第126話
「俺たちの臨時パーティーもこれで解散、だな」
5人で集まってすぐ、誰かが何かを言う前にアイゼンがそう切り出した。
この集いを主催した私としてはそれを話すつもりで彼らを呼んだのだが、まさかアイゼンから開口一番にその言葉が飛んでくるとは。少し驚いた。
「まぁ、エンドリオンと天族は相性が悪ぃみてぇだからな。下層には立ち入らねぇ方が無難だな」
しかしそういう話の流れになること自体はみんな予想していたのだろう。解散、という言葉に異論を唱える者はおらず、ヨハンの言葉にもまた、みんなが頷いた。
「せっかく誘ってくれたのにこんなことになって申し訳なかった。特にヴィンセント……君には本当に助けられたよ。ありがとう」
セスがそう言いながら、ヴィンセントへ紙袋を差し出す。
「いや、俺は何も……これは?」
差し出された手前受け取るしかないヴィンセントは、紙袋を手に首を傾げた。
「僅かばかりだけど、助けてもらった礼だ」
「礼なんて、そんな……これは」
礼という言葉に困惑した表情を見せたヴィンセントだが、紙袋の中を覗き込んでその表情が変わった。
中には、迷宮の入口まで通じる転移石が30個ほど入っている。お金だと受け取りづらいだろうからと、私とセスで考えて用意したものだ。
ヴィンセントから施された治癒の対価として、それに見合うだけの数を。これからもここで狩りをするであろう彼らには、絶対に必要なものだから。
「こんなに……礼なんて必要ないのに」
「ま、まじか!? 転移石がこんなに……!」
ヴィンセントの声は、横から紙袋を覗き込んだアイゼンの声で掻き消された。
「返されると立つ瀬がないから受け取ってくれると助かる」
2人に苦い笑みを見せながら、セスは言う。
「……ありがたく、使わせてもらう」
「ありがとな、セス」
セスの言葉に2人は少し悲しげな、しかし穏やかな笑みを見せた。
◇ ◇ ◇
「じゃあ……元気でな。またどこかで会えるといいな」
「そうだね、またどこかで」
それから、私とセスはアイゼンと3人で思い出を語り合い、ヨハンとヴィンセントは同じ転生者同士で何やら盛り上がって、別れまでの僅かな時間を過ごした。
私たちは今後迷宮での狩りはしないと思うので、彼らとはこれで本当にお別れだ。
寂しい。別れはいつも寂しい。
けれど、出会いがあれば別れもある。それは致し方ない。そう、致し方ないのだ。こういう別れ方であれば、ちゃんとそうやって理解はできる。
でもヨハン……彼とは、どうやって別れることになるのだろう。結果を受け止めると言ったものの、その時私はちゃんと見届けられるのだろうか。
別段寂しそうな様子も見受けられないセスとヨハンを横目に、そんなことを考えながら去っていくアイゼンたちを見送った。
「お前らはこれからどうすんだ?」
そんなヨハンが、2人の姿が見えなくなってから切り出す。
先ほどのようなことを考えていたせいか、返答次第では今この場でヨハンもいなくなってしまうのではないかと、ひどく不安な気持ちが湧き上がってきた。鼓動が速くなり、心なしか息も苦しい気がする。
「こんなことがあったので、もう戦いに身を置くのはやめて、どこかで落ち着こうかと」
それでもちゃんと答えなければ、と出した声は少し掠れていた。
「アルディナには行かねぇのか?」
「…………」
「次の報告の時分まで行かないかな。不用意に立ち入りたくない」
沈黙した私の代わりに、セスが答える。
正直、ヨハンからそれを聞かれたくなかったし、答えたくなかった。だが、そんな私の気持ちはきっと誰にも伝わっていない。
「……そうか」
セスの返答に、ヨハンが何やら考える仕草を見せた。
私たちといつ別れるのかを考えているのだろうか。
いつかその時が来るのだとしても今であってほしくないし、できれば"またどこかで"と言って別れたい。
ヨハンとの別れに対してこんなに未練がましく思うだなんて、自分でも予想していなかったな。




