き上げられていない。

 それは、他の赤ちゃんたちも同様だと思う。


 何か色々とおかしい。


 見えない分、より不気味に感じる。

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