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第13話

 アイゼンの夢を見た。


 何故かアイゼンの夢は今までにも何回か見てきた。

 今は20代中頃の青年となったアイゼンが、30代の中頃くらいの男性と話している。


 場所は薄暗い洞窟。それがどこかは分からないけれど、アイゼンは夢で見るたびに同じ場所にいるような気がする。


「くそっ……もう少しだったのに……!」


「焦るな、アイゼン。好機はまた必ず来る」


 腕を赤く染めたアイゼンにその男性が治癒術をかけている。

 どうやら治癒術師であるらしいこの男性は、私がアイゼンの夢を見る時には必ず登場している。アイゼンからは確か"ヴィンス"と呼ばれていた。

 最初にアイゼンの夢を見た時は20代前半くらいだったこの男性は、アイゼンとは違って私が年を重ねた年月と同じだけその姿も変わっていく。きっとヒューマなのだろう。

 逸る気持ちを抑えられないアイゼンを諭すように、優しく話しかけている。


 どちらかと言えば優男と言えるような風貌をしているのに、この男の人は何故か私の脳裏にガヴェインを思い出させた。




 ◇ ◇ ◇




 シアから過去の話を聞かされてから数日、今日もシアはルーチェの元を訪れている。


 あの日、シアが私になぜその話をしたのか分からないまま、私はいつも通りガラス越しに2人の様子を眺めていた。


「あいつらも本当に懲りないな」


 後ろを通りかかった人物から不意に声がかかった。

 ウェーブかかった黒の髪に赤の瞳をした20代後半くらいの男性。白と金を基調とした軍服に身を包んだイケメンだ。

 名をカミュー。この軍事施設の実質的なトップである。


「頭を上げろ」


 カミューの姿を目に入れるなり頭を下げた私に、笑みを含ませた声が降り注いだ。


 その声で顔を上げ、カミューの端正な顔を見つめる。

 この男、ヒューマに見えるのだが、ルーチェ同様に私が幼少期の頃からその姿は老いていない。おそらく魔族なのだろうと思って以前シアに聞いてみたのだが、カミューの話はしたくない、と相手にしてもらえなかった。

 2人はお互い、ずいぶんとフランクに接しているのだが、どういう関係性なのか未だによく分からない。


「お前も毎回毎回付き合わされて大変だな」


「……問題ありません。お気遣いありがとうございます」


 シアは一度治験に回された私を傍に置くためにカミューにその許しを請うた。

 カミューは幼かった私を面白いものを見るかのような目で見下ろし、いいだろう、とただ一言告げた。

 なぜかを問うことはなく、顔を合わせる度に私に気遣うような言葉をかけてくる。

 この施設には何を考えているのか分からない人間ばかりだが、カミューもまた例外に漏れない。


「後で俺の元に来いとシアに伝えろ」


「分かりました」


 それだけを告げて去っていったカミューの背に向かって、私は今一度頭を下げた。




 ◇ ◇ ◇




 夢を見た。


 リリアーナという名の、少女の夢だ。


 赤い髪に琥珀色の瞳をした利発そうなヒューマの少女で、10歳を少し超えたくらいだろうか。神魔術学校へと入学し、日々勉学に勤しんでいる。


 まったく面識もないこの子の夢を、私は今までに何度か見てきた。


 シアの下僕になって間もない頃、知らない夫婦と、2人の間に産まれた赤ちゃんの夢を見たことがある。リリアーナはその時に産まれた赤ちゃんであり、まるで監視しているかのように、私は夢でリリアーナの成長を見守っている。


 ヨハンのこともそうだ。

 ヨハンの夢は本当によく見るし、アイゼンの夢もまたよく見る。

 いや、ずっとアイゼンの夢だと思っていたけれど、私はアイゼンと共にいる"ヴィンス"と呼ばれた男性の方の夢を見ているのではないかと思う。


 ヨハンとヴィンスとリリアーナ。

 この3人を、私は夢を通じて監視しているような気がする。


 転生者を視ることができるという能力を有していた、ミハイルのように。

 ミハイルをその手にかけたことによって、能力を引き継いでしまったかのごとく。


 ヴィンスとリリアーナが転生者なのかは分からない。でも、一度そう思ってしまったらもうその思いを消すことはできず、何1ついいことがない私の人生の中にさらに暗い影を落とした。

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