第14話
18歳。
あと少しで、シアと約束した15年を迎える。
やっと、やっとここまできた。
長く辛かった日々は、これで終わるだろうか。
本当に、私は自由になれるのだろうか。
一体この15年にどんな意味があったというのだろうか。
シアはここまで私を恐怖で縛り付けておいて、そのまま何事もなかったかのようにこの国から出して、そして解放してくれるのだろうか?
不安だ。
期限が近づいて来れば来るほど、さらなる絶望に落とされるのではないかという疑念が増していく。
◇ ◇ ◇
『ねぇ、エルナーンから出たらお前はどうするの?』
ある日の夜、その不安を払拭するかのような質問をシアがしてきた。
そう聞くということは、ここから出た時に私は自由になれるということだろうか。シアの手から離れ、好きに生きられるのだろうか。
期待に僅かに胸が高鳴った。
エルナーンからはヴェデュールとの相互船でしか出ることができない。
よって、この国から出る場合、必然的に最初に立ち寄る場所はヴェデュールのエスタになる。
エスタにはヨハンがいる。だから私には何とも都合がいいことではあるのだが、シアをヨハンに会わせたくはない。ヨハンの存在を、悟らせたくない。
『しばらくエスタでギルド依頼でもこなそうかと思います。ギルドランクを上げたいですし、お金もないですから』
Bまで上がった前回のギルドカードは今はもう持っていないし、そもそも体は別の人間だ。また1からすべてやり直しになる。セスを待つ間にいっそ再びベリシアのデッドライン討伐に参加してもいいかもしれない。
『セスのことは探さないの?』
『探すと言っても、この広いミトスのどこにいるかなんて分かりませんから』
そう、このミトスで人1人を探すことは難しい。
だからセスも長い間シアを見つけられない。まぁ、シアの場合ここにずいぶんと長いこといるようだから余計に難しかったのだろうけど。部外者が簡単にここに来れるとも思えないし。
『お前確か前に、セスに会うためだけに生きてるとか言ってたよね。何度も何度もセスが生きてるか私に聞いてきてたし、本当は今でも会える算段があるんじゃないの?』
『…………』
そんな昔のことをよく覚えているものだ。
でもそれもそうか、うざがられるくらい私は頻繁にセスのことを聞いてたもんな。
しかしながらヨハンの元にいればいつかセスに会えるだろうことは、シアには話してはならない。気取られてはいけない。
私は、セスとシアを会わせたくない。
『会える算段があるわけではありません。あの時の私はそれを励みにしないと、心が折れそうだったので』
『へぇ。そうなんだ。じゃあ今はもうどうでもいいの?』
『…………』
セスには会いたい。それはもちろんそう思う。
そのためだけに生きているのも間違いではない。
でももう、セスの優しい顔も笑った顔も思い出せない。泣きそうな顔や、苦しそうな顔だって何度か見てきた。なのにそれも思い出せない。
夢で幾度か見たセスはいつだって冷ややかにヨハンと対峙していて、1年に満たなかった私たちの思い出は悲しくも塗り替えられてしまった。
私もヨハンみたいに忘却がない能力を有していれば、辛い日々ももっと楽に耐えられただろうか。
『会いたいです。……今すぐにでも』
でもきっと実際に会って話せば思い出せるはずだ。また、私に笑顔を向けてくれるはずだ。
あんなにもお互い愛を請うたのだから。
そうじゃなければ何のためにこんなに辛い毎日を過ごしているのか分からなくなる。
何のために私は生きているのか、分からなくなってしまう。
『ふふっ……』
面白いものを見るような目で私を見ていたシアは小さく笑って、視線を外した。
大丈夫なはずだと無理矢理言い聞かせる私を嘲笑うかのように。




