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最終話

「どうしたの? もしかして、ここでの生活が気に入ったとか? そうは見えなかったけど」


 動かない私を見て、セスが尋ねる。

 その言葉に心臓がドキリと跳ねた。


「……なん、で」


「分かるよ。君の言葉が本心かどうかくらい」


「…………」


 痛いところを突かれた。


 確かに、セスの言うようにアルディナでの暮らしには馴染めていない。他人に無関心な人が多いので、周りと打ち解けるきっかけをいつまでも掴めなくて。それがリュシュナの民族性なのかもしれないが、一年経った今でもセルナ内でサリタ以外に仲良くなったと言える人はいない。別に嫌がらせを受けているというわけではないので、それでもいいと割り切っていたけれど。


 だから私は今、ここに何か未練があって悩んでいるわけではない。

 散々お世話になってきたサリタに挨拶の一つもできない、という心残りはあるが、頭を悩ませているのは別の方面のことだ。


「あのさ、これ……見つかったら処罰ものだよね?」


「そりゃあね。当然、追手もかかると思うよ」


 その懸念を口にしてみると、あっさり返事が返ってきた。

 すがすがしいほどの開き直り具合だ。


「それでも……俺は君とミトスに降りたい。こんな生活を続けるより、追われてでも君と一緒にいられる方がいいから」


 私が何か言う前に、セスが続ける。

 それはそうだ。私だってセスと一緒にいられる方がいい。例え、追われていたとしても。


「なるほど、確かにね。それは私も同じ気持ちだよ。……行こうか、ミトスに」


「……ありがとう、ユイ」


「すぐ支度するね」


「うん」


 となれば急いで荷物を纏めなければ。

 セスが部屋に来ると言ったのは、もちろん人目につかないようにということもあるだろうが、私に準備をさせてくれるためだったのだろうな。さすがに持っていきたい物の一つや二つくらいはあるし。


「そういえば、さっきグレゴリオさんからこれを渡されたんだ」


 荷造りしている最中に昼のことを思い出し、グレゴリオから渡された青い結晶を取り出す。


「……はは、なるほど。借りが増えちゃったな」


 それ見てすぐに何か分かったのだろう。セスは苦い笑みを浮かべてそう言った。


「このタイミングでこれを私に渡したってことは……グレゴリオさんもこの計画を知ってるってことだよね?」


 だってこれはセスの生死を判断する結晶だ。

 私たちが追われる立場になるであろうことが分かっていたから渡した、としか思えない。


「そうだね。知ってるよ」


 セスは苦い笑みを浮かべたまま即答する。


 なるほどなぁ……。"元気でね"と、グレゴリオが去り際に言っていたのはそういう意味だったのか。普段セルナに来ない人だから、またしばらくは来ないよ、という意味だとあの時は思っていたのに。


「じゃあサリタさんも知ってるの?」


 知っているならお礼も言えずいなくなることを許してくれるかな、と思って聞いてみるも、セスは難しい顔で首を傾げた。


「どうかな。まぁ、知らなかったとしてもいずれ伝わるんじゃないかな」


「そうだといいんだけど……。サリタさんにはお世話になったのに、お礼を言えないのが心残りだからさ……」


「そうだね。それは……ごめん。でもきっとサリタも分かってくれると思うよ」


「……うん」


 いつも私のことを気遣ってくれる人なので事情を知ったら"良かった"、と言ってくれそうな気はするけれど、確かめようがないのでそう信じるしかない。


「準備できたよ」


「ん……じゃあ、行こうか」


 準備を終え荷物を背負うと、セスは鞄から見慣れた結晶を取り出した。


「それは……転移石?」


「うん。ミトスへの転移石。グレゴリオが用意してくれたんだ」


「本当に借りだらけだね」


「借りを返されることなんて、あの人は望まないだろうけどね」


 そう言って転移石を見つめるセスは、バツが悪そうで、それでもどこか嬉しそうだ。きっと2人の絆は私が思っている以上に強いのだろうな。


「君に転移を頼んでもいい? 俺の神力じゃ2人は無理だ」


「いいよ。行こう、セス」


 転移石を受け取って手を差し出すと、ふわりとセスに抱きしめられた。


「うん、行こう、ユイ。そしてずっと一緒にいよう。死ぬ時まで」


「……うん」


 久しぶりに吸い込むエリーの香りを堪能しつつ、転移の呪文を唱える。


 罪を犯しても構わない。

 いつか罰を受けることになっても構わない。


 それでセスと共にいられるのなら。


「……さよなら、アルディナ」


 例え、命を失おうとも。

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