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第16話

「ねぇ、カミュー。その子、転生者なの。貴方にあげるわ」


「……ほう? 転生者……」


 氷のような冷たさを帯びたシアの言葉に、カミューが若干の興味を示した。

 当人の意思など、おかまいなしに。


「で、これが約束のものよ。この2つを対価にルーチェをちょうだい」


 そう言ってシアが掲げたのは、蒼い綺麗な宝石だった。



 あれは――――リュシュナ族の秘石。



 一体誰の胸に埋まっていたものなのか、なぜそれをシアが持っているのか。


 そんなことを考えながら、私の意識は深い闇へと沈んでいった。




 ◇ ◇ ◇




 夢を見た。


 前世の夢。


 私はデッドライン討伐に参加していて、3班のみんなと楽しく話をしていた。

 パーシヴァルも生きていて、まるで今のこの現実の方が悪い夢だったのではないかと思うほど、温かくて優しい夢だった。


 なのにそこにいたセスはヨハンの夢に出てくる冷ややかな表情をしたセスで、安堵を絶望に叩き落とすかのような冷淡な目で私を見つめている。


「セス……」


 また私に優しい顔を向けてほしい。そう思ってその名を呼んだ瞬間、辺りは黒一色になった。


 3班のみんなはいない。

 セスもいない。


 そこにいたのは、先ほどのセスと同じ冷淡な目で私を見つめるシアだった。


『本当にここから出られると思ってたの?』


『…………』


『本当に自由になれるとでも思ってたの?』


『…………』


『お前をここから出したって、私には何のメリットもないもの』


『……う、うわあああああぁぁっ!!』


 耳を塞いでうずくまる。


 もう何も聞きたくない。




 ◇ ◇ ◇




「シエル様、大丈夫ですか? だいぶうなされていましたが」


 目を開けると見慣れた顔があった。

 幾度か私を治療してくれた医術師だ。


「……シア様は……? シア様は、どこに……」


「シア様はルーチェ様と共に出国されたと聞きました。それより傷の痛みはいかがですか? ルーチェ様の血を少し頂いたので傷はだいぶ塞がっていますが、お辛いようでしたら痛み止めを投与しますよ」


「…………なっ……」


「…………?」


 サラリととんでもないことを口にした医術師を驚きの目で見つめるも、なぜ驚いているのか分からないと言った顔で見つめ返された。

 この人間にとっては、シアがルーチェと共にエルナーンから出ても何てことないのだろうか。"それより"なんて言うくらいだ。きっとそうなのだろう


「シア様が……ルーチェ様と、出国した……?」


「ええ、一昨日に」


「…………」


 シアは、こうするために私を傍に置いていたというのだろうか。


 カミューがルーチェを手放すことを渋った時に、さらなる交渉の手札として。

 本来の報酬に転生者という存在を上乗せすれば、カミューは折れると思っていたのだろうか?


 そしてカミューはその条件を呑んだのだろうか。だからシアとルーチェはいなくなってしまったのだろうか。


 私を、踏み台にして。


「目が覚めたらカミュー様の執務室に来るようにと言付けを承っています。動けそうですか?」


「…………」


 もう、死んでしまおう。

 ここから出られる道が閉ざされてしまったのなら、生きてる意味などない。

 このまま生きていたところで今度はカミューの下僕となるだけだ。そんなのはご勘弁いただきたい。


 こうなるのなら、もっと早くやればよかった。


「…………」


 起き上がってみる。

 思いの外、痛みはない。ルーチェの血を使ったと言っていたので、言葉通り傷はだいぶ塞がっているようだ。


「私の剣はどこですか?」


 横にいる医術師に尋ねる。

 カミューに剣を向ければ、きっと返り討ちにしてくれるはずだ。転生者だからと言っても、刃向うような人間は不要だろう。


「カミュー様が預かると言ってお持ちになりました」


「…………」


 その言葉を聞いて、私の中で何かがカチリと鳴った気がした。

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