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第12話

『シャルロットを殺すように上から命じられたのだとセスは話した。でも私たちは、その上に命じられてシャルロットを護衛していたのよ。それなのに突然シャルロットを殺せという命令が出たなんてとても信じられなかった』


 うるさいくらいに心臓が鳴っている。

 ここだけ空気が薄くなってしまったかのように呼吸が苦しかった。


 10年という長い期間の護衛を命じられて、それをあっさり覆していきなり殺せだなんて、私も信じられない。


『納得できなくてセスに詰め寄ったわ。でもセスは詮索するなと言うばかりで何1つ私には教えてくれなかった。だから私は上に直接聞きに言ったの。一族には護衛対象の暗殺依頼は受けない、という決まりがあったはずなのに何故、と』


 一族が護衛対象の暗殺依頼を受けないのは同士討ちになるからだろうか。リュシュナ族が護る人間をリュシュナ族が殺しに行けばどちらかが死を見ることになるだろうし。

 それとも護衛対象の人間を暗殺してしまえば護衛依頼が失敗になるからだろうか。

 いや、でも今回の場合はセスが何かしらの方法で病死に見せかけて殺したということになる。病死なら護衛の依頼が失敗したということでもない。


『当然上は依頼の情報は教えられないと相手にもしてくれなかった。やり場のない怒りと悲しみでどうしようもなくて、私はそれを共有できるであろうシャルロットの両親の元に行ったわ。でもそんな私にシャルロットの父親は、母親に見えない場所でこう言ったの。暗殺依頼を出したのは私だ、と』


『え……?』


 思考を遮るように告げられたシアの言葉に頭が真っ白になった。


 父親が、自分の娘を殺す依頼を出した?

 10年という期間をセスとシアに護らせておいて?


 意味が分からない。


『シャルロットは別の男の子供だからいらない。突然病死したとしても暗殺を疑われないくらいに信頼させるために、私たちに10年護らせたんだと、ゴミを見るような目で吐き捨てたのよ……!』


『そんな……ひどい……』


 シャルロットは不倫でできた子供だった。だとしてもこんなにひどい仕打ちがあるだろうか。非があるのは母親であって、シャルロット自身に何の落ち度もないのに。


『セスにその事を話したら、暗殺依頼に切り替わった時に聞かされた、きっと最初からそうなることが決まっていたから上は自分をこの依頼に就かせたのだろうと冷静に返したわ。私は、そんな命令を忠実に実行したセスが憎かった。シャルロットは……セスを愛していたのよ。物心ついた頃からずっと傍にいたんだから当然よね。セスだってそんなシャルロットの気持ちを察していたはずなのに……!』


『…………』


『もう何もかも許せなかった。私は剣を抜いてセスに斬りかかったわ。セスは……セスは、贖罪しょくざいのつもりだったのか私が振った刃を甘んじて受けた。でもやっぱり家族だからどこかで躊躇ったんでしょうね。私はセスを殺すことはできなかった。血溜まりの中で荒い息を吐くセスを横目に、私はシャルロットの両親の元へ行き……2人を殺してミトスへと降りた。だから私は、裏切り者としてセスに追われている』


『…………』


 セスから語られた"裏切り者の姉を追っている"という言葉の裏に、こんな壮絶な出来事があったなんて。


 セスだってシャルロットを暗殺しなければならないとなって苦悩したはずだ。10年も成長を見守ってきた少女を、何の感情も持たずに淡々と殺せたとは思えない。

 でも命令だからとそれを実行してしまった結果、シアから刃を向けられることになった。

 そのシアの気持ちも、私にはよく分かる。私がシアでも同じことをしてしまうかもしれない。


 どちらが善で、どちらが悪、という話ではない。と思う。


 悪と言うべきはシャルロットの両親だ。

 別の男との子供を身籠ったシャルロットの母親と、それを知ってシャルロットを憎んだ彼女の父親の身勝手さが、セスとシアの運命を変えてしまった。


 出会ってしまったら殺し合わなければならないこの2人を、私は会わせたくない。

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